~第八十三話~時は迫りし
皆さん明けてましたおめでとうございます。今年もクリエーター並びに白カカオをよろしくお願いします。さて最終章に入りましたが、一周年は迎えないつもりです。これ書き終えたらまた新しいの書くと思いますが、そちらも気に入ってくれたら幸いです。あっ、『チーム「H」』の方は無期限凍結中なので全く新しいの書くと思います。前置きが長くなりましたが、最終章本編スタート!どぞ
俺とエリーの挙式は国を挙げての大事になってしまった。籍を入れたところで特に生活が変わるわけではないので、何の準備も必要としないままさっくり挙げてしまった。その影では色々と動いてくれた人達もいたっぽいけど、明かされない以上心内で感謝を告げるのが礼儀というもんだろう。たぶんそれなりに報酬貰ってるだろうし。
セレモニーとは面倒なもんで、眼下に城下町が望む城の広いバルコニー…のようなところでお披露目。国王が大仰になにか宣言していたが、残念ながら長すぎてすっかり内容を失念してしまった。周りには国王家に、マテリアル界の俺の家族。隣のバルコニーには大臣など要職の方々に、何故か長谷川総理。…まぁ何故かとは言ったがなんとなく理由はわかるけど。そして眼下には沸きに沸く護国騎士団及び民衆の方々。こんなほとんど接点のない俺らの挙式を心から祝福してくれているようで、目頭が熱くなったのを覚えている。
そして…
「では誓いの口づけを…」
なんでそんなところまで日本のそれを再現してるんだ。ここ数日国王がなにやら深刻な顔で部屋に篭っていたのは、これ勉強してやがったな?最近は重要な公務も無いのにとか不思議には思っていたけど、俺の思慮が完全に不足していた。おかげで異世界でこういうことなってる感が全くないじゃないか。つうか衆人環視どころかキュートスの全国民の前じゃねぇか。これって公然猥褻とかじゃないのか?いや、駅の改札でキスしてるカップルもいるし、ならんか。つうか人並みに羞恥心を持ち合わせている俺としては、
「誰が『人並み』だって?」
五月蝿いダービー。つうかお前もあの時煽ってたよな?つうか下手すりゃ一番煽ってたよな?いいや、過ぎたことは気にしない。大人なんだ俺は。まぁとりあえず顔から火炎系魔法が出るほど恥ずかしかった。土属性だけど。そして打ち合わせたようにその瞬間打ち上がる魔術師達の祝福の雷砲やら火砲やら水砲やら。すぐ側の民衆被害被ってたじゃねぇか。主に水濡れとか鼓膜とか。
なんやかんや終わって数日続いた国挙げてのお祭りが終わって、やっと一息ついた今日この頃。ここの国民は…何かにかこつけて騒ぎたいだけなんじゃないかと思ったり…。こないだのクリスマスの時もそうだったし。キリストなんてエルフに比べたらただの人間だろ人間。
…まぁいいや。今日の重要な要件、それはエリーの検診。つうかぶっちゃけ、俺は立ち会う初めての検診だったりする。マテリアルの世界では超音波を使ってエコー見たりするが、こっちでは映像では見えないがお腹の中の魔導反応を感知して発育状態を調べるらしい。ゆったりしたドレスを着たエリーが仰向けに寝そべり、城お抱えの医師…ここでは医療系の魔術師のご老人が手をかざしている。
「ふむふむ…」
「どうですか?」
医師の声に思わず敏感に反応してしまう俺。こういうとき、父親は何も出来ないもんだと初めて実感する。オロオロうろつかないだけ、まだプライドを保ってるけど。
「プックク…大丈夫よ。アキラ。今のところ順調ってこないだおっしゃってたから」
エリーが俺が狼狽えているのを見かねて声をかける。エリーのその表情は、お腹が膨れるにつれて母親のそれらしくなってきた。まぁ基本的にエリーはエリーだけど。
「主、みっともないぞ。ここはどっしりと構えておくのがアダルトというもんだ」
「お前は孕ませたことないからそう言ってられるんだ」
「全く…」
医師の爺さんが何やら呟く。その続きが気になり思わず背筋が伸びる。
「全く、驚くばかりだよ。この調子だと、予定日は一週間後というところだな」
「一週間!?」
待て!幾らなんでも早すぎないか?十月十日じゃないのか!?
「ふふ、アキラ。アキラの世界では違うかもしれないけど、エルフは妊娠してから出産まで半年程度で済むの」
「…それにしても発育が良すぎる気がしないでもないがな…儂もここまで早い赤子は初めてじゃわい。大奥様の時も平均のそれであったのに。まぁ旦那が大魔導士だから納得せんでもないが…」
医師の爺さんが首を傾げているのが不安を煽る。いや、何か不具合があるのならそれは言うと思うが、それでも医師のその態度が不安になる。
「あの…先生?早産ってことですよね?それなら何か発達に障害があったりとか…」
実際計算上、平均が半年と言ってもエリーの出産はその二ヶ月近く早い。
「いや、魔導反応は全く正常じゃ。いや、むしろ赤子にしては高すぎるくらいじゃが…」
俺の息子、大丈夫だろうな?いや、性別まではまだわからないけど。
「だって、アキラの子供だもん」
エリー…それで片付ける気か?
そして瞬く間に一週間。エリーは元気な子供を無事産み落とした。しかし…。
「しかし、本当に一週間で産まれるとはな」
医師の診断通り、本当に一週間で産まれてきやがったマイサンズ。このフライングっぷりは是非とも某宝貝人間にも見習って欲しかったところだ。…まぁこいつらのハイスペックぶりも似たようなもんだけど。
「それにそれぞれの魔力値も一般の赤子と比較にならん。これがもし片方だけなら、普通の三分の一程度の期間で生まれていたかもしれんな…」
「一人だと早すぎるから二人にして調整しましたってそんなアホな!」
「…ビエーーン!」
「デヤーー!!」
「ほらアキラ、大声出したからヨッドとエダイが泣いちゃったじゃない」
エリーが息子たちを宥めて頭を撫でる。割とすぐ泣き止んだ息子たち、ヨッドとエダイが仲良くエリーの左右の乳房を分けあって機嫌を直す。ちなみに両方男の子だ。兄の方がヨッドで弟の方がエダイ。名前は、生命の樹第二のセフィラ「知恵」のコクマーが神名ヨッド、第三のセフィラ「理解」のビナーが神名エロヒムから戴いた。エダイのエロヒムに関しては、エロヒムだと俺が若干聞き覚えがあって息子の名前だと違和感を感じ、ロとムを足して「台」、それをもじってエダイにした。ヒには可哀想なことをしたと思うが。この二つのセフィラは二つ並びになっている。名前は順番でつけたが、上下無く仲良く育って欲しいという思いを込めて名付けた、そして俺を象徴するセフィラ、ダアトより高位のセフィラでもあるので、親父越えして欲しいというささやかな意味も込めて。
「まうー?」
「だー!」
無心にエリーの乳を貪っている二人の首に、ヨッドにはトルコ石、エダイには真珠で出来た首飾りをかけてやる。くどいようだが、それぞれセフィラを象徴する宝石である。俺の水晶みたいなもんだ。
「あっ!馬鹿、口に入れんな!」
「子供はなんでも口に入れるからな…ひらめいた!」
「通報する間もなく叩き割ってやる、クソ指輪。つうかヨッドもエダイも男だろ。ショタにも達してないペド野郎かお前は」
「主、かの人を越えし最も新しい神、旧神もシャイニングガチペドヘドロンを用いたと…そしてそのシャイニングガチペドヘドロンは今は主の手に…」
「あーもう!某魔導探偵のおかげで輝くトラペゾヘドロンが大変な事に…」
「ほら、アキラ大声出さないで」
「あっ…サーセン」
いつの世も、父とは母を前に弱いものだ。
「アッハハハ!かの大魔導士アキラも、エリーちゃんの前では形無しね」
「…無様ね」
「…なんでお前らがいるんだ?シーリカ、ヘラ」
「後学の為」
「右に同じ」
「お前らな…」
「あっ、大丈夫よ?男どもは部屋の外だから」
「いや、そういう問題では…」
「あとキーランス?父親なんだから授乳中のヨッドとエダイを羨ましそうに見ないの」
「ばっ!ヘラ!お前適当な事言うなよ!」
「いーや、見てたね」
「シーリカ…貴様まで…」
「二人も抱いてみる?可愛いよ?」
俺が劣勢と見ると、愛息子を引換えに亭主を救うエリー。何という内助の功。落とさないでねと二人にヨッドとエダイを渡すと、
「キャー!ちっちゃーい!可愛いー!」
「…愛らしいな」
俺の方には目もくれずはしゃぐシーリカとヘラ。ヨッドもエダイも二人に懐いているようで…つうか美女二人に抱かれてご満悦のようだ。
「…間違いなく主の子だな。女たらし」
「お前の血も混じってないだろうな、女好き」
「アキラ、私暫く安静だって言われちゃったから、少しの間ここに寝泊りするね」
「おう。つうか寝泊りもなにもここも城だろうが」
「うん…でも、暫くアキラと一緒に寝られないから…」
「…あぁ」
検診後、エリーが陣痛始まるまでの数日間は軍部に休みを貰い一緒にいたので、少し寂しい気もする。まぁ今は母体と子供の身が第一。親父は我慢するさ。
「じゃ、ありがとうエリーちゃん。また一緒に遊ばせてね」
「…また来るよ」
シーリカが明るくヨッドをエリーに返す。ヘラも、意外にも名残惜しそうにエダイを手放す。エリーに抱かれた二人は、安心したように二人寄り添ってんまんましている。眠いのかもしれない。
「うん!また遊んであげてね!」
「あと、ちょっとアキラ借りてくよ」
「はい。いってらっしゃい、お父さん」
「あぁ、行ってくる。話が終わったら戻るよ」
エリーがヨッドとエダイの手を取ってバイバイする。その姿にグっとくるものがあった。その光景で、ようやく父親としての自覚が湧いた気がする。俺はシーリカとヘラの後に続き、決して広くはない病室を去る。
「…いいのか?アキラ」
壁にもたれて腕を組んでいるグレンが声をかけてくる。いつものチャラい様子は、ない。
「あぁ。無事に産まれてきてくれたからな。後は…エリーに任せるさ」
「とかクールに言っちゃって、ホントは子供の成長見たいんだよね」
ベンチのような長椅子に座っていたカイムが、見透かしたような笑顔で毒づいてくる。
「…そりゃそうさ。命より大切な愛息子達だ。一人前になるまで見守りたいさ。でも…」
「その為には越えるべき障害が大きすぎる、だろ?」
「…俺のセリフを取るなよ。ホントガラム、お前ってやつは…」
「でも。まだ生きて帰れないと決まったわけじゃない。そうだろ?晶」
「…あぁ!」
ガラムと並んで立つ、白夜に力強く頷く。
「七つの大罪…あいつらを倒さなきゃ、ヨッドもエダイも危険にさらされる…」
ヘラが苦々しく呟く。その顔には、影などでは済まされない闇が見えた。
「あの子達の未来の為に、頑張らないとね!お父さん!」
シーリカが俺の肩を叩く。その感触が力強く、握る拳に力が入った。
「俺は見てないが、双子の男の子なんだろ?ヘラ」
「あぁ。エリー譲りの綺麗な金髪のヨッドに、キーランスに良く似た黒髪の方が弟のエダイだ。二人とも、モフモフしてすごく温かかった…」
「お前は…生きろよ、ヘラ」
白夜の声に、俺を含め一同が白夜を向く。真意を探る言葉を探す前に、白夜が口を開いた。
「この中で、一番能力が低いのは俺だ。ヘラがいなければ並の魔術師と変わらん。しかし…足でまといにはならん。ヘラ、晶…お前らが危ないときは、俺が命をかけてでも…」
「お前、何言って…」
「何を言ってるのよ!」
シーリカが壁を殴る。声が廊下に木霊した。熱くなって、ここが病室前だってことをすっかり忘れてしまっている様子だ。
「おい、エリーに聞こえ…」
「アキラ…アンタも同じような事、考えてたでしょ」
一転して押し殺すような声を俺に向けるシーリカ。
「似たようなことってなんだよ」
「私等の誰かの為に、命かけようとかそんなところよ!」
ぶっちゃけ白夜の言葉を探ろうと思考していたが、胸の内に同じことを思っていたこともまた事実なので否定出来ない。
「おい、落ち着けって…」
「ガラムは黙ってて!あーもう!マテリアルの人間はみんなこうなの!?」
「いや、そんなことはないと思うぞ?そうなら地球はもっと平和に…」
「馬鹿なこと言わないでよ!アキラも…勿論白夜、アンタも。私たちは仲間なのよ?誰か一人かけてもダメなんだから…みんな…一緒に帰るって…」
「シーリカ、先ず落ち着けって…」
カイムがシーリカをかき抱くと、シーリカはカイムの胸の中で泣き声を押し殺していた。金色の守人に隠者…離れていたとはいえ、悠久の時をその体一つで越えてきた二人だ。その幾星霜の旅の終着を前に、カイムはシーリカの心中を一番に理解出来るのかもしれない。尤も、カイムが同じ心中かは知らないけど。
「アキラ…」
シーリカの頭を撫でながら、カイムは優しげに俺に微笑んだ。そこに不思議と、いつもの胡散臭さはなかった。
「アキラは…帰らなくちゃいけないんだよ。ここに…エリーちゃんとヨッド君、エダイ君の元に。父親は、家族のことを一番に考えなくちゃ」
至極当たり前の事なんだろうけど、カイムに言われてハッとした。
「白夜も…」
今度は、白夜を諭すカイム。
「君は決して一番ドべなんかじゃないよ。ヘラがいなきゃ何も出来ないって言ってたけど、本当に長い間、ヘラ…地獄をもたらすものを見てきて、君が一番彼女を乗りこなしてる。逆に言えば、ヘラは君じゃなきゃ本領を発揮出来ないんだ。もしかしてまだマドラ全団長を殺したことを気に病んでいるのかもしれないけど…もしそうなら、あまり時間はないかもしれないけど、ヘラを『使いこなす』ことに集中してくれ。それが、一番の贖罪だよ。俺達の中で、一番伸びしろがあるのは、君かもしれない」
カイムの言葉に、下を向く白夜。時折ヘラの方を向いては、また俯く。白夜が血が滲むほど拳を握り締めた時、ヘラがおもむろに白夜の掌を開けその傷口にキスをする。
「白夜…お前、汝は妾の主だ。胸を張れ。そして…最後の戦いを前に、もう一度誓いを結ぼう。そして、勝とう!その為なら…汝が真に力を発揮出来るのなら、妾はもう一度立ち戻ろう。ベルゼバブに惑わされた頃の力すら利用しよう!血も涙も無い、鬼神のように戦場を駆け、敵の血を浴びて笑う汝に立ち戻らせてやろう!それが…この戦いに必要なことならば…」
最初はヘル・ブリングだった頃の妖艶で不敵なヘラと、今のクールなヘラのギャップに戸惑ったものだが、思えばその頃から天国への扉…ダービーと相対した時はその熱さは共通していた。あのヘラの人格は、ベルゼバブによって作られたものだったのか…そしてヘラの言葉を聞くに、今もその人格は今も残っているのか?はたまたただの二重人格なのか。ふとそんな事を思っていた。
「『あっち』のヘラに、戻るんだな」
グレンが相変わらず腕を組んだまま尋ねる。その顔は幾分深刻そうなソレを含んでいた。
「…あぁ。私も白夜の為に、この世界の為に、全てのカードを出そう。あの時の私の方が、最大限の闇の力をコントロール出来る」
「そうか…」
「何をそんな深刻そうなツラしてんだ?」
全力を制御出来るなら、それに越したことはないと思うけど。
「いや、子供の頃ヘラは不安定になるとあのモードになったんだけどな、幼心ながらあの時のヘラの色っぽさに何度…」
「ナニをした!いや、ナニもするな!」
真面目なツラでしょうもないことを真剣に言うグレンに、ヘラが何かを投げつけた。カーンといい音がして、グレンの顎にクリーンヒットした何かが跳ね返る。それが何かは、何故か認識出来なかった。どうでもいいけど、ヘラ、お前も何がナニになってるぞ。
「まっ、俺がナニを言いたいかってーと…」
「ナニいい加減自重しろ」
「俺らは生きることしか考えてねーってことだよ。アキラ、白夜」
急にカッコイイことを言い出しやがったグレンのその言葉に、俺と白夜は顔を見合わす。互いに目をパチクリさせ、頭の中を整理する。
「…ったく、人間風情は気苦労が絶えんな。貴様ら、くれぐれも俺の足を引っ張るなよ」
やれやれと顔の横で手を振るガラムに、二人で不敵に笑ってやる。
「お前の人間風情、久々に聞いたな」
「お前こそ足を引っ張るなよ、氷の馬鹿王子」
いきなり言うようになった白夜に、ガラムを除く他の面々が笑い、いいぞもっとやれとはやし立てる。決戦の日が、近づいている。