校内全体かくれんぼ
俺の彼女にもう一度会ってみたいという思いは、思いの外早く叶うことになる。
城阪の話を聞いた次の日の午後、進まないことで定評のある英語の授業を教科書に顔を埋めて昼寝していると、不意に校内放送がこれでもかと言う程の大音量で入った。
そして、聞こえたのは、あの日と同じで何処か自嘲じみた宇都宮の声だった。
『あー、テステス。 全校の生徒の皆、聞こえてるー?宇都宮美淩です。今日は、皆にとっても大切なお知らせがあります……』
予想外の事態に、教室内がにわかにざわつき始める。
しかし、先生はすでに知っていたようで、教鞭を置くと「授業はここまでだ。全員、放送に集中しなさい」と、落ち着き払った顔で言った。
勿論、一度起きたざわつきは簡単に収まるものではなく、むしろ大きくなっていた。
が、次の宇都宮の一言が、全員を黙らせることになる。
『私、宇都宮美淩は、本日、この学校の生徒と婚約します!』
一瞬にして訪れた静寂。先生以外は困惑の表情を浮かべ、隣の席同士で顔を見合わせる。
無論、俺も何を言っているのか分からなくて、ボーとしてしまっていた。
だって学校の授業を受けてたらいきなり放送が入って、婚約宣言だぜ?
まず平凡な日常を送っていれば出会うシチュエーションではない。
そんな俺達を知ってか知らずか、宇都宮は言葉を続ける。
『しかし、まだ誰と婚約するのかは、決めていません。すでに多くの方はご存知かと思いますが、私婚約相手を接吻した相手に決めて頂く事になっています。
でも、その為に逃げるのも、襲われるのも、うんざり!!だから、その婚約者決定権の持ち主をゲームで決めたいと思います!
その名も、『校内全体かくれんぼ』!!我こそはと思う者、あるいは宇都宮家の財産が欲しい者は、放課後までに私を見つけて…せ、接吻をしてください!』
「はぁ!?あいつ、なに言って!」
あまりの意味不明さに、俺が思わず席から立つのと同時に、何人かの生徒が教室から飛び出していく。
宇都宮の言葉は、さらに続く。
『私は、校内のある場所にいます!逃げも隠れもしない! それでは……』
「宇都宮、お前は……」
『ゲーム、スタート!!』
「こんな事がしたかったのかよ……?」
呆然とする俺を尻目に、開戦の合図と共にさらに生徒達が教室から飛び出していく。
そして、教室に残ったのは、立ち尽くす俺と、無言の先生、それに数人の生徒のみだった……。