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クリエーター  作者: 如月灰色
《第一章 二つの世界》
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~第二十二話~三人の夜《晶、ダービー編》

こんばんわ、白カカオです。楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、というか私はいくら時間があっても足りないもので。きっとそれは人間の体内時計が25時間なことに起因するわけで。生まれ変わるなら火星に住みたいもので。…絶対関係ないですね。すみません、絶対関係ない。今日も缶チューハイ片手に頑張ります。

 ゲートまで円卓の馬鹿共を送って行くと、僕はそのままキュートス城に帰った。残念だったなエリー。今回は僕あまり仕事しなかったからな。まぁ一応和平結んで来たから、任務達成ってことで。

 国王とセラトリウス団長に報告を済まし…すでにこちらでの住居になっている城の一室に戻る。僕用に簡易クローゼットや机、本棚とか揃っている位の本気っぷりだ。広さにして六畳間位だが、ここでは電気がないため余計なものを買うこともなく、充分な広さがあった。机の上の短めの蝋燭に火をつけ、先日ココに教えてもらったこの国のお香をたくと、壁に掛けてあるジャージに手を伸ばす。僕の世界から持ってきた数少ない私物の、音楽プレーヤー。部屋の中で僕個人的に楽しむ物だから、別に支障ないだろうと持ってきた物だ。イヤホンをつけると、そのままベッドにダイブする。


「なぁ、ダービー。ウォーレンが言ってた事、本当か?呪われたアイテムってやつ」


 何気なく訊ねると、言いにくそうにダービーが答えてくれた。


「あぁ…。別に呪いがかけられているわけではないが、似たようなものだな…ウォーレンが言っていた事は、ある意味事実だ…」


「ふーん…そっか」


「主は…何も聞かないのか?そんな物いらないと我を捨てたいと思わないのか?」


 ダービーの声が、いつもと違う弱気一辺倒になっている。無理もないことだけど。なんだかんだ言って大事なことはしっかり話してくれる男だ。話したくないからと隠すような性格ではないこと位、短い付き合いだが僕にはわかる。まぁ別に話したくなかったとしても、僕は何も言わないけど。その話の内容が負い目を感じるものなら、尚更話しにくいだろうし。


「んー…。別に?」


「何故!?我は主を不幸にするような存在なんだぞ!?」


「うーん。別にお前が直接呪われてるわけじゃないし、僕はお前と出会ってから、特に不幸な目にあってないし」


「何度も命の危険にあっておるだろう!」


「まぁ…それもひっくるめて僕が選んだ生き方だから。流石に自分の人生の責任を誰かのせいにするほど、ガキじゃねぇよ。僕をみくびんな」


「しかし!」


「それにさ…」


 たぶん、こっからが本当の僕の気持ちなんだろうな。いや、今までも本当の気持ちだけど。それに、あまり言うとこいつ調子こくからこういうときしか言わないけど。僕もハズいし。


「お前がいないとさ、寂しいじゃん。四六時中人の頭ん中入ってきやがってさ。そんなやつを、はいそうですかって簡単に捨てれるほど僕はドライに出来てないの。お前が僕んとこに来てから、この方向性が見えない日常を何気に楽しんでるし」


「…!?」


「もしお前が呪われてるなら、解呪する方法探してやろうとか、思うくらいは僕はお前を気に入ってるよ。だからお前も僕から離れた方がいいとか馬鹿なこと考えんな。これはお前の主人の命令だからな。もっともお前のシステム上、そう簡単に離れられないだろうけどな」


「主…!」


 ダービーの声が心なしか涙ぐんでいるような気がする。お前、涙腺とかないだろ。


「だから、僕はお前の過去がどんなであっても別に聞かない。今僕の指にいるのは、過去のダービーじゃなくて今のダービーだろ。だから、この話はお終い」


 足の反動でベッドから起きると、ジャージから同じく向こうの世界から持ってきた煙草を取り出す。これも、煙草を吸う文化がこっちにないので他の人がいるときはなるべく自粛している。横着して蝋燭で煙草に火を点けると、傍に置いてあるお香の煙と紫煙が混ざる。部屋に三つ目の蛍が現れた。こんなガラにもない雰囲気なのは、たぶんイヤホンから連続でバラードが流れているのと、お香があまりに優しい香りで僕を包んだせいだ。クソッ、あとでココに文句を言ってやろう。窓から差す月明かりがすごく綺麗だ。


「見てみろよダービー。満月。月がこんなに明るいぜ」


 思わず窓を開け身を乗り出すと、空に満天の星の絨毯と、一際大きな月が輝いていた。


「昔は、香奈子とよく一緒に夜空の下こうやって空を見上げてたなぁ…」


「…香奈子お嬢は、主を見ていたのだろう?」


「五月蝿い」


 なんだか、何でもないのに可笑しくなってきた。僕の過去に何があろうと僕は僕だし、ダービーだって同じだ。投げやりな意味じゃなくて、今がいいならいいじゃん。どうせ、過去も今も未来も、一本の同じ線で繋がってるんだから。そう考えると、自然に笑みがこぼれ出す。


「…主」


「うんっ?」


「主が聞かぬと言ってくれるなら、今は主に甘えさせてもらうとしよう」


「んっ」


「ただ…我の過去の話から、一つ忠告させてくれ」


「なんだ?」


「必ず主の前に現れるであろう黒衣の女、地獄をもたらす者(ヘル・ブリング)と言う名の女だ。そいつを従えた者。努々、気をつけてくれ…」


 ふーん。ダービーが天国で、そいつが地獄ね…。


「なぁ、その女って、美人?」


「まぁ…何故だ?」


「いや、天国なら、その女も見せてくれそうだなって」


「主は阿呆か!そいつは我に次ぐとも言われるほど、強敵なのだぞ!?」


「なら、お前の方が上じゃん。大丈夫大丈夫」


「はぁ…まぁ、主がそういう下世話な話をするのも珍しいから、今回はもう何も言うまい」


 シリアスモードは疲れるから、今夜はもうお終い。僕とダービーは、こうやって軽口叩き合う位がちょうどいいんだ。こうやって、笑いあうような空気が一番心地好い。だから、今が幸せだからそれでいいさ。主人と従僕の関係だが、僕にとってはこいつは立派な相棒だ。


ーーーガチャッ…バン!


「アキラー。お外見て何してるのー?」


 エッ、エリー!?ちょっ、待て。音楽プレーヤーも煙草も出しっぱなし!ちょ…


「アキラー。これ、なぁにぃ?」


 音楽プレーヤーに手をかけるエリー。あーあ…。




 …ウォーレンの言う通り、我は呪われた指輪だ。我の魔力の源は主人。つまり主人の魔力を吸い取って力を発揮している。我が主人を選ぶ基準は、その者の魔力の透明度だ。力に懸ける想いが純粋であればあるほど、その魔力は透き通っていく。たとえそれが、純粋な『悪意』だとしても…。だから我はそのような者に心は開かなかった。そして、どの時代も強く、透き通るほど透明な思いはそのような者ばかりだった。若しくは、人の道を外れてしまうほど器が歪んだ想いだった。そのような者にも、我は力を貸さなかった。そうしていつしか、ヒトに対して何も期待しなくなっていった。不感症になっていた。

 …だが、主は例外だ。出逢った当初は逆に透明な魔力など持ってはいなかった。ただ、時と土の多重属性という異質な魔力に惹かれただけなのだろうと、そう思っていた。しかし、エリーと出会い、国王と出会い、この国の民と出会い、そして戦いに身を置き…。主の魔力は純度を増していった。『護りたい』というただそれだけで、主は透明になった。美しい程、全てを吸収し、受け入れてしまう程透明になった。いずれは敵の想いすら受け入れてしまいそうな、そんな危うい透明感のあるココロに、我は心酔してしまった。

 だからこそ、自身が憎かった。暴虐なほど主人の魔力を喰らい、そして戦いの中でその命を散らせる。そんな過去を幾度となく繰り返し、いつしか呪われていると揶揄されるようになった自身の力が怖くなった。

 しかし、たった今この主は言ってくれた。我がいなかったら寂しいと。僕から離れるなと、命令してくれた。『天国への扉(ヘブンズ・ゲート)』、あるいは『ダビデの六星環』としての我ではなく、『ダービー』としての我を求めてくれた。幾千霜と月日を漂い、悠久の間孤独を拠り所にしていた我を。呪われた運命を持つ我を、受け入れてくれた…。涙が止まらなかった。主は「どうせ実体のないお前に、涙腺なんてないだろうに」とか思っているのだろうが、心の涙がとめどなく溢れていた。あらゆる感情が押し寄せてきて、自分の心が溺れかけていた。主は、創造主以来たった一人無限の魔力(エターナル・マナ)を発現した者だ。その強大な魔力で、我に喰い尽くされる事はないかもしれぬ。だが、肉体だけは話が別だ。どんなに魔力が強くても、心臓を突かれれば、脳を飛ばされれば、血を大量に失えば、簡単に命を落としてしまう。今回の主は…何があっても失いたくない。だから…気をつけてくれ。あの女には。地獄をもたらす者(ヘル・ブリング)には…。

すみません。全部が入りきらずまた前編になってしまいました。なんという…。さて、次はどう展開させようかな…

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