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校内全体かくれんぼ―序盤―

あの衝撃的な放送から少し経ち、俺は段々と冷静さを取り戻してきていた。

単純に考えれば、宇都宮は俺とは違う世界の人間なのだ。

生まれも、育ちも、見てきた世界も何もかもが違う。


たった一点を除き、ごくごく平凡な俺とは真逆の世界に住む人間だ。

だから、あいつなりの考えがあるのかもしれない。

そう、頭のクールな部分は考え始めていた。


しかし、一方で第六感の部分が納得しきれず、モヤモヤとした感覚がいつまでも残り、なんとも心地悪い。

思わず感覚にしかめっ面になってしまっていると、不意に先生が黒板の字を消し、事務的に文字を走らす。


『残り時間:2時間』


最初は何かと興味を抱いたのか教室に残った面々は視線を送っていたが、内容を知るや視線をはずした。

2時間――おそらく、実際はもっと短時間で決着がつくかも知れない。


全校で何人参加したのかは分からないが、このクラスだけでも全体の8~9割はいなくなっている。

これが全学年ともなれば、裕に200人を超えることは間違いない。

校内にさえいれば見つからないことは、まずないはずだ。


きっと、誰が見つけるかの早い者勝ちになるだろう。

そんなことを一人考えていると、あることに気付いた。


「あれ…何で人数これだけなんだ…?」


不意に口から言葉が漏れたが、それを聞き取っていたようで、教室に残っている女子の一人、榑井珠央が席に近づいてきた。


「へぇ、親苅君だっけ?良い所に気がついたね」

「えっ?」


何故声をかけられたのか戸惑っていると、榑井は空いている前の席に座り、面白そうに声を小さくして話を続けた。


「君も気付いたんでしょ? クラスの人数がありえない人数になっていることに」


思わず、俺も声が小さくなる。


「あ、あぁ…だって、ウチのクラスはだいたい半分が女子。だったら、残るのは…」

「残るのは半分か、それに近い人数でなければならない。でしょ?」

「うん。仮に身内と結婚させる為に、女子が探しに行ったとしても、変だよな」

「ふふっ、やっぱり親苅君でよかった。そう、そのとおり。でも、これは予定調和だよ」

「予定調和?」


俺が眉をひそめると、榑井は「外いこ」と廊下まで俺を引っ張っていた。


「お、おい。廊下にでて、どうするつもりなんだ?」

「教室じゃ深いところまで話せないからねぇ。二人っきりで話せる場所が良くってさ」

「二人っきりって、廊下じゃ誰が来るかわからないだろ」

「はぁ、親苅君、ここ使おうよ」


榑井は自らの頭を指でつっつく。


「今は宇都宮さんを皆がさがしてるんだよ?宇都宮さんは、人通りの多そうな教室棟に隠れると思う?」

「あ、そっか…宇都宮がいない場所には、人はこない…?」

「そう、それに仮に来たとしても、今頃こんな所にいるのは、参加しなかった人か、非戦闘員だね」

「それは分かったが、俺に何のようだ?」

「何のようとは、ちょっと失礼だねぇ。まあ、いいや…正直に言うと、取引がしたいんだ…」

「取引?」


一体何を取引したいというのか。

全体かくれんぼ中だから、それに関わることだとは思うが、生憎俺は参加していない。

いや、参加する踏ん切りがつかないというべきか。

そんな俺の気持ちを察したのか、榑井は笑いながら話を続ける。


「うん、取引。単純にいうと、君に勝ってほしかったりする」

「勝ってほしいって言われても、俺参加自体してないが」

「今はそれでもいいんだよ。話終わるころには、その気に絶対なってると思うし」

「おい、それって、どうい」

「取引内容は、勝つ方法と、君の勝利ね。私は勝つ方法を教えるから君は勝つ。それでいいね?」

「いや、良いも何も」

「いいから、最後までとりあえず聞いて!」


それから、榑井は半ば一方的に勝つ方法を話し始めた。

聞いてみれば、なるほど勝てそうではある。

教室の人数が異常に少ない理由も、理解はできた。


でも、まだ気は乗らないでいた。

結局、俺は宇都宮がどうして、こんなことを始めたのかも、どんな気持ちなのかも分からないのだ。

それに、榑井の目的も不明なままだ。


俺が返事をしかねていると、不意に再度放送が入った。

しかし、今度は雑で、ノイズ交じりだ。

どうも、意識的にいれたものではないようだ。


『きゃっ!?やめ!な、なにをする!そんなところを触っては!!』

『うるさい!大人しく言う事を聞きなさい!!』

『誰か、たすけっ…!!』


「宇都宮!?」


短い放送だったから、何が起きているのかは分からない。

でも、少なくても最初の声は宇都宮のものだった。

それに、後から聞こえたのは、女子の声?


どうも、榑井の予想どおりのようだ。

だとすると、宇都宮が危ない!

俺は、気付くと走り出していた。

それを予想していたのか、遠ざかる榑井の声が聞こえた。


「ね?言ったとおり。話終わるころには、その気になったでしょ?」



《Another》


榑井は、遠ざかる親苅の背中を見送ると、至極楽しそうに笑い、携帯をとりだした。


「クシシッ。やっぱり、予想通りの展開だねぇ。早速、連絡しないと」


慣れた手つきで素早く番号を入力すると、教室の壁に寄りかかりつつ、通話をはじめる。


「やぁやぁ依頼主様。約束どおり、親苅は焚き付けといたよー」

『そうか…ご苦労だった…』

「苦労って程でもないさー。でもさ、なんで親苅なのー?あっ、もしかして入学式の関係?」

『お前の知るべき内容ではない……』

「クシシッ。まあ、確かにそれもそうだねぇ。私は報酬さえ貰えればいいし」

『報酬は、払っておこう』

「あいあーい!よろしくおねがいしまーす!それじゃ、バッハハーイ!」


通話をきると、榑井は携帯をしまいながら、つぶやく。


「面白いねぇ。実に面白い…フフフッ」


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