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クリエーター  作者: 如月灰色
《第三章 楽園》
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~第六十一話~霜柱の共闘その2

ダブルキャストのサントラ聴いてます、白カカオです。ついにと言うかいつの間にかと言うか、六十話まで来てました。目標の二百話以内完結出来るのかな…、

「フォイフォーイwwwww」


 たぶん凄くむかつく顔してんだろーなぁとか思いながらガラムを煽る。いや、むかつかせる為にやってるんだけど。


「チキン竜田ガラム風は美味いフォイ……って馬鹿!あぶねぇ!!」


 ガラムのすぐ横の班を襲っていたマンティコアが、蠍の尾を大きく婉曲させてガラムの死角から貫こうとしている。マンティコアで一番厄介なのは、爪でも牙でも突進力でもなくあの尾なのだ。毒性はこの世でもトップクラス。勿論致死毒で更に解毒方法もない。まぁ生身でマンティコアを倒せる人間なんてほぼいないから、血清とかが作れないだけなのかもしれないけど。どちらにせよ、今までそれを仕掛けてこなかったのは単なる幸運でしかないだろう。


「…りて…あゆむ…よ…」


「おい!ガラ…」


 急いで加速の術式を頭の中で演算するが、間に合わない!遅滞とどちらにするか逡巡してしまったのが仇になったか!


「ヒグオオオおおおおおおお!!」


 マンティコアがガラムを貫こうとする刹那、悲鳴を上げたのは逆にマンティコアの方だった。ヤツが悶えて体がずれて、氷漬けになった尾の切断面が見えた。


「…黙って聞いていれば…貴様…」


 ガラムが青筋立てて氷の槍(アイスジャベリン)ゲイボルグを僕に向ける。ヤバッ!あの野郎煽りすぎたのが仇になったか!?


「馬鹿!お前今はそれどころじゃ」


「うるせぇぇぇ!!!」


 横薙ぎに槍を払うと、伸びた切っ先がマンティコアの四肢を襲い、氷漬けにする。それまでの部下達の猛攻と反撃で消耗し自重に絶えられないその四肢が、砕けてマンティコアがダルマ状態で崩れ落ちる。その時の悲鳴は、マンドラゴラもかくやと言うほど殺人的な五月蝿さだった。


「…静かにしろ、畜生風情が」


 ガラムは静かに言い放つと、ゲイボルグをマンティコアの延髄に突き刺す。小さく悲鳴を上げた獣は、そのまま動かなくなった。


「おっ…おぉ…」


「ガラム…様…」


「「「おおおおおおおおおおお!!!!」」」


 部下達の歓声が響く中、ガラムが表情を変えずに僕と対峙する。ついでに、槍術の構えも解かない。


「いやいや、もう戦闘は終わっただろ…」


「貴様との殺し合いはまだ始まってすらいない」


「さっきまでの殊勝な態度はどうした」


「知るか」


「見てみろ、部下の安堵の表情を。誰一人無くしてないだろう?お前が守って、お前の部下が頑張ったんだ」


 ガラムが不機嫌そうに部下の方を振り向くと、部下達が畏敬の念を込めて畏まる。さっきまでのへたれたガラムではこの表情を見せなかっただろう。逆に、自分より部下の命を優先させた所を見せたからこそ、尊敬の眼差しが強く表れているのかもしれない。


「ふんっ…それについては貴様の功績だ。俺が貴様に全権を委ねたのだからな。…だがな」


 再び僕を向きなおすと、穂先をやや下に構えた、突進に適したような構えを取る。


「俺の願いに応えてくれたことには礼を言おう。貴様の力は認めよう。しかし、俺を愚弄した事実だけは許されん」


「馬鹿!アレはお前がへたれてたから…」


 若干縋るようにガラムの後ろ、前衛魔術師達を見やる。誰かストッパーになってくれないかとか考えて見てみたんだけど、駄目だ。あいつらまたいつもの小競り合いくらいにしか思ってない。


「覚悟しろよ…んっ?」


 またも頭上から羽音がする。どうやらもう一体マンティコアがいたようだ。


「ちょうどいい!悪いがお前は少し利用させてもらう!」


 マンティコアがガラムのゲイボルグの間合いに入る手前、先に僕が輝くトラペゾヘドロンを召喚し、それを頭上のマンティコアに振る。ただ漠然と魔力を行使するのではなく。カタパルトのように射出するイメージ。たぶん、こうやってイメージした方がマンティコアに魔力が到達するのが速い…気がする。それが、形を伴う物なら俄然そうな気がする。


「主、全部憶測か」


「五月蝿い!タウルス!キャンサー!」


「うむっ!」


「あいあいさー!」


 発射された魔力が、先にタウルスを形成する。空中で斜め下に頭を構えたマンティコアの背後に回り、チョークスリーパーのように拘束する。


「アキラさん!尻尾が!」


 デンゼルの叫びと同時に、巨蟹宮のキャンサーがマンティコアの背中付近に現れる。その左手には、ロック○ンやこぶらのように、鋏のギミックがされている。バ○ットでもいいけど。別に銃じゃないし。


「悪いね!ちょっとオイタが出来ないようにちょん切らせてもらうよ」


 右手と重心移動で器用に背中を伝い尾の根元をロックすると、手早く凶悪な蠍の尾を切断する。マンティコアの降下速度が速いのか、鮮血が上に舞い上がる。


「ぬぅん!!」


ーーーバキッ!!


 頚椎が砕ける嫌な音が聞こえると、それでも念の為にタウルスはそのまま更に首に力を掛け、引きちぎる。数秒後、無残な獣の死骸が空から降ってきた。


「うわっ…えげつな…」


 思わず僕がそう漏らしてしまう程、凄惨な死体だった。という音が聞こえるレベルで、辺りは静まりかえっていた。


「あっ…圧倒的じゃないか…」


「これが…竜殺しのアキラ…」


 ガラムの部下から呟きが聞こえる。いや、そうでもないよ?


「ガラム!」


 さっきまでいきり立っていたガラムを見ると、呆然と立ち尽くしていた。


「まだやるか?魔剣の召喚に神性二体同時召喚。これだけでも今の僕は充分消耗しているぞ?今なら確実に勝てるんじゃないか?」


 一瞬間をおいて、ガラムが面白くなさそうにゲイボルグを引っ込める。


「ふんっ!どこまでも不愉快なやつだ…今の貴様を倒したところで、弱ってる相手をただ蹂躙した卑怯者の汚名しか残らないじゃないか」


「そうか、僕が全快になったら相手になってやるよー!」


「…ふん」


 うん、これが狙いでマンティコアを一人で倒したんだよね。召喚魔法がどれ程魔力を消耗するか、わからないほどガラムは馬鹿じゃないからな、…無限の魔力(エターナル・マナ)のことは勿論伏せといて。


ーーー主もワルよのぉ。


ーーーいやいや、お代官様ほどでは。


 実際、属性魔法より魔力消耗したのは事実だからね。嘘は言ってない。




「クゥン…グルルル…」


 僕の脇の茂みから、小さい唸り声が聞こえる。足で突いてみると、そこから一体の小さな獣が飛び出してきた。


「マンティコアの…幼獣か?」


 その赤毛の体毛と、そこだけ異質な尻尾。おそらく…いや、間違いなくマンティコアの幼獣だった。


「…どけ!キーランス」


 ガラムがその姿を確認すると、なんの迷いも無く槍を向ける。


「だが断る」


「…!アキラさん!?」


 デンゼルが驚きの声を上げるが、僕は別に譲る気はない。


「貴様…何を考えている?」


「たぶん…今の二体のマンティコアは番いだったんじゃないか?」


「…?」


 二つの部隊員の中で、クエスチョンマークが浮かぶ。


「…かもしれませんね」


 ガラムのところの副官、ルバードが臆しもせずに二体の亡骸を調べる。どんな生物でも、性器の確認が出来れば雌雄がわかる。無性生殖とか両性具有じゃなければだけど。


「確認が取れました。先に襲って来た方が雌、後からアキラ様が始末された方が雄のようです」


「ありがとう、ルバード。一番自然な解釈は、小さい子を残した縄張りに入って来た僕らを、母親が子を守る為に襲い、母マンティコアの悲鳴を聞いた父マンティコアが戻ってきたと言ったところか」


 自分の出した結論に、思わず閉口してしまう。どんな風当たりにもほぼ鉄壁な精神的防御を誇る某掲示板の住人である僕らの。唯一に近い弱点が母ちゃんであり、親だ。あいつらに感情があるかどうかは知らんけど、その心中を想像して思わず胸が痛くなる。


「だからどうしたというのだ。襲ってきたから殺す。弱肉強食は世の常だ」


「あぁ。間違ってないよ。でも僕の推測が間違ってなければ…間違ってなくても、こいつらにとって僕らはただの侵略者インベーダー…己の家族の平穏を脅かすものだ」


「………」


 重い沈黙が辺りを支配する。たしかにみんなわかっている。ガラムのいうことも正しいとわかっているのだろうが…。


「確かに僕らには、ケット・シー達からマンティコアの退治の依頼に近い忠告を受けた。しかし、先に領地侵犯を犯していたのがケット・シーだとしたら…」


 これは僕の考えすぎだろう。単純にエサを求めたマンティコアがケット・シーの集落で暴虐を尽くしただけかもしれない。しかし、僕の推論も、確固たる資料がない今では否定しきれないことの事実だ。


「し、しかし…」


「わかってるよ、デンゼル。マンティコアに。ケット・シー達が襲われているのも事実だ。でも…この子はまだ無実だ」


「っ!?おい、キーランス!貴様まさか…」


「そのまさかだよ、ガラム。この子は、僕が飼う」


 足元の幼獣を拾い上げ、赤ん坊や猫を抱くように両腕で包み込む。


「突然両親を失ったんだ。この子一人じゃろくに生きていけないだろう?どんな命だって、無下に消えていいものなんてないんだ」


 たぶんわけもわからず、僕の両腕に爪を立てたり噛み付いたりしてくる。まだ顎の筋肉が発達していないのか甘噛みにしかならないのがやけに可愛らしい。爪でがりがりやられるのは…ちょっと痛いけど。


「成長したら…同じように人を襲うかもしれんぞ」


 ガラムが理解出来ないような、苦い顔を向ける。まぁ当然だろうな。


「そうならないように躾けるよ。万が一そうなってしまったら…僕が責任を持って処分する」


 その万が一の時を想像して、少し胸が痛くなる。


「ふんっ!その女子供に甘いところが、昔から気に食わないんだ、キーランス!…お前ら!行くぞ!」


 ガラムが悪態をついて踵を返す。いや、お前の任務は僕らの護衛だろうが。どこに行くつもりだ?


「…甘さに関しては我もガラムに同意だよ、主」


「何言ってんだ。ウラヴェリアの城で、なんのためらいも無く人蛇ナーガの女を切り捨てただろうが」


「その後、ガンガン心が痛んでおったくせに。それに、そのときだけではないか?主が女子供を手にかけたのは」


「…性別とか特に気にしてなかったからなぁ」


 まっいっか。とりあえず、森の奥に進もう。

念の為、アキラが倒したシーンはやっつけではありません(笑)あくまで力の差を見せる為の瞬殺なので、あしかわず。…あと、ご指摘を受けた修正は明日必ずやります!後手後手ですみません…。

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