~第八十六話~城前までのDIEジェスト その1
こんばんわ。第八十三話の矛盾点なんとか修正しました。指摘くださった皆さん、ありがとうございます。ダイジェストと題しておきながら、二部構成になりそうです。普通に進めりゃよかった…
「ようやくたどり着いたね…」
目の前には中世風の古城。それはほぼ正方形の形をしたこの大陸の北西の頂点、切り立った岬に居城を構えた七つの大罪ども(セブンス・デッドリー)たちの居城、悪魔城。別にいるのはドラキュラではない。つうかそいつはもう倒した。異空間を含んだ全世界の諸悪の根源どもの根城だ。
それを見据える俺たちの背後には鬱蒼と言う言葉じゃ足りないくらいの大森林。つうかギランの大半を占めている逆凸の形をした魔の森林。そして目的地の前に広がる荒野。まぁた雷様がご乱心しておられる。
冒頭の発言の主はカイム。纏っているローブは勿論ユニ○ロレベルの代物ではないのだが、ボロ布のようになってしまっている。
「…どうする?休むか?」
「でも身を隠す場所なんてないわよ。暗黒空間を作る魔力も、もう残ってないわ」
白夜も疲労の色を隠せない。隣のヘラも、白夜の装備品にすらなれないほど消耗している。残りの三人も地べたに尻をついて舌を出している。お前らは犬か。
「確かにね…いつあいつらが攻撃を仕掛けてきてもおかしくないしね。…今仕掛けれたところで回避することも逃げる自信もないけど」
シーリカが珍しく弱音を吐く。確かに言うことは尤もだ。今俺らは、完全に敵に姿を晒している状態だ。そしてあいつらなら目視出来てもおかしくない上に、魔導反応だって感知出来ているだろう。まぁ…消耗している今では、そこらの雑魚モンスターとさほど変わらないレベルの魔力かもしれないけど。
「その森には…もう戻りたくないわね」
シーリカが背後を振り向くと、皆が皆同時に首を縦に振る。
「しょうがねぇなぁお前ら。これ飲んで一息着こうぜ。テレレテッテテー」
青狸がブリーフから道具を出すときの音を奏でて、四次元麻袋から乳白色の小瓶を人数分取り出す。その小瓶の中身は勿論エリクサー。しかもこいつは俺がマテリアルに帰った時のデータを元に、ディーン義姉さんが突貫で作ってくれた物だ。体力の還元不要の、魔力回復にのみ作用する便利アイテムだ。
「これを飲んで、僕のようにでっかくな痛ぇ!」
「そんな便利なものがあるならさっさと出しなさいよ!」
「貴様はアイテムを『今はまだ使うべき時ではない』とか言って、結局ラスボス戦でも使わないで残してしまうタイプの人間だ」
それぞれ口々に文句を言いながら俺の頭に鉄拳を喰らわす。…くそぅ、お前らまだ元気じゃねぇか。
「主、ケロック○ンボなんて○リーグカレー並に懐かしいネタを…」
「しかも別に大きさ変わるわけでもないしな。バルゴーは除くけど。つうかお前らには殴られる筋合いはねぇ。カイム、グレン」
いきなり名前を呼ばれ、バツの悪そうな顔をするカイムと顔を背けるグレン。
ということで、ダイジェスト…もとい、DIEジェストを回想でお送りします。
「あーもう!めんどくせぇなー!」
「面目ない…」
今俺らがいるのは、大森林地帯のちょうど中程。沿岸を通っていた俺らが本来は通らなくてもいいルートなんだが…。
「全く!この後に及んでハーピーの魅了に引っかかるなんて信じられない!」
「しかもそれがハーピーじゃなくて姑獲鳥という二重トラップね。あまり意味は為さなそうだけど」
女性陣が憤慨するのもごもっとも。全ての元凶はこの二人。グレンとカイム。
「つうかギランなんて危険地帯に、女だけのパーティーなんているわけないだろう常識的に考えて」
「くっ…一生の不覚っ…!しかし相手が美女なら我は…」
貴様もかクソ指輪。戦闘の時にえらく消極的だったのはそのせいか。ったくどいつもこいつも…。馬鹿どもが勝手な行動に出たおかげで、余計な周り道しちまったじゃねぇか。本当なら、鶏と怪獣をのして、後警戒すべきはクラーケンとかそのくらいだったのに。こんな森半時計周りに軌道修正なんて、ほぼ網羅するようなもんじゃねぇか。つうかこの森通りたくなかったから沿岸通ってきたのに。…それでも、最後にちょこっと森通らなきゃいけなかったんだけど。ちょこっとで済んだのに。
「あーあ。この森天然のボイドが強力すぎて、イマイチ探索もかけれねぇんだよなぁ…方角合ってんのか?」
光の妖精ウィル・オ・ウィスプを召喚し、愚痴りに愚痴りながら先に進む。そろそろ白夜が宥めにくるパターンかな。
「まぁ過ぎてしまったことは仕方ないだろ。晶、お前は方角だけ集中してくれ」
「へーへー。しっかしこれ本当に合ってんのくわっ!?」
いきなり足元を掬われて、言葉が遮られた。…別に慣用句的な意味じゃなくて。
「何をやってるキーランスォ!?」
ようガラム。お前も宙吊りか?奇遇だな、俺も今頭に血が上って気持ち悪いんだ。
「まさか、トリフィド!?」
ヘラが驚いている顔がぼんやりと見える。ダービーよ、残念だな、宙吊りでもヘラのローブの中は見えんぞ。
「ようヘラ、なんだそのトリフィドとやらは」
「かつて私が生み出した人口生命体…しかし、なんでこんな…」
なるほど、お前が産みの親か。じゃあ蒔いた種の苅り方教えろや 。たぶん土属性の俺は相性最悪だ。ガンガン養分吸われてる。
「キーランス!ウィル・オ・ウィスプを戻して!光があると無限に増殖するわ!」
なるほど植物だもんな。光の妖精を戻す刹那チラッと見えたけど、俺らの足元に無数の蔦が這っていて、全部俺を緊縛プレイしてるこいつに繋がっている。音声から判断すると、他の連中もそこそこに巻き上げられたらしい。本体のこいつの中腹に、怪しい眼光たしきものが見えた気がする。クソッタレ、雑草の分際で。
「モース…モース…」
モース?申す?なんじゃそりゃ?
「ヤバイ!仲間が集まってきたみたい!」
ヘラがおろおろする気配が伝わる。つうかお前はなんで無事なんだ?製作者だからか?つうかギラン側の連中はどいつもこいつも団体行動ばかりしくさって。
「…クッ!無人格の分際で、俺様に楯突きやがって」
「いや、ガラム。最近は植物にも感情があるんじゃないかって実験報告が…」
「植物なら凍らせれば済む話だ!」
そう息巻いて、ガラムが隣で蔦に冷気を送り、端から見事に凍らせていく。幸運なことに、俺とガラムを捕まえたのは同一の個体らしい。冷気が伝播して、こっち側の蔦まで凍っていく。
「なるほど。細胞壁が壊れれば機能が果たせなくなるからな。考えたな…ってつめてぇ!霜焼ける!霜焼けるって!」
「ふんっ!助けてやったんだからさっきの借りはチャラだ」
「乱暴なやつめ…そぉい!」
顴骨で凍った蔦を砕くと、反転して地面に降り立った。ガラムが自身に冷気をはらませているおかげで、足元の蔦が動かなくなった。向こうは…カイムは俺と同様相性最悪だし、シーリカも鎌鼬で切ったところで別の蔦に捕まるだけだな。白夜も同様。…となると頼みの綱はグレンだけど…あいつまさか!
「あーもう!しゃらくせぇ!!」
「あっ!止めろ馬鹿!」
…これなんてデジャヴ?今度は俺ら巻き込むっつー…の?アレ?
「炎が弱まっていく…」
一瞬炎の明かりで周囲が見えたが、こちらを巻き込む前にグレンの炎が勢いを無くしていった。おかげでダメージは喰らわなくて済んだけど…なぜ?
「闇の魔素が強すぎるんだわ…」
解説役に徹したヘラが思案顔で腕を組む。…無論気配だけだけど。
「俺らの魔力が吸収されて、最大限力を発揮できないというわけか。まぁともかく、あっちと合流しようぜ?」
向こうも終わったようだし、このまま分断されたままはあまりよろしくない。つうことで向こうに行くことにしよう。たぶんグレンのおかげで、そこそこの広さのスペースができてるはずだし。
「…遅かったじゃない」
よぉ。案の定レアに焼かれて煙だしてるシーリカとカイムに、トリフィドではないダメージで死にそうなグレンがいた。さて、ここで一旦今日は休もうか。テント張るくらいのスペースは出来た。
「で、どうするの?これから」
シーリカがテントの中で眉間に皺を寄せている。外では定期的にグレンとガラムが交代で寄ってくるトリフィドの駆除。俺は戻ってきた方の回復をしてやっている。こればかりは致し方ない。魔力の必要経費ってやつだ。幸いやつらは感知能力は低いらしく、なんとか一人交代で対応出来るレベルだった。
「どうするもこうするも、このまま強硬突破しかないんじゃない?」
カイムもいささか養分を吸われすぎたらしい。同じ悪相性でも。吸収率のせいか俺よりカイムの方が消耗が激しかった。
「まぁ妙案も浮かばないしな…それしかないだろう」
たまにドーンと音がして、違う外敵の襲撃を知らせる。
「あー…白夜、頼む。今のお前ならゴリ押しでイケんだろ」
「まぁな…人使いが荒いやつだ、お前は」
ヘラの推測通り、この森は闇の魔素が強いらしい。となるとウチの闇属性の連中が活性化するのも道理で。ゴーレム紛いのゲリュオーンという無生物モンスターとか、普段ならしちめんどくさい強さの敵も、今の白夜ヘラなら一蹴出来るということで任せている。
「さて…俺らはとりあえず寝て、体力を温存しようか」
「そうね…」
ゲリュオーンの襲撃もそろそろ片付きそうな気配を察して俺らは寝るとしよう。シェラフにくるまって目をつぶる。
数分後…。
「「「「悪霊うっさい!!」」」」
オーンオーンと、外でひっきりなしに悪霊の泣き声が響く。正直寝れん!
「…頼む、死霊の女王」
「…はぁ…」
ヘラの疲れきった声を背中越しに見送った。