害虫は益虫
男「よう!久しぶり」
友人「おぅ、大学以来か。久しぶりだな。……にしてもすごい店だな」
男「あぁ、いいだろ?飯も美味いし、何よりいい酒が揃ってるんだ」
友人「それは良さげだが、値もはるんだろう?」
男「それなら気にするな、今日は奢りだ」
友人「どうした?パチンコでも勝ったのか?」
男「いや、そういうわけじゃないが、こっちが指定した店だしな」
友人「随分、羽振りがいいじゃないか」
男「新しく始めた仕事が当ってな。稼がせて貰ってるよ」
友人「この不景気にやるなぁ」
男「そっちはどうなんだ?」
友人「全然ダメだ、今だに正社員になれない」
男「今は派遣だっけか?」
友人「そうそう、しかもこの御時世だろ?人件費カットとかで時間もそんな働けねぇんだ」
男「そりゃ、キツイな」
友人「あぁ、そろそろ引越したいんだがその金もないよ」
男「まさか、大学の時の部屋にまだ住んでんのか?」
友人「そのまさかだよ。ほんと参っちまうよボロアパートでさ」
男「……あそこって、結構、虫とかでたよな」
友人「そうそう、今年なんて凄いぜ。わくのなんのって」
男「今年は連日猛暑だからなぁ」
友人「物が悪くなるのも早いしな、そんでそこにまた虫がわくんだ。十日ぐらい前に、実家から野菜が送られてきたんだけどよ。ダンボールから出さないで置いといたんだけど、今日開けたら箱一杯に虫がわいててさ、思わず閉じて逃げるように家からでたよ」
男「……家にそのままなのか?」
友人「そう……帰ったらなんとかしなきゃいけないんだけど、はぁ、憂鬱だよ。かなりキモいぜ」
男「それ、どんな虫だった?」
友人「どんなって、なんか芋虫みたいな奴だったよ」
男「色は?大きさは?」
友人「普通の芋虫だよ。よく見てないけど」
男「それがダンボール一杯に大量発生か?」
友人「なぁ、食事中だしやめないか?思い出したら気持ち悪くなってきた」
男「……そのダンボールってか虫、俺にくれないか?」
友人「はぁ?なにいってんだ?」
男「頼むよ。なんなら買い取ってもいい」
友人「なんだよ、やけに食いつくな。そんなに欲しいならやるけどよ。こっちも処理しなくて済むし」
男「はぁ、助かるよ」
友人「にしても、虫なんてどうするんだ?」
男「……ここだけの話、新しく始めた仕事ってのに必要なんだ」
友人「虫が?」
男「ナチュラルブームって奴さ」
友人「話が見えないな」
男「ようは自然食品とかが今好まれんだ。野菜なら無農薬や有機農法のが高く売れるし、数もはける」
友人「そういうのはよく聞くな。スーパーとかでもそういう表示をよく見るよ」
男「だろ?そんで消費者はどうやっていい野菜を見分けるか聞いた事ないか?」
友人「あぁ、なんか昼の番組とかで紹介してたのを見たことあるけど覚えてないな」
男「虫だよ。要は葉物の野菜とかに虫がついてるのを見て、:これは虫がでも食べらる、農薬を使ってない野菜だって判断するんだ」
男「俺の仕事は高濃度の農薬を使って手間をかけずに大量生産した野菜に虫をくっつけて売る事さ。なに嘘はついちゃいない。農薬を使ってませんなんて一言も言ってないからな。虫をくっつけてるだけさ。でもな、ひひひっ!それだけで野菜はバカ売れさ」