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クリエーター  作者: 如月灰色
《第一章 二つの世界》
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~閑話休題~地球に生まれたもう一人の天才

こんばんわ、白カカオです。今回の登場人物は物語に後で出てくるキャラなのですが、今の大筋とあまり関係ないのであえて閑話扱いで登場させたいと思います。

 地球の、ある紛争が絶えない地域。ここに一人の日本人がその身を投じていた。彼が所属するのは反政府のレジスタンス。彼もまた、悪政から人々を救う為に戦っていた。




「ここもそろそろ潮時かな…」


 俺達は今、政府軍の圧倒的火力に押され、塹壕に身を隠している。ここに移ってもう三日目、外で敵軍の銃声が聞こえた。あの特徴ある銃声は、ウージー。俺達が使う銃、AK-47アブトマットカラシニコフとは明らかに違うから聞き間違うはずがない。…もっとも、銃声が聞こえる時点で近くで戦闘が起こっていることには変わりはないが。


「さぁ、撤退しよう。次の地点はもう確保してあるな?」


 女子供、老人ばかりの避難民達。彼らを挟むように、反対で様子を見ていた女に声をかける。


「えぇ。向こうにはもう確認済み。食料も確保して貰ってるわ。…行きましょうか、リーダー」


 女が険しい表情を浮かべてこちらに背を向ける。恐る恐るやりとりを見守る避難民達。俺は交戦中と思しきグループの班長に無線で連絡を取り、彼女らに続いた。



 俺は日本で生まれ、本来ならこの地球では最も恵まれた生活を甘受できるはずだった。しかし、父親は日常的に家庭内暴力を振るい、母親はそのせいでヒステリー。年齢が二桁に達する前に、二人は心中した。最低な夫を捨て切れなかった母が、俺がいる目の前で父を刺し殺し、その包丁で自分を喉の脈を掻っ切って死んだ。辺りは血の海という言葉が相応しい程、紅く染め上げられていた。

 親戚から面倒事と拒否され、俺は施設に入った。居心地は悪くはなかった。今思えば、それまで最低な環境で育ってきたのだから当然だ。衣食住は保障され、誰も俺に暴力を振るわない。…ただ、思春期に差し掛かった辺りから感じた、奇異を見るような目だけが絶えられなかった。

 そんなとき、俺はある外国人の少女に出会った。同じ施設の子だったのだが、父親と二人、この国に密入国してきたらしい。園長がそのことを知ってか知らずかはわからないが、その子が入って二ヶ月が経過しようとした時だった。


「あのね、私…国に帰ることになったの」


 密入国がばれたかと思ったが、実際は違ったらしい。父親の国が内乱で酷いことになっていて、父もそこに行かなければいけないという事だった。彼女自身にも選択権は与えられたらしいが、一緒に行くことを決意したようだった。


「そっか…寂しくなるな…。そうだ。じゃあさ、俺も連れてってよ」


 自分の初めての体の交渉の相手だからとか、そういう些細な情かもしれない。着いて行けば、何かがあるかもしれない。そんな理由で俺は彼女に着いて行った。そして、気がつけば十年以上の時間が経っていた。彼女は今女だてらこの組織の副リーダーをしている。…さっきの女がその彼女なのだが。親父さんは数年前に捕まってしまい、あげくに俺らや同じような組織への見せしめで処刑されてしまった。それも、ご丁寧に俺らにちゃんと見えるところで。俺は…親父さんの意思を継ぎ、彼女の想いを同じく感じ、周りの人達を護る決意をした。復讐、私怨、そして…同じような子供達を出さないように。


ーーードゴォッ!!!


「リーダーッ!」


 突然、塹壕の壁が吹き飛んだ。衝撃に吹き飛ばされ、反対側の壁に叩きつけられる。頭から突っ込んだのか、意識が酷く混濁している。その瞳と耳に入ったのは…。


ーーーパララララ!!


ーーーキャアアア!!!


 ……銃声と悲鳴。さっきまで恐怖に怯え、今は無残に肉塊に変わっていくレジスタンスの皆の姿。それも、幼い子供にも等しく降りかかる無慈悲な弾幕。


ーーークソッ!何で、何でわかったんだ…。何でこんなことが出来るんだ…何で…何で…!!俺にもっと力があったら!俺にこの子達を護る力があったら…!!クソッ!!


 政府軍の何人かがこちらに視線を向ける。こちらに近づき、一斉にその銃を構える。そのマスクの奥に、どんな表情を隠しているかわからない。哀れんでいるのかもしれないし、俺らの組織によるテロで誰かを失った者なら、そのリーダーを前に憎しみを露にしているのかもしれない。はたまた、有数の力を持つレジスタンスを討てるという、ヒロイックな愉悦か。


ーーー何で…俺はただこいつらに、いつかどこかで平和に暮らして欲しいだけだったのに…。こんな所で散るために戦ってきたんじゃないのに…。クソッ!俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ!!俺がここで倒れたら、誰がこいつらを護ってやれるんだ…まだ、俺は死ぬわけにはいかない…死ぬわけには…


「うおあああああああ!!!!!!」


 気がつけば、咆えていた。それを合図に、無数の銃弾が俺に降り注ぐ。それは、正に断末魔だったのだろう。

 …だが、その時はいつまで経っても訪れなかった。





「……ぇ?」


 死んだと思った。あれだけの銃弾の雨を受けて、生きているはずがない。だが…生きている。


ーーー汝の想い、しかと受け止めた。


 どこからか声が聞こえる。硝煙の煙が引いた頃、俺は見た。俺の体を纏っている物を。

 それは、中世の西洋の鎧のようだった。二十世紀のこの時代に、それも銃弾が行きかうこんな戦場に酷く不釣合いな黒い甲冑。それも、薄っすら妖しい黒い光を放ちながら。何が起こっているかわからず、思考が働かない。


ーーー漆黒の天使フォービドン・エンジェル。汝が着ている鎧の名称だ。私が力を貸してあげよう。汝が思うままに、目の前に居る憎き敵を屠ろうではないか。


 何を言っているかわからない。何が起こっているかわからない。


ーーー何をしている?憎いのだろう?目の前にいる、たった今汝の同胞を無残にも粉々にした人間が。


 ただ、その言葉だけが響いた。憎い…目の前に居る、こいつらが。俺の仲間を、護るべき者を無慈悲にもたった今砕いた、こいつらが。殺してやりたい。殺してやる。完膚なきまでに、叩き潰してやる。


ーーーそうだ。憎め。憎め!憎め!!それでこそ、私の主に相応しい。


 両の掌に、小さい影の渦が出来る。そこから何が出てくるか、何故か俺は知っている。右手に、蛇腹の剣。左手に、脇差程度の長さの両刃の剣。こちらは刀身と柄の間に、瞳のような宝玉がついている。どちらも鎧と同じく漆黒と真紅に染められた、魔剣。


ーーー魔剣、罪人の剣(ガリアン・ソード)魂喰い(ソウルイーター)。さぁ、それでやつらを切り刻め。


 脳髄に響くような声に導かれるように、ゆっくり俺は踏み出した。敵が驚いたような、しかしその直後嘲笑するように笑う。


「おい、それは何てアニメのコスプレだ?」


「ここは日本のコミケ会場じゃないぜ、ジャパニーズ」


 それを聞いても俺は何も感じない。仲間がこいつらに殺されたという、憎しみしか感じない。ヘラヘラ笑うそいつらに近づくと、何の予備動作もなく左手の剣で一人の首を胴から切り離す。淡々と、それが当然な作業というように自然な動作で。何の感情も湧かない。ただ、憎しみの漆黒しか感じられない。


「ホワット!?」


 もう一人が驚愕の声を上げるが。それを聞き終えると同時に同じようにそいつの首を刎ねた。


「「っ!?」」


 周りの敵兵がこちらに気づき、一斉掃射してくる。悪意の塊が次々と俺の体に向かってくるが、鎧に吸い込まれ、しかし俺の体に届かない。無造作に右手の剣を横薙ぎに振る。伸びた蛇腹が次々に敵の胴を薙ぐ。胴が繋がっている者は、心臓に魂喰いを突き立てられ大量の血飛沫を上げる。数分後そこに立っているのは、返り血で黒い鎧を真っ赤に染め上げた俺だけだった。両手の剣が興奮している。血を渇望している。魂喰いは敵の血を吸う毎に成長し、倍以上に刀身を伸ばしていた。俺も、まだ収まっていない。


ーーーザクザク…グジュグジュ…


 転がった敵の亡骸に、尚も剣を突き刺す。たっぷり剣に血を吸わせるように…渇きが収まるまで…。


「まだまだだ…もっともっと…俺の仲間達と同じように、臓物をばら撒け…!人の形じゃなくなるまで…ぐちゃぐちゃに崩れろ…!ハッハッハ…ヒャッハッハ!!」


 そう、貴様ら全員ぐちゃぐちゃになってしまえ。もう俺の仲間に手を出せないように…恐れ、もう牙を剥けないように…。もう一度来てみろ…これよりもっと痛く苦しく、殺してくれと頼んでも…永久に辛苦を味あわせてやる…。お前ら『罪人』の『魂を喰らって』、生きたまま地獄を見せてやる…。




 数時間に及ぶ血の狂宴が終わると、その声は訊ねてきた。


ーーー主…名を、教えてくれぬか?史上最も血の雨が似合う、我が主よ。


「俺の名は…黒城白夜。いつでも明るい子でいれますようにと、馬鹿な親がつけた馬鹿馬鹿しい名だ」


ーーーコクジョウ…ビャクヤ…。私は暗黒の血を持つ者に仕える腕輪。『地獄をもたらす者(ヘル・ブリング)』だ。これからよろしく願おう。闇と光の名を持つ者よ。


 妙齢の女性の声がそう言うと、俺の体は元通りに戻った。着ているのは、レジスタンスの服。やはり、銃弾を受けたような痕はない。


「リーダー…白夜…」


 爆破された瓦礫の影で、副リーダーの女が俺に震えながら声をかける。全面に、俺に対する恐怖の色が見える。その背後には、同じように俺を見て震える何人かの子供の姿が見える。良かった。何人かだが、あの銃弾の雨から生き延びてくれた。


「リーダーは、これからお前に任せる。こんなになってしまった俺じゃ、お前らを導けない。ただ…お前らの見えないところで、見守ってやる。影から、お前らの道を作ってやる。じゃあな…もう、会う事もないだろう。今まで俺を支えてくれて、ここに連れてきてくれてありがとう」


 女に二の句も言わせず、その場を去る。


「護る為に傍にいれなくなる…本末転倒だな」


 苦笑した俺の言葉は、誰にも聞かれることはなかった。ただ、左腕に在るバングルが輝いた気がした。少し前に、今回と同じように銃弾の犠牲になった女の子から託された、形見のこの腕輪だけが俺を護ってくれるかのように、微笑んだような…そんな気がした。




 その後、紛争は終わった。表向きは白夜がいたレジスタンスが政府を倒したとなっているが、事実は異なる。白夜はレジスタンスの障害になるであろう政府軍を、独り片っ端から叩き潰していった。残った死体の有様から悪魔の所業と噂されたが、そんな『非現実的』なゴシップはいつの間にか消え去っていた。その国は、新しく生まれたその国の女性の指導者の誕生という歓喜に沸いていた。


「なんか…やっと終わったな」


 小高い丘の上、沸き立つ民衆を遠めに白夜は眺めていた。


「フフッ。怨敵はあのおなごにとっておいてやったのだろう?」


 隣にいる、漆黒のドレスを着た長い黒髪の美女が笑う。


「なんのことだ?俺は仕留め損ねただけだ」


「ククク…素直じゃないねぇ、白夜は。全て計算なんだろう?」


「ふん。あいつが倒さねば、革命の意味がないからな」


「父親を殺されたあの子に華を持たせてあげたって、素直に言えばいいじゃない」


 微笑を浮かべた女が、白夜の首筋に指を這わせる。白夜は素っ気無く身を返すと、その女に訊ねた。


「で、今度はお前が連れて行ってくれるんだろう?俺がいるべき世界へ」


「えぇ、私が導いてあげるわよ。不安そうな顔しないでよ。子供なんだから…」


「してねぇよ。…行くぞ、ヘル・ブリング」


「はい…マイ・ロード…」


 二人の姿が荒野に消えた。こうして『死を呼ぶ道化』『灰色の堕天使』と呼ばれるようになる、暗黒の属性を持つ男、黒城白夜は異世界へと旅立った。…天国ヘブンズ・ゲート地獄ヘル・ブリングが交わるのは、もう少し先の話である。

思ったより長くなってしまいました。同じ「護る者の為に戦う」二人ですが、晶と対比の存在として出しました。いつか、本編に出ます。ちなみに魂喰いと罪人の剣ですが、これは完璧にBASTARD!!のそれをイメージで書きました。あの武器好きなんで、昔から私が物語を書くときは出したいと思ってたのですが…。元々は主人公の武器として考えた武器です。あっ、丸パクリは嫌なんで、設定は変えて書きます。あと、白夜の名前ですがブ○ーチの六番隊隊長は全く関係ありません。念の為。

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