第三話
思っていたよりもあっさりと頼みが聞き届けられ、海華は額に浮いた脂汗を拭いつつ周囲に聞こえないほどの小さな小さな溜息をつく。
きょろきょろ落ち着かず、心中穏やかでない事が傍から見てもわかる彼女とは正反対に、朱王は飄々とした様子で件の姉妹が出てくるのを待っていた。
都合がよいのか悪いのか、先ほどまで店内にいた客たちは次々と暖簾を潜り抜けて行く。
『ありがとうございましたぁ』 どこか間延びした女の声に紛れるように、些か賑やかな足音が店の奥から聞こえてきた時、海華は思わず生唾を飲み込んでいた。
「あたしは櫛なんか落としていないってば! 何度言ったらわかるのよ!」
「お嬢様、そう仰らずに……せっかく届けて下さったのですから」
「そうですよ、お店で大声を出さないでちょうだい、みっともない!」
「うるさいわね! あたしの事なら放っておいてよ! 」
おろおろ声の番頭と、盛りの付いた猫さながらの甲高い叫びが二人の鼓膜を突き刺していく。
暖簾の奥から足音も荒々しく現れたのは、不機嫌が顔一杯に貼り付いたような若い女と、眉間に深い三本皺を刻み付けた中年女、そして番頭の後ろに身を隠すようにして立つ、これまた若い女の四人だった。
「櫛を拾ったというのは、こちらのお方?」
薄い藤色の着物を纏う、狐顔の中年女が朱王と海華をねめつける。
この女が井筒屋の後妻なのだろう。
男も惚れ込むと揶揄される極上の微笑みを見せ、小さく会釈する朱王の横で若い女二人の顔を見比べる海華には、最早先ほどのおどおどした様子は微塵も感じられない。
目が釘付けになっているのだ、まるで判を押したようにそっくりな二人の容姿に。
不機嫌そのものの女は察するに先妻の子、巴だろう。
そして、先ほどから一言も発しない女は後妻の子、ヨシだ。
朱王と女将が何かを話している、しかし内容が何かなど海華の耳には届かない。
涼しげな瞳をつり上げる巴と、桜色の唇を噛み締めるヨシ。
彼女らの目元に黒子はあるか……せわしなく動く巴と俯いたままほとんど動きの無いヨシを交互に眺める海華の手のひらが、じっとり汗ばんでいく。
『こんな貧乏くさい物、あたしが持ってるわけないじゃない!』
周囲の空気を切り裂くように放たれる苛立たしさを詰め込んだ甲高い叫びが、海華の意識を一瞬で引き戻す。
ハッと顔を跳ね上げた時、彼女が目にしたものは、歯の抜けた櫛を力一杯朱王に向かい投げ付ける巴の姿だった。
「こんなゴミみたいなもの知らないわ! 馬鹿にしないでちょうだい!」
「ご……ゴミ、って!」
あまりの言われように思わず口を返しそうになった海華の袖を、朱王が背後からきつく掴む。
投げ返された櫛を片手で弄びつつ、朱王は来た時と変わらぬ笑顔をヨシへと向けた。
「そうですか、こちら様の物ではないとすると……そちらのお嬢さんの物では?」
「いいえ……私の物ではありません。どなたかとお間違えでは……?」
恐る恐るというように、消え入りそうな声で返事をしたヨシは、一度朱王へ視線を向けたまま再び番頭の影へ隠れてしまう。
ヨシからの返事を聞いた朱王は、鈍い艶を放つ櫛をさっさと懐へ捻じ込んだ。
「そうでしたか、いや、これはとんだ失礼を。どうやらコレの勘違いだったようです。おい、残念だったな?」
「え、っ!? あ……えぇ、そうね。本当……お騒がせしました」
巴と同じくらいむっつりと不機嫌さを露わにして、海華は小さく頭を下げる。
いぶかしがる四人をそのまま、二人は逃げるように店を飛び出して行った。
足早に店を後にした二人、店先で人待ち顔で待っていた志狼が、二人の姿を見るなり早速駆け寄ってくる。
「おい、どうだった?」
「何とかうまくやれた。 とにかくここを離れよう。 これ以上怪しまれちゃまずい」
そう早口に言い置いて、朱王は海華、そして志狼を引き連れ素早く人混みに紛れて行く。
やがて三人が付いたのは、茜色の暖簾が揺れる一軒の茶店の前だった。
日よけにと据えられた傘の下、腰掛けに横並びで座った三人は茶菓を頼んだ朱王は慣れない笑顔を作り続けた顔をほぐすように、頬を手のひらで包み込む。
その右隣にちょんと腰掛ける海華の様子がおかしい事にいち早く気付いたのは、志狼だった。
「おい、どうしたんだ? 腹でも痛いのか?」
暗い雨雲が垂れ込めた空よろしく、どんよりと暗く沈んだ表情の海華は俯いたままで己が爪先をじっと見つめている。
『どうしたんだ?』そう再度志狼が問い掛けると、海華はようやく顔を上げ、ひどく悲しげに顔を歪ませた。
「あたしの櫛……ゴミみたいって言われた……」
「あ? ゴミ?」
「うん……。ゴミって……いくらなんでも酷いわ」
今にも消え入りそうな声で答える彼女は、遂にクスンクスンと短く鼻を啜り出す。
思わず志狼と顔を見合わせた朱王は、慌てて懐から櫛を取り出すと海華へ差し出した。
「ほら、返すよ。 ―― 仕方ないだろう? これだけ古い物なんだから、大体お前、櫛くらい新しい物を……」
「これ、桔梗姐さんがくれたの……。あたしが、初めて一人で仕事に出た時に。古くても、大事な物なの……」
グス、と一度大きく鼻を啜った後、着物の袖で櫛を磨いた海華は、それを擦り切れた布袋に入れ大切そうに懐へしまう。
『すまん』そう小さく呟き頭を下げる朱王に涙を滲ませた笑みを向け、海華の頭が小さく横に振られた。
「いいのよ。兄様が言ったわけじゃないから。それよりも、あたしちゃんと見てたわよ」
そう言いながら海華は二人の方へ身を乗り出して、己の目尻を指差した。
「そうか、で? 巴かヨシか? 」
「右目か?左目か? どっちにあったんでぇ?」
「ちょっと待ってよ、順番に話すからさ」
早く離せと言わんばかりにこちらを凝視してくる二人に苦笑いを見せ、海華は左の目尻をチョンと突いた。
「ヨシさんにあった。左の目尻よ。お線香の先くらいあったかしらね? 近くで見たら、結構目立つと思うわ」
声を抑え気味に話す海華、彼女の話を聞いた朱王と志狼が揃って首を傾げた時、店の奥から三人分の茶菓が運ばれてくる。
香ばしくそして青味のある茶の香りが三人の間を漂った。
「あら? どうしたのよ二人とも? あたし何かおかしい事言った?」
「いや……おかしかぁねぇんだ。でも、黒子がヨシにあったとなると……なぁ、朱王さん?」
「あぁ、この間の男を刺し殺したのが妹…… ヨシって事になるな」
こめかみを掻きつつ茶を啜る朱王の言葉を耳にして、海華も二人がどうして首を傾げたのかやっとわかったようだ。
うぅ、と小さく唸りつつ饅頭を頬張る彼女の眉は、先刻会った後妻と同じく眉間の真ん中に寄せられている。
「あのおとなしい人が男を刺し殺すなんてねぇ……」
「お前もそう思うだろ? ―― あ、お前が見間違えたとは思ってねぇからな」
また機嫌を損ねられては一大事、そう思っての言葉だろう。
しかし海華は朱王の言葉に軽く頷いただけで、再び押し黙ってしまう。
道行く人々が波のように通り過ぎるのを目で追っていた志狼が、二人の間に流れた沈黙を破った。
「朱王さんの言う事は最もだが、海華も間違っちゃいねぇと思うぜ。 ―― まぁ、ここは俺に任せろ。女狐の尻尾、しっかり掴んでやるからよ」
そう言いながら茶菓の饅頭にかぶりつき、ちらと海華へ視線を投げた志狼。
ゴクリと喉を鳴らして饅頭を飲み込んだ彼の口から次に出た言葉は、『しばらく夜は留守にする』だけだった。
『志狼さんが朝まで帰ってこないの』
きりりと襷を掛け、夕飯の支度に精を出していた海華がこぼした台詞に、鑿を操っていた朱王の手がピタリと止まった。
二人が井筒屋を訪れてから早や五日が過ぎていたが、志狼が夜出歩くようになったのはその日の夜からだと言う。
どこに行ってるのか聞いても、はぐらかすばっかりで答えてくれないの」
牛蒡と鶏肉の煮物を大きな鉢に盛り付け、指先に付いた茶色の煮汁をペロリと舐めつつ室内へ上がる海華へ顔を向けて、朱王は作業机の上に鑿と仮彫りしていた人形の頭を静かに置いた。
香ばしい醤油の香りが漂う室内、傾きかけた日の光が射し込む明るいそこには、浮かない表情の海華の姿がある。
襷を外して畳へと腰を下ろすその傍に座り直して、朱王は彼女を安心させるが如くに小さな微笑みを見せた。
「そう心配するなよ。あいつの事だ、何か考えがあっての事だろう。それにこないだ言っていたじゃないか、『しばらく夜は留守にする』ってさ」
「そうなんだけどね、なんだか気になっちゃって。変な事に首突っ込んでなきゃいいんだけど……」
「毎日ちゃんと帰ってくるだけマシだ。今時間は屋敷にいるのか?」
煮つけの牛蒡を指で摘み、口に放り込みながら問い掛けてくる朱王に海華は無言のまま頷き、傍らに置いた濡れ布巾を差し出す。
「いるわ。お掃除も全部終わらせてから眠っちゃうの。体壊すんじゃないかって心配で……」
どうやら志狼の不貞を疑うより、彼の身体が心配のようだ。
一先ず修羅場は回避できそうだ、そう心の中で一人ごち、作業机に置いた湯飲みから冷めた茶を啜る朱王。
はぁ、と掠れた溜息をつきつつ急須を手に海華が腰を上げたその時、突然部屋の戸口がガラリと開け放たれる。
「志狼さん!」
「あらやだ! さっき寝たばかりじゃないの?」
すっとんきょうな叫びを上げて目を瞬かせる二人の前には、寝癖の付いた髪を無造作に後ろでひっ括った志狼の姿があった。
「お前働かせてグゥグゥ寝てるわけにゃいかねぇだろ? 上がらせてもらうぜ」
ふぁぁ、と大欠伸を一つ、緩慢な足取りで室内に上がる志狼の着物はいつになく皺が寄り、彼の顔もどこか精気を失ったように見える。
「随分な顔だな、大丈夫か?」
「ん? あぁ、平気だ。ここしばらく眠りが浅くてな。その代りに面白ぇ事がわかったぜ」
うっすらと隈の浮いた目元を指先で軽く擦り、ニヤと口角をつり上げる志狼の前に、真っ白い湯気を立てる大ぶりな湯飲みが置かれる。
『濃いのにしといたわよ』そう一言添えて、海華は同じく湯気を立てる湯飲みを一つ朱王へと渡した。
「面白い事ってなんだ? 大体お前、毎晩どこに出掛けて……」
「だからそれをこれから話そうってんだよ。 俺だって、ただ目的もなしにほっつき歩いてたわけじゃねぇ。井筒屋に行ってたんだ」
熱そうに、そして美味そうに茶を啜って、そう志狼が口にした台詞に思わず海華は自分の湯飲みを取り落としそうになる。
「井筒屋に、って……まさか志狼さん」
「そうだ、また『鼠』になってたんだ。 なかなかの女狐だぜ、あの姉妹はよ」
頬に掛かる解れ髪を指先で弾き、志狼は小さく咳払いする。
次に彼の口から出る言葉は何なのか、二人は固唾を飲んで見守った。
「あの姉妹が女狐ってどういう事? 姉さんの巴だけじゃなくて、妹の方も?」
出しっぱなしにしていた煮物の鉢に薄い布巾をかぶせて脇に押しやり、海華が小首を傾げる。
「そうだ、姉妹揃って女狐よ。ヨシってなぁ世間じゃ大人しくて目立たない女らしいな?」
「まぁ、一見したところはそうだったな。姉と母親がなかなか強烈だから、余計に目立たないんだろう」
番頭の影に隠れておどおどしていたヨシの姿を脳裏に思い浮かべ、朱王が首を縦に振る。
へッ、と吐き捨てるように鼻で笑い、三角巾の中でずり落ちそうになる左腕を抱えた彼は、畳の上で胡坐を組み直した。
「大人しいが聞いて呆れらぁ。あの女、姉貴と組んで賭場で目を付けた男どもから金ふんだくってんだぜ? 」
忌々しげに吐き捨てる志狼。
信じられないと言いたげに目を見開き口をパク付かせる海華だが、あまりの驚きにその口からは言葉が出てこない。
それは、二人の前に座する朱王も同じだった。
「五日間、屋根裏でしっかり見聞きさせてもらったぜ。 まずはあの姉貴が賭場に入り浸る、そこで目を付けた男を妹に紹介するんだ。 あの姉妹は顔も身体つきも瓜二つだろ? 相手はヨシを巴だと勘違いする。そこそこ器量は良い、気立てもまぁまぁ、巴と違って言うことは素直に聞く、男にとっちゃ最高だ。そこから上手く言いくるめて金を引き出すんだよ」
大人しく従順な女、まさか自分が騙されているなど思いもしないのだろう。
そこそこ金を引き出し、用無しになったところで巴の出番、ヨシと密かに入れ替わり因縁や難癖を付け脅迫し、手下に用に使っている破落戸に命じて手酷い目に遭わせるのだ。
「つまり、男を手玉に取るのがヨシの役目で、脅しをかけるのが巴の役目って事? 」
「そうだ、二人で一人の役を演じるようなもんだな。掠め取った金は山分け、万が一相手が訴え出ようもんなら、破落戸共が始末してくれるだろ? 店の暖簾に傷が付こうがお構いなしだ。あの姉妹は、父親も母親も怨み切ってるようだからな」
そこまで一息に言い終えて、志狼は渋い茶で唇を湿らせる。
思わず顔を見合わせる朱王と海華、作業台に片肘を付く朱王の長い髪が、仮彫りの頭を漆黒で覆い尽くした。
「あの姉妹、夜中にグダグダと親の悪口並べ立ててたぜ? 何が気に食わねぇのかはわからんが、あの店潰すつもりでやってんじゃねぇのかな? そうすりゃぁ、後は姉妹で面白おかしく暮らせるだろう? あいつら、近々今の金蔓と会うようだ。朱王さん、こりゃもしかして……」
茶が半分ほど残った湯飲みを傍らに置き、志狼はチラリと朱王へ視線を投げる。
「また人が死ぬ、か? ―― 志狼さん、あんた井筒屋の『鼠』になってる事、桐野様はご存じでは……」
「まさか、ご命令もなく勝手な事してるなんて知れりゃ叱られるのが目に見えてらぁ。 旦那様は何もご存じない。海華、ずっと隠しててすまなかった」
今までとは違う、わずかに沈んだ声色が海華の耳に届く。
今まで気になっていたことが一気に解決した形となった海華。
彼女の口から、志狼を非難する言葉は出てこなかった。
「いいのよ。何か危ない事になってるんじゃないか、って気になってたけど。志狼さんが無事なら、それでいいの。 ねぇ、今夜も井筒屋さんに行くの?」
姉妹の化けの皮は剥がれた、後は桐野達に任せてゆっくり休んで欲しい。
そんな気持ちゆえに出た台詞。
しかし海華の期待とは裏腹に志狼は大きく頷いて、ポキポキと右手の指を鳴らした。
「俺は最後までやるぜ。勿論、あいつらをお縄にするのは旦那様方にお任せするが、それまでは……」
「―― つまり、まだ 『鼠』になるって事ね?」
ふぅ、と小さな吐息と共に呟いた海華。
これ以上何を言っても志狼はやめないだろう事はわかりきっている。
「わかりました、志狼さんの思った通りにやってちょうだい。あたしも……何か出来る事があれば協力するわ」
『身体だけは気を付けて』そう言って、海華は曇っていた表情を一転させ、柔らかな微笑みを浮かべる。
二人のやり取りを黙って聞いていた朱王だが、ここで自分が知らぬ存ぜぬ、関係ありませんとはとても言えなかった。
「おい志狼さん、俺にも何かできる事はないか?」
「あるさ。勿論だ、でも……いいのか?」
また朱王を巻き込んでしまう、そんな思いからか戸惑いがちに尋ねてくる志狼へわざと眉を顰めて見せる。
「なんだ、ここまできて俺だけ除け者か? まぁ、それならそれで……」
「わかった! わかったよ、なにも除け者にしようなんざぁおもってねぇさ。朱王さんには、店の外から見張って欲しい。俺は屋根裏にいるから、外へ出て追掛けるまで時間が掛かると思うんだ」
途中で見失ってしまったら元も子もない。
都築や高橋達、奉行所の侍らも道々に潜んでいるのだろうが、人数は一人でも多い方がいいに決まっているし、朱王なら文句なしだ。
相手は女二人、もし破落戸辺りが襲ってきても、所詮は恐れるに足らない相手だ。
朱王の協力は取り付けた、さて、もう人の問題は……。
「後は海華、お前なんだが……」
言葉を選ぶように、殊更慎重に話し始める志狼へ、海華はどこか困ったような笑みを向けた。
「わかってるわ、危ないから大人しく家で待ってろ、って言いたいんでしょ?」
「いや、そうじゃない。お前にも来て欲しいんだ。 ……朱王さんそう睨むなよ。お前には旦那さまや朱王さん、それに俺の連絡役を頼みたい。足も速ぇぇし小回りも効く、それにあの辺りの裏道も多少は知ってるだろう? 海華、これでもお前を頼りにしてるんだぜ?」
自由になる右手でポン、と肩を叩かれ、海華の顔は一瞬で満面の笑みに変わる。
が、それを見ている朱王は正反対、苦虫を噛み潰した表情で二人を眺めていた……。
さて、その日の夜から海華の姿は井筒屋の裏口、店と母屋の周りにグルリと巡らされた板塀の蔭にあった。
もし、姉妹に何らかの動きがあれば志狼が屋根裏から降り海華に報せる、彼女はそれをすぐさま八丁堀の桐野邸にいる朱王に報せる、と言った手筈だ。
なぜ朱王が桐野邸にいるのか、それは簡単、それなりに広い屋敷を無人にしていては不用心この上ない。
一方、長屋と言えば盗られる物など何もないし、何より周りの目がある。
誰にも見られず忍び込むなど不可能に近い。
大家であるお石夫妻にも留守にする事は伝えてあるため、どこよりも安全と言えるだろう。
桐野も朱王が留守を守ってくれるのは心強いと大歓迎だ。
奉行所の同心らも駆り出され、連日見張りが続くが姉妹たちが動く様子は全くない。
ほぼ毎日朝帰りとなる志狼や海華、そして神経を張り詰めて留守番をする朱王も、三日、五日と経つうちに疲労の色が強くなる。
これ以上時が過ぎれば皆の身体が持たない、毎日フラフラになって帰宅する志狼と海華を前にさすがの桐野も焦り始めた頃だった。
志狼が屋根裏に潜り込み、丁度十日目の夜、しっかり閉め切られた桐野邸の裏木戸を静かに軋ませ中へ滑り込む海華の姿があった。




