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クリエーター  作者: 如月灰色
《第三章 楽園》
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~ダービー外伝~記憶旅行

ども、白カカオです。ウラヴェリア編が終わり、リクエストいただきましたダービーの外伝です。実はこのキャラ、ギャグではわりかし使い勝手いいけど、その他のところは意外に動かし辛い仕様になってます…それをどう動かすかがまた作者の楽しみでもあるんですけどね。では、箸休め程度ですがどうぞ。

「待ってよー!置いてかないでよー!」


 声が聞こえる。これは、主がノア=キーランスだった頃。これは神器戦争の最終末…ノアの最期の日だ。我の視点は今、ブレにブレている。ノアが足場の悪い、元石造りの街…今はただの瓦礫の山を逃げ惑っているからだ。ノアの数百メートル先には、同じく戦火から逃げるカイム、シーリカ、現ヘル・ブリングの精にして死霊の女王…ヘラが走っているはずだ。グレンはノアと並走、ココルはまだ幼児の為か遅れをとっている。


「ココル!走れ!追いつかれる!!」


「お兄ちゃっ…もう、足が痛いよ…!」


「っ!?ココル!!危なっ…」


 数メートル後ろを走る、ココルの頭上に戦いの地鳴りで瓦礫が崩れるのが見える。ちょうど下敷きになってしまうコースだが、認識に注意喚起が間に合わない。我にも、止める事が出来ない事態だ。


「お兄ちゃ…ノア…っ」


「「ココルぅーーーー!!!」」


 兄と主の名を叫び、瓦礫のカーテンにココルが埋まっていく。幸か不幸か、主とグレンの手前で瓦礫の雪崩が途切れる。二人の差し出した手は、届くことなく宙を掴んでいた。


「コ、ココル…ココル…!!」


 グレンがうわ言のように妹の名前を呟き、逃げる事も忘れ瓦礫を掻き分ける。主も忘我状態でグレンに倣う。


「馬鹿っ!!ココちゃんはもう助からないわ!それよりアンタ達が…ノアが逃げる事が大事よ!!」


 シーリカが超視覚で我らの様子を捉え、今にも活きている伝令を使い叫ぶ。


「駄目っ!私じゃ下級デビルクラスしか抑えられない…!あいつに…追いつかれる!!」


 ヘラがシーリカの伝令に、悲痛な声を乗せる。そうだ、主…ノアよ!!きゃつらの狙いは我…つまりお前だ!我がきゃつらの手に渡れば、世界は…。クッ!!ノアにこの声を届けられないのが歯痒い…!!


「グレン!ノア!!上っ!!!」


 カイムの叫びに二人が上を見ると、

大きな影が二人を飛び越えて着地した。漆黒の毛に覆われたそれは、醜悪な象のようであり、その傍らには、人狐のような男が立っていた。


「強欲ども…ベヒモス!マモン!!」


 グレンの怒号が傍で聞こえるが、ノアの体が動かない。正確には、恐怖で声帯が麻痺し、体が震えている。…どちらにしても、背には瓦礫の壁、仲間達と合流しようにも、ベヒモスとマモンが立ちはだかっている。


「あっ…あっ…」


「お前ら…よくも…よくも妹をーーー!!!」


 ………そして次の瞬間、ノアの意識が途切れた。


「ハッハッハッハ!!こっちはこの指環さえ手に入れれば後は…」


 ノアからの魔力供給が途絶え、遠くなる聴覚。最後に耳に入ったのは、マモンの高笑いだった。ノアは、不意打ちで入った神速のベヒモスの腕の払いに命を刈り取られた。




「ノアーーーーー!!!!」


 自分の叫び声で目が覚める。ダアトの件以来実体化する術を学んだ我は、眠りに就き、夢を見るようになった。実際のところ実体化には主の魔力に依存する為、したことはないのだが。と言うか、主がさせてくれない。


「ううん…パ○ス自重…」


 エリーと仲睦まじく眠っている主の声が、ここが現実の世界であることを教えてくれる。主、若干違うし…。


「いつもさせてくれないし、主が眠ってるなら勝手にしちゃうぞ☆」


 誰に聞かれているわけでもないが、あえて誤解されそうな言い方で実体化の許可を得る。いや、正確には得てはいないのだが。


「…ふぅ」


 起きた時に魔力量でどやされない程度に…マテリアルよりも薄く、半幽子体(アストラル)で実体化する。容姿の選択は、ナイ神父。今日は女体化する気分ではない。そもそも、女装趣味はない!断じてない!数日前のアレは…むしゃくしゃしてやった。今は反省していると言ったところか。…別にむしゃくしゃはしてなかったが。なんというか、ノリと勢いだ。


「月は…いつの世界も在り方は変わらないのだな…変わるのは、人のそれの見方か…」


 主がいつもするように、窓枠に腰をかけてみる。空には満月…とは言わないが、綺麗な月が輝いている。むぅ…意外と器用にバランスをとるのだな、主は。しかし、それがまた、主と自分の姿が重なって見えて悪い気はしない。


 月明かりに照らされ夜風を受ける。あの夢の後、ベヒモスとマモンは駆けつけたシーリカとカイム、ヘラがグレンに協力し退けられた。…あの、ウラヴェリア戦で主達が見せた、合体魔法の一種によって。その代償として、まだ幼いグレンはその魔力に体が耐え切れずに死亡。息子と娘を失ったエグソダス家は途絶えた。シーリカとカイムはそのまま世界に残り、精神的負荷がかかりすぎたヘラは、自身の魂を神器に封入…今に至る。詭弁を論ずる者(フィロソフィア)のあやつは、貴族階級であった為、最初から難を逃れた。実質…その戦争は初まりの者達の最後であった。


 いたたまれなくはなったが、その若干低いテンションの勢いで過去のマスター達に思いを馳せる。幾人もの人間が我を手にしてきたが、印象に残っている者は多くない。途中で、勝手に人間を見限り、心を閉ざしてしまったからだ。


 きちんと記憶にあるのは、その内二人だけ。グーラスとニーナ。


 …ニーナに関しては、これもきちんと覚えているかと言えば微妙なラインだ。なんせ、特等席を良い事にずっとおっぱい!おっぱい!状態だったからな。我に腕があったなら、きっとおなじみの腕の振りをしていたに違いない。…まぁ、傾国の美女ではあったし、悪い女子ではなかった。

 己の美の追求…それも、立派な純粋な思いだった。戦がなき時代ゆえ、我のことも装飾品程度にしか思っておらんかったし。流石に我が初めて声を発した時は心停止しかけるほど驚いていたが。

 彼女の死因は、心室細動。我をつけている時にうっかり、鏡の前で「時よ止まれ、汝はいかにも美しい」などと言ってしまったから、我の強力な魔力とこの有名なフレーズでメフィストフェレスを呼び寄せてしまい、止める間もなく魂を持っていかれてしまった。…哀れなのかなんなのか最早分からない死に様であったな。いや、不幸な事故という点では悲劇なのか。あまりの出来事に、我ですらその後暫く呆然としてしまった。…色んな意味で衝撃的なマスターではあった。


 グーラスは、王族の第三子であった。王族ということで散々我が儘し放題であったグーラスの思いは世界の全てを自分の手中に…。それもまた、グーラスの元来生のままの…つまり純粋な思いであった。実際、王族にしか持ち得ないカリスマ性とその行動力、また幼少時代に鍛えられた胆力は、世界の覇者になり得る器であった。…普通に人間だけを支配下に置くのであれば。

 時代は戦乱の世。その中で好き放題してきたグーラスは、自分に不可能はないと過信していたのであろう。実際、放蕩してはその先で勲功を上げるというやっかい極まりないスペックの高さも、グーラスの自信に繋がったのか。しかし、人間の世界だけの話であればだ。欲が出たグーラスは、亜人、魔物…幻獣種や神獣種までも支配下に置こうとした。途中までは確かに順調だった。だが油断する者にはいつかしっぺ返しが来るというもの。

 獣人族…現族長のあの人虎の男の前世、それもまた人虎であった。あの男との戦闘から、グーラスは落陽していった。タウルスとレオは離反、自身も満身創痍で痛み分けという憂き目に会い、その憂さ晴らしに更なる勲功をとその足で出向いたのが…緑竜。グーラスはよく戦った。何度もあの息吹を受け、ただでさえ満身創痍の体は腐食していき、しかし基礎は出来ているが出鱈目で、剣戟もも適当ながら鱗の隙間を通す繊細な技術というわけがわからない手腕でそれなりに善戦していた。…だが、それが限界だった。もしかしたら、万全であったなら遣り方次第で勝てたかもしれない。緑竜はそれをひっくるめていけ好かないと表現したのであろう。

 古代竜相手に一歩も引かない、むしろ神経を逆撫でするような憎たらしさ…。確かにグーラスの目的はエゴの塊ではあったが、その勇気と豪胆さは間違いなく勇者のそれであった。


 そして…。


「うーん…んあ?ダービー…起きてたのか…」


 この寝惚すけの現主…アキラ。我は確信する。この主が、我にとって最後の主になるであろうと。原始の世界…救う事が出来なかったノア=キーランスの生まれ変わりであるこの男が。


「ん…?ダービー…?ナイ神父…?…っておい!!お前勝手に実体化しやがって!」


「んー…アキラ…駄目だよこんなところで…恥ずかしいよ…」


「お前はどんな夢見てんだエリー!!?」


「…ップ!クク…」


 これほど愉快な主は見たことがない。これほど心から笑える世界を見たことがない。


「何笑ってんだダービー!」


「いや、アキラが出兵するときは眠れなくなるのに、ツッコミだと寝続けられるエリーが器用だなと思ってだな…」


「まぁ…たしかに」


 ウラヴェリア討伐から数日…。主も今は普段通りに眠れるようになった。当初は原始で救えなかったもう一人の子…ココの敵討ちを成し遂げ、その神経の昂りでセルフコントロールが利かずに不眠気味に陥っていたが、この通りだ。調子を取り戻した途端…この有様だ。半身を起こす主。布団から出た主の上半身は裸…隣にいるのはエリー、つまり、そういうことである。全く、元気なものだ。まぁ英雄色を好むという位であるし、別に止めはせんが…。


「…主」


「なんだ?」


「お楽しみの時は、我とのチャンネルを閉じる事を推奨する」


 主の顔に、さっと赤みが差す。ワナワナと震えている気がするが、普段は我が散々いじり倒されておるのだ。珠にはこのような意趣返しも許されるてあろう?


「エリーも色っぽいいい声で泣くようになったな?二回目の契りでこれほどとは…。あの主と出逢ったころの乳臭さ残るあの娘とは思えない程の成長っぷりだ。これも主のあの執拗な攻勢の賜物か…もしくはエリーに元々素質があったか…。いずれにせよ、主の開発があってこそ!日本男児として、誇っていいところだぞ?しかし優れた戦の才を持つ者は、ベッドの上でも…アダダダダ!!!」


「お前は人の情事を出歯亀しといて!冷静に批評するな!!」


 我が半幽子体であることを見抜いたのか主は、我にでなく本体の指環に攻撃をしてきた。輝くトラペゾヘドロンの切っ先で、器用に水晶と溝の境目をガリガリ削ってくる。見事…敵の弱点を確実に突くその手腕は確かに見事なのだが…。


「イダダダダ!!しっ!しかし主!あの中盤の展開は、主の同郷、ファルコン・カトーの…」


「まだ続けるか!!」


「止めて!止めてくれ主!我が悪かった!!出ちゃう!!!そんなにグリグリされると出ちゃうのぉぉぉぉーーー!!!!」


「何がだ!!それに、最後女体化ヴァージョンで言うの止めれ」


「魔力が!!魔力が溢れてくりゅぅぅぅぅ!!!」


「…それは悪かった。洒落にならん」


 …ふぅ。ようやく止めてくれた。しかし、こんなにも穏やかなひと時は久しぶりだ。我が守ってやろう。主の平穏を。…主が創造主の元に辿り着く、その日まで。

ということで、外伝というよりただのダービーサイドのお話になってしまった…ごめんなさい!話が段々と逸れていって…結局いつも通りな感じにorz

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