~第七十六話~フレンチ☆トースト
結局昨日書けませんすですた。すみませんですた。ということでバンドの練習に間に合うように書きますのですた。前書きふざけ倒してすみませんですた。いや、昨日書けなくてすみませんってのはホントです。
軽く仮眠をとって早朝…。ちゃちゃっとゲートを作って久しぶりの我が家に帰る。珍しく親父の車がある。さて…曜日の感覚がわからないから、今日は果たして何曜日なのだろうか…。恐らく、玄関を潜ればお袋が朝食を作ってるだろうから、聞けばいいか。
ちなみに、対物用のローブとかは置いてきた。かさばるし、そもそもそんな敵とエンカウントするつもりはないし。第何倉庫に正面突破とかするわけでもないし。持ってきたのは、ディーン王女から貰ったエリクサーだけだったりする。
「平和だな…」
「あぁ、間に合ったようだな、主」
一応気配を探ってみるが、どうやら敵影らしき姿は見えない。まぁ居たら居たでエリクサーの実験台にするつもりだったけど。まぁ、家族に何もないならそれが一番だ。
「随分肝が据わってきたな、主」
「何度死線を潜ってきたと思ってんだ。たぶん今の僕なら、総合格闘技のグランプリでも勝てるぞ。こっちの人間が数人寄ってきたところで、負ける気がしねぇもん。ただいまー」
無用心なことにこの家は朝誰かが起きると、新聞を取りに行ってそのまま鍵を開けっ放しにしている。伊達に二十年この家で育ってきたわけではない。
「あら、晶。今日はまた随分早い時間にきたものね」
「おう晶。帰ってきたか」
予想通り、台所ではお袋が朝食を作っている。そしてリビングには、親父がテレビをつけながら新聞を読んでいた。
「今日、何曜日?」
「日曜日よ。ほら」
お袋に促されてテレビに目をやると、小さい頃に毎週見ていたテレビ番組が映っている。それでようやく、今日は日曜という実感が湧いてきた。
「里美、晶の分も朝食作ってやれ」
「はいはいわかってますよ」
一見亭主関白なように見えるけど、その実ラブラブなのはバレバレユカイなのだ。そんな所も、実にいつも通りだ。
「親父、会社は?」
「今日は接待もなしの丸一日オフだ。…全く、お前が持ってきたあの金属のおかげで、ここのところ休みと言う休みがなかったからな」
あの金属というのは、文化交流の際にキュートスから流通された、アダマンタイトだ。熱や電気の伝道率が極めて高く、その上水に浮かぶほど質量が軽い。さらにモース硬度もダイヤモンドの次に硬い九。半マテリアルの世界では、魔法かドワーフの職人の技術でしか加工する事ができなかった代物で、こちらの世界でもダイヤモンドカッターとか専用の機械でしか加工出来ないだろう。つうかこっちの世界ではレアメタルとして扱っているから、非常に貴重な金属として流通先も選ばれているらしい。ちなみに原産地はガラリオン山脈。バリアスから流れてきている。そして、親父は国王や総理から便宜を図ってもらい、そっちの卸の方面にも事業を広げている…もといやらざるを得なくなっているらしい。現状のままだと独禁法とかの問題があるから、今は地下事業としての仕事だそうだ。
「まぁ…ご愁傷様。でも、その分潤ってるんだろ?」
コーヒーメーカーから自分の分を一杯カップに注ぎ、クリープと角砂糖をがっつり入れて親父の斜向かいに座る。テレビでは、当たり障りのないローカルニュースが流れている。昨日はここから少し離れた市でお祭りがあったらしい。
「相変わらず甘党だな」
「ほっとけよ。でも砂糖とクリープ置いてるってことは、誰か使ってんだろ?」
「アレは、順子用だ」
「あー…なるほど」
「懐いてた兄貴の名残なんだろうな。あいつもお前に似て、未だにブラックは飲めん」
「そっか…」
ちょっと居たたまれなくなる。大切な家族は、同じように僕のことを大切に思ってくれているらしい。少し、センチメンタルな気分になる。
「会社は順調だ。お前が持ってきてくれたアレのおかげで、新たな技術も開発出来そうだ」
「そっか。お役に立てたなら何よりだよ」
「まぁ…どこから嗅ぎ付けたのかは知らんが、たまに脅迫めいた電話や手紙も来るようになったがな…」
「…あっ、あのさ…」
「さぁさ、朝ごはん出来たわよ」
お袋がお盆にご飯を乗せて持ってきた。朝食はどうやらパンのようだ。僕が小さい頃から大好きだった、フレンチトースト。まさか僕が帰ってくるのを予見してたわけではないだろうけど…。
「やぁねぇ。また戦争でもあるのかしら」
三人でテレビを見ていると、外国で軍拡の動きがあるらしいことが流れていた。ポケットに入れた小さな国旗の当て布を、ギュッと握り締めた。
「物騒ねぇ。晶、貴方のところはどうなの?また…戦争しに行ってるの?」
お袋が心配そうに僕の顔を窺う。相変わらず戦ばっかりだ。それも、家族の知らないところで世界の命運を懸けた戦いばかり続いている。つい表情に出てしまう。
「あのさ、そのことなんだ…。今のニュースのこともひっくるめて」
その言葉に、親父もフォークを置いて僕の方を見る。兄貴や姉貴、順子がいないところで話を進めるのもどうかと思うけど、それでも、両親には早く言っておきたい。
「昨日…ほんとについ昨日さ、戦争…してたんだ」
親父もお袋も、真剣に耳を傾けてくれている。口は挟まないから話せということだろう。
「ウチの国の東に平原があって、そこに敵が現れたって、スクランブルで…」
言葉が詰まる。ここから先の話に、僕は怯えているのかもしれない。
「その相手は…こっちの人間だった…」
そこから導き出される、安易に予想出来る…僕がしたことが両親に知られることに。
「沢山…人を殺した…」
確かに軍人だけど、人を殺したことに変わりはないんです…。人としての禁忌を犯したことに、変わりはないんです…。親父、お袋…二人の子どもは、向こうの世界の少し違う生き物とはまた違う、僕らと同じ人間を殺したんです…それも、嬉々として。
「説明しなさい」
親父の眼光が鋭くなる。最近どこかで似たものを見たと思ったら、国王のそれとよく似ていた。
「向こうの世界との繋がり…ゲートが現れて、そこから、こっちの世界の軍が押し寄せてきた。勿論こっちの銃火器とか向こうの人達は知るわけもなくて、多くの人…獣人たちが殺された。そして、僕たちに援助の要請が回ってきた…。何の宣戦布告もない、虐殺だったよ…小さい子供達も、いっぱい死んだ…」
目の前に、あの戦場の映像がフラッシュバックする。焼け落ちた家屋。元、獣人の無残な死体。そして…。
「護れなかった…。結果的に攻めてきたこっちの世界の人間は撃退したけど、救えたはずの多くの命を救えなかった…」
視界がぶれてきた。声が情け無いほど不明瞭になるのがわかる。お袋が立ち上がる気配がしたが、その前に親父の静かな声が聞こえた。
「晶…お前、何様のつもりだ?」
ピタッと、お袋が止まる。二人して、親父の迫力に押し負ける。
「確かにお前は向こうでは偉くて、凄く必要とされている人間かもしれない。でもお前はただの『人間』なんだ」
親父の言葉が胸に刺さる。ただの人間…。神に選ばれし子ども…ノア=キーランスではなくて、ただの人間だと…。
「お前は俺と里美の間に生まれた、人間の子だ。人間じゃないわけがないだろう」
「人を救う?結構なことだ。軍人なら、その義務もあるかもしれん。だがな、人に手は二本しかないんだ。この短い、二本の手しかないんだ。人は、手の届く範囲の限られた人間しか救えない。俺がお前らを守ってきたように、里美がお前らを守ってきたように…」
親父の言葉が加速する。その言霊が、僕の胸の中にストンと落ちてきた。
「確かにお前は人を殺したのかもしれない。こっちの世界では殺人罪だ。でもな、お前はお前の護るべき人たちの為に戦ったんだろう?エリーさんや、お前の友達は、お前が戦ったことで護られたんだろう?今も生きているんだろう?ならそれでいいじゃないか。利己的になれとは言わん。でもな、奢るなと言ってるんだ。護れなかったなら、その命を大事に背負ってやればいいんだ」
「親父…」
「…なんだ?」
「親父って、過去に何かあった?」
「なにもないが」
「何もない人間が、そんな言葉出てくるはずないだろ」
「受け売りだ」
…は?
「誰の?じゃあ親父の知り合いに、何か…」
「本だ」
………。僕の感動を返せ。なんか馬鹿馬鹿しくなって、目の前にあるフレンチトーストを一切れ食べる。
「あっ、それで用件なんだけどさ。こないだ各国の首脳が何故かここに集まって皆でキュートス行ったことあったじゃん?その時に不穏なこと言ってた禿げオヤジの国の軍人が、ぶっ殺した連中に混じっててさ、軽く脅しといたんだけど、たぶん脅し文句的に僕が相手だってばれてるだろうから、親父とかお袋とかの保護を総理に頼みに来たっつうことだから」
「そんな大事な事を適当に言うな!」
うるせぇ。親父が悪い。
「お袋、サラダおかわり!胡麻ドレもつけて」
「はいはい」
「あっ。あと親父、飯食ったあと総理にホットラインつないでくれる?僕が話あるって言ったらたぶん空気読んで聞いてくれるから」
「お前…親と総理を何だと…」
うるせぇ。親父が悪い。
「一気に弛緩したな、主」
「だってなんか親父に色々ぶち壊されたし、工作員の一人や二人いたところでどうせ僕の敵じゃないし」
「さっきまでのシリアスな空気はどこに行ったのか…」
さぁ?レッド○ルでも飲んで翼が生えたんじゃない?
なんか作者本人的にも腑に落ちない回で申し訳ないです。家のくだり、ここまで引き伸ばすつもりなかったんだけど、まさか丸々一話使うとは…。あっ、そういや登場人物紹介にこっちの家族まだ書いてなかった。近々書きます。