水曜日 ループ 2
朝目覚めから一番目の行動は四人それぞれでした。
テレビをつける人、前夜食べ終わってないお菓子を確認する人、新聞を読む父に日付を聞く人、昨日買った参考書をさがす人。やがて、この四人は同じ結論を出した。これはループだ。
戸倉ゆきみが中川そらと約束した場所に到着する時、ほかのふたりの人もそこにいた。
キノコの髪型したポカーフェイスの男と元気そうな運動系な少年。彼らは昨日中川そらが言った二人だ。戸倉ゆきみは先に自己紹介した。軽く解釈してから、四人は本題に入った。
「昨日はゆうなちゃんが助けた、おれはすすむとその公園で死んだ。詳細については、おれには記憶がなかったが、すすむは?」
「ごめんなさい、おれも憶えていなかった。」
「今日はどうするの?」
「そらにゆうなちゃんの方を任せたい、多分おれのどこに来ても…」
「ぼくはめぐる兄ちゃんとすすむ兄ちゃんを救う力はない、分かるよ。」
「あの、ちょっといいですか?確認したいことがある。」
戸倉ゆきみは突然横口を挟んだ。
多田めぐるはポカーフェイスを彼女に向けた。それは黙認と戸倉ゆきみが了承した。
「この飴のことをもっと教えてくれないかな?」
ポケットからゆうなに貰った飴を手にして、戸倉ゆきみは聞き出した。
「みんなはゆうなから同じ飴を貰った、同じくループを気付いた。この飴は食っても元通り戻れる。持つと危険なことに会う。雑っとそういうことかな。」
多田めぐるは簡単にまとめた。
「わたしはこの飴を貰う前にループを気付いたが、これを持つことでループを触発する条件と思わないのです。それに、ここにいる皆は共通点はまたあるではないか。皆それぞれゆうなちゃんを助けたことを。」
「それも事実です。」
多田めぐるは素直に頷いた。
「ああ、因みに、この飴、燃やしても無駄みたいっすよ。」
上條すすむはニヤニヤ言い出した。
「つまり、物理の方法ではどうにもならないのですね。」
戸倉ゆきみはこういうのですが、内心で本当に燃やす人がいるなんで可笑しく思えた。
「あの、みんな、ぼくの飴はもういないよ。」
中川そらの発言に皆の視線を彼に集中させた。
「えっと、火曜日の2回目のループでめぐる兄ちゃんに救えてから、飴のことをちょっと忘れたが。昨日ゆうなちゃんがゆきみ姉ちゃんにあげるのを見て自分のを思い出した。鞄の中にみつからなかった。どこにもいなかった。」
「そらくんはループ前の水曜日にも危険なことに遭ってないですね。」
戸倉ゆきみは考えながら聞いた。
「うん、そうですよ。ゆきみ姉ちゃん。」
「いつ危険に遭うのか分からないが、飴が手放すと、危険から遠ざかれるんだ。」
「その可能性が大きいだね。」
多田めぐるは相槌をした。
「昨日わたしに飴をくれた時、これは最後の一個って、ゆうなちゃんが言った。つまり、その時点からゆうなちゃんの手元はもう飴がいないですね。なら、今日はゆうなちゃんは危険に遭うことはもうないかもしれません。」
「ああ、それ、すごく説得力がある!」
上條すすむは手を叩いて大声で言った。
「万が一のこともあるので、先多田さんが言う通り、そらくんはゆうなちゃんについていてほうがいいね。」
「うん、分かった。ゆきみ姉ちゃんたちがどうするの?」
中川そらは力強く頷いてから聞いた。
「それはまだ分からない。…そういえば、この公園で危険なことに遭ったのね、その時刻の前に遠ざかったらどうですか?」
「ああ、それね、昨日ためしたのですが、効かなかったよ。」
上條すすむは盛大な溜息と共に答えた。
「昨日、すすむと一緒に敢えて反対な方向へ行ったが、公園の方がぼくたちに向かえたように、いつの間にかその中に足を踏み入れた。」
多田めぐるも説明を補充した。
「そら、もう学校の時間でしょ、早く行って。」
多田めぐるは急に話題を変えた。
「でも、めぐる兄ちゃんたち…」
中川そらは手を振って抗議したが、やがておとなしく通学の道に足を踏み出した。
「そらくんに聞いたらまずい情報があるのか?」
戸倉ゆきみは多田めぐるのポカーフェイスを見つめ、聞き出した。
「ええーー、そうなの?めぐるさん!」
上條すすむもその問いに驚いた。
「たしかにあるな。あんたの分析によって、そらとゆうなはもう危険に遭うことはないとしたら、それ以上あの子に怖い思いをさせたくない。」
「今日は私服でよかった。」
上條すすむはにやにやしながら言った。
三人は戸倉ゆきみが勧めたコーヒー屋を話の続きをする場所にした。
「普段、コーヒー屋とか行かないのか?」
上條すすむが好奇そうに店の中を観察するのを見ると、戸倉ゆきみは聞き出した。
「ないな、おれ、こういうシャレなどこ苦手さ。」
上條すすむが頭を騒ぎながら笑った。
「本題に入ります。」
多田めぐるは突然言い出した。
この人は、他人との温度差は気にしないタイプですね、でも嫌いじゃない。戸倉ゆきみが思った。
「火曜日の二回目のループ、すすむにゆうなちゃんを任せ、おれはそらを助けに言った。そらの家であれを見た。黒い靄のような物はそらを宙に浮かべ窓辺に引っ張って、落下させようとした。そらはその直前に先回の死に方を思い出した。でもあの子は黒い靄が見えなかった。それは人間を越える力だ、おれは何も出来なかった。そこで、おれたちが救ったのは...」
多田めぐるは暫く言葉を切った。戸倉ゆきみはじっと彼を見つめた。上條すすむは目を大きく見開いて次の言葉を待っていた。
「キーホルダーについた人形に助けられた。開いた窓から突然現れ、黒い靄を食い尽くしたようにそれを消すと、また窓から消えた。手足や頭が動けるような作りで、そらも見えましたが、それほど気にしてなかった。」
「キーホルダーに関節人形…」
戸倉ゆきみは目玉を円を描きながらつぶやいた。
「生身の人間に対抗出来ないか、じゃ今日どうするかな?」
上條すすむは自分に言い聞かせるように真面目に悩んでた。
素直の自分の言うことを信じてくれたふたりに多田めぐるは心の中で小さく感謝した。
三人は暫く沈黙に包まれた。
「少し考えたが、また聴きたいことがある、いいか?」
最初に口を開いたのは戸倉ゆきみでした。 ほかのふたりは同時に頷いた。
「まず、ループの回数です。月曜日と火曜日はそれぞれ違うでしょ?」
「おれは火曜日からです、二回。」
「おれの場合は月曜日一回、火曜日二回。」
「わたしは水曜日からループ始めた、これで二回目です。」
「まさか、水曜日が三回限定じゃないかな?」
「おれは全員助かったらループが止まると思ったが、もしそれは事実なら、最後のループでおれたちが救えなかったら…」
「本当に死ぬかもしれないかな?」
「いやいやいや、おれは認めないぞ!」
上條すすむは言うなり立ち上がった。
「落ち着いて、可能性の話です。」
戸倉ゆきみが上條すすむに「どうぞ」とてで示した。
「月曜日の被害者はゆうなだけ、そらは彼女を救ったから、ループが止めた。火曜日はゆうなとそらが同じ時刻に違う場所で亡くなった。一回目の時、おれはゆうなだけを救った、そこですすむと出会ったので、二回目で手分けしてふたりはとも救った。それで火曜日のループも止めた。水曜日になったら、おれ自身も被害者になる羽目になった…」
「月曜とか火曜とか置いておいて、今日も数え、多田さんは五回目のループ、上條くんは四回目、そしてわたしは二回目です。」
「なんで回数に拘る?」
「なんとなく気になるさ。まあ、わたしが死ぬのは上條くんの後だから。」
戸倉ゆきみは上條すすむを見て笑いながら言った。
「わあ、意地悪いこと言わないでよ。昨日は一度死んだんだから。」
「多田さんはゆうなちゃんを救う時黒い靄が見ましたか?」
「いや、ゆうなの場合は見えなかった。」
「上條くんは?」
「見えなかったよ。」
「そう…黒い靄はゆうなちゃんを救った人だけ狙うのかな?」
「それは分からないが、一つだけ気になる、飴のことですが…どうしてゆうなは飴を手離せるのか?おれたちはどうしても棄てられないじゃないか?」
「助っ人限定とか?」
上條すすむの冗談めいた発言に、多田めぐると戸倉ゆきみはお互いの考えを目で交わした。
「それはいい考えですね。」
「え!?そうですか、嬉しい!」
「もし誰もゆうなを救えなかったら、どうになるのか?」
「それを検討する意味がない、現にわたしたち三人はみんなゆうなちゃんを救ったことがある。それにゆうなちゃんとそらくんにはもう飴が持ってませんから、被害者になることもないと思う。」
「どうやって殺されたのかくらいが憶えれば、打つ手があるかもな。」
上條すすむは長いため息をした。
「多分無駄です。その黒い靄が人間にはどうにもならないと思うが…」
「今度襲ってくる直前思い出せるじゃないかな?そらくんの時のように。」
「それは遅いよ!やられる一方じゃん?」
「なら、前回多田さんを救った人形を探すしかないね。」
「どうやって?」
「実は、昨日、つまり水曜日の一回目のループの日、わたしはこの席で多田さんの言った人形に似ているのを見ました。ちょっと昨日と同じ時間…今日も現れるとありがたいのですが」
「本当ですか!?」
上條すすむの興奮はそのトンから聞こえる。
「持ち主は男、ベルトにかかったキーホルダー、多分それは多田さんのが言った人形でしょ。」
三人は一斉に目を窓の外を向け探し始めた。
太陽が笑いながら雨が降る天気で外に歩く人は少なかった。
「それを見つけたら、どうするの?」
上條すすむは問い出した。
「盗む。」
戸倉ゆきみはさり気なく答えた。
「そうか。…はあ!?」
言葉の意味を一秒遅れて理解した上條すすむは戸倉ゆきみに目を向けたが、向こうは相変わらず人形探しに止めなかった。
「多田さん…」
「別に反対しない、解釈しても向こうは信じるかどうか分からない、そんなに時間もないし。」
多田めぐるも作業を止めずに答えた。
社会人、大学生、高校生、まさかこの中に一番の常識人は高校生の自分でしたと思った上條すすむは再び目を窓の外に向けて直ぐ向こうに手を指しながら叫び出した。
「ああ、あの人じゃないか!いま車に乗ってる!」
ちょっとその車のドアを閉じる一瞬、ベルトにかかったキーホルダーを多田めぐると戸倉ゆきみの目に捉えた。
「昨日は歩いてたのに。今度は店の外待機するか。」
戸倉ゆきみは残念そうに言った。
「え!?今日はどうしよう?」
「どうしようもないよ。せいぜい頑張って生き延びよう。」
多田めぐるは何時ものポカーフェイスで言った。
「明日も現れると限らないでしょ?」
「いいや、現れるさ。あの人は昨日と違う行動を取った。本人がこのループを気づいたのか、或いはあの人形の導きなのか。本人がループを気づいた場合は、話しを聞かせたら、救いの手を差してくれるかもしれない。でも、わたしは二番目の可能性が大きいと思います。車門を閉じた一瞬、あの人形はこっちを見てる気がします。」
「ああ、おれも見えた。そらとおれを救った人形だ。」
多田めぐるも賛成の態度を示した。
「なんか多田さんと戸倉さんはいいコンビに慣れそうな…いやいや、先からふたりは次のループさえ対応しようとしたが、今日はどうするのさ?投げ捨てちゃう?」
「それは違うよ。わたしはちょっとした仮説がある、この後実験するつもりです。他人にやらせると人道違反になると思います、だから自分が実験体になると決めた。」
戸倉ゆきみは淡い笑みを浮かべ真面目に言った。
「なんか戸倉さんすごいな、おれは昨日のこと憶えてないが、死ぬと聞いたら体が震えそうでのに…多田さんはどうなんだ?」
「おれにも記憶がないが、殺されるのはまっぴらだ、無駄でも足掻いて見せる。」
「熱いセリフをポカーフェイスで言 ってもな。わたしもわたしでやるよ。」
公園へ向かう前に、三人は明日は中川そらのマンションの辺りで会うことを決めました。
その日の夜の新聞に三人はある公園で亡くなったことを載せていた。