初恋相手と幼馴染み
どうも、こんにちはサトリです。つたない文章ですいません。学園系の話を書くのは初めてだったのですが書いててとても楽しかったです。タイトルの通り三角関係がメインの話になってます。どっちとくっつくかは今後のお楽しみです。感想などもらえるとはげみになります
登場人物
塚原 秀士
高校生2年 17才
主人公で少しお調子者の普通の高校生。現在クラスメイトの三倉 絵里に一目惚れして猛アタック中だが成果はあまりない。小学校から中学終わりまで地元少年サッカーチームのフロンティアメンバーズ所属していた。実力は目だったものがなく中の中。あることがきっかけでサッカーを辞め高校では卓球部に入部している。幼馴染みの伊月 湊斗とは付き合いが長く微妙な表情の違いや態度から彼女の気持ちをある程度察することができる
伊月 湊斗
高校生2年 17才
ショートヘアで細くつり上がった目。表情もあまりかわらないクールで落ち着きはあるがその性格と表情から冷たい印象をまわりにあたえてしまうことが多い。努力のすえ名門テニス部のレギュラーにまで選ばれるがある理由でテニス部を退部する。趣味は読書。秀士と絵里のことを影ながらに応援しているようだが…」
三倉 絵里
高校生2年 17才
長い髪にヘアゴムがトレードマーク。秀士から片想いをされ猛アタックをされている。しかし、冷たくあしらっている。それには何かわけがあるようだが…父が町医者で母は看護士のため簡単な応急処置くらいならできる。将来の夢は看護士
羽山 嵐
大学生2年 20才
秀士のサッカーチーム時代の先輩。キャプテンをつとめ実力と策略でチームを何度も勝利に導いた。普段はおちゃらけていふが年のわりには観察眼がすぐれており判断力もずばぬけている。秀士にある話を持ってくる
「なあ、いいだろ。週末映画見に行こうぜ。この映画見たいってエリ言ってたじゃん」
「はあ…私あんたに話した覚えないし。人の話を立ち聞きするなんて最低。悪いけど君と行く気はないから」
俺の名前は 塚原 秀士ここ、赤沼高校に通う二年生17才。現在好きな女の子にアタックして見事玉砕した。
彼女の名前は三倉 絵理 俺とは一年からずっと同じクラスで入学した時に一目惚れして以降ずっとアタックしているのだが…まったく手応えのないまま時間だけが過ぎていく。彼女はしゃべり方はキツめだけど面倒見がよくて結構いい子だ。俺には冷たいが他のクラスメイトには人当たりも良く友達も多い。それに何より優しい。彼女の優しさに俺の心は完全に奪われてしまった。
俺は玉砕したショック(とは言ってもいつものことなのでさほどダメージはない)で重たい足なんとか動かし自分の席に戻った
「また、玉砕かい?シュウ」
「うるせ…聞くなよミナト」
俺の席のすぐ後ろにから声をかけてきたのは伊月 湊斗は(いつき みなと)俺の幼馴染みというか腐れ縁だ。短く切り揃えたショートヘアーに少しつり上がった目が特徴だ。女子なのだが少し男ぽい雰囲気がある。
「懲りないね…まったく一途というか」
「とりあえず週末一緒に映画行こうぜ…ほれ、チケットは二枚あるし」
俺はミナトのほうに振り返りエリカを誘うために買った映画のチケットを見せた。
「…まあ、いいけど。」
せっかくのチケットは無駄にはしなくてすみそうだ。ミナトはその容姿と落ち着いた性格から冷たそうなイメージをもたれがちだが結構いい奴だ。
「それじゃあ、土曜日な。でも、テニス部が週末休みなんて珍しいな。」
ミナトはテニス部のレギュラーということもあり週末はほとんど部活で空いていないことの方が多い。だから映画も部活が終わった夕方になると思っていたのだが
「言ってなかった?私、テニス部辞めたから」
「辞めた!!どうして?」
俺は驚きを隠せなかった。うちの高校のテニス部は大きな大会に名前を並べるほどの名門だ。ミナトは毎日グランドで一生懸命練習してようやくレギュラーの座をつかんだばかりだ。それなのに部活をやめるなんて信じられなかった。
「まあ、いろいろあってね。今さらほかの部活に入る気もしないし。だから、週末は基本暇になったんだよ」
淡々と他人事のように話すミナト。長い付き合いの俺はこんなふうにミナトが話すときは深入りしてほしくない時ということを知っている。
「じゃあ、何時に集合する?」
「映画なら隣の駅のショッビングモールで見るんでしょ。なら私少し買い物したいから映画は午前中がいいな。」
ミナトからそう聞くと俺はポケットからスマフォを取りだし映画の時間を調べると午前は10時30分からだった。
「はじまるのが10時半だから10時ショッビングモール集合でどうだ?」
「了解」
ミナトの返事のあと教室内にチャイムが鳴り響き授業の始まりを告げた。チャイムがなり終わると同時に先生が入ってて教卓のまえに立った。
俺は前を向いて鞄から慌てて教科書とノートを出す。
次の日
俺は10時より少し前にショッビングモールに到着していた。待ち合わせ場所の映画館チケット売り場に行くとすでにミナトはそこで文庫本を読みながら待っていた。
「おまたせミナト。ずいぶん早いな」
俺はミナトの前に行き声をかけるとミナトは本に栞をはさんで閉じた
「朝練の習慣がぬけなくて早い時間に目が覚めちゃってね。」
「……そうか…」
ミナトの姿に何か不思議な違和感を覚えた。そういえばここしばらくミナトの私服を見ていない。白いすこしふわっとしたセーターに薄い紫のジャケットをはおり膝くらいまでの高さのスカートをはいていた。なんとも変な感じだ…ミナトとは子供の頃からの付き合いということもあり一緒に出掛けるのは数えきれないほどある。高校に入学してからもたまに暇があると一緒にでかけることはあった。だけど今日のミナトはいつもと少し雰囲気が違う。そう感じた。
「どうかした?」
心配そうに俺を見るミナト。うっかりボーッとミナトを見つめていた。
「あっ…いや、なんでもない。上映まで時間あるし俺ドリンクとポップコーン買ってくるな」
これ以上ミナトといたらまた変な意識をしてしまいそうだ。俺は逃げるようにフードショップへと小走りでいった。無事ドリンクとポップコーンを購入してミナトのところに戻る頃には劇場内に入場できる時間になっていた。二人で指定した席に座る。スクリーンには今後上映される映画の予告編が流れていた。俺はそれを見ながらエリの好きそうなものを探しこそっりメモをとった。
「面白かったな。ミナト」
「シュウ…途中で寝てなかった…?」
「うっ…いやー、まあ、あれ少女漫画の実写版だろ。男が観るには…ねえ」
「やれやれ…」
呆れたようすでため息を一つつくミナト。
「一つ教えてあげる。映画に誘っておいて上映中隣で爆睡されたら三倉さんのからマイナスの印象うけるよ確実に」
「マジか!」
無表情でうなずくミナト。危なかった…仮にエリと観に来てても最後まで寝ない自信はない。うっかり一緒に来ていたら大変なことになっていたかもしれない。
「そういえばミナト。確か買うものがあったんじゃないか?」
ミナトはコクりと小さく頷く。やってきたのはショッピングモールにある格安のアパレルショップだった。
「珍しいなミナトがこんな店にはいるなんて」
ミナトはおしゃれにはそこまで気を使わないダサいわけではないがいつも無難な服を無難に着ているだけだった。そうか、さっき感じた違和感はミナトの服装だ。いつもなら男が着ても女が着ても差し障りないような服を着ているが今日のミナトはなんというか女の子ぽい
「部活も辞めたからね。これからは外出の機会も増えると思うしさ。こういう服も持っておかないとと思ったのさ」
ミナトが店頭に並べられた服を見ながらポツリと言った。
やはり、少し気になる。なぜミナトはテニス部を辞めなければならなかったのかあんなに必死に打ち込んでいたテニスを辞めるのはミナトにとっては簡単な選択ではなかっただろう。しかし、自分から無理に聞こうとは思わなかった。それは、俺の昔のある経験からそうしないほうがいいと思ったからだ
「聞かないんだね…私がテニス辞めた理由」
広げたロングTシャツを見ながらミナトが言った。
「今は話したくないんだろ。」
「………」
返事が帰ってこない。図星か…おそらくは何か辞めなければならない大きな原因があるのだろう。もし、俺が手を貸してどうにかできるならなんでもしてあげたいが…冴えない高校生の力なんてたかがしれてる。きっと解決してやることなんてできない。なら、今の俺にできることはただミナトが話してくれるのを待っているだけだ。それが一ヶ月後か一年後下手したら一生話してくれなかったとしても
「昔の私とは正反対だね。覚えてる?私とシュウ一番の大ケンカ」
見ていた服を畳ながら言った
「ああ、俺がサッカー辞めたときのことか…あれは本当に派手なケンカだったな。今となってはいい思い出さ」
俺は小学生から中学生の終わりくらいまでずっとサッカーにのめり込んでいた。地元のチーム(フロンティアメンバーズ)に所属しキツい練習。週末は練習試合と忙しいスポーツ少年だった。中学に入ってからも学校の形だけのサッカー部が嫌でチームに残っていた。しかし、中学生活も終わりにさしかかったころある事件をきっかけに俺はサッカーを辞めた。その時まわりから来る興味本意に辞めた理由聞いてくる周りが嫌だった。その中でおそらくミナトは本気で俺の心配をして聞いてくれていたのだろうがその時の俺にはそんなことを判断する余裕はなかった。ほかのやつらと同じく興味本意の事情聴取だと思っていた。自分の部屋で必要にあれこれ聞いてくるミナトに俺はキレた
「ミナトに俺の何が分かるんだ!」
「なら、話してよ!」
いつもの落ち着いた口調ではなく声をあらげるミナト。
「目障りなんだよ!俺の目の前から消えてくれ!」
俺はそう言って手近にあったクッションをミナトに向かって投げた。もちろん当たらないように気を付けたつもりだったのだが感情的になっていたせいもあってかミナト顔に当たってしまった。
「あっ……ミナト……悪い…俺」
少し冷静さを取り戻した。投げたのはクッションだからそんなに大きなダメージはないはずだが俺の心に広がる罪悪感が俺の頭を冷やした。なんとか謝ろうとミナトを見るとその目からは涙がこぼれていた
「痛くないよ…こんなの……シュウに何……言われたって…ちっとも…辛くない…でもね…今のシュウ……見てるのは…すごく……痛くて…辛い」
そういうとミナトは静かに俺の部屋から出ていった。一人残された俺はベットに倒れこみミナトを泣かせてしまった罪悪感に心が押し潰されそうになっていた。そのあとのことはよく覚えてない。どうやって俺が立ち直ったのかもミナトとどう仲直りしたのかも。ただ時間とともに日常が少しずつ戻っていきサッカーのない生活があたりまえになっていった。
「やっぱり、あの時のことをいい思い出なんて言うべきじゃないな…あの時の俺は最悪だった。ミナトにもひどいことをした…俺みたいに荒れてないミナトはすごいよな」
「まあね…おかげさまで」
何がおかげさまなのかは分からないが。もしかしたらミナトは完全にとはいかないまでもテニスのない生活を受け入れ始めているのかもしれない。
「ねえ、どっちがいいと思う?」
ミナトが2着のロングTシャツを広げて俺に見せてきた。一枚は黒になんて書いてあるかは分からないが英語がプリントされたものもう一つは白でいかにも女の子が着そうなかわいいデザインだった。この質問は正直困る。どっちがいいかなんて聞かれても分からない
「うーん、こっちの黒いほうはなんかいつものミナトって感じするし。こっちの白いほうはすごく印象が変わりそうだよなミナトが着たら。でも、似合うと思うぞ。まあ、俺の個人的意見だけど…」
とりあえずミナトが来たことをイメージして自分の感想だけのべて最後の決定権はミナトにゆだねた。すまない…これが俺の精一杯だ
「ふーん……じゃあこっちにしてみようかな」
そういうとミナトは黒いほうを綺麗にたたんで棚に戻すとレジへと向かった。会計をすませて戻ってくるミナト
「ちょっとトイレ行ってきていい?」
「ああ、俺もちょうど行きたいと思ってたから。確かこの階にあったよな。」
俺は用をたし手を洗い出てくるとミナトはまだ出てきていなかったのでここで待っていようと思った時だった。多くの人が慌ててある場所に集まっていることに気づいた。何があったのかと思いその人混みを掻き分けると中心に腕から血を流す小さな男の子とその腕を押さえている女の子がいた。俺はその女の子には見覚えがあった。いや、見覚えなんてそんな薄いもんじゃない
「エリ!」
「塚原…?どうして…まあ、いいわ。少し手伝ってこの子腕をかなり深く切ってる早く止血しないと。私はこの子の腕押さえて血を止めるからまずは私のヘアゴム外してくれる?私はこの通り手が塞がってるの」
両手でグッと子供の腕をつかむエリ。圧迫して血の流れを止めているのだろう。男の子は痛い痛いと大泣きしている。俺は言われたとおりにエリのヘアゴムを外そうとする。ああ、シャンプーのいい匂いがする。俺がエリの長い美しい髪に触れられるなんてと不謹慎ながら思ってしまった。緊張のせいで手が思うように動かない
「早く!髪の毛多少抜けても構わないから」
「おっ…おう」
俺は慌ててゴムを取る。エリの繊細な髪が抜けないように気を付けてかつ急いで。
「取れた。次はどうしたらいい?」
「それで腕を圧迫して血を止めるわ。本当はちゃんと消毒したものをつかいたいんだけど」
「消毒…それなら待ってろ」
俺は持っていたトートバックをひっくり返した。そしてでてきた怪我をしたときのために持ち歩いてる消毒液をエリに見せた
「これ、怪我用だけど使えるか?」
サッカーやってたときのに親に持たされていたものだ。いつのまにか持ち歩くのが習慣になっていたがこんな形で役に立つとは
「いいの持ってるじゃない。それからそのコンビニ袋ももらえる」
コンビニで買ったお茶が入っていた袋をほしいというエリ。俺は中のお茶をだして袋を持った。
「それじゃあ、その消毒液をコンビニ袋とヘアゴムにたっぷりかけてくれる」
俺は消毒液の蓋を開けると言われたとおりコンビニ袋とヘアゴムにかけた。それを確認するとエリは俺に腕の圧迫を頼むと俺の手の上くらいのところにコンビニ袋を巻きその上からヘアゴムをきつく着けた。
「これでよし、あとは救急車が早く来てくれれば」
そう話しているうちに担架を持った救急隊員がやってきた。少年を手早く担架に乗せると母親らしき女性がエリと俺に感謝を告げて救急隊員についていった。
「なんで、あの子あんな怪我を」
俺が不思議に思ってエリに聞いてみると
「ほら、子供ってお気に入りのものなんでも鞄にいれたりするでしょ。どうやらその中にカッターナイフが刃が出てた状態で入ってたみたいでリュックからお茶を出そうとしたときに腕を切ったみたいなの」
ほっと一息ついた様子でエリが言った。
「でも、すごいよなエリ。救急隊員の人も褒めてたぜ。応急処置は見事だったて」
「そりゃね。一応は医者の娘ですから」
エリの父親は小さな診療所を経営している。父親が医者で母親は看護士ということもありエリも何かあったときのために親から応急処置方などを教わっているため簡単な応急処置なら出きる。俺も入学したばかりの頃校庭で転んだ時にエリに手当てしてもらったことがある。というかそれが惚れたきっかけだ。
「ありがとね。今回は塚原がいてくれてよかったよ。私一人じゃとても無理だったかは」
「今回はて所が少しひっかかるけど。珍しく褒めてもらったと受け取っとくよ。少しは俺のポイント上がったかな」
「あーあ、何も言わなきゃ少しはポイント上がったのに今ので減点プラマイゼロだね。」
「うえ…まじかよ。まあ、いいさ。少しでもエリの役にたてたなら。それにしてもエリ着替えた方がいいんじゃないか?」
エリの服の袖はあの男の子の血で真っ赤に染まっていた。
「あちゃー…これじゃあショッピングは無理かな。まあ、仕方ないね。あの子がこれで助かったならいいかな。でも、塚原も結構ヤバイことになってるよ」
そう言われ自分の姿を見てみると着ているシャツが真っ赤になっていた。応急処置に夢中で全然気づかなかった。
「塚原も帰ったほうがよさそうね。ごめんね。せっかくの
デート邪魔しちゃって。」
そう言って手を振り去っていくエリ。
「デート?俺別に誰とも…あーー!!」
忘れてた…ミナトのことを…俺は慌ててミナトを探すとミナトはトイレの前にあるベンチで文庫本を読んでいた。
「あっ…お疲れシュウ。」
「悪い…実はそこで…」
俺がなにがあったかを説明しようとすると
「知ってる。そこで怪我した男の子を三倉さんと手当てしてたんでしょ。私も見てたし」
「マジで…なら手伝ってよ。結構大変だったんだから…」
「そうしようかと思ったよ。でも、私そのへんの知識ないし。それにさ、チャンスだったでしょ三倉さんと仲良くなる。」
そういうとミナトは立ち上がった
「シュウ…その格好じゃ買い物は無理でしょ」
血で汚れた姿を見るとミナトは言った
「ねえ、久々にゲームしない?」
「は?」
自宅に帰り着替えを済ませると俺は久々にゲーム機をテレビに繋いだ。スティック状のコントローラーを振って人気キャラクターを操りテニスをするゲームだ。小学生のころはミナトと二人でよく遊んだ。今はこのゲームもそうとう旧式になってしまったが
「くそー!嘘だろ。そこでこうくるか…」
「シュウは単純すぎるんだよ。それ!」
カーブをかけてこちらにくるボールを打ち返すことができずにすぐに点をとられてしまう。
「あー!負けたー!!」
「シュウはこのゲームで私に勝ったことないもんね。」
ミナトの言うとおりだった。幼稚園のころ初めてこのゲームを買ってもらったときから何度もミナトと勝負するけど一度も勝てたことがない。ただ、それ以上に気になっていたのは
「ミナト…お前いつから左利きになったんだ?」
普段は右利きのミナトがこのゲームをしているときだけは左手でずっとプレイしていた。
「バレたか…」
もしかして俺は完全になめられているのか…でも、ミナトはそんな相手をバカにするようなことをする奴ではない。
ミナトは右の肘をそっと撫でた
「シュウに…あの時しつこく積めよったからね。私だけはだまってるなんて都合よすぎるよね。」
コントローラーを床に置くミナト
「私の右肘じゃあ…もう、テニスはできないんだって」
落ち着いた様子ではあるがミナトが落ち込んでいるのは分かった。テニスのない生活を受け入れたなんて楽観的に思っていたけど。そんなわけない。俺はバカだ…どんだけ能天気なんだよ。自分が同じ思いしてるのに
「変だなって思ったのは半年くらい前かな…でも、その時には大切な試合控えてたし…テニスするにはそこまで支障がなかったから…病院にもいかずにほっといたらね。もう、取り返しのつかないことになってた。でも、日常生活なら問題なくできるらしいからそこまで深刻ではないんだけどね」
そういって微笑むミナト。こんな顔をするときは本気でキツいときだ。
「なあ、もう治らないのか肘…」
「治らないこともないらしいけど…時間かかるって…完全に治る頃にはもう大人になってるかもね」
少なくとも学生のうちには治らないということか…
「なあ、気長に治せよ。ちゃんと治せばまたテニスできるんだろ。」
「治っても大きな大会にはもう出られないけどね…」
「治ったら俺とテニスやろうぜ。俺だって今は卓球部のエースだぜ。テニスくらいちょいちょいってマスターしていくらでも相手してやるからさ」
サッカーを辞めて高校に入ってから特にすることもなく廃部寸前の卓球部に人数足しで入部したところほとんど幽霊部員と楽そうという理由だけで入った部員しかおらず。結果入部初日から本格的にスポーツ経験のある俺が一番強い部員になってしまったのだ。
「ゲームでも勝てないのに何言ってるんだから。卓球とテニスは似て非なるものだよ。」
チクリと皮肉るミナト。少しは元気が戻ったようだ
「次勝てばいいんだよ。」
俺は再びコントローラーを握った。
休日明けの月曜日気だるさに耐えながら登校途中。冬も近づいてきたのか最近は制服だけでは少し寒い。コートを着てくればよかったと思いながらなんとか学校に到着する。
「おはよう…」
今日も俺より先に登校して席について本を読んでるミナトに挨拶する。
「おはよ」
挨拶がそっけない。これは読んでる本がよっぽど面白いのか夢中になってるときの反応だ。いつもなら一言二言雑談するところなのだが邪魔しないよう今日はやめておこう。
俺は席につき鞄から一時間目の教科書を出そうとすると突然机の上に二枚のチケットが置かれる。
何事かと思い目の前に立つ人物の顔まで視線をあげるとそこにいたのはエリだった。
「おはよう…このチケットは?」
「昨日のお礼もかねて一緒にどうかなって思って今度の週末にでも
これは夢か?幻か?今まで何度誘っても玉砕だったのにエリから映画のお誘いだと!
「この前のお礼ってあの時一番の功労者はエリじゃないか。俺は少し手伝っただけだし」
「それでもね。私はあの時あんたが手伝ってくれてすごく助かったの。受けた借りはきっちり返すのが私の流儀だからさここは素直に受け取っといて…」
平静を装ってはいる俺だが心の中ではすぐにでもハイジャンプして海外のヒップホップダンサーみたく踊り出したい気分だ。しかし、待て!エリが誘ってる映画ってなんだ!もし、この前ミナトと二人見たあの映画ならピンチだ。俺はあの映画で寝ない自信はない!そんなことをすればチャンスがピンチに…俺は渡されたチケットを確認する
「こ…これは…スターダストソルジャーズ最終章。」
思わず声に出してしまった。スターダストソルジャーズ略してスタソル。この映画は俺が子供の頃から見ているシリーズ。地球を守るべく結成された少数精鋭の防衛部隊スターダストソルジャーズと銀河のさらに先からやってくる地球外生命侵略者との戦いの話で俺は全6作品すべて見るほどの大ファン。そして、今回の7作目でついに完結すると聞いてこれは絶対見に行かねばと思っていた映画だ。
「行く。絶対に行く」
俺がこの映画で寝るなんてありえない。ずっと好きだった映画を好きな子と見られるなんて最高じゃないか。
「それじゃあ、待ち合わせ時間や場所はあとでメールするから」
そう言ってエリは自分の席に戻っていった。俺はまだ夢を見ているんじゃないかと思い頬をつねる…痛い…
「夢じゃないと思うよ」
ふいに後ろからミナトが言った。本読んでたんじゃなかったのか…
「よかったね」
それだけ言うと再び視線を本に向けた。
待ちに待った土曜日。俺はかねてから勝負服として購入しといた一帳羅(とは言っても学生のこずかいで買えるくらいのものだが)を着て待ち合わせ場所へと向かう。30分前…少し早すぎたかもしれないが何早くて怒る人はいない。浮わつきそうな足を必死でこらえながら待ち合わせ場所に向かうと
「えっ!!」
そこにはすでにエリが立っていた。俺は慌てて時計を見る
待ち合わせ30分前間違いない。いや、待てそもそも待ち合わせ時間を間違ってる可能性もある。俺はスマフォにある昨日初めて来たエリからのメールを確認する。間違ってない…そうこうしているとエリが俺に気づいて駆け寄ってきた。
「早かったね。」
早かった?ということは俺は遅刻はしてないと言うことか少しだけ安心する。
「ごめん。エリがこんなに早く来てるとは思わなくて」
「気にしないでいいよ。私別の用事があって早めにきてただけだから。でも、上映まで時間あるしショップでも除いて時間潰ししようか」
映画館にあるショップには今上映してる作品の関連グッズやパンフレットが売っている。
「…むむむ……」
俺は棚に並べられたスターダストソルジャーズのパンフレットとにらめっこをしていた
「買うの?」
「今すげー迷ってる。パンフレットを買ってしまったら俺は絶対上映前に読んでしまう。でも、なんの情報もないまっさらな状態で映画を観たい。しかし、こうしてパンフレットを目の前にすると上映まで待ちきれない買って読んでしまおうかと思ってる自分もいる」
頭のなかで天使と悪魔がせめぎあう中それを聞いたエリがクスリと笑った
「相変わらず熱狂的なファンだね」
そりゃそうさ小さい頃からずっと見てる大好きなシリーズなのだから…あれ、おかしいな。俺はエリにスターダストソルジャーズが好きだと言うことを話したことはない。中学校まではスターダストソルジャーズの鞄を好んで愛用はしていたが高校に入ってからは自粛している。それなのにどうしてエリは俺がスターダストソルジャーズのファンだと知っているんだろう?
「ほら、もう入場時間だよ」
そう言われ俺の手を引くエリ。まあ、隠してるわけじゃないし。男友達とはよくスタソルの話をするから誰かに聞いたのかもしれない。深く考えないで今はこの時間を全力で楽しもう
終わってしまった……
エンドロールを見ながら俺は必死で今にもこぼれそうな涙を堪えていた。大好きな映画。最後は文句なしこれ以上ないくらいの完結ぷりだ。もう、続編が作られることもないだろう。そう、思うと寂しかった。いつもならエンドロールなど見ずに立ち上がるがそれが出来ない。なんとも言えない喪失勘が俺の体を縛っているのか。俺はただ流れるエンドロールを見ていたその時だった
「お知らせ」
えっ……お知らせって何?スクリーンに大きく現れた文字に息を飲む。
「スターダストソルジャーズのミュージカル化決定!!」
「マジか!?」
「マジで!?」
スクリーン書かれた文字を見て俺は思わず声に出してしまった。しかし、それは隣で見ていたエリも同じだった。俺がエリのほうを見ると恥ずかしそうに顔をそらした。ほかの席からも「おー」とかさまざまな反応が聞こえる。
映画館を出てパンフレットを買いショッピングモール内にある喫茶店でエリと映画談笑が始まった
「まさか、前回のラスト死んだと思ってた隊長があんなクライマックスで出てくるなんてな。宇宙戦闘機ごとブラックホールに飲まれたのに生きてるとかどんだけ不死身だよ」
「私も驚いた。でも、隊長さん生きててよかった。前回のラストはあのシーンが辛すぎたから。」
俺もそうだがエリもスタソルの熱狂的ファンのようだ。俺の話にここまでついてくるのだから。
「にしても意外だなエリがスタソルのファンだったなんてさ。そんな様子はなかったのに」
「まあね、女子同士の会話じゃまず出てこないしね。私も一作目から全部見てるんだ。とは言っても映画で初めて見たのは4作目からだけどね」
「4作目か一番評判のいい奴だな。あれを見たらそりゃはまるのはしかた…んっ?」
ふとさっきから気にはなっていた。俺たちが座ってる席の二つ向こうに一人コーヒーを飲む若い男。ニット帽とサングラスという少し不審な格好だ。まあ、ただコーヒーを飲んでるだけなら気にはならないがさっきから俺とやたら目が合う
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
もしかしたらあの人もスタソルのファンなのかもしれない。そういえばメンバーにニット帽とサングラスのキャラいるし。なら、俺たちの話が気になってしまうのも仕方ない。もしかしたらまだ見てない可能性もあるし。俺は話題を変えることにした。
「そういえば、この前の男の子大丈夫だったかな。」
「まあ、何針か縫合が必要だったと思うけど大丈夫だと思うよ意識はハッキリしてたし大声でなく体力もあったみたいだしね。」
確かに元気な子だった。きっと今ごろどこかの公園で何事もなかったように走り回ってるかもしれないな。
「でも、あの処置はすごかったよな。さすが看護士目指してるだけあるぜ」
「えっ…なんで塚原私が看護士目指してるの知ってるの?」
しまった…墓穴掘った
「もしかして…また、立ち聞き…」
その通りです…一度先生と進路の話をしているところを聞いてしまいました…
「まあ、あれだよ狭い教室だしさ。別に聞く気はなくても耳にはいるというか…」
まあ、これも半分本当だ。しかし、エリは疑うような目で俺を見ている
「怪しいな…まあ、いいわ。でも、私のことだけ塚原にしられてるのはなんかしゃくだから塚原のこと少しだけ聞かせて」
「俺のこと?ああいいぜ。なんでも答えるよ」
「本当にそれじゃあ最初の質問」
エリに聞かれて答えられないなんてエロ本の隠し場所くらいだ。そう思っていたのだが
「なんで…サッカー辞めたの…?」
ドキリッと心臓が高鳴った。なんでエリが俺がサッカーしてたこと知ってるんだ。エリと初めて会ったのは高校に入学してからだ。中学の終わりにサッカーを辞めたからその事実を知るすべなんてエリにはない。ほとんどサッカーの話なんてしないからクラスでも俺がサッカーしてたことを知っているのはミナトくらいだ。でも、ミナトがエリに話すわけがない…なら、どうして
「私のお父さんね。ギャラクシーイレブンのサブトレーナーやってたんだ。私も小学三年くらいからかな試合のときだけ手伝いによく駆り出されてた」
それを聞いたとき謎が解けた。ギャラクシーイレブンは俺が所属してたフロンティアメンバーズのライバルチームで毎月2回は練習試合をしていた。
「塚原はうちのチームでも有名でさ。シュート決めると変な躍り踊ったり。敵味方問わず気さくに話しかけるからチームでもよく話題になってた。あんな奴が一人いたら練習も楽しいだろうなって…まあ、あんましサッカーうまくないのはたまに傷だけどね。でも、あのチームで誰よりもサッカーを楽しんでるのは知ってたよ。それなに…」
そう、俺はそんなにサッカーは上手くなかった。強いシュートができるわけでもない。ボールテクニックがうまいわけでもない。足が特別速いわけでない。そんな俺が試合に出るためのたった一つの方法それはムードメーカーになることだった。なるべく明るくつとめチームメイトを気遣い相手チームともなるべく交流をもった。ただ、試合に出たいからそれだけを理由に出来ることを頑張った。その成果があったのか俺はスタメンで試合にでることが多かった。
「もしかして、あの試合と関係があるの?少なくとも私が見た最後の塚原の試合。地区大会予選」
再び心臓が高鳴る。あの試合だけは思い出したくもない。
「あの試合の時塚原変だったよね。いつもみたいにおどけたりしなかったし。チームメイトが転んでも駆け寄りもしなかった。ただ、勝つためだけにボールを追いかけてる。そんな感じだった。それで最後には…」
やめてくれ…頼むからやめてくれ…俺はもう…
「私はね。塚原がプレイスタイル見ててすごく楽しかった。シュート決めたときの変な躍りも、点取られた時にみんなを励ますための掛け声も。試合に勝てば子供みたいに喜んで。負ければ一人一人と肩組んで次がんばろうっていって。サッカーって本当に楽しいスポーツなんだって思ったの」
手が震える…頭の中がグチャグチャになる…頼むから…もう、俺をあの記憶から解放してくれ…そう、思ったときだった。
「よお、久しぶりだな塚原。可愛い娘つれてデートか?」
突然後ろから俺の首に腕をいれチョークスリーパーのように締め上げる。驚いて後ろを見るとそれはさっき正面にいたニット帽とグラサンの男。
「あなたは…?」
そう訪ねると男は
「おいおい、俺を忘れたか?あっ…悪いこれじゃあ分からないよな」
男は帽子とグラサンをとるとそこには見覚えのある顔がだった。
「羽山先輩!!」
この人は羽山 嵐俺が所属してたフロンティアメンバーズのキャプテンだった人だ。年は俺より3つ上で今は大学のサッカーチームで活躍していると聞いていた。
「羽山さんってフロンティアメンバーズのカリスマキャプテン!」
さすがは羽山先輩だ。ライバルチームにもその名が響いているようだ
「おっ!こんな可愛い娘にそんな風に言われるとはうれしい限りだね。ごめん、彼氏少し借りていい?5分でいいから」
エリは黙ってうなずく。彼氏と呼ばれても否定しないのはその存在感とキャラクターに圧倒されているからだろう。俺も経験がある。高い身長に整った顔立ちそれにすらりとした体型。まさにパーフェクトな人だ
「それじゃあ、塚原少し顔貸せ」
羽山先輩は俺をつれて自分の座ってた席に座った
「彼女に5分って約束したからな。単刀直入に言うぞ。お前バイトしないか?」
「バイト?」
いきなりなんだ。
「俺はこの近くのファミレスでバイトしているんだが人手不足が深刻でな。もうすぐクリスマスだ正月だで忙しくなるのに募集をかけても誰もこない。そこでだ、ここであったのも何かの縁ということでお前に声をかけたんだ。」
バイトか…うちの高校はバイトを禁止していない。むしろ、社会勉強ととらえある程度の成績をとっていれば推奨されてるくらいだった。一応は適正な成績なので届けさえ出せば学校の許可は簡単に降りるだろう。それに所属している卓球部は週に一度しかない。バイトをいれる余裕は十分ある。しかし、あまりにも唐突過ぎる
「まあ、突然のことだからな。戸惑うのも分かるし無理強いするつもりもない。ただ、少し考えておいてくれ。これ、うちのファミレスのチラシだ。気が向いたら履歴書持ってきてくれればいい。」
俺がチラシを受けとると「彼女待たせるわけにもいかないな」と羽山先輩に戻るようにうながされ席を立つ
「ああ、そうだ塚原あと一つ」
「はい?」
俺が羽山先輩のほうを向くと先ほどと違い少し真面目な顔で言った。
「何を話してたのか知らないが…女の子にあんな顔見せるもんじゃない。それだけだ」
あんな顔…それは昔のことを掘り返され頭の中グチャグチャだった時のことか…俺はどんな顔してたんだろう
「目はいい方なんでね」
羽山先輩はそれだけ言うと伝票を持ってレジへと向かった。まったく名前の通り嵐みたいな人だ
俺はエリのもとへ戻る
「さっきの人…彼氏のレンタル料だって言って私たちの伝票まで持っていっちゃった…」
「今度お礼言っとく」
エリの前に座り俺はそう言った
「羽山さんなんの用事だったの?」
「ああ、ファミレスでバイトしないかってこれがその店なんだけど」
羽山先輩にもらったチラシを見せる
「ここ知ってる。オシャレで値段も安くて人気なんだよ」
羽山先輩が持ってきたバイトの話のおかげでサッカーの話は終わった。きっとエリも俺の異常な反応を感じて気を使ってくれたのだろう。俺はいったいどんな顔してたのか…もしかしたら羽山先輩は何かを感じて助け船を出してくれたのかもしれない。あのまま話が続いたら俺はどんな行動に出てたか分からない。先輩がわって入ってくれたおかげで話の流れが変わった。あの人は少しおちゃらけて見えるがなかなかの策士だ。場の空気を読むのもうまい。あの人の采配で勝利した試合も多い。考えられない話じゃない。
だとすると大きな借りができてしまった
「ねえ、私ちょっと調べて見たんだけどさ。やっぱりネットでも騒がれてるよスタソルのミュージカル。これはチケット取るのはかなり大変かも…」
「まじか、エリここは共闘といこうじゃないか。きっと抽選になるお互いにペアで買ってどちらか当たればラッキーだ。さらにラッキーで二人とも当たったら二回見に行けばいい」
「うん、私スタソルなら2回見に行ってもいい」
「マジで好きなんだなスタソル」
「まあ、私の初恋の思い出ですから…」
初恋それは聞き捨てならないと思ったが。ある結論が頭をよぎる
「わかった!主人公のブレス ロードだろ。あのキャラが初恋って女の子結構いるよな。」
それを聞くとエリは少しあきれた顔で俺を見た
「まあ、そういうことでいいですよ」
なるほど図星かたしかにかっこいいもんなブレス。さて、羽山先輩に大きな借りも出来たし今度下見もかねて先輩のバイトしてるレストランに顔を出してみるかと思った
続く
読んでくださった方まことにありがとうございます。学園系の三角関係は書いててとても楽しいですね。主人公がサッカー少年だった頃なにがあったのか…二人のヒロインとどんな絆で結ばれていくのかなどいろいろと謎を残してしまいましたが。今後少しずつ書いていけたらと思います。もし、よろしかったら感想とかもらえると嬉しいです