不意打ちに、キス
あ、可愛い。
ただそう思ったんだ。
たまたま入った駅ビルの、あるお店のマネキンがはいてたスカート。
身長が高いのがコンプレックスで、滅多にスカートなんか履かないのに。
それが目についた。
じっと見ていれば店員さんに勧められ、あっという間に試着室。
実際にはいてみれば、くすんだピンクのふわりと揺れる様が可愛くて。
ちょうどバイト代が入ったのもあって、思わず買ってしまったんだ。
「あー、先輩のそれ私のと似てますねぇ」
しまったと、ただそう思った。
履いてこなければよかったと。
陸上部の男女混合での打ち上げ、彼氏とか彼女同伴オッケーで楽しもうってやつ。
せっかくだからとスカートを履いて。
慣れないメイクなんかもして。
スカートだけだと、可愛すぎちゃうかなってGジャンとスニーカーにして。
そんなことして。
だってまさか、男子の方のマネージャーと服がかぶるなんて思わなかった。
ちっちゃくて、髪もくるくる巻いてて、メイクなんて毎日しっかりしてて。
可愛い、"女の子"って感じの子とかぶるなんて思わなかった。
あー大丈夫かな?
顔、ひきつってないかな。
「あれ~でも先輩が着てると女装みたいですねぇ」
「ぷっ、確かに!女装みてぇ」
「似合わねぇー(笑)」
あぁ、やばい
顔から火が出そう
「ちょっと!失礼でしょ!大丈夫舞それ似合ってるよ?」
ありがとう、そう言わなきゃ。
分かってるのに。
私のキャラなら、笑って怒ってパンチいれて。それで終わりなのに。
声がでない、喉が震える。
まただ、苦しい
助けてほしい
ぽてんと、肩に乗っかる腕。そのままきゅうって抱き締められる。
「舞、お待たせ」
「ゆ、づり」
「ごめん、待たせたね」
「ちょ、先輩そのイケメン誰ですか?紹介してください」
「ん?誰って……ねぇ?」
そのまま、後ろを向かされて。
チュッと重なったら合わせるように女子の歓声があがる。
「こういう関係?」
「え、なんで先輩なんかに……」
「・・・あのさぁ、さっきから舞のこと"なんか"とか下に見てるけどお前のが下だかんな?
舞のが足もきれいだろ?お前の大根足なんて見るも無惨。
舞も、まーた笑ってごまかして。それダメっていってんだろ?
って言うかスカートなんて滅多に履かないのに今日はなんで?
他の男にその足見せんなよ」
「……て、だって、弓弦とあうの久し振り、だから」
「!やっぱ可愛い!もうだめ、連れて帰る」
「え、あ、でも」
振り向けば、女子の陸部の皆はサムズアップしてくれてて。
笑って手をふってその場を離れる。
「ゆづり」
「んー?」
「ゆづり」
「はぁーい」
「ゆづり」
「へいほーい」
「………さびしかった」
「うん、俺も」
ふわりと重なる
好きの言葉
溶けて、とけて、全部一緒になっちゃえばいいのに