月曜日 ループ
会社の警備員に挨拶と交換して、片足が社内に入る途端、巨大なディスプレイに示した日付は目に入った。
「月曜日」だった。
これは、機械ミスと思う瞬間、隣の二人の女性社員のやり取りは多田めぐるの耳に届いた。
「忘れないでね、映画館で会おう。」
「うん、忘れないよ。その映画ずっと見たかったもん。」
この会話、昨日も聞いた覚えがあると多田めぐるは気づいた。
微かな予感は彼の中に芽生えた。
昼間の休暇時間、多田めぐるは弁当を持って近くの公園に行った。その大きな桜樹の下で昼食を取るのは彼の日常でした。
だが、今日ここに来るのはもう一つの目的があった。午前、会社にあったことは昨日のままだった。もしや自分の推測は正かもしれないと思った多田めぐるは最後の検証を図った。
ちょっと昼食を済ましたどこ、弁当ハコに目掛けて赤いボールはそれ程でもないスピードで正面から飛んで来た。
「来た!」多田めぐるは心の中で叫びながらも回避することは出来なかった、或いはわざと避けなかった。
弁当ハコはボールに当たれ、空中で少々抗ってから多田めぐるの足元に落ちた。
彼はそれを拾い上げる前に、一人の女の子が駆け付けて謝りました。
「ごめんなさい、お兄ちゃん!」
「いや、いいよ。」
「あの、この飴はお詫びで…」
女の子は右手でスカートの裾を握り、左手で一つの飴を差し出して、泣きそうな顔で言った。
多田めぐるはその飴を受け止め、いつものポカーフェイスで言った。
「飴が貰う、だからもういい。ほら、ボール、持っていけ!」
「ありがとう!」
女の子はボールを取って、頭を下げて言った。
ちょっと距離を置けるどこにもう一人のこともが立っていた。女の子はその子と一緒に公園を出て行った。
「今日は早めに喰ってよかった。」多田めぐるは一人で呟いた。
昨日も同じことが起きました、変わったこともあった、昨日は食べる途中でボールが飛んで来たので、食べ物とハコは一緒にこぼれた。それに、昨日は女の子も謝りましたが、彼女から飴が貰ったことはなかった。後、昨日はあの子はひとりで公園を出ていた、今日待っていることもはそこにいなかった。でも、そんなことはもうどうてもいいのだ、いまの多田めぐるは気になってることはひとつだけ。それは、彼の推測は正しかった。
「月曜日はループしている。」多田めぐるは心の中で確認した。
午後、多田めぐるは仕事に集中することは出来なかった。このループはきっと自分がずっと目に見えない力の影響と思うと、多田めぐるは興奮を感じた。それでも彼はいつものポカーフェイスのままだった。
ループを気付いたのは自分だけなのか、ほかの誰かも気付いたかもしれない。下手に聞くのはよくない、やっばり様子を見ましょ。多田めぐるはそう思った。
やっと帰宅の時間だ。いつも乗ってる電車の中にも昨日見た人達がいた。全員覚えてる訳ではないが、突然自分のことをじっと見つめることものことを思い出し、多田めぐるはあの子の姿を探した。
見つけた!昨日と同じ席にいた。二人の目が合った。今度は多田めぐるは目を逸らさなかった。
男の子も怖気を見せず、左手でポケットからひとつの飴を持ち出した。見た覚えがあった多田めぐるはすぐ気付いた、その飴は昼間で公園に会った女の子から貰った飴と同じだった。
そうか、この子は昼間に公園で女の子を待っていたこともだった。多田めぐるはその子に話を掛けると決めた時、向こうの方に先に声を掛けた。
「お兄ちゃん、今日はお弁当をこぼれなかったね。」
一瞬驚いた多田めぐるだが、ポカーフェイスなので、多分よそからそう見えなかった。
「お前、昨日も公園にいったのか?」
「いいえ、昨日お兄ちゃんと初めて会ったのはこの電車の中で、先のはゆうなちゃんが教えたことです。ああ、あの赤いボールを持ってる子はゆうなだ。」
男の子は頭を左右に揺れて、笑いながら答えた。
「どうしておれをじっと見るのか?」
「お兄ちゃんがほかの人達と違うから。」
男の子は真剣な目で答えた。
「……」
多田めぐるは言葉がうしなった。この子からは年に相応しくない何かが感じた。
ちょっとその子の隣の人が立って行った。多田めぐるはその子の傍に腰を下ろした。
「きみも気付いたのか?昨日も月曜日だったことを。」
「うん。今日学校で昨日と同じことが起こりばっかりで、これはループということですね。」
男の子はいささか興奮気味で言い続けた。
「実は、今日、ぼくはいいことをしました。
お兄ちゃんにだけ教えるね。」
「いいこと?」
「うん、ぼくはゆうなちゃんを救いました。」
男の子は目をキラキラして、嬉しそうに言った。
「どういうことですか?」
「昨日のニュースで聞いたの、ゆうなちゃんが行方不明になってることを。だから、今日はぼくはゆうなちゃんと遊んでた、先家に送りました。」
「そう?昨日はそんなことがあったのか?」
「お兄ちゃんはニュースや新聞を見ないの?」
「興味がない。お前の方が偉いよ、こともなのに。」
「無表情でこともを褒めるひと、初めて見ました。」
「それは悪かったな。」
「でも、お兄ちゃんはいい人で、よかった。」
「外見から判断するのは危ないと思うが。」
「実は、最初はお兄ちゃんのことを疑ったの、でも、ゆうなちゃんはお兄ちゃんはいい人って言ったから。」
先から何か見落としとことを感じた多田めぐるは、やっとその正体を見つけた。
「ちょっと待って、ゆうなって子から知ったのな、昨日おれの弁当をこぼれたことを。と言う事は、あの子も昨日のことを憶えてるのか?」
「そこは変ですよ。ゆうなちゃんは自分を行方不明になったことについてまったく憶えてないと言った。」
男の子は考えるふりをして、向こうの窓を見ながら言った。
「でも、お兄ちゃんと話をできるのは嬉しいよ。まわりのみんなは昨日のことを憶えてないから。ああ、ぼくは中川そら。お兄ちゃんは?」
すぐこともの表情に戻った男の子は自己紹介してから手を差し出した。
「そうですね。こういう状況で話せるひとはあんまりいないな。おれは多田めぐる。」
こんな体験も滅多にないことで、明日から日常に戻るかもしれないと思った多田めぐるも手を差し出した。
電車の中に他人のことを気にするひとは多くないはず、でもポカーフェイスの男と元気な男の子を握手をしてる光景を見たら面白いと思うかもしれない。
折角のループなのに、何もしなかったな。中川そらと別れ、家に戻って、筋トレしながら、多田めぐるは自分の中で芽生えた些細な後悔の念を押しつぶした。