~第三十八話~暴走
こんばん!白カカオです。さっきまで東京に住んでた頃の友人とスカイプしてました。連絡自体がホント久々すぎて未だにテンション抑えききません(笑)私の近況はどうでもいいって?さいですか…。まぁ、まだ週末に無理した体力が回復してないんで、いつも通りに頑張ります。抑えようと思ってもどうせ文量は同じになるし。
ヴァンパイアの無慈悲の一撃は、僕を貫く事はなかった。覚悟と恐怖と悔恨に思わず目を瞑った僕の目の前には、ボロボロになったココが立っていた。あの食屍鬼の群れをどう脱出してきたかはわからないけど、今目の前にいるのは、僕の部隊の副官の、ココだった。
「コ…コ……?」
ただ、いつも通りのか弱い光を放つ笑顔に、ただ一片だけ違うところがあるとしたら、口から流れる一筋の紅い線。どう見ても、ココは血を流していた。それも僕を向いたその胸からは、腕が生えている。禍々しく鋭利に尖った爪。間違いなく、ヴァンパイアの…僕を葬らんとしていた吸血鬼の腕だった。その腕が引き抜かれ、ココの大量の血が僕を濡らす。
「ココ…?ココ!ココッ!!」
支えを失ったココの体が倒れる前に、同じく血が足りない体に鞭を打ち抱きとめる。
「ほう…これはなかなか…」
ココの向こうから舐めた声が聞こえた気がしたが、関係ない。
「ココ…なんで…何で…っく…」
ココの体から生気が抜けていくのを腕に感じながら、混乱した頭にそれだけが口をつく。ココは、ただ笑っていた。
「しつこくなくしかしまったりとした舌触り…この娘は生娘か。うむ、うむ!ターゲットは変わったが、実に!実に美味い!素晴らしい前菜だ」
「黙ってろよ…」
「はっ?何か言っ」
「黙ってろって言ってんだよクソ野郎がぁぁぁーーーー!!!!」
感情のままに叫びを叩きつける。怒りの激流が僕の体から溢れ出し、周囲を飲み込もうとそんなことは関係ない。頭の中が完全にホワイトアウトする。
ひとしきり叫び喉の痛みに気づけるようになると、辺りの様子が一変していた。
皆、動かない。下卑たツラを浮かべた伯爵も、白夜君に隣の女。騎士団や食屍鬼も、風にたなびいていた木々ですら、その形のまま止まっていた。
「凄い…これが…アキラ君の、魔法…なんだね」
「ココッ!!」
僕の腕の中で、ココが柔らかく笑う。
「たぶん私はもうすぐ…だからわかるの。これは…アキラ君が作った世界…。時の力が…あふれ出して…私達二人以外…そうでしょ?ダービーさん」
「う…む…」
血の気が引いたココの顔は、それでも歳相応の、僕がいつぞやに作戦にその容姿を組み込む程の、可愛らしいココそのままだった。
「なんで…なんで…こんな…馬鹿なこと…」
「馬鹿な…こと…?馬鹿にしないで?アキラ君」
いつも困ったような顔を浮かべているココが、初めて僕に向けるムッとした顔。最後の方は力を込めた為か、途切れず流れるように言葉を紡いだ。
「私…アキラ君を護ろうと…したんだよ?大切な人を護る為の…その行動が馬鹿なんて…私は思わな…い」
「ココ…?」
「それに…いつもその…馬鹿なこと…してるの…アキラ君の方なんだから…私…やっと…隣に来れた…かなぁ…私…ずっと…アキラ君のこと…好きだった…」
「っ!?」
何度目か分からない、しかし種類の違う衝撃に、僕の喉がキュウっと締まる。
「私達を導く為に…無理して…護る為に…無理して…でも…最後には…ちゃんとそれを成し遂げて…でも…皆といる時は…同じように笑ってみせて…何も、辛い事ないよって…そんなアキラ君が…私…大好きだった…憧れてた…」
ところどころ声が裏返りながらも、必死に僕に告白する、僕の副官。信じられないと同時に、自分の鈍感さに嫌気がする。
「エリーちゃんが…羨ましいな…私は…エリーちゃんほど、自分の気持ちに正直に…振舞えないし…シーちゃんみたいに…自然に一緒に…いれないし…あの巫女さんみたいに…積極的に…なれないし…私は…いつも…少し離れて…眺める事しか…出来なかった…ふふ…馬鹿だねぇ…こんなに早く、死ん…じゃうなら…もっと…早く…アキラ君に…告白すれば…よかった…だから…アキラ君が私を傍に置いてくれたとき…凄く、嬉しかった…」
「馬鹿なわけがない!!ココ!返事は全部終わってから聞かせてやる!!お前が望む返事を聞かせてやる!だから生き延びろ!!!上官命令だ!!!!」
「アキラ君…そんな無茶、言わないでよ…それに…守れない期待…させないで…私は…ただ…アキラ君が幸せならそれで…いい…だから…エリーちゃんと…」
「僕の命令が聞けないのか!!ココ!!ダービー!なんか、なんかあんだろ!?」
「そんな都合の良いものは…ない…それだけは、受け入れる運命しかないのだ…」
「ダービー!!っ!わかった!!今すぐバルゴーを呼べ!なぁ!!!早く!!!」
「アキラ…君…あまりダービーさんを…困らせないであげて…」
「ココは静かにしてろ!!僕が治すまで安静にしてろ!!ダービー!!お前神を呼ぶ指環だろ!!?」
「出来ん…」
「おい!!この」
「我だってなんとかしたいのだ!!しかし…!!っく…」
「お前いい加減に…」
「アキラ君…」
僕の袖を、力なくココが掴む。何か、訴えるような目だ。
「もう一つ…私、わかるの…」
「何がっ!!」
「これは…アキラ君が作った世界…私の…こんな私の為に…時間が流れなければ…私が…死に辿り着くことはないから…神サマの干渉も…及ばない位に…そんな強い想いで…私を助けようと…してくれてる…それだけで…私は幸せ…」
「だったら早くこんな世界から出よう!!外ならバルゴーも呼べるんだろ!!?」
いつもならそんなことが出来る事に驚くだろうが、今の一番はココを救うことだ。そんな瑣末なことに気を取られている場合じゃない。早く!早くバルゴーを呼ばないと…やっと光が見えたのに…。
「主…それも…出来んのだ…」
「なんでだよ!!」
「この力は、主の今本来のキャパシティを越えておる。主の魔力が尽きるまで…出られん…」
…何を言ってるかわからない。それはつまり…これで間に合わなかったら、僕がココを殺すことになるのか…?わからないワカラナイ分からない。理解できない認識出来ない納得できない許せない…この時間の狭間の中、僕の時間も止まったように何も考えられない。
ーーーチュッ…
凍結した思考を溶かしたのは、唇の感触だった。
「えっ…へへ…私の…最初で最後のキス…」
「ココ…」
頭脳が回転を止め、力が入らないこの体に、口付けの感触だけが浮き彫りになる。
「エリーちゃんに…悪いことした…よね…?でも…最後のキスだから…許してくれるよね…あとは…エリーちゃんだけのものだから…」
「何を…」
「アキラ君…さよなら…アキラ君の腕が最期の場所で…良かった…」
新たに一筋の涙を流し、ココが笑顔とともに無情な別れの言葉を突き刺す。
「何…言ってんだよ…ココ…おい!返事しろよ!!ココ!ココ!!ココォーーー!!!」
いくら揺すっても、もう動かない。最後の涙の筋が歪に形を変えるだけで、もう、ココの目は開かない。か細い、つい今まで聞いていたココの声が、もう聞こえない。ココの存在が、零れ落ちてしまった。こんな僕を慕ってくれた、あまつさえ愛してくれていた、大切な護るべき仲間を護れなかった。僕のせいで、失ってしまった。僕のせいで、ココの周りの皆から、ココを奪ってしまった。僕のせいで…今、ココがこの世からいなくなってしまった…。
「あっ…あああ…ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
僕を取り巻く世界が、僕を残して爆散した。無限に叫びながら、世界がひび割れ、崩れ真っ暗な闇が辺りを支配するのを、僕は見た。
随分前から考えていた話だけど、やっぱ辛い…。重要なファクターだから外せませんでしたけど、文字に表すとこんなに辛いとは思いませんでした…。まぁ、私が感情移入型だからかもしれませんが(苦笑)