~第四十一話~残された者の戦い
ども、白カカオです。今更ながら、これが処女作だということを思い出しました。このような出来すぎた評価いただき、本当に感謝です。明日、私の町で一部で有名になってしまった萌え系の祭があります。痛車が大挙するそうなので、十年ぶり近くに行って来ます。この作品にイラストがついたらどうなるのかなぁ…とか、ちょっと思ってみたり。せめて、地図くらいは欲しい。
「輝くトラペゾヘドロン…」
ダービーから渡された元、無銘の大剣を眺める。
「まぁ…正確には、無銘の大剣に、トラペゾヘドロンをカスタマイズした物だがな。元々厚みのある剣だったろう?今は中が空洞になっていて、輝くトラペゾヘドロンの『箱』を体現している。強度が心配かもしれんが、元々の材質がオリハルコン故、全く問題ない。あとは…主次第だ。では…戻ろうか、主」
「最後…ぶん投げやがったな?」
光の粒子を残し、指環と剣の鍔の装飾部についた水晶に分かれ消えていくダービー。おそらく指環にダービー、剣にナイアルラトホテップが入っていったのだろう。ダービーが僕の指に戻ると、今までにない力を感じた。
「主…」
「聞きたいことは後で…だろ?」
「うむ…」
何故か、久々にダービーと話す感覚になる。酷く、懐かしい。
「それとだが…」
「なんだよ?」
「早く出ないと役目を果たしたこの空間、壊れるぞ?」
「ちょっ!?」
何もないはずの空間が、ガラガラと崩壊する音が聞こえてきた。
「おいっ!!どうやって出んだよ!?ここから!」
「斬れ!!このセフィラは主の物!主は、この空間の神だ!己の物ならなんとでも出来よう!振るうのだ!!主はセフィロトの剣!新たな力と共に、元の世界に戻ろうぞ!!!」
「好き勝手言ってくれやがって…ええい!ままよ!!」
横薙ぎに大剣を振るうと、僕の前の空間に切れ目が覗く。否が応にも引きずり込まれる。あの向こう側は…ゲートに似ている。
「じゃあな…ダアト…ココ…。そして、待ってろよ…っ!ウラヴェリアアアアアアーーーー!!!!!」
アキラとグレンが起こした魔道爆発は、ギランの四分の一を覆い尽くすほど強大だった。純粋な魔力と、炎を帯びた魔力がぶつかり、相乗効果を生み出し無限とも思える高まりを繰り広げた。
爆心地付近に残されたのは、ココの亡骸だけだった。辺りの木はなぎ倒され、地面はえぐれているが、ココの体だけは不思議と損傷はなかった。
「クッ…ハッ…アキラとあの娘の血を吸っていなかったら、どうなっていたことやら…」
血まみれで右足も折れ、しかしまだ生きているウラヴェリアがいた。アキラの咆哮の直後、とっさに間合いをとったのが幸いしたのだが、グレンからの爆発までは想定外だった。
「ふんっ…あの男は、お寝んねか。所詮人間ということか…」
視線を移すと、爆発の衝撃で吹き飛ばされ、気を失っている白夜の姿があった。
「あちらは…おうおう、満身創痍ですなぁ…おや?まだ三人…いや、四人か。立てる者がいるようだな」
全員命は落としていないが、白夜と同じく衝撃に吹き飛ばされた騎士団は、全身を叩きつけられ起き上がれなかった。ただ、団長二人とカイム、シーリカを除いて。
「くっ…アキラ殿…グレン…」
杖を使い、やっと起き上がるセラトリウスが二人の身を案じる。
「大丈夫、団長!グレンは、気絶してるだけ」
「全く…覚醒した途端これか…。昔からやんちゃっぷりは変わらないなぁ、『煉獄育ち』は」
シーリカとカイムがそれぞれ起き上がる。二人は、それほどダメージを負ってなかったようだ。
「あの小僧がいねぇ…小僧っ!!」
辺りを見渡し、アキラがいないことに気がついたマドラが、最後にアキラがいた、ココの元に駆けつける。
「小僧…」
マドラが見たのは満足そうに眠っているココと、その胸の上に置いてあったダビデの六星環だけだった。
「小僧っ!!!」
「おっと、そこまでだ」
マドラの周りに、またもや無数の食屍鬼が出現する。
「おのれ…ウラヴェリア!!」
マドラがミョルニルを解き放ち、一面に雷のカーテンが生まれる。
「小賢しいマネを…さぁ、早く私にその指環を渡すのだ。それと…その娘の血もまだ飲み足りないのでな」
「マドラ!!一旦退くのじゃ!!アキラもグレンも欠いた今では、勝算は少ないぞ!」
「うるせぇジジイ!!こいつだってボロボロじゃねぇか!俺のミョルニルがあれば叩き潰せるだろう!!それに…これ以上この小娘の体を好き勝手されて我慢できるか!この娘は…俺の可愛い姪っ子とその将来の旦那が愛した娘だ。死んでも持って帰ってやる。小僧…アキラ!!早く帰って来やがれ!!!」
「姪…?」
マドラの叫びに、不自然な所を感じたシーリカ。カイムも、はてなマークを浮かべる。
「そうじゃ…マドラの苗字はキート。フルネームはキート=マドラ=グランダル…あやつは…ベイン国王の実兄。第三王女、エリーの伯父だ」
「あいつのどてっ腹に風穴ぶち開けろ!!トールハンマー!!!」
粗方自分に群がる食屍鬼を駆逐すると、マドラが手に持った神槌をウラヴェリアに投げつける。アキラの時と違って、かわす事も受け止めることも出来る距離ではない。
「フッ…アキラには、まさか受け止められるとは思わなかったがな…」
まだ半年も経っていない事なのに、酷く懐かしく感じる。ウラヴェリアが貫かれたのは、その呟きの直後だった。
「ぬぅ!!グワアアアーーー!!!!!」
神槌、ミョルニル。本来は、マテリアルに順ずる存在に防ぎきれるものではない。ウラヴェリアは風穴を開けられるどころか、上半身と下半身が分断された。生命の供給が断絶された下半身が、無数の蝙蝠と化して散開する。
「へへっ…ざまぁねぇな…こいつを以っても、あいつを殺せなかったか…」
「あのタワケ!!爆発で負ったダメージを軽視しておったか!!」
セラトリウスの叫びの先、もう一つ伏せていた影が動いた。
「見えたっ!!吸血野郎だ!!」
「あのヤツを貫いた槌…マドラか!主!チャンスだ!!」
ダアトからマルクトへ続く経路。その切れ目から、ウラヴェリアの下半身が吹っ飛ぶのが見えた。
「さて…マルクトに残した我の残滓も戻そうか。主、指環が完全に顕現するぞ!これが我の…『天国への扉』の真の力だ!!あやつを…ココの敵を叩き斬ってやれ!!」
「応よ!!喰らえっ!!ウラヴェリアーーーー!!!」
位相の切れ目から飛び出し、ウラヴェリアの下半身が霧散した直後、まだ落ちずに中空に浮いた形のウラヴェリアを袈裟切りに斬る。
「グルルルァァァァーー!!!」
獣じみた声を上げ、血反吐を吐くウラヴェリア。今度は、左肩から右腰にかけて分断してやった。
着地を決めると、転がり息を荒げるウラヴェリアの姿があった。
「これでもまだ死なねぇのか…大した化けもんだよ、お前は…」
「くっ…はっ…」
しゃべる事もままならない吸血鬼を、冷たい双眸で見下ろす。その今吐いている血は、僕とココのものだろう?返せとは言わない。だが、お前に持って逝かれるのは不愉快だ。こいつにもう動く術はない。冷静に、確実に滅殺してやればいい。復讐に、ドス黒い愉悦が精神をかける。
「ふぅ…おっさん。流石だな。つうかミョルニルが流石なのかな」
幕引きの前の前に、最終章の立役者のおっさんに声をかける。なぁにボロボロになってんだ。アンタらしくない。
「アキ…小僧…お前…本当に小僧か?」
「耄碌したか?ほれ、この通り。いつもどおりのアキラだ。ほら、おっさん、セラトリウス団長も…おっ、カイムとシーリカも無事か。まぁ『守人』と『隠者』だもんな。無事か。みんなで、この下衆野郎を袋にしようぜ。ココを殺しやがったこいつ…っ!?」
…この作戦中もう何度目になるかわからない衝撃。…というより、ココの時と同じく、一瞬思考が理解に至らない衝撃。突っ立っているおっさんの体から、見覚えのある蛇腹の剣が突き出ていた。
「おっさん…?オッサァァァァァァン!!!!」
奇しくも、ココの時と同じくおっさんの背後からの襲撃だった。
今回は、こんなところで。切り方があざとい気もしますが、気にしないでください(苦笑)最後アキラが不自然に延ばしていますが、アレです。思いがけなく訪れた復讐の好機に、テンションが上がってしまっているという、あの感じです。…あの感じっていっても、わからないですよね(笑)