ファーストコンタクト
親苅と宇都宮のファーストコンタクト……
それは、入学式の下校時刻、校門に遡る。
今でこそ、上下関係ができた二人だが、出会ったときは!?
長らくお待たせしました!やっと本編です!
「ふぁ~。 眠ぅ」
桜が咲き誇り、優しい風が眠気を誘う入学式の放課後、俺は欠伸をしながら校門へと歩いていく。
周りを見れば、騒がしく入部を勧める運動部や、その応対に少々困り顔ながらも満更でもない新入生が校門から下駄箱まで、いたるところに。
流石運動部というべきか、入部を勧める声は溢れんばかりの元気さで、聞いているだけでも部活の活気が伝わってくる。
中学校の頃は将棋部をやっていた比較的インドア派な俺でも、ついつい「あっ、入部しようかなぁ」という気持ちになる。
校門が近づき、俺自身も満更でもなくなり始めた頃、ふと目が一人の少女に止まった。
透き通るような肌に純白の髪、穢れを知らないような目。整った顔立ちだ。
体も小柄で、決してグラマラスじゃないが、逆にそれが父性本能をくすぐる。
何処から見ても、美少女といえるだろう。
だが、唯一問題がある。
彼女は何で学校に白のワンピースできてるんだ?
ウチの学校は私服登校ではないし、部外者にしては堂々としている。
「たまぁにいる春に浮かれちゃう人か?」
一人悩んでいると、不意に何処からかヒソヒソ話が聞こえてきた。
『ヤダ、宇都宮さん?彼女何しに来たのかしら』
『今日、入学式だからアレしに来たんじゃない?』
『アレって?』
『ほら、朝のTVで……』
あまり気分の良い話ではなさそうだから、意識的に話を聞かないようにする。
でも、そうか。あの女の子は宇都宮っていうのか。
なんか、色々事情のありそうな人だな。
とはいえ、俺は新入生。学校のことも、宇都宮とかいう女子のことも全く知らない。
それに、今日はさっさと帰って寝たい気分でもある。
正直、こういう事は願い下げな柄だから、さっさと校門を抜けようとした。
ところが、最後にチラッと彼女の方をみると、いつの間にか柄の悪い男子に絡まれていた。
強気な目で、なにやら彼女は言っているが、男子は嘲笑しながら彼女の手をつかんで、何かしようとしている。
まあ、とは言っても俺には関係ない。
知り合いでもない女の為に、面倒はごめんだ。
「ほんっと…めんどくせぇ…」
気付くと、俺は来た道を逆走していた。
いやはや、どうも悪い癖が出ちまった。
俺は二人のところに行くと、半ば強引に男子の手をつかんだ。
「いやはや、そういうの良くないと思いますよ~。あははっ」
「ちっ!テメー…誰に口聞いてるのかわかってんのか…?」
「あいにく新入生なもので…全然わかりません…盛りの猿か何かですか?」
「あぁっ!?」
物凄いガンを飛ばしてくると、男子は開いている方の手で俺の腹に向かって一撃を繰り出す。
拳は見事に俺のみぞおちを打ち抜き、意識を失った――となれば良かったんだけど、生憎俺は少し特別だ。
咄嗟に拳を掴み、両腕を一気に廻す。
男子の体は、まるで重さがないかのように綺麗に一回転し、その場にうつ伏せに倒れる。
本人は何が起きたか分からなかったのか、きょとんとした顔をしている。
その間に俺は腕を背中に回し、間接が外れるギリギリの所にする。
激痛に歪む男子の顔に向かい、一言つぶやいた。
「入学早々腕を折りたくないんですよ。ここは俺に免じて引いてくれません?」
「ぐっ!くぅ!」
悔しそうにしながらも、本気で痛いようで男子は首を縦に振った。
俺が手を離すと、男子はそそくさと立ち去って行った。
途端、誰からとでもなく、いつの間にか出来たギャラリーから拍手が沸いて出た。
何だか、凄く恥ずかしい。
「あははっ、すいません、お騒がせして」
恥ずかしさを笑ってごまかしていると、不意に宇都宮(とか言ったっけ?)が話しかけてきた。
「お、おい……」
「はい?」
何かお礼でも言われるのだろうか?
そんな期待をしながら、振り向くと、不意に自分の頬に強い衝撃が伝わった。
一瞬にして、なにがなにやら分からなくなる。
やがて、時間経過と共に強まる痛みで、自分が彼女に平手打ちされたのだと気づく。
彼女はキッと俺を睨みつけながら、涙ぐんでいた。
不思議と怒りは生まれなかったが、かわりに何故彼女が泣いているのかという疑問と、元々初対面で平手打ちされるはずがないだろうという気持ちで頭が混乱する。
だが彼女は至極当然のように、怒り心頭で言った。
「来るのが遅い! この、駄犬め!!」
「……はっ?」
「聞こえなかったのか? このルーザー!」
「ルーザーって何だよ!!
訳が分からず、とりあえず目先の疑問をぶつけると、彼女も混乱しているのか、それとも泣いているせいか、半ば叫ぶように言った。
「お前みたいなルーズで命知らずで、立場をわきまえない奴のことだ!」
「いやいやいや、助けてもらってそれはないだろ!」
「助けなんていらなかった!!」
「えぇ!?」
ここで、ギャラリーに変化が出始める。
さっきよりも遠巻きに俺たちを見るようになり、拍手のときとは違い何処か批難的な目で宇都宮を見ていた。
だが当の本人は、そんなことお構いなしに泣きじゃくりながら、俺の服を掴んできた。
さっきの勢いとは違い、今度は弱弱しく、声も小さい。
「助けなんて要らなかったんだ…私なんかの為に、お前が傷つくなんて…」
「いや、俺は無事だけど…強いて言うなら、さっきの平手打ちくらいで…」
「どっちにしても!見ず知らずでも私のせいで誰かが傷つくのは見てられない!」
ああ…そうか、コイツ、本当は凄く良い奴なんだな…。
確かに学校にワンピースで来るという、ちょっと普通とは違う奴だが、俺を心配してくれているらしい。
初対面の奴にどんだけ感情移入してんだか…まあ、それを言ったら俺も同じだが…。
途端に父性本能が湧き、彼女の頭を撫でる。
気のせいか、少しだけ泣き声が小さくなった気がした。
とはいえ、ギャラリーはいるわけで…なんだか、凄く居心地が悪い…。
仕方なく、とりあえず泣きじゃくる彼女を俺は保健室に連れて行くことにした……。
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