~第八十四話~宣誓
ども、白カカオです。次回はきっと話が進むと思います。つうか若干展開を端折るかもしれませんが、テンポ良く進めます。なんでこの話、ここまで長くなったんだろう…。
エリーが回復し、城中がヨッドとエダイの誕生パーティーが暮れて一夜…。俺たち初まりの者たちは王城の謁見の間に着き、膝を折って国王を待っている。それは旅立ちの報告、最終戦争に赴き、生還を誓う儀だ。俺個人は昨晩パーティーがお開きになった時に王家の皆に話したのだが、何事も形式というものは大事なもんだ。
国王にはまだ早いのではないかと引き止められたのだが、意外にもエリーが俺の後押しをしてくれた。何の相談もなく勝手に決めた事なのだが、反対どころか意を汲んでくれたことに感謝した。感謝という言葉では計り知れない。本当に…本当は俺なんかには勿体無い嫁なのかもしれない。その代わりその夜だけは、エリーとヨッド、エダイの為に一晩中相手になった。一晩中と言っても、まだまだ赤ん坊の愛息子二人は早く眠りについてしまったので、エリーと二人で精一杯語らった。あの夜のように草原を散歩したり、皆寝静まった城下町を歩いたり…。エリーは早く寝た方がいいと俺を気遣ってくれたが、今回ばかりは生きて帰って来れる保証は何処にもない。だから、今この瞬間だけでも最愛の人と一緒にいたかった。そして、エリーに俺を刻みつけておきたかった。
「…キラ!アキラ!」
シーリカの声にハッとすると、国王が玉座に座っていた。皆平伏していて、俺も慌ててそれに倣う。今国王がどんな顔をしているかわからないが、その声がするまでかなり長い間時間があった気がする。
「面を上げよ、わが国の誇り…幾多の世界の英雄達よ」
国王の声に従い顔を上げると、今までお世話になった面々が立ち並んでいた。国王に王妃、アレン王子にセリーヌ、ディーン両王女。セラトリウス団長にカルバン団長。大臣達。そして…二人を抱いたエリーの姿もあった。
「これより、誓いの儀を始める」
儀式といっても挨拶のようなもので、これから旅立つことをこの国の重鎮達に宣誓し、何言かお言葉をいただくものだ。スッとグレンが立ち上がり、胸に神剣レーヴァテインを抱えて口火を切った。
「初まりの者たちが一人、グレン=エグゾダス。この国の為、失ってしまった妹の為、そしてこの世界の未来の為、必ず勝利してきます。そして…この国にアキラを連れて帰ります」
「えっ?ちょ…」
グレンが何事もなかったかのように再び膝を折り、そしてカイムが立ち上がる。
「右に同じくカイム、必ずアキラを連れて帰ってきます」
「同じくシーリカ、先に同じく、アキラを…」
カイムに続き、シーリカにガラム、ヘラまで同じ誓いを掲げる。おい、なんだよこれ。これは生還の誓いじゃなかったのか?
「…同じく黒城白夜。マドラ前団長の仇でありながら、この国に拾っていただき、深く感謝します。そして拾っていただいたこの命、この国の為、相棒のヘラの為…そして晶の為。全てを捧げることを誓います」
「ちょっと待てよ!」
納得いかない。こないだ散々みんなで帰ると言っておきながら、この展開は明らかにおかしい。なんだよこれ!
「…アキラ君、続けなさい」
国王の目が鋭く俺を射抜く。空気を読めと言っているのだろうか。その威圧感に屈し、俺も皆に続いた。
「…同じくアキラ。この命に代えてでも必ずや…」
「…アキラ君、もう一度やり直しだ」
「はっ?意味わかんねぇよ!このまま…」
「やり直しだ」
国王の声が冷たく響く。思わず他の面々を見渡すが、一様に俺を真っ直ぐ見据えている。
「…同じくアキラ。この戦に勝利し、この世界に平安を…」
「やり直しだ」
「ちょっと待ってよ!別におかしいこと言ってないだろ!」
陰湿なやり口に、儀式ということも忘れて声を荒げてしまう。だって納得いかないだろ。こんなん、まるで…。
「何が違うか、何が足りないか…何を言うべきか、わかっておるだろう?アキラ殿」
セラトリウス団長が諭すように俺に言った。
「頭のいい君のことだ。わかっているだろう?」
カルバン団長もそれに続く。わかってる…薄々わかってはいるけど、それを肯定したら、俺は皆にどういう顔をすれば…。
「…アキラ君」
国王が再度促す。早く言ったほうが楽になるぞ?そう聞こえた気がする。
「…同じくアキラ。戦に勝利し…何に代えてもこの国に、リーナス王女並びにヨッド、エダイ両息子の元に帰ることを…誓います…」
納得いかない。納得いかない。俺が再び平伏すると、粛々と儀式は進行していった。本当は皆万感の思いをその言葉に乗せて送ってくれているのだろうけど、今の俺はそれどころではなかった。先日皆で生きて帰ろうと言ったばかりなのに、今日のそれは俺だけ最優先で帰還させようと言う。気づくと、最後の国王の言葉になっていた。
「アキラ君。まだ納得いっていないようだね」
「…いくわけ、ないでしょう」
「まるで皆、自分の命を投げ出してでもアキラ君を護ろうとしてる。そう感じるかね?」
「当たり前だろう!こないだは皆で生きて帰ろうって言ってたのに、あんな言い方…!」
食ってかかるような勢いで立ち上がり、国王を睨む。
「アキラ君…甘ったれるのもいい加減にしなさい!」
不意の国王の大声に、ビクっと肩が跳ねてしまう。そんな些細なことすら、今の俺は苛立ちに変えてしまう。
「命をかけることのどこが甘ったれ…」
「皆が君を護ってくれると思ったか?自分がそこまで大事な存在かと思ったか?自惚れるのも大概にしなさい。皆君のことを護ろうとしてるんじゃない。君だけじゃなく…エリーやヨッド、エダイの為に君を生かそうとしてるんだ」
国王の言葉に隣を見渡す。六人とも、厳しい目つきで俺を見ている。それは慈愛と決意を宿した瞳だった。
「お前ら…」
「アキラ君。君が命を懸けてまでこの世界の未来を守ってくれることは、感謝してもし尽くせないだろう。しかし、万が一本当に君を失ってしまった時、エリーの幸せはどうなる?まだ幼いヨッドやエダイはどうなる?君は確かに世界を救うかもしれない。しかし、同時に君は三人…いや、マテリアルのご家族や君の周りの人を不幸にするんだ。それは果たして、本当に守ったと言えるかね?」
「…でも、それじゃ皆が…」
再び六人を見ると、大体から呆れに似た眼差しを向けられた。
「…私たち、アンタと違って何千年生きてきたと思ってるの」
「俺とシーリカ、ヘラは千年単位じゃきかないけどね」
「五月蝿い。揚げ足取るな」
カイムとシーリカがいつものやりとりを始める。とても命を失う覚悟をした人間とは思えない様子だ。
「…まっ、充分生きてんだ。自分の死に様くらい自分で決めるさ」
「グレン…」
「もっとも。俺はこの戦いでも死ぬつもりはないけどな」
「…そういうことだ、晶」
白夜がガラムの肩にポンと手を置く。普段のガラムなら間違いなく手をどけるだろうが、そんな気分じゃないのだろう。空気を読めるようになってきたとも言うが。そんないつもと同じ、だけどいつもと若干違うやりとりを見て、俺は肩の力を抜いた。そうだ。保証はないとしても、別に俺達が必ずしも死ぬとは限らない。そして、生きて帰るという意志は何よりも強い。忘れていた。魔法の力とはつまり意志の強さ、そして意志の強さとは魂の強さだ。
「…あぁ!」
国王の方に振り返る。チラリと横目にエリーを見ると、優しく、力強く頷いてくれた。これでもう十分だろう。
「国王陛下」
俺の名は神谷晶。そして…。
「どんな手を使ってでも、必ず帰ってきます」
ノア=キーランス。この世界の創造主にダービーを託された者。だったら創造してみせるさ。俺を取り巻く世界の幸せを。