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第五話~すれ違い~

「キュウちゃん。お昼食べようよ」

 四限目が終わった後で、彩羽がそんなことを言ってきた。けれど、九十九はため息交じりに首を振る。

「いつも言っているでしょう。私には食事は必要ありません。何せ、道具ですから」

「そんなことないよ。キュウちゃんは人間だよ」

 彩羽はそう言うが、実際九十九の言っていることは正しい。付喪神は基本が道具であるため食事をとらなくても死なないのである。

 その事実もまた、九十九が自分が人間でないと自覚させられる一因でもあった。

 当然、彩羽もそれは承知している。だが、それでも彼女は言うのだ。

「一緒に食べようよ」

 と。

 その強引さは短い付き合いの中でも九十九は理解していた。だからこそ、盛大にため息をつきながらも承知する。彩羽は嬉しそうに頬を綻ばせ、屋上へと彼女を案内していった。

 このご時世、屋上で過ごす生徒は相違ない。だからこそ、鍵がかかっているのだが、それは彼女たちにとっては些末な問題だった。九十九はサッと前に歩み出て右手を銃へと帰る。それから発砲し、かかっていた南京錠を破壊した。

 それから彼女は慎重に扉を開け、バッと出るや否や周囲の警戒を始める。軍人さながらの動きに彩羽は感嘆の声を漏らした。

「相変わらずすごいね。キュウちゃん。でも、そう気張ることないのに」

「ダメです。何があるかわからないですから」

 彩羽はその場に腰掛けつつ、口を開いた。

「もう日本は安全になったんだよ。キュウちゃんがいたころとは違って」

 彼女に悪気はない。けれど、それは容赦なく九十九の地雷を踏み抜いた。

 九十九は彼女にしては珍しく、苛立った様子で呟いた。

「そうですね。私がいたころとはだいぶ違います。平和で、静かで、穏やかな日本です」

「うんうん。そうだよね。だからさ、そう気張ることは……」

「だからこそ、私のような人殺しの道具は必要ない」

 その言葉に彩羽はハッとした。けれど、もう遅い。

 九十九は彼女を一瞥して走り去っていった。

「キュウちゃん! 待って!」

 その言葉を振り切って九十九は屋上の扉を潜る。彩羽はただ彼女が去った方向へ手を伸ばすことしかできていなかった。


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