第二話~付喪神~
数分後、九十九がリビングに下りるとそこには朝食をかっ食らう彩羽の姿があった。髪はぼさぼさで、目も当てられない状態である。九十九は小さくため息をつき、洗面台に行って櫛を取ってきた。
「彩羽。いつもキチンと起きて下さいと言っているはずです」
「あはは、ごめんごめん……」
「そのセリフはもう聞き飽きました」
「ごめんってば、キュウちゃん」
九十九はジト目で目の前にいる彼女を見ながら、櫛でその髪を梳かしていく。丁寧な手つきに彩羽は思わず目を細めた。しかしそれでも箸は止めず、口の中に白米を放り込んでいく。
ともすれば横着とも取れるその様相に、九十九はまたしてもため息をついた。
「……あなたがその調子では、私はあなたのお父様に顔向けできません」
その言葉に、彩羽はわずかながら眉根を寄せた。
九十九はもともと、この家の子どもではない。いや、そもそも人ですらない。
彩羽と九十九の出会いは今から一年前にもさかのぼる。
まだ彩羽がまだ中学生だった頃、単身赴任中の父親があるものを持って帰ってきた。それは、一丁の銃。ただし、少しばかり――いや、かなり訳ありだった。
曰く、第二次世界大戦期に作られた銃であり、戦場で多くの命を奪ってきた武器。それはいつしか人の思念を受けて人化し、いわゆる付喪神となっていたのだ。
九十九は戦場で打ち捨てられたままだったというが、ある日回収業者がやってきて彼女を廃棄しようとしたのだ。彼女はそれを避けるために逃げたが、当然ながら行くあてもない。そのまま放浪していたところを、彩羽の父が見つけたのだ。
彼は九十九を養子として迎えると同時、ある制限を加えた。
それは――罪の清算である。
事実、九十九は過去の記憶に苛まれていた。多くの人間たちの命を奪い、そしてその死を看取ってきたことに対するものだ。今でも彼女はそれらのフラッシュバックに悩まされるときがある。
見かねた彩羽の父は、それゆえに人と関わることを強要した。
つまり――人殺しの道具としてではなく、一人の人間として生きていくために。