表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

十一

 放心状態にあった唐草凜が目を覚ましたのは、相変わらずの車内だった。

 窓外の景色は明るかった。

「ここどこ! 一ノ瀬さんは!」

 運転席の高円寺に声を投げたが、彼は煙草を吸うばかりで答えなかった。

「止めてください! 下ろして!」

 車は止まらなかった。

「一ノ瀬さんのところに行かなくちゃ! 下ろしてよ!」

 一つ舌打ちをしたあと、高円寺は車を路肩に急停車させる。

「ここがどこかなんて知らない。あれからずっと走ってる。一ノ瀬に関しては、もう手遅れだろうな」

「手遅れ? どういうこと?」

「どういうもこういうもないよ。あいつ、最初から死ぬ気だったんだ。でもまさか殺すなんて……」

「死ぬ気? どういうこと? 何か聞いてたの?」

「俺もね、馬鹿じゃない。人の人生を追ってればいろんなことが分かる。あいつのぐちゃぐちゃの経歴、君はどのくらい知ってる? 三歳にして母親を亡くして、小学生に上がってすぐに父親も亡くした。引き取られた先で能力を認知されて、テレビに売り込まれた。本人の意思に関係なく、とにかく話題性だけを欲していたんだろうな。ただでさえ見えてしまう死のビジョンを、無理やり見せられた。そもそもあんな番組成り立たないんだ。ビジョンが見えたという人はそれを回避するように行動するし、見えない人は問題外だ。つまりあいつのビジョンが当たる、なんてことがありえない。かと思えば収録から八日経って死んだ奴が出てくる。案の定世間からバッシングを浴びて、週刊誌でも散々に書かれて。名前を変えて、場所を変えて。それを何度繰り返したと思う? 気が狂うような経験だよ。俺なら狂ってる。その中でもあいつは希望を持ってた。俺はこないだ直接聞いたんだ。聞いて、絶望したけどね」

「なんて言ったんですか」

「あいつ自分が人の死を回避させるのは、偽善じゃないって言ったんだ。あれは、嫉妬だった、って」

「嫉妬? どういうことですか?」

「あいつは、死を渇望していたんだ。散々見せられているうちに、それは憧憬になった。死こそがあいつの希望だった」

 唐草凜は言葉を出せなかった。

「だから、自分の強く望んでいるものを遠くても一週間後には手に入れてしまうなんて、気分が悪い。そう言ってた。そんなことさせるかって、止めてたに過ぎないんだとさ」

「じゃあ、私――」

「そうなんだよ。あいつは君の命を救ったわけじゃない。自分の目の前で死なれることが嫌だった、羨ましかった、それだけなんだよ」

「そんな――」

「どうかしてると俺も思う。でも、屈折しても仕方ないような人生だ」

「それなら何でさっさと自殺しなかったんですか」

「そのビジョンが見えなかった、とさ。あいつは能力を自覚して、当然、誰もがするように、それが自分に適用されるのかを試した。答えはイエスだった。それも超例外、だいたい十年後の自分の死のビジョンが見えたって言うんだからね。それが、自殺ではなかった。だから自殺はしなかった。狂った理論だけどね、あいつにはそれが正常だった。基本的に死なんてものはそこらへんに落ちてる。人間は、あらかじめ決められたとおりに死ぬべきですから、とか言ってたな。そんなこと言うくせに、他人の死は羨ましかったんだと」

「――え? ちょっと待ってください、十年後の死のビジョンって? まさか――」

「そう、今日のことだよ。あいつの話しぶりにはだまされたよ。大切な人だの何だのいうからてっきり恋人か何かだと思ってた。でもあいつ、その女のこと、何も知らなかったんだよ。工藤なんとかなんて名前、適当につけただけだった。俺だって馬鹿じゃない。いや、あいつはそれすら見越してたんだろうな、俺がその真偽を確かめるかどうかも。それならばと、俺に真実を話したんだ。先手を打ったってわけだな」

「つまりなんですか、その女の人って言うのが――」

「そう、あいつの大切な人って言うのは、自分を殺してくれる相手のことだった。郡山はその女の恋人で、間違いが起これば、その女が郡山に殺されるところだった。それを阻止するために郡山に恐怖を与えようって作戦に俺たちを巻き込んだ。俺に話したのはそこまでだったからまさか殺すなんて思ってなかったけど、多分、殺すことによってその女に殺される条件が整うんだろう。郡山を連れてくるのにも時間がかかってたし、何か手を打ったんだろうな。蓋を開ければ単純な話だったよ、俺たちはただ利用されたに過ぎない」

「そんな――」

 それで、二人の間に会話はなくなった。

 しばらくしてから、高円寺は無言で車を発進させ、唐草凜を送った。

 道中、もしかしたらあの周辺に何か痕跡が残ってるかもしれないし、そしたら俺たちも危ないからこのまま二人でどこかに逃げるかと提案はしてみたが、唐草凛には何も聞こえていなかったようだ。

 

 そうして、長い夜が明けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ