~第四十四話~後始末《中編》
お久しぶりです。白カカオです。二日連続で座椅子で寝るハメになるとは…すいませんorzしかも寝落ちしやがった分際で、姿勢のせいで全然疲れが取れてません。あー…感覚狂う…。梅酒、うめぇ。
「ダービー。そろそろ話してくれていいんじゃないか?日中言ってた、『初まりの者達』ってやつらのこと」
最早習慣となった寝煙草をふかしながら、ダービーに話しかける。目の前の中空が、紫煙に白く濁る。
「うむ…まずは何から話そう…。初まりの者達とは、この世界の原初の世代より魂の連綿を連ねておる、またはその魂が変位するとこなく生きてきた者のことだ」
「つまり、初まりとは原初の世界から今までの魂の系譜というものか」
すげぇ、因縁濃そうだな。
「大体そうだ。今の所、器を変えない…つまり原初の頃のままの姿で今を生きているのを確認出来ておるのは『金色の守人』と、『隠者』のみ」
「金色?隠者?」
「二つ名のようなものだ。そして二人とも主のすぐ傍におる。カイムとシーリカがそうだ」
「おいっ…」
急展開過ぎて言葉が続かない。あの二人が…えっ?
「ちなみに、『煉獄育ち』のグレンはちょうど目が覚めたところじゃないか?」
「…何モンだ、あいつら…」
「主だってノアの始祖の転生体のくせに…」
…僕には全くその、ノア=キーランス時代の記憶がないから、ノーコメントで。それに、僕は僕だ。他の誰でもない。足で反動をつけて起き、灰皿に煙草をにじり消す。ついでにお香でも焚こうと思ったが、手を伸ばしかけたところで止めた。これはココの香りがする、滅多にないお香の最後の一本だ。入手ルートを聞いておけばよかったんだろうが、そのココにはもう聞けるはずもなく。仕方なく窓を開ける。最近めっきり冷たくなってきた風だが、頭をすっきりさせるにはちょうど良さそうだ。
「…で、あと何人いるんだ?その、初まりの者達とやらは」
「あとは『詭弁を論ずる者』と『死霊の女王』の二人だな。主と因縁がありそうなのは」
「おい、なんか最後すげぇいい感じの言葉が聞こえてきたぞ」
「レースじゃなく、レイスだ!…こやつは、神器戦争の際ほぼ中立を保ってきた初まりの者達の中でも、唯一悪魔側に近い力を持っていた女子だ。…金色の守人…カイムとはある意味対極の存在だな」
「待て。ゴールデン・スランバーって、僕の記憶が確かなら、黄金のまどろみって意味じゃなかったか?ビートルズとかの」
「上位の存在により宝具を守護することを命じられ、有事の際にはまどろむことすら許されない。それがカイムの一族に踏襲された二つ名だ」
「ふーん…大変なんだな、アイツも」
「まぁ、細かい事は我の記憶もまだ不完全なのでな。追々話すことにしよう。…約束する」
「んっ。おけ」
「…して、主?差し当たって、どうするだ…主のことだ。策はあるのか?」
「ん?」
「ヴァンパイア…ウラヴェリア伯爵だ。それと…白夜の事も」
「あぁ…あまりよく考えてねぇや」
ぼけらーっと外を眺めて呟く。窓から身を乗り出すと、城下町と反対側の方角へ体を向ける。ギランは…あっちか…。
「主っ!?」
「まぁ…グレンのことは、意外だったよ。同情も…っ!?」
突然、強烈な頭痛が襲った。クソッ!いてぇ…窓から転げ落ちるとこだったぞ…。今度は何なんだ一体…。
「ダービー…!これ…」
「これは…共感覚…!」
「共感覚…?なんだよそれ…つうか、頭いてぇ」
「主、先ほど因縁が濃そうだと言ったな…。我ら、原初の繋がりを持つ者は、極稀にだが強い感情が伝播し合うことがある。これが…共感覚だ。どうやら覚醒者限定らしいがな…」
「覚醒者限定って…これ…この悲しみ、グレンの…だろ…涙が止まんね…」
何故かは知らんけど、グレンの、その炎の色の通り赤より高く、高温の青い悲しみを感じる。どこかで、ココを想って慟哭しているんだろうか。
「主…そこまで…」
「ダービー…決めた。今回は、グレンに華を持たせる。僕にとってもココは大事な存在だったけど、あいつにとってココは……おい、これ…マジか…?」
「主?…主っ…!?」
瞬きの一つ一つに、ビジョンが浮かんでくる。試しに目を瞑ると、連続した映像が流れた。黙って、耳を澄ませる。
「待てよー!シーリカーッ!」
「やだよーだ!追いついてみなさーい!ほらー、ノアー!遅いよー!」
子供が、いる。石造りの街並みを、元気良く駆けている。先頭を走る女の子は、その次の男の子からシーリカと呼ばれていた。…シーリカ?シーリカと呼ばれた女の子が、僕に向かって急き立てる。つうか、走っているのか、僕の光景も上下に揺れている。
「待ってよー!」
「グレンお兄ちゃーん!私も混ぜてーっ!」
僕なのに僕と違った声帯が返事をする。振り返ると、更に後ろに小さい女の子が走っている。
「ココルにはまだ早いっていったろー?しょうがないなー」
シーリカと叫んでいた男の子が、最後尾の女の子を抱き上げる。抱き上げられた女の子は、酷くご満悦そうだ。
「全く、グレンはいつもココちゃんに甘いんだから。エグソダス家の男の人ってどうして女に弱いのかしら?」
「親父のことは関係ないだろ!お前のせーだぞ、ココル」
「えへへー。グレンお兄ちゃんもシーリカお姉ちゃんもノア君も、遊んでくれるから好きー!」
グレンと呼ばれた男の子が、恥ずかしそうに顔を逸らす。シーリカ?グレン?ココル…ココ?それに、ノア…は僕か?これは、原初の記憶か…。つうか、これって…。
「クソッ!こんなの、あるかよ…」
「ある…じ?」
「あの二人、大昔本当に兄妹だったんじゃねぇか…」
「グレンッ!!」
次の日、軍議が始まる一時間前。中庭を俯いて歩いていたグレンに声をかけた。生気のない瞳が、僕を覗く。
「おい…大丈夫か?」
目は腫れ大きな隈ができ、拳の皮膚はボロボロに破れている。さながら、ゾンビのようだ。
「あっあぁ…」
蚊の鳴く声で頷くと、近場の大石に腰を下ろした。
「あぁ…じゃねぇだろ!あーもう!回復してやるからじっとしてろ!」
全身にヒーリングの魔法をかけてやると、目ぼしい傷は小さくなり、やがて消えた。
「ちょっと前はな…」
隈も目の腫れも消え、しかし虚ろな目をしたグレンがボツリと呟く。
「んっ?」
「お前んとこで鍛えられた、ココがこうやって治してくれたんだ…」
「あぁ…」
「ココのこと、色々感謝してる…」
「………」
答えに窮して、言葉に詰まる。だって、責められるならまだしも感謝されることした覚え、ねーもん。
「アキラ…お前、昨日の晩…見たか?」
おそらく、あの幻視のことだろうな。お前が原因だとは、言わないけど。
「ココと俺シマイだったんだな…」
「お前…姉妹じゃお前は姉ちゃんか?兄と妹でも、キョウダイでいいんだよ」
「そっか…兄妹だったんだな…」
「あぁ…」
それ以上の言葉が出てこないから、煙草に逃げる。最近は開き直って、別段隠すこともしなくなった。勿論灰皿はないが、グレンに焼き尽くしてもらうか、土の魔力で分解すればいいや。
「…吸うか?」
「なんだこりゃ?」
「タバコってんだ。僕の元の世界の嗜好品だ。落ち着くぞ?」
「サンキュ…っ!?グハッ!ゲホッ!ガハッ!!」
予想通り、盛大にむせるグレン。大げさっぷりに、空笑いが漏れる。
「お前…ハメやがったな…」
「違う違う。あー…やっぱ駄目だったか」
涙目で抗議するグレンに、僕も手をヒラヒラさせてサレンダーを伝える。
「グレン…」
「…あんだよ?」
未だに苦しそうなグレンが、僕を睨みつける。
「お前も、セラトリウス団長んとこ行ったんだってな」
「!?お前もって…アキラも行ったのか?」
「あぁ…。グレン」
「なんだ?止めるなら無意味だぞ?俺は一人でも絶対に…」
「一緒に行こう?一緒に、マドラ前団長と…ココの敵を討とう」
僕の問いかけに、目をパチクリさせるグレン。状況を理解していないようだが、それでも僕は続ける。
「お前のことだ。無策で突っ込もうとしてたんだろ?策は僕が考えてやる。お膳立ても、僕がやってやる。だから…僕らでアイツを討とう?」
グレンがパチクリさせた目をそのまま見開き、暫くして虹彩が揺れるのが分かった。
「アキラ!タバコ!」
顔を背けて、震える声を張る。結果は見えているけど、あえて乗ってやろう。あとその言い訳、もう随分使い古されてるからな?
「はいよ」
さっきのはもう吸いきってしまってから、新しいのに火を点けてやる。手だけ僕に向けて催促するグレン。いっそ根性焼きでもしてやろうかと思ったけど、一応空気は読んでやった。一口吸うと、さっきよりも盛大にむせる。…若干わざとらしさはあったけど。
「ちっくしょう…目にしみないか?これ。あー、涙止まんねぇ」
ほら、思った通り。
「あぁ…しみるな…」
「アキラ!」
「んっ?」
わざとらしく、煙草でむせたままのふりをしながらグレンが言った。
「ありがとな…俺の、いもう…との為に…」
こういう場で礼を言うのに慣れてないんだろうな。お前の頬が紅蓮だ。
「違うよ、グレン」
「…?」
「僕に告白してきた可愛い元副官の女の子の為に、だよ」
「おっ前…!!」
「コレッ!馬鹿隊長ども!!会議が始まるぞ!!」
建物の二階の窓から、セラトリウス団長の呼ぶ声が降ってくる。不思議と、言葉ほど怒気は感じられなかった。
「お前のせーだぞ、グレン」
「いーや!アキラのせーだ」
いつもの調子を取り戻すと、建物の扉に向かって走り出す。
「早く…来なさいよ。グレン…アキラ…。全く、予定が狂わされっぱなしね」
窓から、何か楽しそうに呟いてるシーリカの姿が見えた。
現在、この話が終わった後の閑話と外伝をどうするか思索中です。外伝はダービーで確定ですが、構築中の閑話をそのまま組み込んでもいけるかなぁ…とか。でもそうしたら外伝の意味が薄れるかなぁ…とか。難しい…。