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傀儡奇伝(くぐつきでん) ~行路の章~  作者: 黒崎 海
第十二章 変わらぬ愛を貴方に
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第五話

 ギャオウ! と仰天の鳴き声を張り上げて白猫が塀から飛び降りるのと、火消桶の陰から志狼が飛び出すのとは、ほぼ同時だった。


 「きゃぁ!? ちょいとアンタ! どこ行くの……」


 「やかましいっ!早くそこ退きやがれ!」


 狼狽する女二人を手荒に突き飛ばし、裏口から屋敷の中へと飛び込んだ志狼の前を、あの白猫が背中を丸めて一目散に奥へ向かって疾走していく。

そこは、たった今物音が響いた方向であった。

無意識に、志狼は猫の後を追い掛けその方向へと駆けて行く。

苔生した庭石を飛び越え、綺麗に手入れされた花々の葉を足で散らして飛ぶように駆け抜ける志狼。

奥二重のその瞳に、廊下の向こうにある半分ほど開いた障子が映る。


 「どうして……どうして私の思いがわからないのですか!? 私はこんなにも……どんな女よりもずっと、あなたをお慕い申し上げているのにッッ!」


 「ですから、私にはそんな……ッ! 止めてください! 離せ、ッ! 止めろ――」


 開いた障子の間から飛び交う朱王と雅吉らしき男が言い争う叫び声と、ドスン、バタンと重い物がぶつかり合う激しい響き。

その瞬間、力一杯布地が裂ける乾いた音と微かに引き攣った悲鳴が鼓膜を打つ。

庭から廊下に飛び上がる志狼の顔からみるみるうちに血の気が引いて行った。

マズイ、これはマズイ。

頭の中に浮かぶ言葉は、ただそれだけ。

つい先日は海華が坊主もどきの男に辱められる寸前だった、今度は朱王が貞操の危機だ。

男同士が絡み合う情景……できれば見たくはない光景が目の前にちらつき、グッと息を止めた志狼は冷や汗を飛ばしつつ障子に手を掛け力一杯左右へ引き開ける。


 弾き飛ばされた、そう言っても過言ではない勢いで開け放たれた障子、志狼の視界が一瞬で開ける。


 「朱王さんっ! 大丈夫か……ッッ、!?」


 切羽詰まった声で叫んだ志狼の動きがピタリと止まる。

障子に右手を掛けたままその場に固まった彼が凝視しているもの、それは、袖や裾がビリビリに裂けた着流しを身に付けた朱王が、胸元も露になった雅吉の上に馬乗りとなっている光景だった。

自分が思い描いていたのと正反対の絵に、志狼は口許をひくつかせる。

唖然呆然とした眼差しで彼を見詰める朱王と雅吉。

互いに流れる気まずい時間、思考停止になりかけた脳味噌を酷使し、志狼は必死に目の前に広がる状況を理解しようとする。


 『止めろ』と叫んだのは、もしかして雅吉か?

口では男に興味がないと言っていた、しかしそれは海華や自分がいた手前、仕方なく言ったのかもしれない。

もしかして、もしかして朱王は、前からこっちの趣味があったのでは……?


 「あー…… 朱王、さん。その、俺、邪魔、だったか……」


 「な、っ!? バカ野郎ッ! お前は何を勘違いしてるんだッ! 早く助けろ!」


 志狼の台詞に顔を赤くして朱王は眉を逆立てる。

一瞬、自分を押さえ付ける腕の力が緩んだのを感じたのか、雅吉は半分泣きながら朱王を畳へ引き倒し、己の身体の下へ組み敷いた。


 「朱王先生! 愛しているんです! 一目見た時から、私は貴方を心の底から愛してしまったんですッ!!」


 「止めてくれッ!! うわ……うわ ――ッッ! 志狼ー! 助けてくれ、っ!」


 相撲取りとひけをとらない体格の男に抱き締められ、首筋や鎖骨近辺にに蛸よろしく吸い付かれ、朱王は狂ったように手足をバタつかせて抵抗するが、相手はそうそう離れやしない。

尋常ならざる悲鳴に慌てて雅吉へ飛び掛かり、彼を引き剥がそうと苦心する志狼の背中を、どこから現れたのかわからぬ三匹の猫達が目を丸くして見詰めている。


 やがて、その天地を引っくり返したような大騒ぎを聞き付けて家の者が部屋へと駆け付け、現場は更に大騒ぎ、悲鳴と罵声、そして怒号が飛び交う混乱の坩堝と化していった……。







 『志狼さんについてってもらって良かったわ』そう染々言いながら、海華はグッタリと壁に寄りかかる朱王へ熱い茶を差し出す。

しかし、それを受け取る元気もない朱王は、疲れきった面持ちで肩を落としたまま、海華へ小さく視線を投げた。


 「…… 桐野様は、どうした?」


 「つきさっきお帰りになったわ。志狼さんも、そろそろ戻ってくるんじゃないかしら?」


 「そうか……。なぁ、今回の事、修一郎様に知られるかな?」


 「多分ね。これだけ大事になれば、修一郎様のお耳にも入るんじゃない?」


 「―― 穴があったら入りたい気分だ……」


 うぅ、と唸って頭を抱えてしまう朱王を前に小さな溜め息をついた海華は、持っていた茶を作業机の上に置く。

ここは中西長屋の朱王の部屋。

つい先ほど、海華と共に番屋から帰宅した朱王は、それからずっと塞ぎ込んだままだった。


 やたらにやけた顔の留吉が長屋に訪れ、これからすぐに番屋まで来るよう言われた海華は、取るものも取り敢えず彼と番屋へ走る。

そこで目にしたものは、ボロボロに破れた着流しを纏って所在なげに座る朱王の姿だった。

酷い有り様の彼を前に吃驚仰天、言葉を失いその場に立ち尽くす海華。

そんな彼女を室内へと招いた忠五郎、そして朱王の隣にいた志狼は、朱王に何があったのかを彼女に話して聞かせたのだ。

そして、朱王を先に休ませてやれ、と志狼に言われ、二人は先に長屋へと戻って来たわけである。


 「まさか男に襲われたなんてね。しかもその首……雅吉さんも、結構目立つ場所に付けてくれたものよ」


 ふぅ、と大きな溜め息を海華がついたと同時、朱王は顔を強張らせながら己の首元へ手をやる。

そこには、雅吉に吸い付かれた跡、梅の花のよく似た赤い跡がいくつも咲いていた。


 「しばらく湯屋にも行けないな。こんなもの付けたままじゃ、周りに何を言われるか……」


 「そこまで気にする事ないと思うけど……。 あ、志狼さん帰ってきたわよ」


 破れた着流しを畳んでいた海華が、顔を上げて戸口を見る。

と、微かな足音と共にガラリと戸口が開き、頬から滴る汗を手の甲で拭いつつ志狼が顔を覗かせた。


 「お帰りなさい、お疲れさまでした」


 「おう。どうだ朱王さん、少しは落ち着いたか?」


 上がり框に座り、海華が用意していた雑巾で足の裏を拭いた志狼は、顔だけを朱王へと向け、やや心配そうな面持ちをつくる。

そんな彼に、朱王は力のない微笑みを返した。


 「あぁ、なんとかな。志狼さん、迷惑かけてすまなかった」


 「なに、いいんだ。気にしねぇでくれ。――で、帰って早々ですまねぇが、朱王さん、雅吉さんはお咎め無しってぇ事で、本当にいいんだな?」


 上がり框から室内へ移動した志狼は、朱王の正面へ腰を下ろす。

志狼に茶をいれようと、その場から海華が立ち上がったのを合図としたように、朱王は首を縦に振る。


 「いいんだ。雅吉さんも、悪気があってした事じゃない。二度と『あんな事』をしないと約束してくれたから……俺はそれでいい」


 「そうか、わかった。旦那様にはそう伝えておくよ。それから……雅吉さんがさ、朱王さんが帰った後で、ぽつらぽつらと新しい話をしていたんだが、今から聞くかい?」


 朱王の様子を伺うような声色で志狼が問う。

一瞬考えるように間を置いた朱王だったが、すぐに静かに首を振った。


 「今は、止めておく。朝からバタバタ続きで正直未だに気持ちの整理がつかないんだ。 すまん」


 「いいさ、あんな事された後じゃ仕方ねぇ。 落ち着けって方が無理ってなもんだ。海華、お前しばらくここにいて……」


 『様子みてろ』そう志狼が口にしたと同時、朱王は彼の申し出を固辞し、おもむろに頭の下で腕を組んで畳へ寝転がる。


 「そこまで心配してくれなくてもいいさ。病人や怪我人じゃないんだ、少し休めばどうって事ない。海華、お前は志狼さんと一緒に帰れ」


 「う、ん……。でも、お夕飯は?」


 「今日はいい。とても食べる気にはなれない」


 じっと天井を眺めていた朱王の目が、静かに閉じられる。

それ以上何も言わなくなってしまった彼に若干戸惑いながら、海華はチラと志狼を見た。


 「―― ま、少し独りでゆっくりもしてぇよな。海華、邪魔しちゃ悪りぃから、俺達はおいとましようぜ。じゃぁ朱王さん、また明日な」


 海華を誘い立ち上がる志狼の台詞に、組んでいた腕を片方外して、朱王はヒラヒラと手を振る。

彼の両眼は海華が戸口を完全に閉め切るまで、まるで現を虚説するかのように固く閉じられたままだった。


 「兄様、大丈夫かしら?」


 八丁堀へと帰る道すがら、海華がポツリと呟く。

帰れと言われて帰ったはいいが、やはりあの様子を見てしまうと、どうしても気になってしまうのだ。


 「大丈夫だって。朱王さんはか弱い乙女じゃねぇんだ、少し休めばよくなるさ」


 道の両端に並ぶ商家、その店先にはためく色とりどりの暖簾に目をやりながら志狼が答える。

行く人、来る人、川を流れる木の葉の如く道を行く人々の間を縫って歩く二人。

ふと、海華が道の角で『茶』と書かれたのぼりがはためくのに気付く。

彼女の足が、その場に止まった。


 「おい、どうした?」


 急に立ち止まった彼女に振り向き様訊ねる志狼に、海華は一瞬何かを考えるように視線を宙にさ迷わせた後、柔らかな風に揺れる幟を再び見た。


 「うん、さっきね、志狼さんが言ってた話し……雅吉さんが話してた事ってのが、気になっちゃってさ。兄様がいないと、話しちゃダメ?」


 ちょこんと小首を傾げてねだるような声色を出す彼女へ、志狼は軽く肩をそびやかして苦笑を漏らした。


 「別にダメってこたぁねぇさ。立ち話もなんだから、そこ、入るか」


 揺れる暖簾を指差せば、海華は満面の笑みで頷き早速店の中へと入っていく。

日の光もあまり射さない、どこか薄暗い店内には、まだ昼だと言うのに志狼達を含めて三、四人の客しかいなかった。


 客の目を避けるように店の一番奥の席についた二人は、注文を取りに来た老婆に茶と菓子を頼み、海華は志狼の様子を伺うように飯台へ片肘をついた。


 「さて、と……。どこから話して欲しい?」


 「えっとね、雅吉さんは、どうして兄様に道具箱やら反物やらを贈ってきたの?」


 頬杖をつきつつ唇の端をつり上げる海華。

志狼が口を開こうとしたその時、ふらつく足取りの老婆が茶菓を運んでくる。

盆に乗せられたそれを受け取り、彼女がフラフラと奥へ戻って行ったのを確かめて、志狼はもう一度口を開いた。


 「どうして贈り物をしたのかって? そりゃぁ気に入られたいからに決まってるだろ。 毎日毎日恋文書いて戸に差し込んでも、返事の一つも返りゃしねぇ。だから朱王さんに仕事を頼んで、せっせと高けぇ物贈ったんだよ」


 愛するのは同性である男だけ、女なんて側に寄られただけで鳥肌が立つ。

そんな雅吉が一目惚れしたのが、朱王だったのだ。


 「あらあら……。確かに、封も開けずに燃やしちゃってたから。それとね、一緒に置いてあった千日紅、あれはどういう意味なの?」


 「あぁ、あれか。雅吉さんが言うにはな、ずっと前に朱王さんが、野っぱらに咲いてたあの花を『うっとりするほど優しい目付きで』眺めてたんだとさ。それに、あれは枯れても色褪せねぇだろ? 自分の想いも、この花のように ずっと色褪せねぇって思いで添えたんだと」


 「あの兄様が、『優しい目付きで』花をねぇ ……。惚れてしまえば痘痕も笑窪って事かしら……」


 半ば呆れた面持ちで溜め息を吐く海華は、片手で湯飲みを持ち、唇を茶で潤す。

同じく湯飲みを傾け、志狼は更に話を続けた。


 「で、上手く仕事を依頼して朱王さんを連日家に呼んだ、そこでボロボロの道具箱やほつれた着流しを見て、これじゃあんまりだ、ってんで新しい物を贈ったらしい」


 限りなく近付かないとわからなかった着流しのほつれは、朱王の膝へ登ろうとする猫を抱き上げた際に目にしたらしい。

酒でもてなし、長々とお喋りを続けて彼を出来るだけ長く部屋へ引き留めて……。

夢のように楽しく、幸せな時間だったと雅吉は言っていた。


 「でもな、一つだけわからねぇ事があるんだよ」


 菓子を一口齧りつつ、志狼が呟く。

ちょんと小首を傾げて彼を見る海華は、手にしていた湯飲みを静かに飯台へと置いた。


 「わからない事?」


 「あぁ、夜道で朱王さんの後を追っ掛けてきた奴の事だよ。雅吉さんは、確かに反物を置いたのは自分だと言っている。だが、尾行つけたのは自分ではない、反物を置いてすぐに帰った、とさ」


 誰かに見付かったら大変だ、そんな焦りもあったのだろう、闇に紛れてそそくさと帰った雅吉。

今更彼が嘘をついているなど、志狼には思えなかった。


 「長屋で鋏振り回した馬鹿女かとも思ったが、あれはその晩、ナントカ橋の下にずっと立っていたんだろう? まぁ、後で旦那様にも確認はするが……」


 『たぶん、あの女じゃねぇと思う』そう一言言って、志狼はグッと茶をあおる。

雅吉でも、あの娘でもなければ一体誰なのだろう? そんな疑問が、難しい面持ちで茶菓を摘まむ二人の頭のなかに渦巻いていた。

後を追ってきた人物は一体誰か、その答えは、案外早く判明する事となる。


 





 田澤屋の騒動から、早くも数日が過ぎた。

初めは意気消沈していた朱王も、この頃はいつもと変わらぬ様子で、そろそろ新たな仕事を受けた、などと海華らに話をするようになった。

そんな彼に、ほぼ毎日のように身の回りの世話に訪れる海華、そして志狼もホッと胸を撫で下ろしていた、問題の人物が長屋を訪れたのは、そんな矢先だった。


 雑巾を洗いに表へ出ていた海華が、『お客様よ』と一言、一人の少女を連れてきたのだ。

格子柄の絣着物を纏った少女は、うつ向きがちにひどくオドオドした様子で海華に連れられ室内へとあがる。

年の頃はまだ十二、三歳といったところか、正座した膝の上で固く手を握り締め、相変わらず顔はあげようとしない。


 まるで、これから大目玉を喰らう子供のような有り様の彼女に、朱王はどこか見覚えがあった。


 「あの……朱王様、私……」


 「あぁ! わかった、やっと思い出した。貴女、小間物屋さんの奉公人か?」


 今にも消え入りそうな彼女の声を耳にした途端、朱王はポンと手を一度打ち、思わず大きな声を上げる。

それに驚いたのか、小さく肩を竦めて再び黙りこくってしまう少女へ横から茶を差し出しながら、海華は軽く朱王を睨んだ。


 「やだわ兄様、そんなに大きな声を出さないでよ。怖がってるじゃない」


 「あ……いや、すまん。別に怒っている訳じゃないんだ、ただ……」


 慌てて弁解しようとした朱王へ、少女はゆっくりその顔をあげる。

と、みるみるうちに、その漆黒の瞳から大粒の涙が次々と転がり落ちた。


 「ごめんなさい。朱王様……私なんです、朱王様の後を追い掛けたの、私なんです」


 『ごめんなさい』そう何度も言いながら少女は両手で顔を覆って泣きじゃくる。

突然の告白に戸惑う二人は、何とか彼女をなだめて泣き止ませ、事の次第を丁寧に、限りなく優しく問い質す。

ヒクヒク短くしゃくりあげながらも、少女は夜道で朱王を追い掛けた理由を話し始めた。


 小間物屋の奉公人である彼女は、店番兼娘のお世話係も勤めていた。

あの日の夜、娘が橋の下で朱王を待っていた日も、彼女は娘に付き添っていたのであ る。


 「お嬢様、ずっと朱王様をお待ちしていたんです。でも、朱王様はなかなかいらっしゃらなくて……痺れを切らしたお嬢様に、朱王様を呼んでくるよう言い付けられたんです。それで私、この長屋に……」


 「あの夜道を、一人で来たのか?」


 目を丸くして訊ねる朱王に、涙を拭き拭き娘が頷く。


 「周りが暗くて、独りで凄く怖かった……。 朱王様はいなかった、って、誤魔化そうかと思ったんです。そうしたら、私の先を朱王様が歩いているのを見付けて、慌てて追い掛けました」


 竦む足を叱咤して、必死に彼を追い掛けた。

しかし、朱王は足早により暗い脇道へと入ってしまったのである。


 「そんなに怖かったなら、兄様を呼び止めればよかったのに。お化けと違って捕って喰われはしないわよ」


 苦笑いしながら海華が口にしたその台詞に、 娘は微かに唇を綻ばせて充血した目を瞬かせた。


 「何度も、そうしようと思いました。でも……怖くて、声がでなかったんです。それに ……朱王様がこっちを振り返る度に、隠れなきゃって思って」


 「余程怖い顔してたのねぇ。可哀想に」


 「怖い顔ってなんだ。お前もな、あの状況で後をつけられたら眉間に皺の一つも寄るさ。ま、足音の主もわかったしな、お嬢さん、あんたは何も悪くない。言われた事をきちんとやったまでだからな」


 海華と朱王にそう言われ、少女の顔にやっと小さな微笑みが戻る。

小柄な身体で何度も何度も頭を下げる彼女を表まで見送り、再び部屋へと戻った海華は、戸口を閉めながら朱王へ向かい白い歯を覗かせた。


 「あんなお嬢さんの世話しなきゃなんないから、あの子も大変ね。―― 兄様のココの痕見たら、お嬢さん、また焼きもち焼いて怒鳴り込んでくるかもよ?」


 「勘弁してくれ……。ようやく仕事をしようかと思っていたのに」


 怒鳴り込んでくる女を思い浮かべたのだろうか、朱王はひどく嫌そうに顔をしかめる。

『好かれ過ぎるのも本当に大変ね』そう一言こぼして、海華は畳の上に残された座布団と湯飲みを片付け始める。

想い好かれて襲われて……。

朱王が今回の一件を、笑い話とできるまで、まだしばらく時間が掛かりそうだった……。








※千日紅の花言葉……『変わらない愛を永遠 に』他。



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