~第七十七話~ブラック長谷川
白カカオです。前回のタイトル若干遊びましたが、自重はしません。最近ふざけ成分が足りないと言う声があったんですが、この流れでどう入れればいいのでしょうか。ちょいちょい入れてますけど。
随分親父も偉くなったもんだ。たかが地方豪族…じゃなくて田舎のプチ富豪が、いつの間にか一国の総理と懇意な仲になっているとか。
「お前のせいだ。お前が妙なことに巻き込まれるからだ」
さいですか。ということで総理にサラッと事情を話して、僕は明日我が国の首都に向かう事になった。家族は諸事情があって連れて行くことが出来ないので、僕が不在の間心配だと告げたらなんとSPを数人回してくれるそうだ。なんというVIP待遇。今晩には到着するそうなので、とりあえず新幹線の切符を手配して休むことにした。
「テレーレーレテッテッテー」
「昨晩はお楽しみでしたね」
「ネットサイコー」
ということでド○クエ風に一晩明かした後、僕は新幹線で一路総理の首相官邸へ。駅までなんと総理直々に迎えに来てくれるそうだ。運転するのは運転手さんなんだろうけど。着くまでの数時間暇だったので、ずっと駅弁を食って寝て食っちゃ寝スタイルを堪能していた。久しぶりのこっちの外食もいいもんだ。
「うっぷ…総理…袋かなんかないっすか…」
「主…あんなに詰め込むから」
「だって牛タン弁当上手すぎなんだもん…」
「相変わらず緊張感がないな、君らも…」
総理が袋を渡してくれて、僕は安心して横になった。リムジンが広くて助かった。
「して…大変だったな、晶君」
「いやぁ…あんな高級車にぶちまけたらどうしようかと思いました…」
「向こうの世界でのことだ!」
恐れ多くも総理が突っ込みを入れてくれた。いやぁ、お手数をお掛けしまして…。
「で、こちらが確認済みの参加国です」
テーブルの上に、ふにゃふにゃになった国旗布を広げる。数は片手で足りる範囲だが、その中には主要国会議に参加する国のものも含まれていた。そのラインナップを見て、総理が顔を顰める。
「総理のところには声はかからなかったのですか?」
「日本は反戦国家だからな。見てみろ、積極的に他国を侵略する国ばかりだ。我が国は、侵略してまで奪う愚かさを犯さないさ」
「これオフレコでよかったっすね…下手すりゃジャパンバッシングおきる発言ですよ?まぁ…総理のそういうところ支持しますけど」
思わず周りを見渡してしまい、取り繕うように水を飲んだ。総理は総理で、豪快な笑いを上げている。意外と型破りな人なんだな…。
「で、君はこの後どうするつもりかね?晶君」
「えぇ。勿論降りかかる前の火の粉を払いに行くつもりです。問題が起きそうなら…てゆうかたぶん起きるので、僕を日本国籍から外していただいても構いません」
日本人差別とか起きそうだもん。何カ国もの国の首脳をちぎっては投げちぎっては投げするんだから。文字通りちぎる。肉とか骨とか。
「そこまで気にせんでよい。むしろ、支持される可能性も五分五分に高いからな」
「…ホワイ?」
「つい数ヶ月前、中東のある国のトップが革命で殺された。晶君の一家と懇意になる、少し前くらいかな」
革命…最近聞いたな。
「今その国は、その革命を引き起こしたレジスタンスの女性リーダーを支持し、彼女を国家元首において復興しているよ」
「総理、その国って…」
「君も知っていると思うよ。○×△だ」
確認の為に一応聞いてみたけど、やっぱり頭を抱えるハメになった。紛れもなく白夜の記憶を覗いたときの、あの国だった。
「…どうしたのかね、晶君」
「そのレジスタンスって、誰か国際指名手配とかなってたりしません?」
「いや、そのようなことは聞こえてこないが…」
「すみません、それ、僕の身内…のようなものです。ついでにそのリーダー、幼少時代日本で過ごしてたりします」
まぁあいつなら、目撃者は皆殺しとかしそうだもんな。敵である自国軍は、憎き敵なわけだし。軽く説明してやると、流石に総理は驚いているようだ。
「晶君の友人がその革命に関っているならある意味納得だな」
「関ってるっつうか、暗躍ですけどね」
「して、君も同じように暗殺しようと」
「そのつもりでしたけど…。よく考えれば、暗殺だったらただ頭がすげ変わるだけで状況が変わらない可能性もあるんですよね…」
「では君がしでかしたことは、我が国が責任を持って解明する…ということにしよう」
「…しよう?」
総理の目が怪しく輝く。この人、裏が読めない。こあい。
「君は、向こうの世界を侵害されないように意思表明をしたいわけだろう?」
「はい」
まぁ私怨もありますけど。言うに言えない内情も。まさかこっちの世界ではフィクションの産物の、悪魔が関ってるとか言っても黄色い救急車を呼ばれかねないし。今日び敬虔なクリスチャンでも信じないだろう。せいぜいちょっとアレな預言者もどきか、悪徳新興宗教家くらいだ。
「なら、君の犯行だとわからせればいい」
「…へっ?」
「なんならここで声明文でも書くかい?我が国でそれを受信して、時間を置いて君が行動を起こす。我が国も護衛に参加はするが、その実顔パスで通してしまう。実は戦争主義国に辟易している国や団体も多々あるんだ。私が声をかけてその国や団体を後押しする。…勿論先頭をきるのは我が国だ。幸い…というのも不謹慎かもしれんが、件の戦争で我が国は反戦国家の第一人者として知られている。その首脳が支持することに、なんの不自然な点もないだろう。そして君が戦争主義国の主要部分を叩くことで、その国の首脳候補達も考えを改められるだろう。そうすれば、主要各国が反戦主義という、実にクリーンな世界の完成だ」
総理が不敵に笑う。いや、その笑顔マジでこえぇ…つうか黒すぎる。世の中知らないほうが良かったことがあるもんだなぁっと再確認する。家族には話せまい。下手に事情を話したら、一家失踪とかマジで可能性がある。
ーーー主、この男、旧支配者の臭いがする。
ーーー旧支配者って、クトゥルーとかクトゥグアとかハスターとかのアレだろ?総理は一般の人なんじゃねぇの?
ーーー旧支配者、我と同等の外なる神、そして旧神…旧神は、元はヒトだったと言われておる。我も詳しい事はわからんが…。
ーーーアカシックレコード検閲すればいいじゃん。
ーーーそれほど重要なことでもないし、主の精神にも多大な影響があるぞ?
ーーー是非やめてくれ。
ーーーでだ。総理の心にも邪神ではないが、クトゥルーレベルの支配力を持つ力が芽生えておるということだ。
ーーー…マジかよ。
「どうしたのかね?晶君」
少し沈黙が長かったか、総理から声がかかる。今目の前にいるただの人だと思っていた男性は、実はとんでもないお方でした。正直肝を冷やしている。
「いや…そう上手くいくもんかなと…」
「大丈夫だ」
「…?」
「選挙に当選したとき、総理に就任したとき…全て私の思い通りにことが運ぶ。今回も、きっとそうだ。根拠はないに等しいがな」
…これが旧支配者レベルの実現力か。この人が悪い人じゃなくて良かったと心から思う。いや、相当黒いけど。そして若干勧善懲悪の思想が強いけど。たぶん己の理想…幸運にも国家、世界の平和の為ならどんな手も厭わないタイプの人なんだろうな。たぶん…僥倖。
「…総理の豪運、期待してますよ」
百パー成功するんだろうな。つうか下手すれば僕の出現も、総理の理想を果たすための歯車なんじゃないかとすら思う。おい、創造主も真っ青だぞ。つうか現時点で僕より上だと思う。ダービー、僕じゃなくて、この人が創造主に選ばれてんじゃないの?
「して、僕はいつまで待機してればいいんですか?」
「まぁそう急くな。一週間時間をくれれば、充分下準備できる。君はホテルでゆっくりしてくれててもいいし、観光でも好きにしてくれればいいさ」
…こっちも別の意味で世界の命運が懸かってるというのに、たかが一週間とな。器が違いすぎる。まぁ僕もそんなに時間かけたくないから助かるけど。向こうの世界を空けるのも、ことが終わるまで家族から目を離すのも不安だし。
「…わかりました。…あーーー!じゃあ僕は一仕事前にゆっくりしてます。頼りにしてますよ、長谷川総理」
「あぁ。大船に乗った気でいてくれ」
その顔は、テレビで見ていた穏やかな総理の顔そのものだった。さっきまでの寒気がするような裏の顔とは全く違う。たぶん、この実現力を誠実にマニフェストを果たすことに向けているから、民衆に指示されているんだろう。悪は全て滅びるべきとは僕は思わないけど、この人はこのままでいて欲しい。その方が、たぶんこの世界が平穏になることに繋がるから。
そういえばこないだ政治には極力触れないと言いましたが、思いっきり触れてる?…すみません。この作品「ぼくがかんがえたさいきょうチーム」に近いアレがあるの、で寛大な心で読んでください。僕自身、政治に関しては全くの素人であることを自覚しているので…と免罪符を打っておきます。