~第三十五話~敵のお膝元
こんばんわ、悪い事の後に悪い事は続くけど、やっぱりちゃんと良い事が待ってる!そう信じないとやってられない白カカオです。今日は自室に引きこもります。何故か、パンドラの話の解釈が頭を駆け巡ります。希望って、災厄の一つなんですかね、やっぱり。
獣人族の集落を後にして更に二日。ただいま、ようやくギラン地方に入りました。正確な現在地は、ガラリオン山脈の切れ目を過ぎ、ギランの入り口にある湿地帯。…ここで一つ言いたい。例え山脈隔ててるとは言え、こうも空が一面雷雲の雷の柱があちこちで跋扈するこの変わりよう、なに?どこのス○ラだ。○ュックだったら気絶してるぞ!?よし!僕は今日からザナル○ンドエイブスのエース、○ィーダを名乗r
「主…現実逃避癖はそろそろ直した方がよいのではないか?」
「だってよ!なにあの量産型雷!?別に百回かわしてもご褒美とか貰えないんだよ!?マドラのおっさんご乱心してんじゃねぇいてっ!!」
「アホなこと言ってんじゃねぇ。ほれ、敵さんのお出迎えだ」
おっさんに拳骨喰らった頭を撫でながら涙目を向こうに向けると、数百はいそうな蜥蜴人が湿地帯の背の高い草をものともせずこちらに向かって来た。ちなみに蜥蜴人も亜人の一種なのだが、人種としては全く別物だ。セラス側の蜥蜴人は糸目で割りとのんびりした人種だが、こっちの蜥蜴人は猫の目のように瞳孔が縦に開いていて、非常に好戦的だ。今目の前にいる彼らは、皮の鎧に鱗の盾、ククリ刀やカタールなどの装備、またはパルチザンやハルバートを両手持ちの大変物騒な連中だ。ちなみに鱗の盾は、死んだ仲間の遺体から剥いで何重にも重ねて作られているそうだ。吐き気がする。
「…すぅ。全軍、突撃ぃぃぃ!!!」
虎耳の長が声を張り上げた。獣人族達が唸り声を上げて突進して行く。えっ!?ちょ、隊列とか作戦とかなんも無し!?つうか得物持ちに素手で突撃って、勇敢にも程が…。
「おいおいマジかよ…」
慌てて追従した騎士団の方々が戦闘を開始するが…アレ?僕ら加わる必要ねーんじゃねぇの?数的には騎士団の方が数割多いけど、撃破数がほとんど変わらないってどういう事?しかも、素手で。
騎士団の名誉の為に言っておくけど、騎士団だって、セラス最大軍力を自負出来るくらいには鍛え抜いている。つうか、あまり出番はなかったけど、実際強い。筆頭がマドラのおっさんだし。
エルフも決して低いわけではないけど、身体能力ってこんなに作用するんだ…。みんな動物ベースだから、筋力にしろ俊敏性にしろ桁が違う。更に言えば、戦闘スタイルは我流そのもの。つうか、本能のみで相手を屠っている。ちょっと、チート過ぎね?おかげで僕ら後衛はほとんど回復魔法と魔法補助に回っている。まぁ、本来の姿なんだけど。ちなみに両魔法の力の源は『母なる大地の恩恵』とか言われてるけど、いまいちイメージとか具体的なフローチャートとか浮かばないから結構苦手なんだよね。精神論でなんとかしてるけど。
「アキラ君っ!!」
前線にいたはずの騎士団部隊長、ジュダイが僕のところに駆け込む。綺麗だった白銀の鎧が泥にまみれ、血汗が端正な顔を汚している。
「どうしました?」
ちなみに、騎士団部隊長の名前は進軍中あまりにも暇だったので、暇つぶしにこっそり名簿を見て覚えた。
「足場がぬかるんでまともに動けない!優勢ではあるが…犠牲者はなるべく出したくない」
なるほど、そういう事ね。こういう補助なら、喜んで協力しますよ。割と得意分野だから。
「了解です。ジュダイさんが戻るまでに間に合わせます」
「助かるっ!!」
そう言うと、ジュダイさんはその場から消えるように前線に戻る。これは風属性の誰かが追い風の魔法かけてるな。さっきここに現れた時のも、それなら納得。
「…あっ」
そうだ、加速の魔法使えるんじゃん。とりあえず、足場整えたらかけよう。部下の水と土属性の魔術師を何人か呼び、土の魔術師を地面に手をつかせる。
「下地は僕が全部やる。土のみんなは地面を固めて安定させることだけ集中して」
「「「はいっ!!!」」」
魔力の力場を作り魔術師同士を繋げると、水の魔導師に湿地の水分を全て飛ばさせる。そして水分を不自然に抜かれて緩んだ地盤を、土の魔導師の魔術師達に固定化させる。これで、かなり足場は改善されただろう。そして水の魔術師が抜き取った水分は、そのまま遠隔の攻撃魔法にあてさせる。相手は蜥蜴人だから、水攻撃はあまり効果は期待出来ないけど。ちなみに魔術師同士を繋げたのは、魔法が作用する水を抜いて地盤を固めるという流れを、魔術師同士にも流動的に感じさせる為。更に言えば同じ属性の魔術師を繋ぐことにより魔法効果を高める為もある。一応、一つ一つの動作にもきちんとした理由があるのだ。
「これでよし…かな?」
足場の問題に関して言えば、魔術師達の力場の維持に多少魔力を裂いてやれば問題ないだろう。幾ら魔力量が増えても、後に備えてなるべく魔力は温存しておきたい。なんか、絶対僕が矢面に立つ場面がある気がするし。あとは…。
「ふんっ!!」
前衛の騎士団と魔術師団に加速の魔法をかける。とりあえず、これで獣人族レベルの機動力に上がったはず。むしろ、誰かの追い風の魔法に上乗せされ、まさに疾風という言葉がふさわしい出来に仕上がっている。急に勢いを増した騎士団に獣人族は驚いていたが、これで一気に突破出来る。味方の驚きもなくはなかったが、僕の傍にいたシーリカが一斉伝令をしてそこまで動揺は広がらなかった。味方に動揺されて混乱されるのは避けたかったから、これはシーリカにグッジョブとサムズアップしてやりたい。便利な能力だな、シーリカ。
「しっかし、召喚しないとここまで魔力負担減るんだなぁ…」
足場の草で輪っかを作ったりブービートラップを弄しながら、しみじみ思う。わかってはいたけどさ。
七割方戦闘が消化した頃、シーリカが話しかけてきた。
「ねぇ、加速の魔法で、もっと速く出来ないの?その方がもっと早く終わらせれるんじゃないの?」
「いいか?加速の魔法は、他の属性魔法より世界の理を歪める作用が大きいんだ。たぶん、今もどっかで、あるいは周囲で帳尻を合わせるように時間の流れが不自然に遅くなるか停滞したりしているところがあるはずなんだ。そういった歪みは、なるべく作らない方がいい」
マドラのおっさんと試合した時はそんなの知らなかったからガンガン使ってたけどさ。しかもその作用が、位相や次元を越えてマテリアルの世界にまで波及する恐れがあるなんて知った日にはそりゃガクブルもんだったわ。
「ふーん。そういうものなのね…っ!?アッ、アキラ!アレ!!」
いきなり慌てたシーリカが指差す方を見ると、かなり減少した蜥蜴人の少し奥、新たな敵さんが向かっているのが見えた。
「幽霊に悪霊に骸骨…不死族か!?」
灰色に透けた体に黒い襤褸を着た死神のようないでたち。さらに骨で出来た槍をもつ骸骨。中には小脇に自分の頭を抱えている輩までいる。順番に、それぞれのわかりやすい見た目的特徴だ。
「敵後方に不死族の集団を確認っ!!みんな、警戒して!!」
声を出さずともよい一斉伝令を大声で叫ぶシーリカ。物理攻撃のほとんで効かない不死族は、特に肉弾戦が主要の獣人族にとって天敵のような存在だ。最前線で戦っていた獣人何人かは既に接触を許し、倒れている。
「クッ…。あいつら…」
獣人族が次々と倒れていくのを見て、思わず歯軋りが漏れる。不死族に対抗するには、浄化の魔法か、魔法加護された装備を使うか、または不死族の弱点、銀で攻撃するかのいずれかだ。浄化は、時や無と同じ独立属性の光を持つ者しか使えないし、魔法加護装備は前者の物がその場で付与するか教会などの聖別された空間で何年も魔力を吸わせなければならない。前者はこの場にいないし、後者も今の装備での数は限られている。あとは弱点の銀を使うしかないが、生憎こちらの装備は鉄が主原料だ。アダマンタイトの物も、破魔の効果は薄い。クソッ!他に方法はないのか…。属性魔法にも『浄化』自体はあるにはあるが、それは最上位魔法の一つだ。おいそれと出来るものではない。
「っ!?」
あった。一つだけ、しかもとびっきりの手段が。銀ならこの場で手に入る。しかも大量に。さっき地面を固定化させる時についでに直下の地層を分析したとき、鉱物をふんだんに含む地層が見つかった。そりゃもう、なんでこんなところに不死族がいれるのか不思議でならないくらいの。敵の大群に対しては心もとないが、全員に致死量を与える位の量はあった。
「シーリカ!伝令飛ばして!早く!」
「えっ、えっ?何を?」
「不死族は僕とグレンが片をつける!他のみんなを早く下がらせて!」
「ちょ、何言ってるの!?そんなこと、出来るわけ…」
「いいから早く!!これ以上犠牲を出さない為にも!!」
僕の剣幕に押され、シーリカが伝令を飛ばす。加速によって機動力が跳ね上がった味方陣営は、僕とグレンを軸にして敵から充分な距離をとるまで下がった。不死族は動きが緩慢だから、尚の事味方の犠牲は早々に最小限に回避出来た。
「小僧、おめぇ何するつもりだ?あんなやつら、俺のミョルニルで一撃で…」
「一撃は無理だろ、おっさん。これが味方の犠牲が無く、確実に相手を全員討つ最適な手段だ」
「アキラ殿、一体何を…」
「セラトリウス団長、すみません。集中します」
丹田に意識を集中し、深く数度深呼吸する。
「グレン…。僕の攻撃があいつらを貫いたら、それごと相手を焼き尽くして」
「アキラ、不死族を焼き尽くすって、浄化の炎は俺はまだ使えないぞ?それに、不死族に物理攻撃は…」
グレンが、火属性最上位魔法の一つの単語を出す。そんなもの使わなくても、不死族は倒せるんだよ。
「いいから。とりあえず後で説明するから、グレンは今は炎の量と火力の調整だけを考えて。ヒントは、ドワーフだ」
「…っ!わかった…」
ニヤリとグレンが笑う。普段はアホそうな言動が目立つが、グレンは意外と頭がいい。僕の意図をそれだけで察してくれた。
不死族の大群が、ゆっくりとこちらに向かう。まだだ…グレンの火力は、遠ければ遠いほど威力が拡散し、制御が難しくなる。この作戦で、一番重要なのはグレンの炎の制御だ。そして、こいつはきっと応えてくれる。あとは…僕のタイミング次第だ。
「いっけぇぇぇぇ!!!」
敵が眼前数十メートルまで近づいたとき、辺りの地面から僕の魔力を内包させた土の棘で、不死族を貫く。足元から正確に貫いたそれに敵も驚きを見せたが、不敵に笑い再び進軍を開始しようとする。その攻撃が致命傷に到らないのは、僕も分かっている。
「アキラ!それじゃいつもと変わらないじゃない!」
「…??」
が、僕の時の魔法を含んだそれは、相手の動きを奪う。どうせ不死族の時点でこいつらの時は歪んでるんだ。今更何も変わるまい。今度は、僕が不敵に笑ってやる番だ。
「グレンッ!」
「おうっ!!」
フレイム・タンで増幅された炎が、僕の棘ごと敵を包む。土で出来た棘の表面が熔かされ、中に詰め込んだ銀がその形に練成される。
「「「…ッグ…グオオオォォォォ!!!!」」」
辺りを、すでに生前に済ませたはずの断末魔が木霊する。炎の燻りが治まった頃、銀の一撃を受けた幽霊と悪霊は消滅し、敵軍に残されたのは魔素を含み、中身を失いながらも炎に耐え切った骨の山だけだった。
「はぁあ…ちょっと疲れたな…」
コテンと後ろに倒れた僕を、誰かが優しく受け止めた。
ビッグブリッジの死闘を聴きながら、戦闘シーンのモチベーションを上げて書きました(笑)やっぱFFの音楽はいいッスなぁ。
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