~第七十五話~怒られた
おはようございます。気分的にこんばんわ。夜勤明けです。長々と店長にありがたいお説教されたせいですぐ寝る気が醒めてしまったので、時間の有効活用ってことで書きます。
セラトリウス団長が作戦終了を宣言した直後、僕は文字通り消える勢いでキュートスに戻る。団長はこの一族の長、九尾と話があるとのことなので、火急的速やかに帰らなければいけない僕は、先に帰る許可を得ている。白夜のことは、あの件を知っている者が何をするかわからないので団長に預けておいた。
意識的には、ボスのキン○クリ○ゾンレベルの時間跳躍を引き起こす勢いで駆ける。つうか、半分跳躍してた。時間の歪み?馬鹿者!家族の安否と天秤にかける方がどうかしてる。つまるところ、僕は自分の周りの世界がよければ他なぞ二の次三の次なのだ。
という事で、もう着いた。時間にして、ものの数分。なんとか星雲からきた巨人が帰るより若干遅い程度だ。東の平原に向かう時は作戦を伝達する時間があったことを考えると、鬼のような速さだ。
「主、いくら最後の方は魔力を節約していたとはいえ…天使を憑依させて八大地獄を使って尚、時魔法にこの量の魔力を割けるとは…どこに隠しておった」
「馬鹿っ…いくら無限の魔力を持ってるとはいえ、限界に近いっつの。十二宮プラス蛇使い座も召喚してたんだぞ…体力を魔力に変換してやっとだっちゅうの…」
「何時の間にそんな高度な技術を…そしてその十年以上前に旬が過ぎたギャグ…。主がやってもちっとも萌えんが」
「やかましい」
前述の通り体力値まで魔力に差し出して、両膝に手をかける姿勢になった偶然の産物だ。その消化した魔力が、筋肉内で乳酸に変わってしまっている事実に戦々恐々しなければいけないわけだが…まぁ、大事の前の小事ってことで。自己犠牲の精神ってやつだ。
っと、くだらないこと考えてる場合じゃない。とりま国王のとこ行かんと。
「主…とりまって…」
「…言ってみただけだ。恥ずかしくなるから指摘すんのやめれ」
「…全く、貴方はいつもそう気が抜けているの?」
毎度お馴染みになってきた森から城門が望む辺りで、背後から声が聞こえた。最近めっきり聞くことが少なくなった声だが、聞き間違えるはずがない。部外の者にとっては滅多に聞けるもんじゃないけど、僕にとっては数えるのも面倒なくらい聞いている声だ。つうか城にいるときはほぼ毎朝。
「ディーン王女!珍しいじゃんか!つうかなんでここに?」
「だって千里眼の強化は、私が研究して成し遂げた成果ですもの。私も使えて当然ですわ。それに、お父様は執務で席を外せないの。話す時間くらいはあると思うけど」
他の姉妹と比べると短めの髪を押し撫でると、いつもながらのクールなトーンで言った。さすが学者肌だな。
「なるほどね」
「エリーは、部屋でおとなしくしてるわ」
「おう。サンキュ」
「じゃ、行きましょ」
踵を返すと、スタスタと先を歩くディーン王女。うーん…流石と言うか勿体無いというか…。
「何か言ったかしら?」
「独り言だ。気にしないでくれ」
「そっ」
歩幅は狭いから、難なく追いつくことが出来るのがちょっと可愛いと思ったり。うーむ…。
「お父様。アキラ様が帰ってきました」
「うむ。アキラ君。書類に目を通しながらですまない」
国王の部屋が、大量の書類で埋め尽くされている。たぶん内容は、東の平原の住人の、必要とあらば移住する便宜を図る為のものだとか、これからのセラスの諸国の連盟の意向だとか、そんな感じだろう。つうか、若干崩れてきて見えてる。
「不思議ですね。国王がこんなシリアスな顔で執務に当たってるシチュエーションも」
「アキラ君。すまないが手短に頼む」
「あっ…すみません」
怒られてしまった…。
ーーー当たり前だ。普段はあんなだが、今は国家の危機だ。国王が真剣にならずになんとする。
まぁね。まぁ、僕ものんびり構えてる暇はない。向こうの家族の命に関るかもしれないのだ。
「正式な報告はセラトリウス団長並びにカルバン団長からあると思いますが、何せ僕は火急の事態なので…。まず、東の平原の侵入者は皆殲滅しました」
「ふむ。ご苦労だった」
「ハッ!そして、マドラ前団長を手にかけた、白夜とも接触し、今はセラトリウス団長に預けています」
「妥当な判断だな。しかし彼も初まりの者たちの一人。アキラ君や他の者が連れるものだと思っていたが…」
相変わらず視線は資料から離れないが、きちんと僕の報告にも耳を傾けてくれている。この人、実は真面目にやれば凄いんじゃないか?
「それは…まだ、禍根を残している者もおりますので。軍のトップに預けた方が皆納得するかと。部下の者達には緘口令がしかれておりますので、彼らにとっては僕らはただの部隊長ですから」
「ふむ」
「して、ここからが本題なのですが…」
「言ってみよ」
「一旦。向こうの世界に戻りたいのです。いつ帰れるかはわかりませんが、この件を収束させる為に…」
「よい。行って来い」
「お父様!?」
後ろに控えていたディーン王女が、目をひん剥いて反応する。
「アキラ様は今やこの国の重鎮の一人!そう簡単に返事をされては…」
「ディーンよ。向こうの世界の人間が関っている以上、アキラ君の他に適任がいるか?」
「うっ…」
一瞬こちらの方を覗いた国王の眼光に、ディーン王女と一緒に僕まで怯む。
「私とて、何も考えずに返事をしているわけではない。それに、アキラ君は私らの期待に見事応えてきた。友人として、義理の息子として、部隊長として、軍師として、戦士として…アキラ君を見てきた私が信用して任せると言っておるのだ」
「国王、義理の息子はまだ早いんじゃ…」
こんなシーンだから仕方ないけど、真剣な顔で言われてもどういうアレかわからん。
「…わかりました。アキラ様を、お父様を信じます。差し出がましい事を言って、すみませんでした」
「ちょ…もういいんじゃないですか、国王?ディーン王女も別に考えなしに言ったわけじゃ…」
ちょっと空気が居づらいので、試しに仲裁に入ってみる。普段仲睦まじい家族の姿ばかり見てきているので、この空気はちょっと心苦しい。
「いいのです、アキラ様。私が短慮でした。…ではアキラ様。渡したい物があります」
ディーン王女が片手に持っていた皮袋からなにやら取り出す。乳白色の小さな小瓶だ。
「アキラ様。これは先日開発した秘薬、エリクサーです」
なんと!ポーションより先に、こっちを目にするとは。胡散臭い青色の瓶じゃないし。
「これは経口で服用し、体内に染み渡ると体力を魔力に変換する効果をもちます」
「…ディーン王女、それ、使わなくても僕出来るんだけ…」
「向こうの世界では魔法が使えないことをお忘れですか?」
…忘れてた。普通に時空間を跳躍したりして事を起こすつもりだった。あぶねー…。
「一般の兵では調節が難しい為、なかなか踏み切ることが出来なかったのですが…」
実験も兼ねてるのね。
「でも、向こうで魔法が使えないことに変わりはないんじゃ…」
「向こうの世界に、魔力と言うものに対する具体的な概念がないからです。あちらの世界に、アストラル体であるはずのヨグ=ソトースが出現したことがあったでしょう?アレは分体で思考能力というものはありませんが…構成する物そのものが魔力だった為出現可能だったのです。向こうに渡ればアキラ様の中の体組織の魔力回路は眠ってしまいますが…今申し上げたことと同様に、アキラ様の体内という限定された空間内に魔力という構造が出来ているのならば、出来ることは限られるやもしれませんが理論上は魔法を行使することは可能です」
なるほど。エリクサーで強制的に体力から魔力を作り上げてしまえば、回路は眠っているだけだから使えないことはないというわけか。眠っているのと死んでしまうのはまた違う現象だし。
「わかった。サンキュ」
「ちなみにまだ試作の域を超えていませんので、使用する際は少量ずつ使う事をお勧めします。全て飲んでしまったところで、持続時間は不明ですので」
「でも、実験も兼ねてるんじゃないのか?」
「ふぅ…」
ディーン王女が俯いて盛大な溜息を吐いた。
「いくら実践機会だからと言って、空気を読む事くらいは出来ますわ」
「なるほど…ところで」
「なんでしょう?」
少し前から気になってたことをいい機会だから聞いてみる。
「僕の袋やディーン王女のその皮袋…どう考えても四次元ポ○ットばりの収納力なんだけど、どうなってんの?そんな便利な物が出回るほど、この国の技術は発達してるのか?」
「いえ、市販の物はただの袋ですわ」
「…?」
「私が改造しました」
………おい。
「ちなみに」
「企業秘密ですわ」
釘刺された。つうか企業て。
「…ということでごめん、エリー」
準備とか時間の都合もあり出かけるのは明日の明け方だ。そんな場合じゃないと思うかもしれないが、抜けた事に家の鍵を持っていないのだ。それに情報が敵さんに伝わり僕の家族になにかしらのアクションを起こすとしても、報告を受けておいそれとすぐに行動を起こすのは物理的に不可能だ。僕が確認した最も近い国でさえ、かなりの距離がある。そしてその国はそれほど発達しているわけじゃないし。…工作員がいる可能性は考慮しなきゃいけないが、僕んちは駅からも高速道路からも離れ、空からも着陸地点の確保が不可能な山ん中だ。そして田舎ネットワークを侮ってはいけない。ただでさえも排他的で閉鎖的なコミュニティだ。異分子がいれば、浮かないわけがない。僕は初めて実家の田舎さ具合に感謝した。
ということで、少々時間が空いたのでエリーに挨拶に来ている。今回の作戦は早かったけど、結局全てを解決するに至るまでは時間がかかる。そしてそれを為せるのが僕しかいないのだから、当然エリーは置いてけぼりになる。下手に連れて行ってやつらに嗅ぎつけられたら、それこそ弱点をわざわざ提供してやるようなもんだ。なら寂しい思いをさせてでも、ここにいさせるのが安心で安全ってもんだ。
「私もっ…」
「駄ぁ目」
ほら。やっぱりこういう事を言い出す。懇切丁寧に説明してやると、エリーは渋々納得してくれた。初めの頃は置いておいて、エリーは決して頭は悪くない。
「そんな顔するな。なるべく早く戻ってくるから」
頭を撫でてやるが、その頭は一向に上がらない。なんだかんだ言って、よく考えたら先のアララギ島の遠征とかで暫く顔も見せれずにいたのだ。久しぶりに会ったと思えば、僕は錯乱してたし…。
「なぁエリー」
エリーの顎に指を添えて、僕を向かせる。別段抵抗することはなかった。
「帰ってきたら、手料理食わせてよ。エリーの手料理が食えるって思えば、半死どころか九割死んでも這って帰ってくるから」
あーあ、一級フラグ建築士の本領発揮だこりゃ。まぁ今まで数々のフラグをへし折ってきた僕だから、これは逆に生存フラグととって差し支えないだろ?旗殺しのの異名を持つ僕なら…。
ーーーそんな異名は轟いておらんぞ。
さいですか。空気を呼んで脳内に話してくれてありがとさん。
「そうだよね…旗殺しの異名は伊達じゃないよね…」
ーーー何時の間に轟いておる!?
…ホントだよ。
「ップ!ッハハハ!」
「…どうしたの?アキラ」
「ックク…!アッハッハッハ!!」
エリーが真顔でそんなこと言うから、何か壷に入ってしまった。しかもなぜか三倍速い彗星のマスクの人で脳内再生されたからなおさらだ。
「…アキラ?」
「いや、なんでもないよ!ありがとうエリー!おかげですっきりした!」
「…なんかモヤモヤする」
僕の呼吸が落ち着いたのは数分後だった。その間の腑に落ちなさそうなエリーの顔が、またなんとも可愛かった。それがまた滑稽で時間がかかってしまったのだが。…しかし、これで余計な力が抜けた。僕は、僕らしくやろう!…やらねばならんことは、どんな手を使っても完遂するまでだ。どうやってやつらの意表をついてやろうか。
「ありがとな、エリー」
エリーの前髪をあげて額にキスしてやると、エリーもなんだかわからなそうな、でも安心したような顔を浮かべた。
「…ご飯の約束。絶対だからね!」
エリーが笑顔で、僕の唇にキスをした。おーおー。それもフラグだぜ?でもその前のキスが白夜の野郎だと思ったらかなり複雑な気分になったからチャラだろう。アレをカウントしたくはないけど。
全然進まなかったので、もしかしたら夕方から晩あたりに次話書くかもしれません。仮定です。ディーンの説明文のあたり、かなり苦労しました…。