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ヘルト──救いたかった声
少女は、呟いていた。
聞くつもりはなかった。
でも、聞こえた。
その小さい、小さい、その言葉が、耳にこびりついて、離れなかった。
今も、あの背中を探している───探していた。
「か、カレンデュラ・リーン・エルランの処刑を持って、エルラン公家は潰えました。我らは、解放を迎えたのですっ」
静まり返っていた、民衆はその声に、歓声を挙げた。
でも、彼らは忘れることはないだろう。
「カレンデュラ・リーン・エルラン………」
『ごめんなさい──そして、ありがとう』
少女は、笑っていた。
笑顔で、命を閉じた。
この国を救った英雄であり、少女カレンデュラ・リーン・エルランの婚約者だった男、ヘルト・オーカスは、分からなかった。分かるはずかなかった。
だって、彼は、解りたくなかったから。
『誰か──助けて』
そう呟いていた、そう涙を流していた、少女を救いたくて、悪を倒す英雄になった、かつての少年は、片付けられていく処刑台をただただ見つめていた。