~閑話休題~ギラン、新たなる胎動
こんばんわ、本日二回目の白カカオです。夜勤前ということなので、閑話扱いの短めのお話を一つ投下します。本編絡みの。今週あまり進めれなかったので…orz
「ここが、お前の言う異世界か?」
隣に佇む黒髪の女に話しかける。俺の等身大位の黒い渦を生み出したヘル・ブリングは、相変わらずわ何も読み取れない笑顔で俺を引っ張っていった。そこまで時間はかからなかった気がする。渦を抜けると、黒雲が覆い雷が響く、見渡す限り岩肌と森ばかりの大地に降り立った。壮観とも言える光景だが、何故か不安感や焦燥感をかき立てる。当てもなく、俺はただこの女の後をついていく。
「そうよ?貴方の大好きな血と暴力が支配する世界…気に入ってもらえそうかしら?マスター」
「勘違いするな。俺は殺戮が好きなんじゃない。今まではあいつらの道を作ってやる為に汚れ役を買って出ただけだ」
「へぇ…その割りに、肉塊に剣を埋める貴方、楽しそうだったわよ」
「…勘違いだ」
たまに、戦闘中に意識が自分の制御から離れる時があった。血が飛び散り、臓腑が引きちぎれるのが愉快で堪らない自分がそこにいた。最近は理性的な自分と、仄暗い愉悦を貪る自分のどちらが本当の自分なのかわからなくなる。
「つうか、そもそもあったんだな、異世界」
「ニュースでもやってたわよ?貴方の世界との交流も。知らなかったの?」
「…テレビなんて見てる暇なかったからな。それに、あの国は自分達のことでいっぱいいっぱいだったじゃないか。外の報道なんてする余裕あったのか?」
「さぁ?ただあの子の腕にいた時の記憶ではそうだっただけだもの」
あの子…俺の目の前で大型の口径の銃弾で内臓をぶちまけられ、たんぱく質の塊になってしまった、このバングルを俺に渡した女の子。
ーーーリーダー…いつか…いつか、皆が笑顔になるように…導いて…それまで…死なないでね…?…このバングル、お守り…私のことは守ってくれなかった…けど…。
そう言って俺の腕の中で事切れた、まだ十代前半の女の子の顔が思い浮かぶ。
「何故…あの子は笑って逝けたんだろう…」
「さぁ?わからないけど、『信頼』ってやつじゃないの?私は、人間のそういう綺麗な感情なんてわからないけど」
「何故…あの子を助けてくれなかったんだ…」
ヘル・ブリングが立ち止まると悪戯っぽい笑いを浮かべてこう言った。
「だってあの子の心、綺麗すぎるんだもの。魔力も微量だったし。貴方の後ろ暗い心と魔力の方が心地好かったしね。それに…どうせ主に選ぶなら、女の子よりいい男の方がいいじゃない?」
そう言うとヘル・ブリングは俺の顔を手で挟み、そっと唇を重ねてきた。舌が口内に入る感触がしたが、俺は応じない。
「もう、つれないマスターだね」
「くだらねぇことしてないで、行くぞ?目的地位いい加減言ったらどうだ?」
小悪魔のような笑顔を浮かべるヘル・ブリングを無視し、前に進む。
「まぁいいわ。今から向かうのは、あのお城。この地の有力な支配者が住んでいるお城よ」
岩肌だらけの断崖の中腹に、他の光景に明らかにアンバランスな城が見える。あれはまるで、ドラキュラ城のようだな。
「ふふふ…ご名答。私達が会うのは、正真正銘のドラキュラ伯爵よ。それも、真祖の」
そう言うと、先ほどと同じように俺を先導していく。
「あっ、油断しないでね?ここはゴブリンや鬼族も出るし、お城手前の森に入れば不死族も出るわ。貴方はまだこの世界の住人じゃないんだから、きっと襲われるわよ。私の主なんだから、簡単に死なないでね?」
「ふんっ。あの銃弾の嵐を幾度も潜ってきたんだ。今更何を恐れる必要がある」
歩く事三日間。ようやく目的の城に到着した。途中、ヘル・ブリングが言うような化け物が言った分の種類みな出てきたが、問題なく屠った。あんな雑魚ども、全く問題ない。ただ、不死族は倒すコツを掴むまで少し時間がかかったが。魂喰いで魂を吸い取ってしまえば、なんの造作もないことに気づいた時には少し苦戦した自分が悔しかったが。
城に入ると、中は人の気配がない、がらんどうの空間だった。調度品はあったが、生活感がまるでない。
「こっちよ。この城の主が、魔力で道案内してくれてる」
ヘル・ブリングが目の前にある階段を上る。
「そうなのか?」
「マスターは、魔力感知に関してはまだまだね」
「…五月蝿い」
大仰な扉を開けると、どこかの王室の謁見の間のような部屋の正面、椅子にただ一人腰掛ける男がいた。
「…久しいな、地獄をもたらす女よ」
「久しぶりね、ソーン・ウラヴェリア伯爵」
「…で、そいつが今度のお前の主か?」
「ええ。どう?いい男でしょ?」
「ふん。ところで、ヘル・ブリングよ。天国への扉が復活したことは知っているか?」
俺の存在を無視し、話を続ける二人。…まぁいい。俺は二人の会話から情報収集に徹しよう。
「えぇ。主と同じ世界から来た、あのお坊ちゃまでしょ?キュートスお抱えの」
「あぁ。では、そのお坊ちゃまが緑竜を倒したことも知っているか?」
「っ!?まさか…あの古代竜は、いくら力が衰えたとは言っても、常人に倒せる竜ではないのよ!?」
おいおい…竜までいるのかよこの世界。しかも、俺と同じ『人間』が倒しただと?どういうことだ一体…。
「残念ながら事実だ。…して、協力してくれるんだろうな?」
「えぇ、勿論。だけど、一つ勘違いしないでね?伯爵。私に命令出来るのはあくまでマスター…白夜だけだからね」
「わかっている。…白夜」
「…なんだ?」
椅子から立ってこっちに向かってくる伯爵。いきなり話を振られ驚いたことをなんとか隠し、上目遣いに睨む。こいつ…でけぇ。
「我々が住むこの地は、ギランと呼ばれている、岩山しかない殺伐とした地だ。山脈を隔てた向こうはセラスと言って、平原と肥沃な大地が広がっている。我々は、そこからつまはじきにされた種族なのだ。向こうのやつらはその大地だけでなく、今度はこちらの大地まで手を広げようとしている。なんの目的かは知らんが、我々を根絶やしにするつもりだ。そんな言われもないのに。どうか…力を貸してくれないか?私は、同胞を護りたいのだ」
『同胞を護りたい』…最後の言葉だけがやけに耳に残った。なんとも信用し難い男だが、特に目的もない俺は話に乗ってやってもいいかなと思った。
「いいよ、手伝ってやる」
「本当か?」
「あぁ。話を全面的に信用するわけではないがな。ただ…誰かを護る戦なら、俺も手を貸してやる価値はある」
「そうか!!」
伯爵が俺の手を取りシェイクハンドする。
ーーーふふふ…暗雲としたマスターの心を唯一動かす言葉、『護る』。如何せん綺麗な感情なのは癪に障るけど、これでもっと楽しめるわ。待ってなさい、ヘブンズ・ゲート…。
ども、白夜回でした。目的もない男なので、この位軽くてもいいかなと。出勤まで時間がないからとか、そういう事ではないです。…9割は。とりあえず、白夜はギランにつきました。