~第三十一話~文化交流とトホホな人たち
JPSがコンビニになくて失意のドン底にいる白カカオです。二回目の登場です。理由はなんとなくです。では、三十一話、どぞ。
「アキラ、遊ぼ?」
国王の部屋から大剣を抱えてきた僕を、エリーが目ざとく見つけた。
「いや、ちょっと忙しくなりそうだから、悪いけど、遊ぶのはまたな」
別に、気まずいとかそういうことではない。色々消化不良ではあるけども。
「また…戦争に行くの?」
エリーが悲しそうな表情を浮かべる。確かに僕がこっちに来てそういうこと多かったから、心配するのもわからんでもない。
「いや、お前の馬鹿親父に仕事頼まれてな。争い事じゃないから安心しな」
そう言うと、いつものようにエリーの頭を撫でる。こちらもいつも通り、気持ち良さそうに目を細める。
「そっか…アキラ、お仕事頑張ってね」
強めに掴まれた服を離すと、エリーはやはりどこか寂しそうに笑った。
「まぁ…落ち着いたら、また一緒に散歩でもしような」
「ホント!?うんっ!約束だよ!?」
エリーの顔がパッと輝く。やっぱり、エリーはこうして笑っている方が可愛い。笑顔で手を振り去っていくエリーに僕も手を振り、とりあえず今は使わないこの大剣を自室に置いて来る。
「ほう…?」
「なんだよダービー」
「主もエリーのこと、まんざらではないようだな」
「うっさい」
今のうっさいにも、何か含む意味があったのだろうか。昨日の件から、自分の気持ちすらよくわからない。なんだこれ。思春期のガキじゃあるまいし。
「よいではないか。主にも正常な男子としての感情が働いておる証拠だな」
「お前の上から目線はなんか、ムカつく。さぁ馬鹿言ってないで、戻るからな」
「戻る?」
「僕の世界に戻って、交流の手配をしないと」
そう、僕は急務で手配をしないといけないのだ。恋愛なんぞにうつつを抜かしている場合ではない。
「今の主には必要なことだと思うのだがなぁ…」
ダービーの呟きは、あえて無視した。
「もしもし、透?ああ、そうなんだよ、マジ参ったよホント…。そう、その件でさ、お前に頼みがあるんだ。うんじゃあ、明日お前んとこ行っていい?うん、高校の方でいい。昼過ぎ頃向かうわ。うん、じゃあな」
自宅の自室で携帯を離すと、一先ず溜息をついた。とりあえず、第一段階クリア。
「主、誰と話しておったのだ?」
「あぁ、昔のクラスメイト。そいつが今農業高校で教師してるから、今回の件で協力願おうと思って」
中学の同級生の高階透。今回の文化交流に関して、僕にとっての最重要のカードだ。こいつの勤め先は前述の通り、農業高校。これほど身近に手軽でおあつらえ向きの舞台はないだろう。こいつは一介の教師でしかないが、これが駄目ならかなり面倒くさい手続きが必要になる。その場合、僕が厚生労働省とか農林水産省とかに掛け合わなければいけないが、そんな面倒くさいマネはごめんだ。つうか、僕は一般人のはずだ。
「主…そんなカンダタの蜘蛛の糸より細い希望的観測にすがるのはもうやめぬか?」
嫌だ。僕はごく普通の一市民だ。少なくともこの世界では!
「主…手遅れだと思うぞ?」
うっさい。泣きたくなってきた。
翌日親父の姦計で今月中に会社を去ることになった僕は、分割した引継ぎ業務のその日の分を手早く済まし、一旦キュートスに向かった。交換留学生を迎えに行く為だ。そして更に、何故か着いてきたエリーも車に乗せる為に、透のところに行く前にもう一度自宅によるハメになった。僕の車は運転手を除き四人までは詰めれば乗れるが、一人オーバーしてしまったためにお袋に車を借りなければいけなかった。まぁ滅多に使わない中型のファミリー車だから、たまには使ってやるのも悪くないだろう。ちなみに、車に乗った事は勿論見たことも無いエルフ四人は、興奮して五月蝿かった。
「よお親善大使様、お疲…れ…」
高校の職員用玄関から入った僕達を出迎えた透は、こちらを見るなり絶句した。確かに初めて見る生エルフだ。それに連れて来ることは確か話してなかったから無理もないかもしれない。それは僕の失策だ。
「そんな口をきくなよ…僕も頭痛いんだから」
「アキラ、頭痛?大丈夫?」
僕に半ば抱きつき加減でエリーが僕を見上げる。そうじゃない。そうじゃないが…ほら、目立ってる。部外者のおっさんに、エルフの群れ。ただでさえも人目を引くのに、お前、離れろ。前にもあったろ、こんな衆人環視。
「いや…言いたい事は山ほどあるが、まぁいい。とりあえず応接室に座ってくれ。エルフの方々もどうぞこちらへ」
透が先導して案内する。おい、最後の含みの在る笑みはなんだ。いや…考えたくない。少なくとも今は考えたくない。たとえエリーの見た目が二十歳未満だとしても!
「はぁ…」
応接室のフカフカのソファーに座ると、一気に疲れが押し寄せてきた。主に精神的な。若い女教師の人が、お茶を運んできてくれた。緊張しているのか、顔が強張っている。別に緊張なんかしなくていいのに。僕はそんな大層なもんでもないし、こいつらは見た目どおりの精神年齢なんだし。
ーーーコンコン。
ノックが聞こえ、透と校長先生と思わしき先生が入ってきた。さて、ここが正念場だ。
………と気合をいれたのはいいものの、好感触過ぎて逆に拍子抜けした。周りを珍しそうにキョロキョロするエルフ達を、さらに同じような視線で眺める校長先生と透。たぶん、学校のネームバリューが上がるとかそういう裏もあったと思うんだけど、とりあえず教育委員会に通して、そこから厚生労働省まで話を持っていくそうだ。まぁ、完全に不本意ながら親善大使を任命された僕の名前を使っていいと許可したから、悪くは転ばないだろう。利用できるものは利用するのが僕の主義だ。総理も、今回に関しては助成金とか工面してくれるらしいし。
…つうか、なんで僕は総理とそういう会話できるようになってんの?
「よし、僕の仕事はここまで!あとは、キュートスの外交官に任せる!」
完全に仕事をブン投げ、留学生四人を送り、キュートス城の自室に引きこもる。今エリーは自分の部屋に戻ってぐっすり眠りに落ちている。ホント、何しに来たんだあいつは…。今僕の部屋にいるのは、この国の外交官二人。両方とももう消えないだろうクマが刻まれ、がっつり…げっそりじゃなくてがっつり頬がこけ、慢性的な疲労が滲み出ている。つうか僕が出来ることも知識的にも外交能力的にもここまでが限界だから、後はやってもらうしかない。僕は一般人なんだ。でも流石に、こんな状態の外交官にタダで仕事を増やさせるのも良心が痛むので、酒の一杯でも奢ってあげることにする。ポケットマネーにはかなり余裕があるし。
城下の居酒屋につくと、二人がもの凄い勢いで酒を煽る。
「アキラ様はまだわかっておらぬ!我々が如何に水面下で苦労しているのか!」
「そうだ!アキラ様、先日のアキラ様の世界との条約を結ぶ会議の時は…」
はいはい、お二方、その話、四回目のループ突入。そうとう溜まってたんだな。察するよ。
「しかし、決して悪いお方ではないのだ、騎士王は…」
「そうとも。だからこそ我らもついていっているんだが…」
なんとも涙がちょちょ切れる話だ…主に話のループ加減で。健気過ぎるだろ、この人たち。僕は国王のアレな素行しか知らんけど。
「おや?アキラ殿ではないか」
おぉ!!いい所にセラトリウス団長!助けてください!この無限地獄から。
「全くマドラの馬鹿にはほとほと呆れるばかりじゃ…」
……アレ?
「アキラ殿。そなたももう少し普段の行動を謹んで…」
………アレ?
「「アキラ様!まだ話は終わっておりませぬ!!」」
待て、状況悪化してる?三対一か?コレ。
「主…腹を括るのだ。人間、時には耐えることも必要な時期もある」
「店員さーん、麦酒もう四杯くださーい」
もうこいつら潰さないと駄目だ。幸いエルフは酒が弱いことは確認済みだ。
「アキラ殿…聞いておるのか?そなたは…」
「アキラ様、我が国王は…」
「しかし国王もあれで…」
駄目だ、こいつら更に悪酔いしただけだ…。こうなりゃ緊急回避。エマージェンシーモード発動。
「店員さーん!麦酒、ピッチャーでー!」
僕が潰れよう。早く意識を手放すことを祈る。
「主…」
あー、念の為ゲートの時間止めてきて良かった。明日、会社だし。一日こっちで休んで肝臓フル活動してもらお。気持ちわる…。
本当は国王はそれなりにしっかりした人なんです。ただ、他の方々が振り回される割合が多いだけで…。それと、外交の件ですが、あんだけ風呂敷広げておいてあっさり終わらせました。政治が関ってくると、私もわからん!!…すみません。次話から、またシリアスになる予定です。あくまで予定ですが…。