ラベンダー
9/26 22:30 財団→商社に変更しました。
バーミリオンが、背中に哀愁を滲ませながら去っていったせいで、サロンは、再び、静寂を帯びた。
ローズは、カップをソーサーに戻すと、カーマインに身体を向けた。
「殿下。お聞きの通り、私は、何処にも関与しておりませんわ。一体、何をもって、私の企みだと思われたのか…不思議でなりません」
「何を白々しい。大体、元はといえば、其方が、このバニラ嬢に対し、姑息な嫌がらせを繰り返した事が原因ではないか」
カーマインは、バニラを自分の方へ引き寄せ、彼女の顔をローズに見える様にする。バニラは、急に引き寄せられたので「あっ」と、小さな悲鳴を上げた。
体勢が崩れそうになるのを、左手をカーマインの胸に添える事で、辛うじて耐え、自分の顔の上にあるカーマインを、大きな目で上目遣いで見つめる。
その様子に、ローズは、うっすらと眉間に皺を寄せた。
「私が?その方に?嫌がらせ??…何を仰っているのかしら?」
「彼女のドレスにわざとワインをかけたり、彼女の髪飾りを抜き取って髪を崩したり…回廊で泣き濡れるバニラを幾度目撃した事か」
「まぁ。私がそんな事を?何故?」
ローズは、扇子で口元を隠し、冷ややかな目でカーマインとバニラを見つめる。
本当は、バニラの姿を視界に入れる気は無いのだが、彼女が最早、カーマインにしなだれかかっているので、入れざるを得ないのだ。
カーマインの認識の中の、ローズ達によるバニラへの嫌がらせを始めた切っ掛け。
それは、王家御用達の宝石店サヴァール宝飾店の御曹司リーク=サヴァールが、バニラのデビュタントにて彼女とダンスをした頃に遡る。
「其方の友人のラベンダー嬢の婚約者だったリークが、バニラ嬢にネックレスを贈った事があったな。大方、ラベンダー嬢が、その事に嫉妬して、其方に相談したのだろう。それから、お前達は、バニラに陰湿な嫌がらせを始めたのだ」
「まぁ。婚約者がいらっしゃりながら、他の方に贈り物をされるなんて…信じられませんわ」
ローズの言葉に、バニラの肩がピクリと動く。
「確かに、リークの行動は軽率だったかもしれないが、其方達はバニラに陰険な嫌がらせを繰り返したのだ」
「何故、そんな事をしなければなりませんの?老舗商会の御令嬢のラベンダー様は、リーク様との婚約を破棄され、トゥルニエ商社のグラファイト様とご結婚なされましたわ」
「ああ、そうだ。其方が手を回し、サヴァール宝飾店の職人をトゥルニエ商社の宝石部に雇い入れたせいで、リークとは連絡もつかなくなってしまった」
「まあ。それはお気の毒ですこと。でも、職人を雇い入れたのは、グラファイト様で、私とは全く関係のない事ではございませんか?それに、ラベンダー様がお幸せにしていらっしゃる今、この方に、私達が嫌がらせをする意味などございませんでしょう」
「ああ言えばこうと小賢しい。其方が裏で糸を引いている事は、疑いようがないのだ」
「そうですか…でも、本当に私は、何もしておりませんのよ。…ただ、王宮の広間へエスコートさえすれば、それで役目は果たしたと言わんばかりに、私の大事なお友達が、壁の花に甘んじている姿を見るのが、とても、悲しゅうございましたわ」
ローズとスカーレット、ウィスタリアは、互いの目を絡ませ、小さく頷き合う。
彼女達三人が、夜会の最中だというのに、王宮のサロンの一室でお茶会を行っているのも、カーマイン達が、彼女達を放置してバニラの元へ行ってしまう事からの自衛行為である。
そして、その筆頭は、ローズの婚約者であるカーマイン王太子である。
しかし、カーマインの友人達は、リークから始まり、一人、また一人と社交界で姿を見なくなっていった。
「其方達の嫌がらせから、バニラ嬢を守る為には、そうするしかなかったのだ」
カーマインは、ローズからの視線を逸らす為、ちらりとドアに視線を移した。
ブックマーク&評価
有難うございます。すごく嬉しいです。
いやはや、
(取り合えず、物語を最後まで書いてみよう)
としか思い、かる~く書いたものを読んでいただいて、望外の喜びです。感謝。
無謀とは思いつつも、今日が締め切り日だったので、調子にのって『アイリス大賞5』に応募してみました。