覚醒
無添加のあらびきソーセージたべたい
深淵を潜り、トンネルを抜けたら
其処は光り輝く海に溢れていた。
透明でキラキラ輝く酸素の泡、
直ぐに触れそうな距離に見える鱗が乱反射する魚群、
しかし、その魚群に60センチのアクリルが憚かる。
目に見えるのに、憧れても届かないもどかしさ。
仄暗い闇に佇む水槽が並ぶ水族館
沢山の海と生態系を切り取り、展示されてる現在進行形の水資源資料。
ここに来ると、余りの水資源の美しさに、
嗚呼、現実に戻れるか?
いつも問いかける。
暗い暗い水族館の水槽越しに
縦軸に泳ぐシロワニに思いを馳せ、
しかし、水際に近づき、また深き世界に戻る姿を見て絶望をする。
まるで、人生そのものだな。
物心つく頃には既にこの世の中は大体むなしさと寂しさで塗り固められている。
ここの都知事がかつて話していた
ゲロを吐いて捨てた街
あながち間違っていない。
…でもこの街も捨てたものではない。
後ろからけたたましい声と共に飛沫をあげて
愛くるしい鳥類の機械染みた動きで媚を売る愛玩動物
振り向くと其処にはマゼランペンギンの水槽
周りには、ペンギンで一儲けするために沢山のグッズと食品で溢れている。
「可愛くて…力があれば、なんでも許されるもんな…いいなあ…おまえら〜なあ!」
張りのある若さで溢れる声でそう言いながら、
アンズ!ゆず!と呼ばれ、
餌をもらい仲むずましくしてる雄同士のペンギンの楽園に近づいていく。
「おまえらは本当に可愛いなあ…むふー」
肩甲骨にかかるくらいのロングヘアを後ろに結び、滝のように真っ直ぐに流れるポニーテールの先を弄る。
波と共に黒いビロードのワンピースのフリルが動く。
その姿はペンギンの女王の様に振る舞う。
「ーーアッ!アッ!アーーーッ!」
首を反らし、丹田から空気を通し、喉を震わせる。
「ーーーアーッ!ーーーアッーッ!」
釣られて、他のペンギンたちも鳴き返す。
ペンギンコーナーの常連恒例ペンギンへの挨拶。
彼らは鳴き真似をすると返してくれる
愛嬌ある子供ばかりだ。
「ほんと…おまえらは本当に素直だ」
そして鳥類ちょろいな!と皮肉を交えた感情が芽生える。
気分も高揚し、
もう一度鳴こうと首を反らした…その時!
右後ろから騒めきと金属的な異音
東京ドームに入る時の空気の圧力が僕の身体を暴力的に駆け抜け、
気がつくと、前髪が赤く染まっていた。
鳴くために開けた口が鉄の味に染まる。
「なに…これ?」
疑問を間髪容れない勢いで、後ろに重い落下音。
振り向くと、其処には血まみれの女性が居た。
肉はえぐれ、右下腹…肝臓の辺りか
出血は酷く、
しかし彼女は青ざめた顔で目だけを動かし、視線を向けてきた。
なにができるかわからない
口を手の甲で拭い、駆けつけてしまう。
出来ることは彼女の手を握ることだった。
医療技術もなにもない…無力な一般市民だ。
「幸運だった…この街を…助けて」
血を嘔吐し、かすれた声で、しかし力強く
彼女が気力を振り絞り呟いた、
そして気のせいか、彼女の瞳の輝きがゆらぎ、一瞬陰る、
その時!
あっ…ああーっあっ!?うあああああああっ!
網膜が!目が!身体が熱い!
何?何が?
圧倒的な光が目を襲う!
目を閉じても覆っても眩しさが襲う!
熱が…肉が焼ける感覚が!!でも痛くない!!!
何!これ?
光はやがて、一箇所に集まり、個体に変化する。
フレームからボーンがつき、やがてモーフィングで肉づいて、肉塊になった後に、一体のペンギンに変化した。
「ユーはペンギン好きなのNE☆」
光は消え、景色はいつも通りの水族館
けたたましく、鳥類の声が響き渡る。
目の前にいる息も絶え絶えの女性の上にペンギンがちょこんと座っていた。
「あ、ミーはユーにしかミエないから。
詩音…いや君に入った
カノジョの血液のナノマシンで、
目の遺伝子をハッキングして
かるーく神経伝達信号をかえさせてもらってる。」
なーんだ!…って納得できんわ!
「深いことはMEN☆DOI!即答えろ!お前の願いはあるか?ないか?」
「ある!」
「OK!ならもう一つ、願いが叶うとしたら、手段は…」
「選ばない!」
「YES!先読みする賢い子は好きだぜ☆じゃあ願いを叫べ!」
「は?」
「SAKEBE!スケベじゃねーぞ!叫べ!」
「TV?カメラ仕込ん…」
「ZANNEN☆流せば高視聴率取れるんだけど、暫く待つことになるだろうな…画面真っ青になって」
「情報規制?」
「まーそんな…んなこたぁイイ!はよ叫べ」
「やだよ!恥ずかしいし!」
なに…なにが起きてるんだ?
「ミンナー!こいつの夢はエ☆漫画家にな…」
「ちがうー!女の子になりたいっつーのー!」
あ…いってしまった…
彼女を助けてくれといえば綺麗事だが、救えたかもしれない。
でも、口がついすべってしまい…
視界のペンギンは呆然としてる…そりゃそうだよな
僕、男の子だもん。
見渡すと幸い見てるのはペンギンしかいない
そして
足元にいた女性は僅かに微笑み、
光が弾け、
フレームだけとなり
やがて光の粒になり消えていった。
そして目の前に
【#契約更新 #試合続行 #ハーフタイム】
の文字が流れてきた。
女性が消えて、動揺する暇もなく、
右手に新たな違和感を覚える。
気がつくと右手に青白い剣…7色に輝く剣が握られてる。
そして、遺伝子に扱い方が刻み込まれる。
彼女の遺伝子の遥か昔の記憶、
まだこの天空樹が建立する頃の話、
この天空樹に使われる金属を拝借して、
地元の名工に加工されて出来たのがこの剣だった。
最後に剣を持ち、諦めの感情で願いを口にする彼女の記憶が身体に過る。
「そうか…そんな昔から、この街を守るために、
貴方は戦っていたんだ。」
歴史、基本操作、性能をシナプスに直接アクセスして、記憶にインプットされていく
【ダウンロード80%…81…82…90…】
「ごめんなさい…よくわからないけど…」
感傷的な空気を、言葉の暴力が殴りかかる
「この武器は基本的に剣だが、どのように扱うかは君次第だ」
ホールに声が響き渡る。
今迄自分の身体の変化に気を取られすぎ気づかなかったが、ペンギンの水槽の上のエリア、海水魚ゾーンはいつのまにか仮面を被った観客で溢れかえっていた。
「ほう!まさかのダークホースか!」
「この子次第ではここもレートが変わるわね」
ザワザワと騒ぐ人の波をかき分け、
叫んだとおもわれる声質の
ショートマッシュボブの眼鏡の女性が僕に駆け寄った。
「私は墨田区外納税推進課のジュンです。よろしくね。」
「僕は…海老原 一 アダ名はピンってよばれてる。」
「オーケーピン、私のこともジュンでいいわ」
「ありがとう、記憶は前の子からもらってる。とんでもないものを貰ったきがするよ」
「そうね、まさか東京で裏カジノで23区にデュエリングさせて勝った区が負けた区から区民税を一定額奪い取れるとか思わないわよね〜思わないだけで現実なんだなーこれが!嘘か真かは…」
ジュンは横目で見るように僕に指示を仰ぐ。
そこには、中央区と書いた繋ぎを着た役人と
屈強な男が立ちはだかっていた。
「目の前の敵を倒さないと解らない…か」
感想ください