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クリエーター  作者: 如月灰色
《第二章 役者達の覚醒》
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~第三十二話~戦火、前夜

ども、珍しく早起きな白カカオです。仕事の小間使いで起こされて、バンドの練習も今日はなくなってしまったので、こんな時間に投稿します。夜はチーム「H」に方に取り掛かるんで。雨降ってて寒いです。

 文化交流事件から月日が流れる事四ヶ月。僕は無事親父の会社を退職し、キュートスの護国騎士団の一魔術師として悠々自適な生活を送っている。ずっとここで暮らしていると、案外こちらの生活も悪くないと思うようになった。住めば都とはよく言ったもんだ。

 今部屋に転がっているこの『無銘の大剣』の扱いにも、だいぶ慣れてきた。こいつは実戦的な面よりも魔術媒体的な側面の方が強く、僕の魔力の方向性にも素直に応じてくれる、実にいい子だ。僕の魔力の波動を減少させず、そのままの威力を保ち放ってくれる。たぶん、他の媒体ではそうもいかなかっただろう。さすが神器。

 ちなみにその間、僕は魔術師団の部隊長に任命された。過去の勲功が評価され、逆に一般兵の立場に僕を置きづらくなったのだろう。シーリカとグレンも同列に座している。そしてそれぞれの副官には、シーリカの所にはガロン、グレンの所にはカイム、僕の所にはココがいる。シーリカは意外と万能選手だからこの昇格はなんらおかしくない。ガロンも本来ならシーリカとコンビを組むことが多かったから、納得。グレンもフレイム・タンを召喚してからは急速に力をつけ始め、一気に頭角を現した。バハムートを従えるカイムだって本来はグレンに勝らずとも劣らない力を持っているのだが、なにやら観察がどうこう言ってて敢えてグレンの下についているようだ。「本当はアキラのこともまだ見たいんだけど、また時期があるから…」とかわけのわからないことを言ってたけど、寒気がするから止めて欲しい。あいつとの付き合い方を考えなくてはいけないかもしれない。そして僕のとこのココだが…この子は本当に成長した。火属性の割に引っ込み思案な前衛という微妙なポジションだったからどうせならと僕の部隊に入れたのだが、こいつには炎を使った熱治療と、遠距離からの魔法攻撃に長けるという意外な才能があった。今では並みの魔術師と比べると頭一つ分抜きん出ている。ただ、もう少し自信持ってくれればなぁ…。

 そしてある日の夕刻、軍部の仕事が終わり自室でダラダラダービーをいじめて遊んでいた僕は、王城の謁見の間に呼ばれた。シーリカとグレンも一緒だ。騎士団側の人も何人かいたが、如何せん自分と関わりが薄い人は覚えられない。が、たぶんこの人たちも部隊長クラスなのだろう。


「急な話だが、ギラン側にまた動きが見られた。敵本拠地はガラリオン山脈の裏側。ウラヴェリア伯爵が怪しい動きをしているらしい」


「ウラヴェリア伯爵?」


「うむ、ウラヴェリア伯爵は吸血鬼ヴァンパイアで、真祖で非常に他の魔族に影響が強い人物だ。ロードすら支配下における実力者だ」


「…で、何故そんな人の動きが察知出来たんだ?」


「私がセラトリウスを介して軍部に頼んでおった、千里眼の改良技術がやっと完成したのだ。強力なボイドも看破できるそれで、ようやく向こうの動きを少しずつだが把握出来るようになった」


 はぁ…こっちの技術も日々進歩してるのね。御見それしました。


「…で、僕達に遠征して出鼻を挫いて来いと」


「アキラ君…ちょいちょい先に言ってしまうのやめてくれないか?まぁ予想はつくだろうが。…ゴホンッ。今回の作戦は、初めてこちらが先手を打てる。皆の者、心してかかってくれ。そして…出来るだけ生きて帰って来てくれ」


「「「御意!!」」」


 さぁて、なんだかんだ言って久しぶりの開戦だ。気合入れてかからないとな。ココに部隊通達を任せ、入念な仕度にかかる。…と言っても、大した準備もないんだけど。


「主が敵と直接戦うのは、ヨグ=ソトース以来だな」


「そういやそうだな。まぁ僕もその間何もしてこなかったわけではないし、なんとかなるでしょ」


「主…気合入れないとと言った矢先にそれか。努々、気をつけるのだぞ」


「あぁ…」


 これが最後の晩餐でないことを祈りながら、国王達と食事を済ます。僕はなるべく和やかに過ごすように勤めていたが、エリーの表情は終始曇っていた。全く心配性だなぁ、こいつは。




 部屋に戻ると、気分を落ち着ける為にお香を焚き、ベッドで横になりながら寝煙草をふかす。なんとなく、儀式みたいなもんだ。 


ーーーコンコン…


 突然、控えめなノックが部屋に響く。生返事を返すと、エリーが沈痛な面持ちで立っていた。


「まぁたそんな顔してるのか。ほれ、菓子くらい出すから入りな」


 エリーの背中を押すと椅子に座らせ、机に茶菓子を出す。少し前にマテリアルの実家に帰ったとき、こっそりちょろまかしてきたものだ。確か、エリーはこれが好きだった気がする。


「アキラ…」


 そう言いながらも何も続けず、下を向いてばかりいるエリー。珍しく、菓子にも手をつけない。沈黙が数分。チェーンスモークしていた煙草も、もうすぐ二本目を吸い終わる。


「エリー?何もないならもう寝るぞ?夜更かししないで、体力を温存しておきたい」


 声をかけると、エリーが唐突にベッドに座っている僕の横に座ってきた。


「アキラぁ…」


 エリーが涙声になって急にしがみついてくる。そういや、こいつ僕のこと好きなんだっけ?やばい、急に鼓動が早くなってきた。ダービー、なんとかしろ!クソッ、余計な空気読んでチャンネルを切ってやがる。


「アキラーッ!」


 嗚咽に近い声で僕の名前を呼び、さらに勢いを増して僕に抱きついてくる。支えきれず、そのままベッドに倒れこむ。僕の胸に顔を沈め、涙やら何やらで僕の服を濡らす。


「エリー…?」


「絶対、絶対帰ってきてね…?帰って来て、私から離れないで…」


「なにを急に…」


 笑いながら頭を撫でてやるが、エリーの感情の昂りは収まらない。


「だって、だって…相手はあのウラヴェリア伯爵だよ?私でも知ってるくらいの人が敵なのに…もしかしたらアキラだって今度こそ…」


「こら、縁起の悪いこと言うな」


 笑いながら小突いてやると、エリーが顔を僕に向ける。顔が汁でぐしゃぐしゃだ。


「だって…き…ん…もん…」


「えっ?」


「アキラのこと、好きなんだもん…!」


「っ!?」


 …ついに、エリーの口からその言葉が出てきてしまった。今までのらくらとかわしてきたが、目の前で言われると決定打だ。逃げ道がない。


「アキラに傍にいて欲しいんだもん!また一緒にお散歩行きたいんだもん!もっと、アキラと一緒にいたいんだもん!」


 一気に捲くし立てるように気持ちを伝えると、またエリーは胸に顔を埋めて泣き出す。どうしていいかわからず、僕はただエリーの頭を抱いていた。

 どのくらい時間が経ったかわからない。いつまでも気持ちの整理をつけられずにいると、エリーが突然上体を僕から離した。


「エリー?」


「アキラが、別に私のこと好きじゃなくても構わない。でも…」


「っ!?」


「戦に行く前に…私を…抱いてください…」


 そう言うと、エリーはするりとドレスを脱ぎ落とした。薄暗い部屋に月明かりが差し、エリーの白い肌が浮かぶ。


「ちょっ!待て!お前、わかってやってるのか!?」


 顔を逸らし、必死に抵抗する僕に、エリーは静かに告げた。


「わかってる…わかってるから、アキラに抱いて欲しい…お願い…私の我が儘、聞いて…今だけでいいから…私を見て…」


 言葉を紡ぎながら、そのまま僕に覆い被さってくる。目の前にエリーの細くしなやかな裸体が迫り、裸の胸に頭をかき抱かれる。頬に、エリーの弾力が伝わる。


 …おい、ちょっと待て。エリーだぞ?あの、小動物みたいに僕にまとわりついてくる、あのエリーだぞ?


ーーー本当にお前の評価はそうなのか?


 ダービーではなく、もう一人の僕が疑問を投げかける。


 五月蝿い。今までだって、こうならないように必死にかわしてきたじゃないか。


ーーーただ認めたくなかっただけではないか?妹分として、保護者みたいに接してきたエリーを、そういう対象として見ないように、お前は本当の気持ちを誤魔化していただけじゃないか?


 五月蝿い五月蝿い!


ーーー『必死に』ならないとかわせなかったのが、その証拠なのではないか?思い出してみろ。お前が大変な時、傍にいたのは誰だった?


 もう一人の僕の言葉に、ふと記憶を馳せてみる。初めて国王の前に立ったとき、僕が魔術師団に入団したとき、そして緑竜を倒した時。僕の身を案じ、一番心配してくれたのはエリーだった。エリーが初めて作った食事は、僕の事を考えて悪戦苦闘した、愛情が感じられた。迷いの森に行った時、無理矢理ついてきたエリーを、何に代えてもこいつを護ろうと思っていた。あの日夜空の下散歩した時、不思議と心地好かった。エリーの手に口をつけた時、こういうのも悪くないとどこかで思っていた。

 そう、いつの間にか、隣にエリーがいることが当たり前になってしまっていた。なんてこった。エリー以外の女のお子が隣にいることが、考えられなくなってしまっていた。


ーーーもう、自分の気持ちを隠さなくていいのではないか?エリーの気持ちに、応えてやってもいいのではないか?もっと、自分に素直になってはどうだ?


 その声は確かに僕の声だったのに、何故かダービーが言っているようにも聞こえた。


「エリー…」


 僕が顔を離しエリーを見上げると、ただ辛そうなエリーの顔が僕を見下ろしていた。そっとエリーの首に手をやり、頭を下げさせて唇を重ねる。


「あっ…」


 唇を離したとき、エリーの顔に困惑の表情が浮かんだ。


「今のはいつぞやの、意味も理解していなかったお前のキスじゃない。僕も…エリーのことが好きだからしたキスだ」


 そう、自分にとっての最終通告を告げると、エリーの頬にまた一筋の涙が零れた。


「僕は必ずお前の隣に帰ってくる。だから、待っててくれ。待っててくれるっていう、証を僕にくれ」


 そう出来るだけ笑顔でエリーに言うと、エリーは顔を押さえて泣きながら何度も頷いた。その晩、月が下を向くまで僕達は体を重ねた。眠りに就く前に、これで帰って来れたら僕は竜殺し(ドラゴンスレイヤー)ではなく、フラグ殺し(ブレイカー)を名乗ろうかとかそんな馬鹿馬鹿しいことを考えながら、隣で笑顔で寝ているエリーを眺めていた。


「全く、どんな夢見てんだか…」

はぁ…ついに書いてしまった、この回。この位の表現なら、セフセフですよね?エリー、歳だけならアキラより上だし。こういうシーンいらなかったという方、ごめんなさい。

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