第二話
『朱王先生、明日もよろしくお願い致します』笑顔でそう言った雅吉に見送られ、田澤屋を後にする朱王の頬は、心なしかほんのり桜色に染まっている。
時はまだ昼を少し過ぎた辺り、しかし彼は全身を駆け巡る酒精により、いい心持ちに酔っぱらっていた。
ふわふわ覚束ない足取り、降り注ぐ太陽の光がやたらと眩しく感じる。
「……少しやり過ぎたか。また海華にどやされるな」
日陰を選んで歩きながらボソリと呟いた朱王は意識をはっきりさせたいのだろうか、ガリガリと強めに頭を引っ掻く。
あと四半時で、海華が夕飯の支度をしに長屋を訪れるだろう。
それまで酒を抜いておかなければ、またお小言を食らうことになる。
しばらく横になっていればいいだろう。
ボヤける頭でそんなことを考えながら、朱王は長屋へと向かっていった……。
「お君さん、こんにちは!」
「あら、海華ちゃんこんにちは。今日も暑くてイヤになるねぇ」
野菜や魚の干物を詰め込んだ編み籠をぶら下げて、海華が長屋門の下をくぐる。
昼を過ぎ、もうすぐ夕暮れとなる時間帯、井戸端ではぼちぼち夕飯の支度に取り掛かろうと女らが集まりだし、その隣をあせだくになって追い掛けっこに興じる子供らが、歓声を上げて走り去る。
いつもと何ら変わらぬ長屋の風景、しかしその中で一つだけ普段と違うところがあった。
「あらぁ? これ、何かしら?」
部屋の前まで来た海華は、戸口の前に置かれた小さな風呂敷包みにパチパチと目を瞬かせる。
薄い黄緑色の風呂敷に包まれた何か。
その結び目の間には一輪の紅い花、千日紅が差し込まれていた。
「いやだ……。何よこれ、気持ち悪いわねぇ」
部屋の前に置かれた不可解な荷物に顔をしかめ、海華はその場にしゃがみこむと、恐る恐るその包みを指先でつつく。
かつ、と小さな音と共に指が跳ね返り、固い感触が手に伝わってくる。
どうやら中はかなり固い物のようだ。
「危ない物じゃ、なさそうね。千日紅があるってことは、やっぱり兄様にかしら?」
ブツブツと呟きながら包みをじっと眺める海華を、井戸端にいた数人の女達が不思議そうな眼差しを送ってくる。
いつまでもここにしゃがんでいても仕方がない、そう思った海華は、思い切って風呂敷包みを手に持ち、ガラリと部屋の戸口を開いた。
「こんにちは! 兄様、これが……」
編み籠と包みをぶら下げて土間へと足を踏み入れた海華は、部屋の真ん中に身体の右側を下にして横たわり、大きな鼾をかいて眠りこける朱王の姿に、ポカンと口を半開きにさせた。
「にぃ、様? どうしちゃったの?」
畳にゴロリと寝転び、着流しも乱したままで深い眠りにつく朱王からは、ほんのりと酒精の匂いが漂ってくる。
昼間、仕事に出掛けた彼がなぜ酒の匂いをさせているのか? どうして酔い潰れて寝ているのかがさっぱりわからず、その場に立ち尽くす海華。
やがて気を取り直した彼女は籠と包みを部屋に置き、朱王に枕屏風の裏から出した掛布をそっと掛け、自分は籠の中から前掛けを取り出した。
薄い霞がかかる意識の中で、香ばしい醤油の匂いを感じて朱王はピクリと身体を跳ねさせる。
気怠い身体、固い畳に寝転がっていたせいか、腰や背中がズキズキ傷む。
小さな呻きを漏らして寝返りをうった朱王の身体から、薄い掛布が滑り落ちた。
「あら、やっとお目覚め?」
「―― 海華? 来ていた、のか……」
寝乱れた髪を鬱陶しそうに掻き混ぜ、大きな伸びを一つした朱王は未だ眠たげな光を宿す目を擦り、土間からこちらを見る海華へと視線を向ける。
鉄鍋で芋を煮付けていた海華は、呆れたような眼差しで彼を見た。
「ぐっすり寝てたから起こさなかったわ。 いったい、どこでそんなに飲んできたの?」
「田澤屋さんだ。猫の写生に行ったら、雅吉さんが酒や肴を山ほど用意してくれていてな。 一応断ったんだが……」
『まぁいいから一杯』そう何度も勧められ、雅吉直々に酌をしてくれたのだ、あまり断るのも悪いだろうと、ついつい誘いにのってしまった。
しかも、その酒は五臓六腑に染み渡る、その言葉がぴったりくるほど美味い物だったのだ。
「あれだけ上等なものは、ここらじゃお目にかかれない、きっと上方からの下りものだろう」
「へぇ、さすがは天下の田澤屋さんね。兄様、一人だけ良い思いしてきたじゃない。 あ……良い気持ちになってるところを悪いんだけど、さっきね、部屋の前に変な包みが置いてあったの。千日紅が一緒にあったわ」
千日紅、その名前を聞いた途端に、朱王のまだ桜色に染まった顔が不機嫌そうに歪んでいく。
「文だけじゃなく、妙な物を贈って寄越したか。中身はなんだ?」
「わからないわよ。兄様宛に来たものだし、あたしが勝手に開けるわけないじゃない。おかしな物だと困るから、早く開けて中を見てよ」
チラリと風呂敷包みに視線を投げ、海華は再び鍋へと向き直る。
嫌々ながらその場を立ち上がった朱王は、部屋の隅に置いてあった包みを持ち、作業机の上に置くと恐る恐るその包みをほどきだす。
薄い風呂敷の中にある固い物、それが姿を現した途端、彼は『あっ』と小さくこぼして一瞬手を止めた。
「どうしたの? 何が入ってたの?」
何か危険な物が入っていたのか、そう思った海華は鍋を火から下ろし、慌てて室内へと飛び入る。
作業机の前に座る朱王の背後から身を乗り出した彼女は、そこに置かれている代物に目を丸くした。
「なに、これ?」
「さぁ……? たぶん、道具箱、じゃないか?」
小首を傾げる海華の問いに答えつつ、朱王はその『道具箱』をそっと持ち上げる。
それは、漆黒の漆が塗られた半紙程の大きさがある木箱だった。
何重にも重ね塗りされた黒漆は、戸口から射し込む日の光を反射して艶やかに光り、磨き上げられた蓋には羽を大きく広げる孔雀、または 雀を模した螺鈿細工が施されている。
玉虫色に輝き繊細な翼を広げて天を睨む鳳は、今にも黒の世界から現し世へと飛び立ってしまいそうだ。
漆の質といい、螺鈿細工の見事さといい、これはかなり値の張る物だろうことは朱王にも海華にも一目瞭然だった。
「凄いわね、これ……。いったいいくらするのかしら……?」
「端な金で買える物じゃないぞ。二両……いや、もっとだろうな」
こんな効果な物を、無造作に表へ置いていける人間の気が知れない。
そんな事を思いながら蓋を開いた朱王。
中は仕切りのない造りとなっており、同じく漆が塗られた内部に映り込んだ朱王と海華の顔が奇妙な形に歪む。
「ねぇ、どうしてこれが道具箱だって思ったの?」
「俺が持ってる道具箱と、大きさも形も一緒だからだ」
そういいながら、朱王は自身が愛用している道具箱を机の引き出しの中から取り出して、贈り物の横へと並べる。
彼の言う通り、二つは大きさも形も、そして箱の高さも寸分違わぬものだった。
普段、筆記用具を携帯するには矢立を使うが、写生には筆や墨の他にも大量の紙を必要とする。
そのため朱王は写生に赴く際、道具箱に矢立や半紙、その他必要と思われる物を入れて持ち運んでいるのだ。
つまり、これは道具箱として使って欲しいと朱王へ贈られた。
だが、彼にはこのような物を贈られる覚えが全くない。
「どうしてこんな物を……? 道具箱が壊れた訳でもないのに」
「そうねぇ……。強いて言うなら、古臭いし小汚ないからじゃないかしら?」
朱王の道具箱と漆塗りの道具箱を見比べて海華が苦笑する。
江戸へやって来る前から使っていたこの道具箱は、単なる白木から造られた安物だ。
あちこちがささくれ、艶などとっくに失った箱、その内側には墨のシミが所々付着し、蓋も若干だか歪んでいる。
お世辞にも綺麗な物ではないが、全く使えない訳ではなく、またそれなりに愛着もあるため使い続けている物だった。
「小汚ないとはひどい言い種だな。人が何を使おうと勝手だ。いきなりこんな物を寄越されても困る」
ムッとした様子で漆塗りの道具箱を風呂敷に 包み直した朱王は、それを机の下へと置いてしまう。
「突き返してやりたいが……誰が持ってきたのかわからん以上、どうしようもないな」
「そうね、でも、兄様の道具箱を見た人が贈ってきたんじゃないの? あんな粗末な物じゃ可哀想だ、とかなんとか思ってさ。――あら、ごめんなさい。悪気はないのよ?」
不機嫌そのものの表情で自分を睨み付けてくる朱王に困ったような笑みを向け、海華はそそくさと竈へ戻ってしまう。
粗末な物とは余計だが、彼女の言っていることも一理あるだろう。
だが、朱王も今まで様々な家や遊郭などで写生を行ってきた。
この道具箱もそれだけ多くの場所に持ち運び、多くの人の目に晒されている。
その中からこれを贈った者を探し出すのは殆ど不可能だろう。
「人に好かれるのはいいことだけど、兄様見てると好かれ過ぎるってのも厄介よね。……いつも思うけど、兄様のどこがいいのかしら?」
「そりゃ顔だろ?」
「あら、だんだん自分の事がわかってきたじゃない?」
ツラッとした顔で答える朱王に、思わず海華は吹き出しながら熱い味噌汁の中に小さくちぎったお麩を放り込んだ。
『先日は、ご馳走さまでした』田澤屋に出向いた朱王が雅吉に開口一番告げた台詞は、これだった。
謎の人物から道具箱が届いた次の日、朱王は引き続き雅吉の愛猫を写生するため田澤屋へと赴いていたのだ。
仕事で出向いた筈なのに、すっかり甘えてご馳走になってしまった。
彼の自室で猫達が見守るなか、雅吉に向かって深々と頭を下げる朱王。
そんな彼にぶんぶんと頭を振りながら、雅吉はふくよかな顔に満面の笑みを浮かばせた。
「いえいえ、とんでもありません。無理にお誘いしたのはこちらの方ですから。いやぁ、先生の飲みっぷりには惚れ惚れ致しました。私は酒に滅法弱いたちでして、二口、三口でコロリといってしまいます」
恥ずかしそうに頬を赤らめて話す雅吉を、朱王は意外そうな顔で見る。
相撲取りのような体躯、一見酒豪だろうと思われる雅吉だったが、どうやら彼は下戸のようだ。
「そうですか、雅吉様はお酒はあまり召し上がられないのですね。私の妹も一滴も飲めない体質でして。よく笊だ蟒蛇だと小言を言われます」
「妹様も下戸ですか、確かは北町奉行所与力、桐野様の使用人の方に嫁がれたと……」
こちらへ茶を勧めながら彼が言った台詞に、朱王の眉毛がヒクリと蠢く。
よく知っている、雅吉の話を聞いて彼は始めにそう思ったのだ。
海華は桐野の使用人である志狼に嫁いだ。
だが、海華は桐野の元に嫁いだ、と勘違いされる事の方が多いのだ。
それはなぜかと言えば、志狼と懇意にしている人間は限られており、『八丁堀の桐野』と聞けば、主の桐野を思い浮かべる者の方が圧倒的に多い。
朱王は単に志狼の人付き合いが悪いせいだと思っているのだが……それを口にすると、海華が一発で臍を曲げてしまうため、普段あまり口にはしないのだ。
「はい……、はい、その通りです。このままいかず後家かと心配しておりましたが、なんとか嫁に行けました。まぁ、私が家事がからっきし駄目なものでして、今も毎日のように部屋へ通ってきてくれます」
「おや、それはお優しい妹様ですね、羨ましい。―― 差し出がましい事を窺いますが、朱王先生はご結婚は?」
朱王の顔など一掴み出来そうな大きな手で湯飲みを持つ雅吉。
と、彼は何かを確かめたいような声色で、朱王に呼び掛ける。
彼の問いに、一瞬声を詰まらせたものの、今度は朱王が恥ずかそうに笑う番だった。
「いえ、そういった話は全く。こんな生業ですから、女性や子供を相手にすることの方が多いのです。ですが……いや、笑ってください。 どうも女性の気持ちとやらが今の年になってもさっぱりわからない」
「女性が苦手、と、そういうことでしょうか?」
ニコニコ顔で尋ねる雅吉。
はい、と朱王が答えると同時、雅吉の隣に寝そべっていた黒猫が、甘えるようにゴロゴロ喉を鳴らして彼の膝に頭を擦り付ける。
「ああ、黒瀧。放っておいてごめんよ、猫でも除け者は寂しいものだからねぇ」
まるで幼い子供に語りかけるような優しい声で猫を抱き上げた雅吉は、たっぷりと肉のついた頬を猫の小さな顔に擦り寄せる。
ついつい長引いてしまった二人の会話に、さすがの猫も痺れを切らしたのだろう。
「いえね、朱王さん。人様にあんな事を聞いておいてなんですが、私も女というものはどうも苦手でしてね。気紛れ……と言うより移り気なんでしょう。気難しくて、何を考えているかわからない。それに、平気で人を傷付けます。女に比べれば……猫の方が何倍も可愛いと思えますよ」
そう言いながら胸の中で猫を抱き締める雅吉。
漆黒の猫は喉を鳴らして黄金色の目を細める。
先ほどと変わらぬ雅吉の微笑み。
しかし、その言葉の端に何か引っ掛かるものを感じ、朱王は無言で頷いて湯飲みを唇に押し当てた。
「へぇ、女より猫の方が良いなんて変わり者ね」
空になった編み籠を前後にブラブラ揺らしながら、海華は唇を綻ばせる。
夕飯の片付けを終え、彼女が屋敷へ帰るころには、もう辺りは薄い闇に包まれ始めるのだ。
いつもなら朱王が送るのは長屋門の前まで、しかし今夜は彼女と少し話がしたかったため、八丁堀まで送るの事にしたのだ。
道すがら朱王から雅吉の話を聞いた海華は、東の空にポツポツと見え始めた星へと目をやりつつ、ニヤ、と口角をつり上げる。
「同じ女嫌いなら、兄様といいお友達になれるんじゃない? でも、女としては聞き捨てならないわね」
「聞き捨てならないって、何がだ?」
隣を歩く海華の言葉に、朱王は不思議そうな面持ちで彼女を見下ろす。
眉間に軽く皺を寄せて、海華は朱王を見返した。
「だって、女が気紛れだとか人を平気で傷付けるとかさ、あんまりじゃないの。女の人だけじゃなくて、男の中にもそんな人、たくさんいるわ」
プクリと頬を膨らませ、顔をしかめる彼女の言葉に朱王は思わず『そうだな』と呟き首を縦に振る。
確かに彼女の言う通りだ。
気紛れや人をすぐ傷付ける人間など性別に関係無くどこにでもいる。
「お前の言う通りかもな。だが、『何を考えているかわからない』ってのは合っていると思うぜ」
「そんなの、男の人だってそうよ。同じ人間なのか、って思うくらい、なに考えてんのかわからない時があるわ」
朱王の言葉を鼻で笑って、海華は一度大きく籠を振る。
同じ人間でも、互いの事は完全にわかり合おうと言うのは難しいようだ。
「雅吉さんって、女になにか恨みでもあるんじゃないかしら? まぁ……大店の跡取り息子だから、いつまでも猫相手に遊んでる訳にはいかないと思うけど」
「女に恨みをかうような人じゃない。―― ところでお前、最近、身の周りで変わったことはないか?」
「変わったこと? ないわよ、どうして?」
「いや……。ないならいいんだ」
「なによ、変な兄様」
ちょこんと小首を傾げてクスクス笑う海華。
そんなこんなを話しているうちに、二人は八丁堀へと辿り着く。
暗い闇が集まる裏木戸を開け、二人が屋敷の敷地内へと足を踏み入れた時だった。
「海華? 帰ってきたのか?」
「あ、志狼さん。今帰りました」
庭木の枝を軽く揺らして現れた一つの影に、 二人の足がピタリと止まる。
藍色の空から下界を覗く月の光が、その影を柔 らかな光で照らし出した。
「朱王さんも一緒だったのか」
白い三角巾で左腕をつり、右手には空の小桶を下げた志狼が、朱王に向かって小さく微笑む。
「暗くなったから、送ってきたんだ」
「そうか、すまねぇな。俺も迎えに行こうと思っていたんだが……」
「あら、いいのよ志狼さん。志狼さんだって、やる事がたくさんあるんだから。ところで旦那様は?」
「まだお戻りにならねぇ。この頃、また忙しいらしいからな。朱王さん、せっかく来てくれたんだ、上がっていってくれ」
『茶しか出せねぇけどな』そう言って笑う志狼の申し出を、朱王は苦笑いしながら首を振って断った。
「ありがたいが、今日は遠慮するよ。これから一仕事しなけりゃならないんだ。桐野様によろしく伝えてくれ」
「わかった。気を付けてな。提灯、持ってくか?」
これからますます闇は深くなる。
灯りがなければ夜道は危ない、そう思ったのだろう志狼の言葉に、海華が提灯を持ってこようと身を翻す。
「いい、いい海華! まだ提灯はいらないよ」
そう叫んで彼女を呼び止めた朱王は、キョトンとした顔をする海華へヒラヒラと片手を振った。
「これくらいの暗さなら灯りはいらん。月を頼りに帰るさ」
「そ、う? ならいいけど……」
「最近、おかしな奴が多いからな。気を付けてくれよ」
一人で帰る彼を心配したのか、二人揃って裏木戸から送りに出てくれる妹夫婦に苦笑いを残し、朱王は帰路につく。
ぼんやりと薄絹の光を散らす月を背に、人気の無い道を独り行く朱王の目に、既に葉桜となった桜の木が細い枝を揺らすのが映る。
叢雲を纏って潤む朧月、さらさらと黒髪を撫でて通り過ぎる暖かな夜風、全てが静かに、そして淡々と流れていく。
このまま長屋に帰るには、何だか勿体ない夜だった。
長屋に帰って仕事に没頭してしようか、それとも一杯飲んでからにしようか。
そんな事を考えながら道を行く朱王の鼻目掛け、暖かな夜風に乗って、なんとも芳ばしい食欲をそそる匂いが流れてくる。
その匂いにつられるように十字路の角を右へ曲がり、しばらく歩けば、そこは一膳飯屋や赤提灯をぶら下げた酒屋が軒を連ねる通りへと通じていた。
あちこちから聞こえる酔客達の賑やかな笑い声、時々聞こえる怒鳴り声は、どこぞの店で勃発した酔っぱらいの喧嘩だろう。
真っ赤な顔、千鳥足で歩く酔っぱらいを避けつつ匂いの源を探る朱王、彼がふと顔を上げると、道の端にポツリと立つ天婦羅売りの屋台が見える。
蝋燭の焔に引き寄せられる蛾のように、彼はその屋台を目指し歩いていった。




