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クリエーター  作者: 如月灰色
《第三章 楽園》
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~第五十二話~末恐ろしい子…!

白カカオです。マテリアル編、続きます。すみません、副題ネタに走りました(笑)

ーーーカシュッ!


 風呂上りの乾いた喉が、小気味のいい開封音にその先の享楽を期待する。まぁ簡単に言うと、ひとっ風呂入ったあとのビールは格別というわけです。…それが地味に体内季節感がずれていたとしても。


「くぅー!やっぱ残暑を吹っ飛ばすにはビールねっ!」


「…勝手に人のビールを飲むなクソ姉貴」


 そう、キュートスではすすき(?)とか十五夜(?)がもうじき綺麗に映える時期なんだけど、こっちはまだ全然暑さ現役の九月だったりする。地軸のずれなのかなんなのか、こっちと向こうは実に一年に百日近い誤差がある。暦を確認すればわかるけど。


「まぁまぁ。もう一本開ければいいじゃない」


 千尋さんが宥める。なんという天使…千尋さんマジ天使。…ということで千尋さんが取ってくれたビールを再び開け、ようやく喉に爽快感を与えてやる。

 ここはリビング、時刻は夜の十時半過ぎ。オーバー二十歳組で団欒しているところだ。まぁ…はぶられているのは順子と翔太だけなのだが、翔太は赤ん坊らしくご就寝。順子は自室で試験勉強中だ。なんでもスポーツ特待で志望校に進学は問題なさそうなんだけど、受けた模試の結果が納得出来なかったらしい。兄貴辺りに似たのかなぁ…この準完璧主義。あまり出来がいい妹を持つと、片身が狭くなるから自重して貰いたい。主に僕とか姉貴とか。


「しかし、晶そんなに体締まってたっけか?生傷も多いし…つうか、どうしたその切り傷!?」


 今の僕の格好は上半身裸にバスタオルを首から掛け、下は…うん、一応寝巻き用のハーフパンツを履いている。あっ、そりゃ兄貴も目をひん剥くわけだな。


「あぁ、これはこないだ軍の遠征の時にちょこっとな」


 白夜に袈裟懸けに切られた時の傷を撫でてみる。あの時ココがやられたりダアトに行ったり、帰ってきたらマドラのおっさんがやられたりで自分の怪我をそうこうする余裕がなかったのだ。まぁ、あの痛みを忘れない為にちょうどいい傷だったりする。…流石に兄貴とか姉貴は白夜のことを覚えているだろうから、誰にやられたとは言えないけど。


「ちょっと…そんなに危ないの?向こうの兵隊さん…」


 流石に姉貴も心配になったようだ。そりゃ改めてこの派手な傷に触れたらそう思うだろうなぁ…能天気な姉貴でも。


「まぁ…でも、向こうでは優遇されてるから。一般兵の皆よりは安全だよ」


 ちょくちょく前線にでしゃばってるとは言えないけど。


「あっ、そう言えば」


 台所仕事が終わったお袋が輪に入る。本当に、家族総出の久しぶりの団欒だ。


「晶、こないだ総理から連絡があって、『親善大使の任務、ご苦労だった。今後も二つの世界の架け橋として活躍してくれる。ことを願う。君の口座に気持ち程度だが給金を振り込んでおいた、確認しておいてくれ』だって」


 お袋、別に声真似しなくてもよくね?似れるわけないんだから。


「総理からって…晶ちゃん、本当に何者なの…?」


 千尋さん、大丈夫っす、たぶんそちらに迷惑はかけないんで。


ーーーいや、フォローは口に出して言おう、主。


 だって、なんか何を言っても追い討ちになりそうで。千尋さん、常識人だから。この家の馬鹿どもと違って。


 神谷家の平穏な夜は更けていく………。




「なんじゃこりゃあああああああ!!!!」


 翌日お袋から聞いた総理の言葉が気になって、近くのコンビニの現金自動預け払い機で確認してみた。一十百千万十万百万…。


ーーー主。何も銃で腹を打たれたような声を出さなくても…。


 状況に気づき、視線をこちらに向けた他のお客さん及び店員さんに頭を下げる。


ーーーだって、いっ…一千万だぞ!?一千万だぞ!!?


ーーーおっくせんまん!おっくせん…アイタ!…すまん。


 いや、こないだ親父から貰った退職金だって目をひん剥いたのに、だって…えっ?ちょ…ごめん、思考が働かない。


ーーーふうむ。我は金銭という概念が全くわからんからな。勿論金銭という物の価値もだ。先日の玩具屋の値段のくだりは、全てノリでカバーした。


ーーーいや、そんなドヤ風味で言われても別に凄くはねぇし。


 まぁ…なんというか、ある意味扱いに困る金だな…。仕方ない、とりあえず翔太におもちゃでも買ってやるか。つうか、最早向こうの世界がメインになりつつあるから、下手すりゃこんな使い方しても一生こっちで暮らせる可能性あるしな。なら家族の為にとか使ってやる方が僕としても有意義な使い方というもんだ。まぁ、先ずはパチンコで一勝負だ。


ーーー主、これ以上無い散財するな…。


 ほっといてくれ。なんせ娑婆の空気は久しぶりなんだ。


ーーー…どこに収監されていたんだ主は…。


 それは…軍というある種の監獄に?




 あっというまに財布につっこんだ数万を無為に散らし、玩具屋に寄ってから神谷家に帰る。まだ乳幼児ということで声が出る絵本とその他教養玩具を買ってきてやったのだが、当の本人はおねむの時間だったようだ。今それを与えると間違いなく眠気が醒めてしまうので、起きてからのお楽しみにしてやることにする。今リビングの隣の客間で、千尋さんが本を読み聞かせてやっている。


「…晶、これはまだ早いんじゃないの?」


「うん…私もそう思う」


 姉貴と順子に言われてちょっと落ち込む。いや、音感は幼い頃の生育が大事なんだけどなぁ…。


「うん、まだ早いな」


 小さい鍵盤のおもちゃのピアノを弄りながら、兄貴まで女性陣に同意する。うーむ、兄貴にも理解して貰えないか…。


ーーー主は翔太に英才教育でも仕込む心算なのか…?


 はいはいわかったよ!僕が悪かったよ!…と、少し拗ねてみる。


「でも、ショウちゃん喜ぶと思うわよ?子供って、音が出るの好きだから」


「だろっ!?流石お袋わかってくれる!」


 …ほぅら見てみろ。ドヤ顔で、ふすまが開いた隙間から千尋さん達の様子を窺う。


「初めに、神は天地を創造された」


 いやいやいや!!ちょっと待て!?零歳児に創世記!?別にキリスト教徒じゃないよね!?僕の記憶が正しかったら!聖書とか確かに眠くなるかもしれないけど!…と言ったら、敬虔な教徒さんに怒られそうな気がするけど。


「地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた」


 …たぶん、物心ついてもしばらくは理解出来ないと思いますよ?そこらへんの単語の難しさは。…なんで昔話とか童話じゃないんだ…。ある意味昔話だけど…。千尋さんは常識人の枠じゃなかったのか…?


「神は言われた。「光あれ。」こうして、光があった」


「ひあい…あえ?」


 なん…だと…!?


「ショウちゃん!?もう一回言ってみて!!?」


 どうやら千尋さんが嬉しパニックになっている。いや、最初にしゃべるのはパパかママだと相場で決まってるだろ…。なんで聖書の一節なんだよ…。いや、脇から生まれて「天上天下唯我独尊」とか言わなかっただけマシだけどさ…。いや、違うだろ!まだ生後数ヶ月だぞ!?しゃべることがそもそも異常だって!!


「ひあり…あれ!ひあり!あえ!」


 ラ行発音しやがった。どうなってんだ…。


ーーー主…。


ーーーなんだ!?


 藁にも縋る思いでダービーに耳を傾ける。だってさ、この異常性に気づいてるの、何故か僕だけなんだもん…。


ーーー翔太…あやつ、光の属性持ちかもしれん。


 ………ホワッツ?


ーーーもしかしたらだが…あの子はゲートがこの付近に顕現したときは細胞分裂の真っ最中。そして、頻繁にそこを出入りする魔性を帯びた主…。もしかして、胎児の内に影響を強く受けた結果かもしれん。そして、あの子は泣かないだろう?普通の子と中身…魂の発育レベルが違うのやもしれぬな。


 何その独立属性のバーゲンセール。団長に僕に、翔太?稀代の才能なんじゃねぇの?独立属性って。


ーーーまぁ、主自身が規格外であるからな。


 酷く無いか?人外扱いか?


ーーー少なくとも今までの主を見る限り、最近は特に規格から外れておる。あっ、いい意味でだぞ?それで皆救われている所があるわけだし。


 いい意味って、便利な言葉だよね。フォローありがとうダービー。ちょっと布団で泣いてくる。

神谷家がチート仕様になっているのは気にしないで下さい。つうか、この子だけです。

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