~第四十九話~罪と罰《後編》
お久しぶりです、白カカオです。この休載していた間、英気とそれを倍するストレスを蓄え復活しました!…溜め込むなし。まぁいいこともあったんで、それを糧に頑張ります。ウラヴェリア編最終話から、どうぞ!…一ヶ月以上かかったなぁ…、この話。
グレンの魔力が込められ、神剣レーヴァテインが実装モードに移り変わる。柄はそのままに、鍔に当たるところは大きく広げた不死鳥の翼。その刃は本体と区別が出来かねるくらいに神気の炎を纏わせている。つうか、気の上がり方がヤバイ。たぶんこの炎は、ソドムとゴモラを一晩で焼き尽くした神の炎と同種なのだろう。…どちらの神さんかは知らんけど。
「マジチートだな、その剣…。グレン、オーバーキルもすっきりするけど、じっくり楽しむのもまたいいぞ?僕も結構楽しんだし」
「…復讐に愉悦はいらないんじゃなかったのか?アキラ…」
「待って!私にも…やらせて。一撃でいいから」
珍しくシーリカが前に出る。決して派手ではないが、こちらも圧倒的存在感を持つ鉄扇だ。ある程度以上高位からの武器は、持ち主を選ぶ。それこそ、ダービーのように意識があるかのように。そのシーリカの鉄扇…五火七禽扇も、シーリカ以外の者だと持つ事すらままならないのではないだろうか。扇は扇でも、鉄扇は重いのだ。
ーーーゴギャッ!ヌチャッ…バギッ!!
…一撃でなく二撃与えやがった。しかもご丁寧に頭部と胸部に一発ずつ。この場合、ご丁寧にというか、明確な殺意を持ってか?元々シーリカの五火七禽扇は、風による衝撃波や気圧の変化を重視して戦う武器だ。勿論桁違いに物理も強いが、大体は衝撃波、かまいたちでの攻撃を好む。シーリカとしては、浄化や本来の姿でダメージを与えないように…且つ手応えがダイレクトに伝わる物理攻撃を選んだんだろう。エゲツな…頭蓋を砕き脳漿が飛散する感触なんて、よほど…と思ったけど、少なくとも僕らはその『よほど』の殺意をこいつに持ってるんだったな。頭の鼻から右上半分を叩き潰され中身を露呈し、尚ウラヴェリアは虫の息で生きている。ホント…よう生きてるよ、こいつも。死んでる方が数倍楽なのにな。
「とか言いつつ、伯爵に生命維持魔法をかけてる主も、かなりいい趣味してると思うわよ?それに、少しずつ痛覚神経に強化かけてたり、露出した脳にコレ幸いと、直接感覚遅延の魔法かけてる辺り相当外道よ?」
うっ…離れていてもさすがは僕の半身。全てお見通しなわけだ。
「…カイム。お前はどうなんだ?」
完全にマッドな僕を無視し、グレンがカイムに振る。コノヤロウ…。
「俺はこれだけでいいよ。ここに来るまで結構楽しんだし」
…とか爽やか笑顔しつつ、皮膚という防壁が剥がれた組織に、これでもかという位濃硫酸や水酸化ナトリウムの溶液をかけまくる。あーあ、溶けてるし煙出てるぞ、コレ。つうか、混ぜるな危険じゃなかったか?酸とアルカリ。まぁここにそれで害されるようなヤワな連中はいないけどさ。
「なぁ…そろそろ…」
「あぁ…」
唐突に子供達の残虐な遊戯が終わり、静寂が訪れる。
「貴方の場合、私達みんなのお膳立てが必要でしょ?」
「あぁ。最後はみんなで一緒に…だ」
「とか言って、手を下すのはグレンなんだけどね」
お互い、ケリのつけかたはもう決めている。僕も、記憶は無いが感覚がそれを教える。誰ともなく、頭の先からフルボッコにされて最早どうなっているかわからないウラヴェリアを中心に、四方に収まる。僕が西に立つ以外は、先ほどの攻略の時と同じ方位だ。
「我は水…全てを受け入れ、全ての始まりと終わりの器なり」
カイムがマナの壷を胸に抱き、静かに朗々と詠う。
「我は風…理を運び、想いを届け、水面に波紋を作りし真理」
シーリカが五火七禽扇を掲げ、大仰に続ける。
「…我は土。波紋を受け入れ、それが形作るはヒト…神の似姿」
僕もいつの間にか輝くトラペゾヘドロンを地に突き刺し、目を閉じて二人の言の葉を繋げる。
「我は火。地より受けし熱き滾りを、御心のままに顕現する紅き空なり」
ーーーアオオオオォォォーーーー!!!
グレンのレーヴァテインから放たれた不死鳥が、僕らの頭上を旋回する。辺りを照らすのは戦火の残り火と輝く月。そして不死鳥の翼の炎。目を開けると、いつしか皆目から涙を零していた。あの、カイムもだ。
「ウラヴェリア…お前は奪うものを間違えた…。俺の命なら、紅蓮の業火に焼かれずに済んだものを…」
「それは違うよグレン。例えアレがココじゃなくてお前でも、俺らは同じ手段に出ていたよ」
「それに…これが決定されていた運命…私は…私の中の隠者は、こんな未来を見たくて、表舞台に出てきたんじゃないのに…」
「グレン…終わらそう?ココの為に、僕らの為に!」
「…あぁ!!」
グレンの決意と共に、不死鳥がウラヴェリアの上に止まる。直接癒しの炎に焼かれ、闇の住人は苦悶のうめき声を上げる。
「ウラヴェリア…真祖の吸血鬼、ウラヴェリア伯爵よ。貴様はこの地で永久に己の罪を悔やみ、そしてその大きさと煉獄の炎の熱さにもがくがいい」
グレンの宣言が終わり、僕ら四人は同じタイミングで息を吸う。
「聖なる炎、浄化の炎…」
「「「「クリス・クロス」」」」
不死鳥の炎圧が上がり、ウラヴェリアに断末魔を上げる暇も与えず巨大な一本の火柱が上がった。中空で十字が輝くそれは、まさに『聖なる十字架』だ。グレンの宣言どおりそれは、永遠にこの地で炎を上げ続けるだろう。ココというか弱い命の火が、いつまでも絶えないようにと。
「アキラ…おかえり」
全てを終わらせ行きと同じく特急でキュートスに帰って来て、窓からこっそり入ろうとした僕を迎えたのは、何故か僕の自室にいるエリーだった。…まぁもう明け方近くだけどさ。
「…起きてたのか?」
「うん…アキラ達が戦ってると思うと、寝られなくて」
「…つうか、知ってたのか」
「うん…なんとなく、そうかなぁって…」
フリーズしているわけにもいかず、しょうがなく窓枠に足を掛けて中に入る。降り立った途端、エリーが抱きついてきた。
「血の…匂い…」
「あぁ、相当切ってきたからなぁ…」
「でも…」
「うんっ?」
エリーが僕を見上げる。その目が若干赤いのは、寝不足だろうか。
「帰ってきた…ココちゃんの仇を討って、帰ってきた…」
…なんだ、大体お見通しなわけだ。その内…そう遠くない未来、エリーには敵わなくなる気がする。
「未来…か…」
「うん?」
「なんでもないっ」
誤魔化すように、エリーの頭をわしゃわしゃ撫でる。シーリカは決定付けられた運命とか言ってたけど、僕にはそんなのわからないし。もしかして、また誰か大事な人を失う未来に繋がっているかもしれないけど…この娘だけは…エリーだけは、命に代えても護ってやる。それに、どんな分岐をしようとも、エリーといる『今』だけは変わらない。だから…抱きしめよう。この、精一杯の幸せを。
「大丈夫…僕は、エリーを残して遠くになんか行かないから」
「うん…」
「エリー…」
もう一度、エリーを抱く力を強める。鼻腔に、エリーの甘い香りが広がる。昂ってんのか?自重しろ、僕の分身!…つうか、下半身。
ーーー主、エレクチオンして…
五月蝿い。言うな。台無しだ。…しかし、ダービーもいつも通りに戻ったみたいだな。
「エリー、ただいま」
「…おかえりっ!アキラ!」
…なんとなく締まったようで締まってないけど、僕の過去を受け入れ、過去と決別する長い戦いは、ようやく一段落ついた。
…クソッ。シモさえ反応しなければ綺麗に終わったのに!
これにて、ウラヴェリア編終了です。お付き合いありがとうございました。つうか、二週間近くの間見捨てずにいていただいて本当にありがとうございます。これからは、しばらく日常系の話を書いていこうかと思います。