~第四話~キュートス国、二日目
今日は会社休ませてもらいました。なんとかならんかねぇこの虚弱体質…
さて、カオスな宴から一夜。今僕は城の執務室の一角を間借りさせてもらってる。大臣のマリオンさんも一緒に。ようはこの世界についてご教授して貰ってるところだ。
「アキラ君、アストラル界について説明させてもらいますぞ。アストラル界は三つの階層にわかれております。正確には三つの星に分かれておるっと言ったほうが正しいかの」
「三つ…ですか?」
「左様。まずは我々エルフ族などの亜人や魔獣が住む、通称半マテリアル界。アキラ様が住むマテリアル界の物理法則の大半が適応される為にそう呼称されておりますのじゃ。ちなみにマテリアル界の地球と似た世界…海と大陸にわかれております。しかし大陸はたった一つ。エルフ族やドワーフ、妖精やホビットなど比較的善良な亜人が住むセラス地方と、ゴブリンやコボルト、オークにオーガ、レイス等の邪悪な者どもが住むギラン地方。二つの地方は大陸を隔てるガラリオン山脈で分けられております」
大臣が地図を開きながら説明してくれる。地図には歪な海岸線に囲まれた正方形に近い形の大陸。それが真ん中で広大な山脈にわけられている。南側がセラス地方。こちらは平原や森が多く、そのセラス地方の真ん中やや下にキュートス国が位置している。その南東に小さめな森が隣接していて、恐らくあのゲートがあったのはこの境目辺りだろう。他にも国とか集落とかが点在しているが、僕にこっちの国の言葉は読めない。対照的にギラン地方は山岳や沼地が多く、明らかに住むのには適していない。
「でも、この山脈完全には横断してませんよね?」
そう。東端と西端が僅かながら山脈が途切れている。
「そう、そこなのですじゃ。そこはリザードマンや獣人族が多く暮らしておる所なのじゃが、ギラン側からの侵攻にたびたびさらされております。彼らが度々凶暴な種族に見られるのは、ギラン側の影響を受けやすいという理由もままあるのじゃ」
…ということで、こちらの世界もちゃんときな臭い感じがプンプンするようで。もう僕は巻き込まれないように祈るばかりで…無理だろうな。なんかそういう悪い予感がビンビンしてる。悪い予感ほど当たるよね。うーん…こっちの世界との関わり方もちょっと考えないといかんかもな。
「そして残りの星は、天界と魔界。まぁわかりやすく言うと天国と地獄じゃ。こちらは完全なアストラル界で、霊的、または精神的なもので構成される世界じゃ。こちらの解説は…まぁ追々話そうかの」
ということで、ひとまずこっちの世界…半マテリアル界のことはだいたいわかった。ちなみにセラスとギランの争い事関係についてちょっと聞いたが、山脈を越えたり迂回したり、ちょいちょいこちら側に攻めてきてるらしい。この国からも、軍を派遣したりして応戦してるらしい。ますます持って不安なんだが。ただでさえも特異な属性持ってるらしいし。
「さて、いったんお昼にしましょうかの?昼食の時に王女様方が街を案内したいと申しておりましたので、ごゆるりと楽しんでくだされ」
なんか至れり尽くせりで申し訳ない。…が、僕もこっちの貨幣とか勿論持ってないので甘えることにする。執務室に迎えに来た王女様と王子様は、昨日と違い割とカジュアルな服装をしていた。それでも何か雰囲気が違うのは、やっぱり王族効果なのだろうか。
「ほら、アキラ。早く行こうよっ」
僕の腕をグイグイと引っぱるエリー。なんでこんなになついてくれてるんだろう、この子は。
城下町はやっぱり賑やかで、見ていてこっちまで元気が貰えるようだ。自然と笑顔になる。
「あら、エリーちゃん。皆でお出かけかい?おや?そちらさんは…」
城から出て数百メートルといったところで、恰幅のいいおばちゃんがエリーに話しかける。
「はい。ある事情で昨日マテリアルから来た、アキラ様です。今日は是非我が国の街並みを見て貰いたくてご同行してもらってます」
セリーヌが先んじて説明する。長女らしい、落ち着いた声つきだ。昨日のアレは忘れてあげたほうがいいのだろうか?
「おやおや、それはご苦労様だねぇ。アキラさんと言ったかい。何か食べて行くかい?」
普通は異世界人って多少は怖いもんではなかろうか。おばちゃんの豪気な笑顔にこっちが驚いた。
「よろしければ是非…でも」
「でも、なんだい?」
「怖くないんですか?異世界のよくわからん人種の人間と接するの」
実際、僕は少し怖かった。本とかでイメージはあったが、事実はわからないものだ。僕の世界の本は、あくまで創作やイメージってだけだし。それに、人は自分たちと異なるものは排除しようとする心理も働く。所詮僕はここでは、異端なのだ。
「やだねぇ。今朝、ベインが来て言っていたよ。素晴らしい友人が出来たって。たぶん君のことじゃないかねぇ。あんなに楽しそうなベインは久しぶりに見たよ。それにエリーちゃんのお気に入りなら、悪い人間なわけないさね。さぁさ、座った座った」
「あっ…ありがとう…ございます」
予想外にかけられた温かい言葉に、不覚にも胸を打たれた。オープンカフェのように外に配置されたテーブルに座り、おばちゃんが腕によりをかけたという食事を口にする。
「やっぱりカレンおばさまのご飯はいつ来ても美味しいわね」
「うん…家庭の味ってこういうものなのかもな」
「アキラ、美味しい?」
王女様三人が思い思い口にしながら食事を頬張る。あくまで、上品に。
「あぁ…すごく美味しい」
「良かった。アキラ君も少しはこの国を気に入って貰えたかな?」
僕の隣で食べている、アレン王子がニコニコしながらこちらに顔を向ける。穏やかな、本当に優しげな笑顔だ。
「えぇ。ありがとうございます。こんな、異邦人の僕に優しくして貰って…正直、少し離れがたくなってます」
温かい食事に温かい人達。こんないい国他にはないと思う。世界がこんなに優しい所ばかりだったら、どれだけ幸福なことか。
「おや、アレン王子様。先の先遣隊、誠にお疲れ様でございました」
鎧に身を包んだ、いかつい兵士が王子に話しかける。胸当てに綺麗な装飾をしていることから、もしかしたら騎士かもしれない。
「いえ、簡単な任務でしたから。次週の遠征もまた、よろしくお願いします」
王子が爽やかに会釈すると、騎士は低頭して辞した。
「アレン王子。先遣隊、遠征って…?」
「あぁ、王国騎士団ですよ。先日ギラン側からの襲撃があった、山脈の麓の村へね」
「アレン兄さんはね、騎士団の部隊長さんなんだよっ」
「エリー…部隊長じゃない。正確には小隊長」
「でも、アレン兄様はよくやってらっしゃいますわ」
「王子が軍に出るほど…戦況は酷いんですか?」
アレン王子はキュートス王家の唯一の息子だ。もし何かあったら、それこそ国の一大事だ。その王子が戦場にでなければいけないほど、芳しくないのだろうか。こんな優しげな王子が戦場に立つ姿など、出来れば想像したくない。
「いや、キュートス家は必ずしも男系で世襲しているわけではないからね。もし僕に何かあっても、大したことではないよ。戦況は、可も無く不可もなくってところでしょうか。油断はできませんが」
「何かあったらなどと、縁起でもないこと言わないでください!」
ディーン王女が突然声を張る。怒声に近いそれに、僕と王子が一瞬固まる。
「ほらほらディーン、そんなに大きな声出さないの。ごめんなさいね、アキラ様。この子ったらいつまでも兄様離れできなくて」
「い、いえ…」
実際、物静かなディーンの意外な一面に驚いたが、本当にこの兄弟は仲がいいんだろう。見ていて微笑ましくなってくる。いや、ウチも仲悪くはないんだけど。
この国に対する情を深めてしまった昼食後、僕は再び執務室へ。
「お昼は楽しんでいただけましたかな?」
「えぇ。とても有意義に過ごせました」
「それはなにより。では、午後からは魔法について少し。昨日おわかりの通り、アキラ様は土と時の魔法属性をお持ちです。魔法とは魔力…つまり己、もしくは周囲の魔素を練成して顕現する力です」
向こうの世界では好んでそういった作品に触れていたので、大体のイメージはつく。
「そこで必要なのは精神力と想像力。基本的にそれだけです」
「えっ…それだけ?」
意外と単純なそれに、思わず拍子抜けしてしまう。
「えぇ。それだけです。詠唱もとくに必要ありません。ただ、一部の召喚魔法等は、召喚するための魔導的なチャンネルを開く為に多少の詠唱と、多大な精神力が必要になりますが。中には、好んで詠唱を行う者もおりますが、いわば集中する為の個人的な儀式のようなものですな」
なるほど…なんとなくわかったような…たぶん。
「アキラ様の土属性の場合、例えば回復魔法ですな。その場合、怪我などはそれが完治した状態を思い浮かべてその部分にアキラ様の魔力を送り込めばいい。それだけです。実際の体内組織のイメージまで出来れば完璧でしょうな」
ぬ…精度が高い魔法には、それなりの知識が必要ってわけだ。ゲームで高度な魔法ほど中盤以降にならないと覚えられない理由がなんとなくわかった。
「実際やってみるのが一番わかり易いでしょう」
そう言うと、大臣は懐から出したナイフで軽く自分の手の甲に傷をつける。薄皮が裂けただけだが、うっすら血が滲んでいる。
「ちょっ!何やってんすか!?」
「さぁアキラ様、早く。わしの属性は雷ゆえ、自分で回復は出来ませぬ」
意外な行動にテンパるが、なんとか落ち着かないと。
「そうじゃ。大事なことは先ず落ち着く事。そして、イメージじゃ」
深呼吸して、大臣の傷を凝視する。そして、傷が治っていく、イメージ。
「手をかざしてくだされ。アキラ様の手から、魔力が伝わるイメージ。そして、傷を癒すイメージを」
言われた通りに手をかざす。手から温かい何かが放出され、大臣の傷口が徐々に小さくなっていく。完全に塞がるのを確認すると、ドッと疲れが押し寄せるのがわかった。
「初めてでこれは大したもんですじゃ。まぁ、アキラ様ならお出来になると信じておったがのう」
カッカと笑う大臣。このジジイ、Mっ気でもあんじゃねぇか?
「疲れたであろう?しかしいずれ慣れますゆえ安心してくだされ。もしかしたら、時の属性を持つアキラ様なら、もっと高度な回復魔法も編み出せるかもしれないのう。それも、我々の理解よりもっと高みにある…」
「いや、買い被りすぎですよ、大臣」
でも、おかげで魔法を行使する方法は大体わかった。
「しかしアキラ様。アキラ様の世界には魔法という概念はありませぬ。概念とは理。魔力という概念が存在しない世界では、魔法は使えませぬゆえ、お気をつけくだされ」
勿論。向こうで魔法なんか使ったら何を言われるか、何をされるかわからん。つうか、黄色い救急車呼ばれんだろうなぁ。
「ただ、ゲートを開いてこちらに働きかけるようなことは可能じゃ。特定の場所で魔力を行使すればゲートが開きます。例えば、アキラ様とリーナス様がお会いになった所。あそこがそうじゃ。さきほども申し上げたとおり、イメージじゃ。そちらとこちらをゲートで繋ぐという、イメージ」
なるほど。こちらにはまた来ることもあろう。そのときに自分の意思で来れるというのは助かる。
「ときに大臣…この指輪、向こうでは結構不便なんですけど…なんとかなりませんか?」
「…なんともなりませんなぁ」
二人で苦笑するしかなかった。
一段落ついたところで、一旦もとの世界に帰ることにする。時間は留めてあるけど、これ以上今こっちにいたら、向こうに帰った時に感覚が麻痺してそうで怖い。自分の世界での日常、こっちの世界の人情や戦が起きているという事実。自分の秘められた力…考えたらキリがなさそうだが、とにかく受けた温かな好意に少しでも報いられたらと思う。そして幸か不幸か僕には非凡な力が備わっている…らしい。否が応にも巻き込まれそうな、もはや確信がある。マテリアル界とエーテル界。関わりはまだ始まったばかりで不透明だけど、なんか自分も大きく関与しそうで溜息が出た。僕、普通のサラリーマンだったよなぁ?言葉にして、一応確認してみた。
さて、PVアクセス200突破とユニークも60越え、本当にありがとうございます。なんか半端な所でのご挨拶になりましたが、たくさんの人が見てくれているという実感で、いやはやなんとも。これからもよろしくお願いします。あっ、ご意見とう遠慮せずにドンドンください。読みづらいでもつまんないでも氏ねでもなんでも喜んで受け付けます。…ではではまた次話で。