エイリアンとの遭遇の可能性があります。中編
後編のはずだった
「勝算はあるの?」
一通りの事情聴取などが終わった後にリナが訊いてきます。
「そこまでないねー 最悪僕が身代わりになって、満足して帰ってくれればいいかなー」
これも希望的観測だということは重々承知しています。
「そこまでどころか、皆無じゃないの・・・それ。」
「当たって砕けろってやつだよー 結局あってみないとわからないし、もしかしたら話し合いで解決するかもしれないでしょ?」
「いや、それは絶対にないわ。言い切れる。」
顔が一気に真剣な、張り詰めた顔に変わりました。
「話す間もなく、心臓を一突きされてあなたは死ぬでしょうね。あいつはそういうやつ。」
「なんで言い切れるの?」
僕は聞きます。
「・・・・・・・」
辺りに沈黙が訪れました。そして彼女は重い口を開くのでした。
「私の、お兄ちゃんなの・・・」
つまり、こういう事なんですね。
実の兄は自分にとっても実の親を殺し、地球に来て殺人を繰り返している。兄弟でありながら、その縁はもう無いものとなっている。話の都合で『兄』という言葉を使ったけれど、もう他人であり復讐の相手にまでなってしまった。
同情はしませんが、ひどい話です。それも現在進行形の。
そのまま、僕はかける言葉を見つけることはできませんでした。
時間は過ぎ、午後12時をまわる頃、田中君のベッドの近くのイスに座っている僕の前にそいつは現れました。
「君が、田中君を刺した犯人なの?」
その火星人は口を閉じたままです。右手で掛けている眼鏡を上にあげると、ほぼノンアクションで左手で持ったナイフを僕の心臓の位置に的確に突き刺してきました。
3mは距離があったはずなのにそれは一瞬にして埋められてしまったのでした。
的確に狙ってくる、という事はどこを防御すればいいか確定している、ということになります。僕は持っていた雑誌を心臓の位置前に持っていき、その攻撃を防ぐことに成功しました。雑誌は貫通していましたが。
火星人は、もう目の前にはいなくまた3mほどの距離が開いています。
「お前は、長生きしないタイプだ。」
初めて発した言葉はそれでした。
「ははっ 僕もそう思う。」
そこにピリッとした空気が張り詰めます。
「争う事なく、話で解決するっていう選択はないの?」
「・・・ない。」
「そっか」
そう言い、今度は僕の方から距離を詰めます。そして懐に入り、力をこめた右手を繰り出すとそれは軽く受け止められてしまいました。
さて、ここ窮地です。右手をつかまれている以上距離もとることができません。
ですが、そんなことを考えている内に手は離されました。
「今までにも、俺に恨みを持って挑んできた奴らはいた。だがお前ほど冷静な奴は初めてだよ。」
「まあ、僕もこういう事するのが初めてってわけじゃないからね。」
「そうか。」
そう言うと、火星人は足元に四角いものを投げました。落下した時、四角い物体は眩い光を放ちました。 視界が奪われ、何も見えません。その間に攻撃してくるのかと思い、身構えましたがそんなことはなかったようです。
光がおさまり、目を開けると場所が変わっています。多分病院の屋上といったところでしょう。
「俺はお前を少し気に入った。だからどちらも全力を出し切れる場所に移動した訳だ。」
言い方を変えれば、さっきの一突きは全力の速さではないわけで、まだ速くなるってことですか。
今になっていう事じゃないですけど、これ大丈夫ですかね?まず僕武器持ってないじゃないですか、相手ナイフですよ。殺傷能力に自信アリですよ。
「さあ、始めようか。」
そんなこと考えている暇はなさそうです。
どちらも距離を詰めにかかります。僕としては詰めきってナイフを使いづらい状態にしたいのですが、それには至らない距離で攻撃のアクションを起こしてきます。しょうがない、作戦Bに移行します。
その攻撃をしゃがみながら回避し、足に回し蹴りを入れに行きます。が、それも跳んで回避され、そのまま頭に蹴りを食らい、壁にぶち当たりました。
息が苦しい、衝撃で呼吸が一時的にできない状態になっているようです。そんな中火星人は。
「死ね」といいながらナイフを投げてきました。避けなきゃ とわかっているんですが、動きが鈍く急所は外れましたが左腕に突き刺さりました。
力を入れることができないので、この戦闘中はもう使えないでしょう。
ですが悪いことだけではありません。僕も一つ武器を手に入れたのですから。利き腕は右ですし。
呼吸も安定してきた。さあこっちのターンです。
起き上がり、ナイフを右手で抜き構えます。ここからは、血の事も考えて戦わなければならなくなりましたが、まあいいでしょう。
僕は火星人に向かって走っていきます。そのスピードを乗せたままできるだけコンパクトにナイフを突き出しました。 頭を狙ったその一撃は彼の顔をかすめ、空を切りました。
使ったことないにしては上々でしょう。
そのまま二歩ほど後ろに下がると、今度はあちらから距離を詰めてきました。
あっちはナイフの使い手、僕は初めて使う初心者。勝てる見込みがラッキーヒットぐらいしか見つかりません。
そんな僕に彼は攻撃しながら訊いてきました。
「なぜ他人のためにそこまでできる?命を張れるんだ?」
攻撃を避け、はじいたりしながら僕も答えます。
「自己犠牲が好きなんだよね、というか全部自己満足だよ。」
僕はシニカルに笑いました。
そんな中、立ちくらみがしてくるようになりました。血がどんどん無くなっていくのを感じますし、疲労的なものもあるでしょう。
立っていられない。そう思った時にはもうその場に膝をついていました。
首元に金属の冷たさを感じます。
「これで終わりだな。」
僕は死を覚悟したのでした。その時は。