~第七十八話~次から本番
アイルーが可愛くて仕方ない白カカオです。某動画サイトに挙がってるモンハンのアレをBGMに書きたいと思います。短いからループ苦行になるかもしれないけど…つうかこんな内容だけど…。
某電気街で新しいゲームを買ったり、アレな喫茶店に行ったりして暇な時間を見事に浪費して、来たるその日。僕は再び首相官邸に来ていた。余暇の間はずっとサングラス常備で。だって一日目そのまま外出したら、何故か囲まれてしまったんだもん。芸能人じゃねぇっつうの。順子に電話で愚痴ったら、
『だって国王様の会見の後、お兄ちゃんの何か特集?見たいなのテレビで流れてたもん。『一般人から異世界の使者に成り上がったシンデレラガール!!』とか。私の学校でも話題持ちきりで大変だったんだから』
とのことだ。どうりでこないだ順子を車で送っていった時にも囲まれたわけだ。つうかガールは女の子に使うもんだぞ。単純に順子が間違えたのかそれともマスコミがマス○ミなのか…。そういや、僕国王のアノ発言の後すぐ向こうに戻ったし、交流の手配の時もテレビなんて見てなかったからなぁ…。
ということはさておき、またお茶とか出してもらって柔らかいソファーに腰をかけてたりする。このお茶請けの羊羹とも相性抜群でうめぇな…玉露。
「ところで、首尾はどうですか?総理」
「あぁ。滞りなくだ。全てが順調だよ」
…流石旧支配者。いや、現支配者とでも言うべきか。
「何か言ったかい?」
「いえ!何にも!」
意外とヘル・イヤーなんだな、総理。総理にはヒトのままでいてもらわないと困る。この世界のトップは、あくまでヒトでなければならない。異端でなく、民衆と同じ『ヒト』で。
「では、すぐにでも」
「おや?もう行くのかね?」
「えぇ。日本は昼でも、向こうは夜ですから。こういう仕事は、夜の方がいいです」
「昼の暗殺もインパクトがあると思うが…某大統領みたいに」
「最近ではあまり関係ないようですよ?某テロリストの親玉みたいに」
そのやりとりに、二人で顔を見合わせて笑う。ニヒルに富んだ学生の会話のようなノリだが、忘れてはいけないのはこれは一国の要人の、それもとてもきな臭い計画の会話なのだ。
「それに、僕は飛び道具は専門ではないので。ライフルもありませんし」
「そうなのかい?というより、そもそもこちらでは魔法は使えないと以前言っていたな、そういえば」
「まぁ…今回はちょっとしたタネがあるので、多少なら…。もっとも、こないだお見せしたみたいな怪獣大戦争みたいなことは出来ませんよ?自身にちょこっとかける程度です」
「そうか。どれ、少し見せてくれんか?」
総理が悪戯っ子のような笑顔で身を乗り出す。ホント、好奇心旺盛というか柔軟というか…以前持っていた厳格なイメージからはすでに乖離してしまっている。
「駄目です。これは虎の子なんですから。それに、総理に使ったらなんだかエラいことになりそうで…」
「ハッハッハ!それは残念だ!」
だって魔力が覚醒とかされたら、それこそルルイエ浮上の悲劇が繰り返されるかもしれない。マジ勘弁。
「では、ここでゲート作って向こう行くんで、それで勘弁してださい」
「そうか。それはそれで楽しみだな」
「…念のため言っておきますけど、閉じますよ?」
「なにっ!?」
あからさまに玩具を取り上げられた子どものようなリアクションをする総理。だから貴方は首相なんだから自重してください。
「僕とこうして話してるだけで、対外的に問題あるんですから。向こうの世界との癒着的な意味で。ベイン国王が出入りするゲートが、日本にだけ作られてるって事実だけであまり心証良くないのに、総理が自由に出入りできるゲートがあるなんて知られてみてくださいよ。それこそまたミサイル飛んで来る口実作るようなもんですよ。ただでさえ隣国があんな感じなんですから」
「なるほど。念には念をってことだな。ここには各国の首脳を招くこともあるしな」
「ということです。では、終わったら…顔出しますか?」
「いや、いい。向こうでも色々あるんだろう?私より親御さんのところに行って、向こうに帰りなさい」
そう優しげな顔を浮かべると総理は、唐突に一枚の紙切れを出してきた。
『我は半マテリアルの世界より復讐の為に参った者である。先日我が世界が、そちらの世界の人間侵略を受け、多くの罪もない民が命を奪われた。我はその無念の意を受け、我が身を地獄の業火に投げ打ってで侵略者に同等の報いを与よう。貴様達、覚悟しておくがいい。蹂躙された無垢なる民の、怒りと絶望の重さを。そして、後悔するがいい。自分達が犯したことが、どれほど罪深いことかを。最後にこの手紙をこの国に託したのは、この国が我が世界にとってとても大切な友人であるとともに、先の侵略に関与していない、信頼のおける国であるからだということを明記しておく』
…ワードで書かれたそれは、また絶妙に日本は埒外ということを主張した内容だった。少し頭を抱えて、上目遣いで総理を見る。
「総理…ちなみにこれは…」
「あぁ。私が書いた」
本気で頭抱えたくなった。つうかこの半マテリアルの住人(仮)、日本語達者すぎるだろう。まぁその辺は、総理が上手くやってくれるさ。そう信じるしかない。
「…では、やつらの悪事を白日の下に晒すことと、僕が無為に人誅を下しているわけではないということを公開してくれること、頼みましたよ」
「あぁ。その点も大丈夫だ。というより、全てが終わった後も、晶君の犯行だとバレないようにするから安心してくれて構わんよ」
待て、総理。こないだ話してたこと忘れたのか?僕の犯行じゃないと意味がないと…。
「総理!それでは意味がな…」
「世界規模で、軍拡の動きがあるだろう?その矢先の今回の声明文。主要国が調査して不自然なところは丸でない。それに、この世界とあちらの世界は不可侵条約を結んでいるはずだ。腐った果実を一掃出来るさ」
なるほどね。ホント恐ろしいわ、この人。
その後少ししてゲートを開いて閉じた僕は、いざ出したのはいいとして別にキュートスに戻ることもないので次元の狭間でどうするか悩んでいた。異世界とも違う異空間なそこは、とてもサイケな背景で彩られていた。
「なぁダービー。ここどこ?」
「簡単に言うと、多重次元だな。文字通り幾重にも次元が重なり合わされて…」
「あぁ、だからあそこで人の顔したお花が笑いかけてるのか」
「向こうでは名状しがたい物体が陽気に笑っておる…というか主、よくこんなところにいて気が狂わんな」
「何でだろうね。おーおー。ボブ・○ーリーに似たおっさんが笑顔で葉っぱ勧めてきてるぜ」
「いや、アレは…本人だろうな…」
上下左右もわからない空間で、ただでさえ三半規管が弱い僕が酔わないのはおかしい。なにゆえ?
「ところで主。ここに長居しては、恐らくこないだ主が封印したあの三人が干渉してくると思うんだが…」
「…なに?」
「八大地獄で封印された者が行き着く先は、多重次元。ここと同じだ。つまるところ…」
あの大罪人どもの顔を思い浮かべる。と言っても、一番印象が強いのはベルゼバブとアスモデウスよりベルフェゴールなんだけど…。あの凄惨なシーンと、淫猥な体験が交互に浮かぶ。
『…んっ…あら…?キーちゃん…どこ…?』
「主!今思い浮かべたであろう!?言わんこっちゃない!」
「げぇっ!勘弁だぞ流石に!どうしたら出れる!?」
「先ずは四次元を目指せ!あそこなら三次元と近い上に、追加することも時間軸だけだから主の力でも容易い!」
『キーちゃん…ぁっ…はぁん!…早く…遊びましょう…?二人きりで…』
「おおい!急げ僕っ!」
目を閉じて脳内をクリアにする。ただでさえ強烈な視覚効果が強いここでは、イメージどころの騒ぎではない。視界の次元を閉鎖することで、いらない情報を全てシャットダウンする。すると、近くにベルフェゴールの魔道反応があることがわかった。感覚距離は近いけど、次元に邪魔されて直接近いわけではない。マジ危ねぇ…。
それすらも一旦リセットすると、頭の中に図面を広げる。そこで一つ疑問が浮かんだ。
「…ダービー」
「なんだ?」
「三次元に足すもう一つの次元って、時間じゃなくて空間という説が今有力なんだけど…」
「細かい事はいいのだ!どちらも事象じゃなくて概念的存在なのだから、それを足すことに意味があるのだ!」
…なんか、珍しく力押しじゃね?まぁ、いいや。手段が仮定でもあるなら、試してみるか。
「…あっ」
「あーもう!なんだ主!」
「ここって魔術使えんの?」
「マテリアルの世界では魔法はフィクションという集団意識があるから制限されるだけだ!早くせんとあの女が…」
「わかったよ」
全く、思いつきでゲート作ったらえらい目にあったよ。
再び図面を広げると、そこに点、更に点を作り結び線にする。更に囲って面を作り、面を繋げて立体を。ここからがちと難しいんだけど、休暇中にネットカフェで色々読み漁っていたのが功を奏した。ただ休んでたわけではなんだよ?全く、『あっ!ここ進○ゼミでやったところだ!』バリのご都合展開で呆れるけど、利用できるなら利用しよう。
立方体の中にもう一つ立方体を作り、その対応する位置の頂点を同じく結ぶ。そしてその中の立方体外の立方体に近づくにつれて、その方向の面が大きくなり、外の立方体の面と同等の大きさになる。繋がれたラインを新たな外側の立方体の辺として、回転し循環する。そして僕自身と僕の周りの空間をその辺上に見立てると…。
「主!その調子だ!」
僕は目を閉じているからわからないけど、ダービーには次元の位相の変化がわかっているらしい。僕はそのままその四次元立方体が静かに固定されるのをイメージし、最終的にはただの立方体を内包した立方体になった。僕がいる次元の位相をその立体から切り離し、三次元の完成である。でも三次元って僕のマテリアルの世界にリンクするよな…。
「主!我の魔力でゲートを作ってマテリアルに戻る!備えよ!」
「備えよって…うおあああああああああああああ!!!」
「落ちてんじゃねぇかダービーーーー!しかも下海だぞ海!どこだここはあああ!」
自分の声にドップラー効果がついてるのがわかるのはいささかシュールな感じだったけど、今は絶賛パラシュートなしスカイダイビングを決行中だ。待って!思考が働かない内に着水寸前じゃねぇか!今からじゃガルーダの翼も間に合わない!頭でその先をイメージしながら袖口に持っておいたエリクサーを一口飲む。なんだこれ!ちょっとうめぇじゃねぇか畜生!
「主!」
「おるああああああ!!!」
水なんぞ、片足が沈む前にもう片足を水面に叩き込めばどうってことない!僕は時の加速と土の肉体強化で水面を駆けていた。幸い近く陸地が見える。降下中に周囲を見たアノ感じだと、たぶん島だろう。そこ目掛けて一直線だ!
「主…飛ぶのが間に合わないからと言って、走る選択肢を選ぶとは斜め上過ぎるぞ…。普通は衝撃を和らげて泳ぐ手段をとるというのに」
「こんな事態に前例があってたまるかっ!僕はっ!泳ぎはっ!五十メートルがっ!限界なんだよっ!つうかっ!エリクサーの中にっ!海水入ったらっ!どーすんだっ!」
「なるほど…」
かくして、無人島に辿り着いた。不幸中の幸いだな。人がいる島なら大騒ぎになってるところだった。とりあえず少し休んでから出発しよう。ここどこだかわからんけど…まぁ、まっすぐ進んだら陸地に辿り着くだろう。いやぁ、エラい目にあったもんだ。
次元に関する理論は適当です。多少は調べましたけど、文系な頭ではさっぱりです。物理なんて勉強したことないわ…。トンデモ設定なので、突っ込みはなしな方向で。あと本文に書いてはいないけど、水面走りの理論も借り物です。藤竜版封神演義の武吉です。