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クリエーター  作者: 如月灰色
《第四章 人の業》
79/121

~第六十九話~咆哮、血煙、悪意の嵐《後編》

こんばん!本編も進めます。前回の紹介では、出すこともないだろうと思って裏設定を色々出してしまいました。テヘペロ。

 はっきり言って、僕の剣技は二流以下だ。それでもこうもかわされるとは思いもしなかった。加速をかけた剣戟は、読まれているかのようにのらりくらりベルフェゴールに避けられる。永遠とも思える追いかけっこは、小一時間繰り広げられた。その間、ずっとそんな状態。かと言って、打開する策も思い浮かばず虚しく剣が空を切る。


「いい!いいわぁ!その殺気、ゾクゾクしちゃう…」


「お前は何でもアリか!」


「やぁねぇ。そんなことないわよぉ?貴方だからこんな絶頂手前の興奮を味わえるの!さぁ!早く!焦らさないで!」


「なら止まれクソ女」


 そんな調子で小一時間。向こうのふざけ具合をよそに、本気で当たる気がしない。更にこんなアホな会話も挟まれて…。もう、精神的にきつい。


「主!単調になるな!自分の持つカードを全て使わんと、こやつらには勝てんぞ!」


 ええい!わからいでか!僕の持ちネタは、土、時、召喚魔法に、この輝くトラペゾヘドロン。…しかないなら、それを活用して勝つしかないじゃないか。カードの複合、使うタイミング、順番…。って、そんなこと考えなくても良かった!なんで僕はこれを見逃してたんだ。フィールドが広いから逃げられるんだ。なら、動ける範囲を限定されれば…。


「あら?もう終わりなのぉ?なら、私が責めていいのね?」


 ベルフェゴールが、唇を舌で舐め上げる。そのきらめく唇は、どこまでも蟲惑的だ。


「馬ぁ鹿。鬼ごっこが終わっただけだ。壁よ(ウォール)!!」


 どこかの錬金術師のように、パンと手を叩く。無詠唱でも良かったけど、魔法は形から入った方がその威力や精度が上がるのはこないだ学習したばかりだ。これが僕が土属性魔法で最も多用していた得意魔法だ。防御にしか使ってなかったけど、意外と汎用性あるのよ、これ。一瞬にして地の利を奪い、僕とべルフェゴールを、数メートル四方に高い土壁が覆う。せいぜいボクシングのリングくらいの広さだ。間合いとか攻撃とか考えて。


「あぁ!キーちゃんと二人きり!目くるめく甘美を考えるだけで…はぁん!」


「…触れずに達するとか、逆に尊敬するよ。僕でも無理だ」


 言い切ると同時に、加速で一瞬で間合いを縮め、腰砕け状態のベルフェゴールを袈裟切りに斬る!よし!手応えあり!


「あぁ!」


 …別に、卑怯とかこの際関係ねぇよな?あいつが勝手にイっただけだし、僕何もしてないし。


「…いいわぁ。やっぱりキーちゃん最高…」


 壁の逆側に、今切り伏せたはずのベルフェゴールが立っている。斬られた瞬間に空間を飛んだのか、そのキャミソール紛いの服は破れ、その肢体が露になっている。


「厄介だな、その能力。空間を限定してもイタチごっこになりかねない」


「じゃあ、私がキーちゃんのとこに行ってあ・げ・る」


 そういうや否や、ベルフェゴールが目の前に突如出現した。クソ!反則だろこれ!とっさにバックステップして避けたが、ローブの前面の胸から腹にかけて十字に切られている。切られたところがだらしなくはだけ、肌にも薄い血のラインが走っているのがわかった。せいぜい皮一枚切られたくらいだ。ただちに影響はない。


「キーちゃんの裸、綺麗…それに…美味しい」


「待て!別に脱いだわけじゃねぇだろ!誤解を生む表現はやめれ」


「誰に?今は私とキーちゃん二人きりなのに…」


 ベルフェゴールが鋭利に尖った爪を舐める。あいつの武器はそれか。ゴブリン時と同じだな。しかし、たしかにあの空間跳躍能力は厄介だが、それと爪による攻撃だけで、七つの大罪に居座れるはずがない。もっと何かあるはずだ。何か…。


「えっ?貴女達も楽しみたいの?そうねぇ…どうせ貴女達も私の一部なんだから、それもいいかもね。乱パも嫌いじゃないしねぇ」


ーーーパチン!


 再び、虚空に指を弾く音が響いた。途端、ベルフェゴールの傍に何人もの蝙蝠の翼を持つ女が立っていた。実際見たことはないけど、たぶん夢魔サキュバスだな。その容姿が若干エリー入ってるのが何よりの証拠だ。夢魔は、獲物が欲する姿をとって現れる。


「あら、こういう子がいいの?キーちゃんってロリ…」


「断じて違う!」


 そう突っ込んでおいて、


「やだ…キーちゃん…いきなり突っ込むなんて」


「黙れ」


 ともかく、気づいたこと一つ。ベルフェゴールの顔が変わってる。正確には首から上が。


「あれ?気づいた?」


「気づかないはずがないだろう」


 髪が短くなり、内巻き気味になっている。顔も、さっきのけだるそうな上気した顔から、あどけなさ残る妙齢のそれになっていた。


「私は二人で一つの身体。さっきまでのは怠惰スロウスの私。これが、色欲ラスト本来の私よ」


「チェンジしたなら服も直せよ馬鹿」


「やぁよ。露出高くしたのはキーちゃんじゃないの。こっちの方が好みなんじゃないの?」


 陽気に笑うそいつは、純粋に艶っぽい行為を望んでいるかのようなあどけなさだ。危うくその屈託のない笑顔に篭絡しかける。


「………」


 別に敵にこんな素直な反応を見せる必要性はないだろ。なんだこのザマは。


「キーちゃん可愛い…。まぁいいわ、貴女達!楽しんでなさい!」


 ベルフェゴールの一声とともに、一斉に夢魔の群れが押し寄せてくる。かわし、切り伏せ、しかしまだまだ増殖する。悪夢だな…。エリーに似た容姿を次々と切り倒す現状も含めて。


「あれ?弾切れかな?」


 それは唐突に訪れた。つうか意外に早かった。なんだ、打ち止めか?制限があるなら、好機を逃す手はない。僕は夢魔の群れを振り切り、無防備なベルフェゴールを狙う!


「危なかったけど、残念だったな!」


 横に一閃。ベルフェゴールを切り倒そうとした直後…。


「残念、本当にこれが弾切れ。本当に残念だわ…」


 僕の剣は、壁のように現れた夢魔を斬ったに過ぎなかった。胴体が離れきらない内に、ベルフェゴールの背後に意識を飛ばす。お前が壁を負ってることくらい織り込み済みだ!今ならサキュバスの壁が死角になり、僕の行動を察知出来ないはずだ。


「これで本当に終わりだ!!」


 ベルフェゴールの背後の壁から、槍やら何やらとりあえず刃物系の武器を生成し、一気に貫く。あまり僕が突っ込み過ぎると自分の作ったトラップに正面衝突しかねないから、死角な内に減速する。


「あああぁぁ!!!」


 絶頂に似た絶叫を発し、ベルフェゴールが膝から崩れる気配がした。これなら一溜まりもないだろう?


「はっ!はぁ…ぁ…ん…」


 って、まだ生きてやがる。流石世界の敵。タフネスは規格外か。つうかこれ正しく喘ぎ声か?ドMにも程があるだろ…。しかし、もうこいつにさっきみたいな魔力は残っていまい。


「じゃあな、淫乱。文字通り死ぬ程逝かせてやるよ」


 憮然と立つ僕を、濡れた上目遣いで見上げる。ホント、こいつのコレは命を懸けたプレイだな。死ぬ間際までこれとは。


「責められるのも大好きだけど、責めるのも同じくらい大好きなのよね…」


「残念だったな。もうお前に僕を責めるだけの体力は残ってないだろ?」


「えぇ。いっぱい果てて、少し疲れちゃったわ…」


 …なんだ?こいつのこの余裕は。なんだ?この違和感は。こいつの目は、死にかけの目じゃないことは確かだ。しかし、こいつにほとんど力が残ってないことも確かだ。なのになんだこの焦燥感は…。


「疲れて、幻惑テンプテーションに裂く魔力がなくなっちゃった…」


 待て、幻惑テンプテーション?こいつ、そんなのかけた動きなんてなかったんじゃ…。


「ほら、見て?キーちゃん。私じゃなくて、あの子達…」


 ベルフェゴールが、指についた自分の血を舐め取り、僕の後ろを指す。罠だろう?僕が目が離した隙に、空間跳躍で逃げる。そんな所じゃないか?


「別にそのまま冷たい目で私を射殺してくれてもいいんだけどね。それでもイけそうだから。でもね…」


 なんだ?なんなんだこの得体の知れない恐怖は。


「貴方とのプレイにとって…さっきのプレイにとって、私が消耗することが最大の意味だったの…。ねぇキーちゃん?切り札は、最後までとっておくから効果があるのよ?」


 振り向いてはいけない。ブラフだろう?…しかし、僕は見てしまった。わかってしまった。こいつが言っていた言葉の意味を…。


「ぁっ…」


 声が出てこなかった。それは絶望。それは悪夢。


「宣言通りになったわね?キーちゃん。私の前に這い蹲らせてあげるって」


 笑みを含んだベルフェゴールの声が、僕の耳の傍で聞こえた。


「なんで…」


 なんで気づけなかったんだ。なんでこんなことになったんだ…。脳裏に、フラッシュバックがよぎる。あの時はココ。僕の目の前で、ウラヴェリアに貫かれたココの姿。そして今度は…。


「私の空間跳躍は、何も自分だけなんて言ってなかったわよね?あの時、アスモデウスも一緒だったこと、キーちゃん完全に忘れてたわよね?つ・ま・り、これは貴方のミス。貴方が招いた事態」


「貴方が護っていた、護ろうとした子達。…この過去形は、あってるわよね?空間跳躍でこの子達を呼んで、私が怠惰スロウスから色欲ラストに代わった時に同時にかけた、邪眼より強力な感覚支配…それが、私の力。この壁を作ったことも仇となったわね。これじゃ、お友達の声も聞こえないもの」


「そしてそれでこの子達を夢魔達に見せ、キーちゃんに攻撃させていた。貴方は敵だと思い、なんの躊躇いもなくこの子達にその凶刃を向けた…」


「貴方は何のために此処に来たの?この子達を護る為よね?あっははは!それなのに、自分で手をかけてたら世話ないわよねぇ?ねっ言ったでしょ?キーちゃん。這い蹲るのは貴方だって」


 ベルフェゴールの言葉に嘘はなかった。そこに転がる斬殺死体はさっきまで僕も一緒にいて、今はラスティンさんと共に避難しているはずの、今回の任務の護衛対象…東の平原の住人、獣人の子供達だった。逆に膝から崩れ落ちた僕の背中から、抱きつき手を回すベルフェゴール。首筋に舌が這い、淫靡な感覚をもたらす。受け入れたくない、悪夢なんて生易しいものじゃない現実に心を砕かれた僕に、その悩ましげな官能がすんなり入ってくる。僕の瞳は、何も映していなかった。


「最高…今のキーちゃん、本当に最高よ…。さぁ、楽しみましょう?貴方も私と同じ、快楽奴隷となって、永久に官能を貪りましょう?私と一緒に…」

なんだこの官能小説。いや、R15の禁則事項は犯しません。あしからず。わっふる言っても一線を越えません。この続きをノクターンで書く予定もありません(笑)でも、羨ましくはあるんだよなぁ…。自分なら、一発で篭絡しそうだ(笑)

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