~第四十八話~罪と罰《前編》
どもにちわ、白カカオです。前回の最後の方について…。本当はもっとあっさり各々の武具を宣言するはずでしたが、斬○刀の始解みたいになってしまいそうで止めました(笑)…という、しょうもない裏話でした。
血の匂いが漂う廊下を抜け、正面の重厚な扉を律儀にも静かに開ける。呼吸音すらしない、静寂の暗闇。ベッドには、目当ての敵が無防備に眠っていた。否、仮死状態で横たわっていた。この状態になった吸血鬼は、大抵のことで起きることはない。現に、外で派手な戦闘音がするにも拘らずこの有様だ。ウラヴェリアの腕と足を、特殊な呪法を施した包帯でベッドに縛る。元々怪我人の応急処置用のアイテムなんだけど、吸血鬼とか『魔』を冠する者にはそのままダメージになるという効果がある。まぁ、聖水とかと一緒だね。
「…おい」
わかっていたけど、起きない。意識のないままサクッといっちゃうのもありといえばありなんだけど、ここは自分の置かれた状況に慌てふためくこいつの姿も見ておきたい。どんな表情するんだろうなぁ…。一度退けた敵が、自分を遥かに上回る神気を持って自分に復讐しに来たとわかったときのこいつは。…こいつには、恐怖を以って制裁してやらないことには済まない。
「ダービー」
「承知」
流石、相棒はわかってくれてる。…内心迎合はしてないんだろうけど。トラペゾヘドロンを床に突き刺し、ヨグ=ソトースの時と同じように指環を柄に押し付ける。元々、この武具…この物質は、ナイアルラトホテップを任意に召喚する為に必要な物だ。これで最上位近い神性の魔素を当ててやり、とりあえずその次元の違いに恐怖してもらうという寸法だ。
「輝くトラペゾヘドロンの導きにより、汝が存在を証明せよ。『暗黒神』…『這い寄る混沌』よ」
僕の詠唱が終わると同時にベッドの下から、周りの空気から高濃度の魔素が収束していく。混沌が、這い寄る。
「っ!?なんだ!!?何なんだ!これは!!っ貴様は!!」
「よぉ。真祖にして最も不死に近き吸血鬼よ。今日は軍を指揮していたアキラじゃなくて、大事な人をお前に殺られて怒り猛った復讐者として来てやったぜ」
「大事な人…あぁ、あの娘か。お前の恋人の血は、格別に美味かったぞ」
「…別にココは彼女じゃねぇよ。彼女じゃねぇけど…大切な仲間だ。つうか、お前わかってないのか?このお前を遥かに上回る魔素を持つこの…ってアレ?そこのお前…ダービー?」
さっき魔素が収束していた辺りに、妖艶な女が佇んでいた。その背中には、漆黒の翼。額には、第三の目というべきものが浮かんでいる。あれは…邪眼か?
「あら、主、我がわからなくて?ふふ…貴方がご存知の、ダービーよ。この姿のことなら、別に不思議じゃないわ。我は無貌の神。こんな血の香りが煙る闇夜に、謎の美女。なかなかオツなもんじゃない?まぁ…翼とおでこの目は、トラペゾヘドロンで召喚されたときのデフォルトなんだけど」
…意外とノリノリだな。つうか…。
「そんな、声まで変わってる…」
「ナ○ミよ」
「いつのエステのコマーシャルだ!!今の子供達はわからんだろう!!つうか貴様ら!!私を置き去りになにコントなぞ始めている!!」
「…うっせぇよ。あまり調子こくな」
ーーーズダン!!
「っ!?ギャアアアアーーー!!!!」
ベッドに括りつけた左腕を、大剣を突き立て切断する。肩口から、大量の血が吹き出る。本来なら再生も出来るのだろうが、この大剣はただの剣なわけはなく。外宇宙からの特別な呪法が組み込まれた作用で、もう腕が生えてくることはない。別次元にポツンと浮かぶウネウネ再生する腕とか…シュールだな。
「五月蝿い。騒ぐな喚くな囀るな。お前の生殺与奪の権利は、僕が持っていることを忘れるな。騒がしいから、もう一本も切り落としてやろうか」
ーーーズダンッッ!!
同様に右腕も根元から切り伏せる。今度は声を上げることもしなかった。…どうせ、後で始末されんのにな。
「クックック…アーハッハッハッハ!!」
もがき苦しむ怨敵の姿に、醜く歪んだ愉悦が溢れる。お前はまだ生きてるんだろう?生きてるから痛くて苦しいんだろう?…ココは、それすらもう感じれないんだよ。生きてるお前は、なるべく長くその責め苦に苛まれるがいい。
「くっ…ヘル・ブリングは…あの女はどうした?」
「あぁ?知らねぇよ。僕らが来た時は居なかったからな。そんなにあの女に会いたいか?安心しろ。割とすぐお前のとこに向かわせてやるから」
「あら?我は最初からここに居るわよ?」
天井の方…虚空に、女の声が聞こえた。間違いない。白夜の傍にいた、あの女の声だ。
「ヘル・ブリング…貴様…」
「ごめんなさいね、伯爵。我も、この坊や達と同類だから、こんなとこで死ぬわけにはいかないの。…勿論、我の拠り代…マスターもね」
「…おい、女。白夜は何処にいる?」
どこにいるかはわからないが、その気配のする方向に睨みを利かせる。倒すべき敵が…図らずともここに二人揃ったわけだ。マドラのおっさんの仇が。
「そんなこと言うはずがないじゃなーい。だって教えたら、貴方マスターを殺りにくるでしょう?酷い人よねぇ。マスターは、今でもきっと貴方を友達だと思ってるのに。あのオジさんの一撃で深い眠りについてる今でも、きっと貴方のことも夢に見てるわよ」
「…関係ねぇよ。あいつも、僕の大事な家族に手をかけた。倒すべき敵なんだよ」
「ふーん。まぁ…それは置いといて。伯爵?貴方には一応感謝を言うわ。右も左もわからないマスターを、一時でも囲ってくれてありがとう。我のマスターは、そういう義理は忘れないから」
「…ふんっ!こういうときに救援に来れないなんて、使えない男だったがな」
ーーーキィィン!!
「ぐっ!!」
金属音と共に、ウラヴェリアの右足が弾けた。
「もう少しだけ長生きしたければ、我のマスターを愚弄しないことね」
「ヘル・ブリング…」
ダービーが、呻くように声を絞り出す。女声だから、若干聞きなれない。
「あら、ヘブンズ・ゲート…。その姿は止めてって言ったでしょう?キャラが被るから」
「もう…止めはせぬか?『鍵』…あの娘が死んで、何も思わなかったのか?お主だって、昔はあの子とよく…」
「…くだらない昔話も止めて」
今のところで何が凄いって、女版ダービーの普段のダービー口調でも、全く違和感がないということだ。…なんか、もっと大事なことを右から左してしまった気がするけど。
「いつまでそう意地を張ってるのだ?ヘル・ブリング…『死霊の女王』よ」
「「「っ!?」」」
ウラヴェリアと僕の驚愕と、女の苦虫を潰したかのような雰囲気が同時に広がる。
「待て、貴様、あの…初まりの者達の…私は、なんて…」
「本当か?ダービー」
「このタイミングで、嘘を言うわけなかろう」
「その名ももう捨てたって、言ったよねぇ!?…それに、アンタに何が分かる!!ヘブンズ・ゲートォ!!…いいわ!どっちにしろ、私達はいずれまた戦場でまみえるでしょうから。せいぜい我のマスターに殺られないように精進することね、キーランス!…ヘブンズ・ゲート…」
女は言い残すと、再び闇に気配を消した。
「さて…とっ」
あいつを仕留められないのは悔しいが、当面の目的はこいつだ。眼下には、左足一本だけふざけたようにくっついているウラヴェリアの姿がある。
「馬鹿な…あの女…初まりの者達…こいつらも、あの小娘も…殺される…間違いなく殺される…私は…私はなんて相手を敵に…殺される…」
恐慌状態に陥り顔面蒼白で震える吸血鬼。はっきり言って、目障りだし耳障りだし、油断するとうっかり捻り殺してしまいそうな位憎い。だけど、今それをしてしまうのは馬鹿のやることだ。私闘でもあるがこれはグレンを立てる作戦でもあるんだ。
「…五月蝿い言ったろ?」
即座に残った足を切断する。今更だけど、失血死されても困るから止血だけはしてやる。そもそも吸血鬼が失血死ってのも皮肉だが。
「ハハハ!!ダルマってやつリアルに初めて見たよ!来い。つうか引きずってでも連れてってやるよ」
もう用済みの手足の包帯を解き、今度はタスキ掛けにウラヴェリアに巻きつけ、宣言通り引きずって城の外に出る。
「クックック…アーハッハッハ!!」
ただ、突然笑いがこみ上げてきた。何故かはわからない。さっきと同じ泣き笑いなんだけど、おそらく何かが違うのだろう。外に出るまでの間、ずっと僕は狂ったように泣き笑いを止められなかった。
「連れて…きたのね」
「アキラ…いいのか?お前だって、こいつにトドメ差したいだろうに」
「大丈夫。僕は充分こいつで遊ばせて貰ったから。つうかなんだよお前ら、さっきの絶叫は?どこのヒーロー物だ」
「アハハ!俺も同じこと思ってたところだよ」
簀巻きをフルシカトして薄い談笑をする僕ら。もうこいつに足元を掬われることは、まずないだろう。
「そして何なんだ。お前らの装備。そんなチート品ばっか持ちやがって」
「まぁ…俺もこの剣は覚醒後にやっと持てるようになったからな。この最上位の剣」
「てゆーか、アキラには言われたくないわよ」
「アハハハ!!」
「さて…始めるか。ココを奪った大罪人の断罪を。グレン…この許されざる咎人を、煉獄の炎で焼き尽くしてやれ。これは…僕らみんなの願いだ」
「あぁ…サンキュ」
一度、消えてしまいました、この話。じゃなきゃ昨日のうちに投稿出来たのに…orz構想も微妙に変わってしまったし。いやぁ…なんとか、次で終わります。