~第七十二話~接吻と過去と真実と
今友人宅でPC借りて書いてます。普段ノートパソコンだから、キーボードの違いに若干悪戦苦闘してます。感覚がわからない…。
幸い僕が目を覚ましたのは、まだ作戦の途中だった。作戦完了までまだ時間がかかりそうだと、うつむいたラスティンさんが教えてくれた。
「すみません、ラスティンさん…僕の勝手な行動で…。つっ!」
起き上がろうとしたが、身体中が痛くて思わず声が漏れる。
「大体は、お前を連れてきたシーリカから聞いたから、もう謝るな。相手は、国王が言ってた七つの大罪とやらなんだろう?戦いの魔力は、俺のところにも届いていたからどれだけの相手かはわかる。もういいから、今は横になってろ」
「すみません…あっ、デンゼル呼んでもらえますか?」
「わかった。少し待ってろ。俺の方こそ、子供たち…守れなくてすまんな…。突然現れたあの女の、妙な魔法にかかって…抗えなかった…」
「わかってますよ。あいつのアレは、そうそう耐えれるものじゃないですから…。それに、あいつはもう倒しましたから…」
ラスティンさんは自嘲気味に申し訳なさそうに笑うと、僕のいるテント…のようなもの(土魔術師が生成した簡易シェルター)から出て行った。僕が気を失っていたのは、せいぜい二、三時間のようだ。
「なぁ、ダービー」
ーーーなんだ?主。
「あの後、どうなった?」
ーーーどうもこうも、ラスティンが言っていたとおりだ。シーリカやグレン、カイムが来て、グレンとカイムは魔力探査を使ってガラムを元の隊へ連れて行って、シーリカは主を連れてここまで…。
「そっか…意外に力あんのな、あいつ」
思考がスカスカで、ふとどうでもいいことを思ってしまう。
ーーーいや、主を担いでいたのはガロンだ。
「あー、さいですか」
まぁ、逆お姫様だっこという醜態を晒す事態は免れたようで良かった。…逆にどこか一部の(腐)女子に需要がありそうな画にはなったけど、そっちのがまだ自然だし。
「…っ!?白夜は!?あいつをまだ殺して…!…ってぇ…!」
身体の痛みを忘れて飛び起きようとして、激痛に変な体勢で倒れこむ。くっ…これで明日の作戦まで間に合うのかよ…。つうか、白夜をやれんのか…?いや、やらなきゃ!あいつは僕の…。
「…もうそこに来ておる」
突然ダービーが声を出したかと思うと、聞き捨てならんことを言っているので急いで首を回す。そこには、幾晩も憎み倒したかつての友人…白夜がいやがった。
「…白夜……!」
無意識に枕元の剣を探り、握り締める。
「我が呼んだのだ、主」
「…なんだと?」
「晶…俺は…」
そう言うと、白夜は僕に近づいてきた。うっごけ…右手…。アレがわざわざ間合いに入ってきてんだ。あんな鎧、今なら簡単に斬れるだろう?だから、動け…。
「動け…ぐぁ!」
何故かさっきより痛みが増している。そもそも骨折しているみたいに、腕自体を動かす事が出来ない。
「主…すまん…」
なんで謝る?
「我が、一時的に主の腕の神経を遮断しておる」
「なんで!?お前に…お前にそんな権利が…お前ごとき、僕の魔力供給がないとなにも出来ないくせに…」
「侮るな!我を誰だと思っておる!…主が爆発的に成長するうち、主の依存せん魔力くらい備えることくらい出来たわ!…正確には魔力の備蓄のようなものだが…」
「ダービー…お前、裏切るのか…?」
「違う!違うが主…すまん、今は我の言う事を聞いてくれ…すまん…」
「晶…」
いつの間にか僕のすぐ傍までまで来ていた白夜が、ゆっくり手を伸ばす。くっ!おいっ!こんな無防備な時に…手には何も持ってないみたいだけど、首を絞められたら、頚椎を折られたらマジで死んじまうじゃねぇか。おい!動けっ!動け…!
「…えっ?」
その手は僕の首をあっさりスルーして、額に乗せられる。こいつの属性がなんだか知らんが、その魔力を直接脳に叩き込まれたら脳が破壊されることは免れまい。そういう殺りかたもあったか。…じゃねぇよ!
「……えっ?」
と思ったら、更に意外な行動をしてきたから思わずまた間抜けな声を出してしまった。白夜の手から脳へ、脳から全身へ。微弱な電流のような魔力が流れ出し、足先まで染み渡る。と感覚を確認していたところで気づいた。
「痛くない…?」
「お前のその痛みは、神の力たる熾天使を直接身体に入れたことで、本来混沌で出来ている俺ら人間の身体が拒絶反応を起こしたからだ。まぁ、それも徐々に慣れるらしいが。それを俺とヘル・ブリングの闇の魔力を流し込むことで中和した」
「へっ!あの時のお返しか敵に塩を送ったか。どっちにしろ、愚かだな。丸腰できやがって僕…の…」
「主、気持ちはわからんでもないが、いい加減にせんか?」
おい馬鹿!なにやってんだダービー!また神経ブロックしやがって、お前はベン○エースか!しかも今回は声帯まで麻痺らせやがって!
「晶、ちょっと苦しいかもしれんが、我慢してくれ…というより、本当にこれしかないのか?ヘル・ブリング」
「そう言ったでしょ?さぁ、早くやって」
入り口のところにいる、黒い影が笑う。くっ!何をするつもりだ…!
「晶…すまん!」
白夜がそう自分に言い聞かせるように言うと、顔を近づけてくる…何をするつもりなんだ…っておい!マジで何をするんだよ!
ーーーおい馬鹿!やめろ!やめろ!マジでやめろ馬鹿!
声帯が麻痺ってる僕の声が出るわけもなく…解説したくない。したくないけど読者の皆様に伝える義務が僕にあるから伝える。僕もこんな恥辱屈辱筆舌し難いこの悪夢のような出来事口にしたくないが、夢であって欲しいが…白夜が唇を重ねてきやがった。
ーーーいっ!ちょ!いって…!
脳髄にビリビリと痺れたような痛みが走る。
ーーーすまん晶。さっきみたいに直接脳に送ると、今度こそお前の脳を壊しかねないからな…俺もヘル・ブリングに抗議はしたんだが…。
ーーーあるだろ!絶対他になにかあるだろ!!………。
突っ込みが終わった直後、脳内に白夜の思念と記憶が同時に流れてきた。
ーーー俺が手にかけた、お前の身内…マドラの魔力の残滓だ。俺も今、お前の記憶や想いを感じている…。
白夜の言う事を信じるなら、マドラのおっさんの雷の魔力が脳に信号を送り、互いの情報を共有させているようだ。返事もせずに、いつの間にか白夜の記憶に見入る。小さいころの虐待されてきた記憶、施設に押し付けられて、安堵を感じる心、僕に出会った記憶、一人の少女との出会い…。
ーーーお前、初めてとはいえマグロかよ…だせぇ。
ーーーうっうるせぇ!中坊がいきなり上手くてたまるか!つうかお前だってそのころ童貞のくせに!…じゃねぇ!何見てんだ!
白夜を無視して、流れ込んでくる記憶に意識を向ける。その少女とともに施設を脱走し、どこかの国の小さな組織に入って、リーダーが殺されて白夜がその代わりになって…。
ーーー…なん…だよ…これ…。
目の前で虐殺されていく子供たち。白夜と同化した僕は何も出来ない。過去のことだとわかっているけど…。
ーーーやめろよ…やめろよ…!
なおも、虐殺は続く。そして、銃口が白夜を向いたとき…。
ーーーあぁ。お前も、僕と同じだったんだな…。
護りたかった者、護れなかった者…。それらを失い、その力を手に入れた。もう、失わないように、もっと護れるように…。
ーーーザー!ザー!
一瞬、今までにないノイズが走り、場面転換が起こる。なんだったんだ?今の…。
「たぶんそこで、本格的に主に七つの大罪どもの干渉があったのね…」
外耳が、ヘル・ブリングの声を拾う。どうやって、こいつ僕らのアレがわかるんだ?ヘル・ブリングの押し殺した声が耳に入る。
「悔しいけど、そのとき既に私は洗脳済み。でも主はそういう性格だから、いつか私…いや、七つの大罪どもに洗脳された我の意思に反するかもしれない。それなら主も洗脳してしまえばってことじゃないかしら。もっとも、私を洗脳した嫉妬のベルゼバブは貴方が倒してしまったけどね…」
その音は白夜がゲートをくぐっている間にあった。今の記憶が白夜がウラヴェリアの城に滞在しているあたりだから…相当前に行われていたことになる。そして…。
ーーーやめろ!…やめろ!!
白夜が悲痛な声を上げる。僕と白夜は同い年だから、記憶の進む速度も一緒なのだろう。僕の方は…白夜が、マドラのおっさんの胸を背中から貫いたところだ。
『人間は人間同士、仲良くしろや…』
頭の中で、マドラのおっさんの懐かしい声が聞こえる。映像は、そこで途切れてしまった。
「晶…すまん…すまん…謝って許される事ではないことはわかってる…だけど、俺にはそれしか言葉がっ…」
白夜が唇を離すと、よだれが糸を引き、涙が僕の顔を濡らした。…ってなんて嫌な表現をするんだ!
「ヘル・ブリング。お前は?」
「何が?」
「話を全て信じるとして、お前が洗脳されて、それが解けたの」
今にも切腹しそうな白夜を放置して、入り口に目をやる。
「私がされたのは、ヘラとしての魂を腕輪に封印している最中…。私は意識の感覚が変わったのは器を変えたからだと思ったけど、ベルゼバブの意識が介入していたのね…。主が解けたのは貴方のおじさんの一撃をくらった時だけど、私はついさっき…この、主が生きてきた世界と酷似した状況の戦場を主が見た時。そして、ベルゼバブが現れたとき…」
「ダービー…どう思う?」
「嘘はついていないだろう。今のヘル・ブリング…ヘラは、皆と一緒にいるのに自分だけ特異な資質を持ち、それに思い悩む小さな少女の時のヘラそのものだ。さっきはまだ影響が残っていたが、今は完全に抜けている」
「ヘブンズ・ゲート…私、昔…貴方や世界中の皆になんてことを…」
「もうよい。過ぎた事だ。我は気にしておらん。しかし主は…」
ダービーの言葉に、白夜がうな垂れていた顔を上げる。その目に、光源が少ないにも関わらず僕が映っている。
「正直、おっさんを殺したことに関してはまだ憎いと思ってる、洗脳されているからと言って、やったこと全てが許されるとも思えないし、思わないし」
白夜はそれでも僕を見ている。温情や同情を期待するわけでもなく、僕の言葉を受け入れる覚悟がある、しかし悲痛な顔で。そこにすこしでも媚や哀れな顔が浮かんでいたら、次の言葉は出てこなかったと思う。
「でも、どこかでお前を許している、許したい僕もいる。お前が、僕と同じ思いで戦ってきたのがわかったから…緑竜の時に、こんなすれ違いはもうしたくないって、辛さ味わってきたから…」
「晶っ…!」
白夜が、枯れた声を吐き出した。そこにどんな想いがあるかは、意識が離れた僕にはわからない。…もうアレはしなくていいけど。
「でも、お前は国の英雄を殺した男だ。お前を恨んでいる人間は沢山いる。裁きは、キュートスに帰ってから受けるべきだと思う。逃がしてやってもいいけど、僕がお前ならそんな惨めな生き方したくないからな」
…実は、ここで一つカマかけてたり。
「わかってる。それがお前が出した答えなら、受け入れよう。お前の恋人が許してくれるとは思えないが、それも俺がやったことだ。因果応報…ってやつだな。お前の国の国王の兄を殺した俺は、死刑ですら許されないだろうな」
「…よし、合格」
「…あっ?」
「お前が自分の罪から逃げて、惨めでも生きていたいってやつだったら…僕はここでお前を斬ってた。でも受け入れてるみたいだから、僕はお前の味方になってやってもいい。まぁ個人的にはお前の立場なら、どんなに惨めでも生きていたら勝ちだって思うけどな」
…僕の言葉に。空間が凍りつく。
「ノア…晶!貴方はぁー!」
「ヘラ。主はこういう男だ」
『人間は人間同士…』
「いつになったら許せるかわかんないけど」
『仲良くしろや…』
「それでも、許してやるよ。エリーにも、わからせる」
それが、マドラのおっさんの願いならな…。
正直、これはどうなんだろう…洗脳からの和解落ち…。納得出来ない読者の方々いっぱいいるんだろうなぁ…。ごめんなさい。