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八話目~温かな月明かりの中で~

 二人は見つめあったまま動かない。どちらも不用意に動けば相手を刺激するとわかっているからだ。彩羽は手を伸ばそうとして、それすらもやめる。

 九十九は依然として鋭い目つきで彩羽を睨み続けていた。その目からは大粒の涙がこぼれている。

 本来、彼女は自分の体を銃にするのを忌避していた。そうすることで、自分がやはり人間ではないことを自覚させられるからだ。

 しかし、錯乱した状態の彼女はなりふり構わないといった様子で彩羽を制止させていた。

 九十九はポツリポツリと語り始める。

「怖いでしょう? 私は容易にあなたを殺せるのですよ? 化け物なんですから」

「……違うよ」

「違わない!」

 普段の様子からは想像もできないほどの大声を出した九十九はまたしてもギロリと彩羽を睨みつけた。その鋭い眼光に思わず彼女も怯んでしまう。

「彩羽……私はやはりあなたと一緒にいない方がいい。いや、あなたと一緒にいるとやはり自分が他とは違うということを自覚させられてしまうのです。だから、すいません。身勝手だとは理解しています。が、私はあなたの元から離れたい」

「そんな……」

「もちろん、恩義は感じています。行き場のない私を引き取ってくれたのですから」

「でも、私はキュウちゃんがいてくれた方がいいよ」

「そう言ってもらえると嬉しいです。けど、残念ですが受け入れられません」

 九十九はそっと息を吐き出した。

「元は銃だったこの私を、あなたは必要と言ってくれる。でも、私はこの通り人とは違います。化け物です。怪物です。いや、そもそも生物と定義していいのかすらわかりません。つまり、私はこの世界から外れたはぐれのような存在なのです」

「……わかんないよ」

 彩羽は小さく言葉を漏らし、きっと九十九を睨みつけた。

「さっきからキュウちゃんが言ってることが全くわからない! 人間じゃないから? 元は道具で、人殺しの道具だったから!? わけわかんないよ! キュウちゃんはキュウちゃんだよ!」

「……わからなくていいです。ただ、見逃してください」

「いやだ! 見逃さない!」

 彩羽は声を荒げながら九十九に近づいていく。九十九は右手を構えるが、その先端がかすかに震えていた。それを見て、彩羽はふっと頬を緩める。

「ほらね。やっぱりキュウちゃんは優しいよ。だって、撃たなかったもの」

 彩羽は片手で銃の先端を逸らし、それから告げた。

「キュウちゃんは確かに人とは違うかもしれない。でも、こうやってお話できたり、笑ったり泣いたりできるでしょ? それって、人間と同じだよね? だったら、いいんじゃないかな? この世に同じ人間なんかいない。なら、キュウちゃんもそのままでいいんだよ」

「ですが、私は……」

「それにさ、キュウちゃんが知らないだけで案外いるかもよ? こんな風に、人と道具の性質を持った存在が」

「……わかりません。私はやはり、人ではないから」

「違うよ。たぶん、まだ何も知らないからなんだよ。まだ色んなことを知らないから、わからないんだよ」

「……」

「でも、とりあえずこれだけは言っておくね。私はキュウちゃんと一緒にいたいし、どこにも行ってほしくない。人間じゃなくても、道具じゃなくてもいい。キュウちゃんという存在が私のそばにいてくれればいい」

「……忘れませんか? 私のことを、ずっと覚えていてくれますか?」

「当然だよ。だから、さ。忘れられないくらいの思い出とかもいっぱい作ろうよ。ね?」

「……ありがとう、ございます。でも、私にはまだそれが正しいことか……」

「いいって。それは徐々に見つけていこう? ね?」

 九十九はふっと視線を上にあげる。見れば、彩羽は涙の跡を残しながらも微笑んでいた。その様を見て、九十九もまた涙を流す。

(……わかりません。私は人と違うから、これからどうすればいいのか。けれど……この人と一緒にいれば、何かわかるのでしょうか?)

 九十九はわずかに頬を緩めた。

 すでに雨は上がっている。雲の隙間からは優しげな月が顔を出していた。


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