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第一話~銃娘の朝は早い~

 季節は春。心地よい朝の陽気で人も動物もすやすやと心地よさ気に眠っている。だが、そんな中でひとりの少女は家事を大急ぎでやっていた。

 身の丈は小さく、まだ中学生くらいだ。体つきも未発達で、顔にもまだあどけなさが残っている。だが、一つだけ彼女が同年代の少女たちと違うところを挙げるとすれば、その肌だ。白い肌に、無数の傷がついている。これは、別にいじめを受けたとか家族からの虐待を日常的に受けていたというわけでもない。

 もっと別で、さらに異質なものによる傷だ。

 彼女はたまっていた洗濯物を干した後で、一階にあるリビングへと向かっていった。彼女は到着するなりすぐさま朝食の支度にかかる。米を研ぎ、味噌汁の出汁をキッチリと取ってから味噌と具を投入して味を調整する。

 それからちょいと壁にかかっている時計に目をやった後で、彼女は小さく嘆息し、エプロンで濡れた手を拭ってから再び二階へと向かっていく。だが、それは別にベランダの洗濯物を回収しようというわけではない。

 ただ単に、もう七時にもなろうというのに眠っているねぼすけを起こしに行くだけだ。

 彼女はリズミカルに階段を上っていき、それから廊下をわたってとある部屋の前で足を止めた。彼女はそこで軽くドアをノックした。

彩羽いろは。朝です。起きてください」

 返事はない。まだ眠っているようだ。

 彼女はわずかに叩く力を強めて声を上げた。

「彩羽。これが最終警告です。大人しく起きてきなさい」

「う~ん……後五分」

 起きてはいるようだ。が、まだ布団の誘惑に勝てていないらしい。

 少女は大きくため息をつき、ゆっくりと右手を上に掲げた。

 刹那、彼女の体に変化が起きる。その右手が徐々に細くなっていったかと思うと――いつの間にか銃のようになっていたのである。長い砲身を持っており、怪しく黒光りしている。使い込まれた様相を見せるそれは、少女の可憐さとひどく合っていないように思えた。

 彼女は静かに瞑目し、空いている方の手で耳を塞いだ。

 直後、発砲音が辺りに響き渡り、数秒もせずに部屋から一人の少女が出てきた。

 ぼさぼさの髪をした小柄な女の子だ。彼女は苦笑を浮かべながら自分の目の前にいるメイド服を着た少女を見やる。

「お、おはよう。キュウちゃん」

「はい、おはようございます。彩羽。それより、学校には間に合うのですか?」

「はわっ! そうだった! 朝ごはんは!?」

「もう出来てます」

「そっか、ありがと!」

 脱兎のごとく去っていく彼女の後姿を見やった後で、少女――九十九つくもは天井を見やった。そこにはぽっかりと丸い穴が開いている。それを見た彼女は小さくため息をついた。

「……またやってしまいましたか」

 九十九は右手を元に戻してからリビングへと戻っていく。なぜだか、その瞳はとても憂い気だった。


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