今日の予定
「でも、私なんかが勇者になれるわけないか……」
そう小さく落胆しながらも、勇者の募集要項へと目を遣る。すると、そこには未経験者歓迎の文字が目に入った。
「あ、未経験者でも大丈夫だ。しかも、歓迎されてる! 更に、急募って書いてあるから、今直ぐ電話しないと誰かに取られちゃうよ。こうしては、いられないね」
アオイは、慌ただしく携帯電話を取り出し、記載されている電話番号へと電話を掛ける。二度、三度とコール音が流れ、四コールに差し掛かる辺りで、相手に繋がった。
「はい、こちらアルカディア王国、勇者採用担当です」
「あの、勇者志望なんですけど、応募はまだ間に合いますか?」
アオイは、不安そうに尋ねる。
「はい、問題ありません。では、これから面接を行いたいと思うのですが、この後のご予定などは大丈夫でしょうか?」
「はい、この後はゴロゴロして、テレビ見て、御飯食べて、お風呂入って、漫画読んで、歯磨きして、寝る以外には何の予定はありません」
懇切丁寧なアオイの説明に、この後の予定がぎっしり詰まっていると錯覚した採用担当者は一瞬固まっていた。
「そうですか。とても忙しそうに聞こえたのは、私の気の性ですね」
アオイに予定は、全く無かった。