~第四十話~対話
白カカオです。今日の昼、ウチの後ろの山に二つの熊の足跡が見つかったそうです。先日夜半過ぎ頃外で電話してる時に聞いた、ウシガエルをもっと響かせたような鳴き声は本物だったのでしょうか…。私は実家の辺りを、リアルモンハンと呼んでます。洒落ならん…あぁー、LIQU@可愛いーなー。声フェチの私はそれだけでお腹一杯です。声が可愛い子と付き合いたい。
「ダー…ビー…?」
目の前にいるはずの者の声は、間違いなくダービーの物だった。
「ん?あぁ、そいえやお前は俺の事をそう呼んでいたのだな」
お前…?俺…?違う!ダービーは絶対そんな話し方をしない。
「お前は誰だ?ダービーはどこへ行った。返してくれ。アレは僕のモンだ」
「全く、悲しいな。俺は今までずっとお前の右手にいた、ダービーだよ」
そいつの背後から急に後光が差す。突然の光に顔をしかめながらそいつを盗み見ると、肌が浅黒い、スーツと修道衣の中間のような不思議な格好をした壮年の男が立っていた。そいつは恭しくお辞儀をして見せると、含みのある笑みを投げかけた。
「これはこれはマスター。この姿では初めましてだったな?俺はダービー。お前の指環の精だ。そういや…この姿の時はナイ神父と呼ばれていたな」
「ナイ…神父…ナイアルラトホテップか!?」
暗黒のファラオ、無貌の神、這い寄る混沌、そして…クトゥルー神話のトリックスター。幾度と影で人類の歴史に関ってきた、あのフェイスレス・ゴッドが…ダービー?
「…待て。全く話が見えない。アレか?今までただのアホ指環だと思っていた変態は、実はアザトースの息子の神性でしたなんて、んなぶっ飛んだ話理解出来るか!」
アメリカ人バリのオーバーリアクションで頭を振ってみるが、ダービー…ナイアルラトホテップは不敵に笑うだけだった。
「お前は俺の兄弟であるヨグ=ソトースを退けたじゃないか。今更俺だけ信じれないなんて話があるか」
「まぁ…それならお前に女装癖があるのも頷けるが」
なんせ、無貌だし。
「待て、それは俺じゃなくてあいつの趣味だ!誤解するな!」
「…わけわからないこと言ってないで認めろよ?お前は生粋の変態だ…じゃねぇよ!つうかここ何処だよ!?僕は一刻も早くあの処女厨の変態野郎をぶっ殺さなきゃいけねーんだよ!知ってんだろ!!」
危ない、いきなりこんなところに放り出されて、不安なところに現れた知っている人間の存在に、危うく弛緩するところだった。今は、そんなことしている場合じゃない。
「まぁ…落ち着け。言ったろ?ここは隠されたセフィラ。お前のところとは次元とか位相とか根本的に違うからな。話をしてからでも充分間に合う」
「…そこまで言うなら聞こうか」
一旦こいつの話を聞いて、その間にクールダウンすることにする。忘れていた。感情のままに突っ走ったら負けだ。こういうときこそ冷静に、クレバーに…。どうやってあいつを嬲ってやるか、考えをまとめられる位にはせめて、冷静に…。
「先ずは、何から話そうか…アキラ、お前がどう俺を思考的処理をしたかは知らんが、俺とダービーは、同一人物だ。正確には、俺があいつの一部、あいつが俺の一部ってことだ」
…失念していた。こいつのこういうカミングアウトはぶっ飛んだ類ばっかだった。
「…わけわからん」
「今はそれでいいさ。まぁ、元は一つの存在ってこった。そしてあいつは小難しく考えているようだが、俺がお前に惹かれたのは、俺が土の神性で、お前が土の属性持ちの中で唯一俺を使役するに足る魔力の持ち主だったってだけだ」
「…なんだ。そういうことか」
「あと、お前が神器戦争の時に俺を持っていた男の子の生まれ変わりだったってとこくらいかな」
…また爆弾投下しやがった。なんだよその、戦争って。
「…そこ一番重要だろ。なんだよ、その戦争」
「数千年…数万年より遥か昔、創世に程近い頃の話。まだ、天使も悪魔のヒトも分け隔てなく暮らしていた、その頃の話だ。一つの指環の存在がきっかけで、多くの禍根を産み、今に至る因縁を作り出した戦争が起こった」
「その指環が、お前なんだろう?全く、ホント疫病神な、お前」
「…続けるぞ。話はよくある類のものだ。悪魔が誘惑してその指環を狙い、逆サイドに天使が指環の防衛せんが為に、争った。善悪どちらでもあるヒトは、その尖兵に使われた…」
「まぁ…わからんでもない話だな。それまでは上手く調和がとれていた世界が、たった一つのファクターで滅茶苦茶になるのはよくあることだ」
「その中、件の指環…つまり俺は、一人の男児の所有物として平和に暮らしていた。力の行使もせずにな」
「…なんでお前みたいな指環が男児なんかの手にあるんだよ?聞いたぞ?お前、創造主の指環なんだろ?」
そうだよ、この世界に普通にこいつがいることがそもそも不思議だったんだ。
「それは…あの方の道楽としか言いようがないな。自分に代わり、ヒトの手にこの強大な力を渡したらどのようになるか…と」
「…しょうもねぇ理由」
「…でだ。その件でヒトが俺を使うより先に、悪魔の方がそれに反応してしまった。計画を頓挫された創造主は怒り、一人の悪魔が謀反した瞬間から悪魔は悪、守ろうとした天使は善とされるようになった。もともと両者とも属性の違いだけで、善悪という明白な区分けはなかったのだ」
「…創造主。導火線みじけぇなぁ」
「その戦争の最中俺を所持していた男児は、両者の攻撃において生じた事故で死んでしまった。そして自動で働いてしまう俺の強力なボイドのせいで転生が遅くなり、ようやくその男児が転生を果たしその計画の続きが今…。アキラ、お前は神器戦争の時代に創造主に選ばれし男児、後の箱舟の神話で有名になったノアの直系の先祖、ノア=キーランスの生まれ変わりなのだ」
…頭痛い。つまり、ダービーの主を辿れば、創造主に行き着く前にもう一度僕がいるわけだ?…やっぱり、頭痛い。
「ちなみにその頃の縁者が、今のお前の回りに集まってきているぞ。魔道書金枝篇の原本著者にして天使に数々の神器の番人を代々任された『金色の守人』カイム、『隠者』シーリカ、『煉獄育ち』グレン…はつい今しがた目覚めたばかりだがな。お前と同じく、ココの死により触発されたのだ。思えば、ココは『鍵』の使命を持っていたのかもしれんな…。あの娘の命も、無駄じゃなかったと…」
「…んなくだらねぇことの為に、ココは死んだのか…?」
思わずダービーの胸倉を掴む。じゃあアレか?ココはそんなくだらない理由のせいで死んだってのか?
「あいつはなぁ…僕を護る為に、こんなくだらねぇ男に惚れて、その男を護る為に死んだんだよ!!それじゃあ…お前の話が本当なら…ココは…僕の為に死ぬ運命だったってことじゃねぇか…」
「『鍵』を担うもの…それも運命だったのだろうな…」
「ふざけんな…っ!あいつは、ココは『鍵』なんかじゃねぇ!!ココはココだ!!」
怒りで涙目になる。許せない…全ての運命が許せない…これが創造主の道楽なら…そんなもん僕がぶち壊してやる…!
「…すまん、俺が無神経だったかもしれん。手を、離してくれ」
自分より幾分背の高いダービーを降ろすと、脱力してへたりこんだ。
「アキラ、さっきも言ったがここはお前の為に作られたセフィラ、ダアトだ。お前は、マルクトに帰らねばならん」
「なんだよ…それ…つうか、セフィラってなんだよ…」
「セフィラとは創造主が作った幾つかの玉座…つまり、簡単に言うとその玉座の一つ一つが世界というものだ。アキラ、お前は生命の樹…セフィロトというものを見たことがあるか?」
「あぁ…絵だけならな」
「まぁ人間で実物を見たことがあるのは、ヤコブだけだからな。その第十のセフィラ、マルクト。それがお前達が住む世界だ」
「…で?」
「お前が俺を通じて召喚される神はその上、第九のセフィラ、イェソドの住人だ。その一直線上にある最上位のセフィラ、ケテルに創造主がいる。後者二つの間に隠されたのがダアト。つまりお前の世界と神々の世界、ここと創造主は一繋ぎになっている」
「セフィラが上がる毎に存在に必要な魔力…精神値が上下する。だから神を召喚する時は膨大な魔力が必要。そして一直線に並んでいるが故、創造主はその三つの世界に干渉し易い。更に言えばダアトが何故ケテルの直下にあるかと言うと、創造主の真理に最も近い場所だから。隠しているとは画している…つまり他の存在と一線を画し、創造主の指環を使役する僕の為の世界…そんなとこだろ?」
「お前の理解力の良さと頭の回転にはいつも驚いてばかりだ。しかし…俺が説明する意味がなくなってしまうじゃないか」
「…で、お前の宝玉の水晶はなんでだ?」
「アキラの理解力の前だと酷く下らない理由になってしまう気もするが…マルクトの象徴する惑星が地球、そして鉱物が水晶だからだ」
「そんなことか…」
「ほら…」
「…大体わかった。僕はもうあっちの世界に帰る。帰ってココに手をかけたあいつを殺して、そして…創造主まで辿り着いて、百発くらいぶん殴る。てめぇの勝手な道楽でココに辛い想いをさせた、創造主をぶっ飛ばしてやる」
「お前をこの世界に連れて来た甲斐があったよ。この世界の使命は、お前に自分の使命を自覚させ、覚悟を決めさせること。アキラ…お前の使命はその優しさだ。ヒトを想う気持ち…忘れるな。今回のことに関しては…復讐でなく、あの娘を想うが故の弔いとして目を瞑ることにしてやる。…そしてお前の使命は…生命の樹の頂、創造主の元に辿り着くことだ。」
「使命使命って…んなくだらねぇもん、僕がぶち壊してやる!…お前には働いてもらうぞ?」
「はっ!俺はあくまでトリックスター。せいぜいかき乱してやるさ。アキラ…我が主。主に、これを用意しておいた」
「お前、やっぱダービーなんだな。所々、ダービーの口調に戻ってるぞ」
「ふんっ…主の、本当の装備だ」
ダービーが、どこに持っていたのか大剣を差し出す。…どこか、仕様が違う気がする。黒く輝き、鍔…柄と刀身の間に、ダービーと同じ水晶が嵌まっている。そして、大きさ故の辟易していた重さが、なくなっている。
「セフィロトの剣、マルクトに住みし我が主、『神』の水『晶』、神谷晶よ。受け取れ。…『輝くトラペゾヘドロン』だ」
…詰め込みすぎた感があります。すみません。そして、好きなんです、クトゥルー。つうか、デモンベイン。おいおい、話が進むにつれて補足も入れていきますので、今はこんなもんだと思っておいてくだされば幸いです。オリジナル改変設定も入れてるし。そしてお断り…金枝篇の著者はジェームズ・フレイザーです。実在する人物です。あしからず。金枝篇も魔道書じゃなくて研究書です。デモベ厨ですみません。