~第十三話~緑竜の棲家
こんばんわ、白カカオです。日付が変わってから執筆しました。明日はたぶんもっと早い時間にお届けできると思います。つうか、お待たせしました。続きです。さて、今からプロット立てるか。嘘です。お楽しみいただければ幸いです。
今、僕たちは作戦通り二つのグループに分かれて、緑竜の森を抜けている。僕のグループは、指揮にマドラのおっさん、見知ってる人だとカイム、グレン、ガラム、シーリカ。ガロンだけ向こうのグループに行ってしまった。これだけ知っている人が揃っているとそれだけで心強いが、どうせならガロンも一緒のグループにして欲しかった。もしかしたら、このグループ分けにも恣意的なものがあるのかもしれないが、考えてもわからないことは考えないことにしよう。
緑竜の森は広い。最短で縦断するのにエルフの足でこれまた二日かかるらしいから、百キロはくだらないかもしれない。その広大な森を牛耳る、緑竜。この森の生態系ピラミッドの頂点だ。体躯はエルフが六人乗れる馬車十台分。成竜どころか古代竜の為人智を超えた頭脳、それを駆使した竜魔法を使う。フィジカルの強さに加えてそれは反則だと思う。そんな文字通り怪物が棲む森に、最低でも一泊は野営しなくてはいけないというこの状況。天気はあいにくの曇り空。太陽よ、僕は君にもう一度会うことが出来るのだろうか。一応ルート選択は、セラトリウス団長の『千里眼』で緑竜がいなく、尚且つ周囲のドラゴンの個体数が最も少ないルートを選んだらしいが…如何せんどのルートにも緑竜の姿はなかったらしいから、これはもう運任せでしかない。
「さぁて、お前ら!今日の晩飯は竜鍋だ!気合入れて仕留めろよ!」
…なんでこのおっさんはこんなに元気なんだ。もしかしたらこの胆力の強さこそがこの人が団長に就く所以なのか。たしかに出てきてもいないものに怯えるのは、騎士として愚かなことなのかもしれない。つうか、割と正論だ。僕も割り切ることにしよう。…出てこられたらそれはそれで、すげぇ困るけど。
「…はぁ、気張っていくか」
「おう!…にしてもお前、もう平気なのか?」
珍しくグレンが僕の心配をしてくれている。これは本当に竜が降ってくるかもしれない。
「あぁ、ぐっすり寝れたからだいぶ。そうだ、まだ礼を言ってなかったな。ありがとう、シーリカ」
出立前にガロンから、シーリカが誰よりも遅くまで僕を看ていたという話を聞いた。明け方前にふとガロンが目を覚ました時にも、シーリカは必死に癒しの風をかけてくれていたらしい。全く、頭が下がる。
「あんたが寝た後、あんたのこと団長達が話してるの聞いたからね。今回の作戦で戦闘になった時、こっちのグループのキーマンはアンタだって言ってたし。マドラ団長との試合、私も見てたからね。団長達の判断には私も同意。べっ、別にアンタが心配で寝れなかったわけじゃないんだからね!」
ここでツンデレキャラの真似事で誤魔化さなくてはいけないほど、もしかしたら僕はこの人に負担をかけてしまったのかもしれない。一応言っておくが、この後僕にデレるとかは全く無い。バリアスに向かう途中、暇だからと散々騎士団にいる彼氏の惚気話を聞かされた僕が言うんだから間違いない。もう一度言う。この後デレるとかフラグとかは一切無い。
ーーー短い期間ではあるが、おはようからおやすみまで主の暮らしを見つめてきた我が断言するが、主は絶対鈍い主人公体質だぞ。
馬鹿な。僕はハーレム系の主人公になるつもりなど一切ない。好きなの主人公のタイプは、のらくらとダル気に智謀を巡らすタイプの方だ。ほら、アー○ンも言ってたろ?『これは、お前の物語だ』って。僕は自分でなりたいようになる。それにツッコミ忘れてたけど、お前は百獣の王でも花の王でもない。変態の王だ。
ーーー全く意味が通じないところでアー○ンを出す主に言われとうない。ただなんとなくそれっぽい事言いたかっただけだろう?
うっ、五月蝿い!ちょっとそれっぽい事を言いたかっただけさ!悪いか!
ーーー主、それは酷い。
「アキラ!何ボーっとしてんの!」
拙い、馬鹿の馬鹿話に乗ってやっていたら部隊の動きが全然理解出来なかった。先頭がワイバーンと遭遇したらしい。急いで援護の準備をしないと!
「…何してるの?アンタ」
「はっ?」
「人間が戦場で気を抜くとは、随分余裕だな。異世界から来た大魔導士様よ?」
「お前はうっせぇんだよ。早くフォイフォイ言ってみろよ」
「なんだと!?何をわけをわからな
「アキラ、終わってるんだよ。団長の戦闘」
「へっ?だって、今先頭で戦闘がって…いやいや、ギャグじゃねぇし!いてっ!」
「何をギャーギャー騒いでいる。ワイバーンならとっくに俺様が倒してやったよ。それともまた坊主に格下げされたいのか?」
背後から思いっきり拳骨を喰らう。カイム達が一斉に後ずさったのは、『先頭で戦闘』のせいじゃなくて、僕の背後に迫るおっさんの剣幕に退いたらしい。
「いってぇなおっさん!あぁ悪かったよ、気ぃ散ってたよ!わかってるからもう拳骨はやめてくださいお願いします」
つうか鉄のヘルム越しでもこのダメ-ジってどんな馬鹿力だよ。もう一度喰らうのはごめんなので、最後は卑屈なまでに低姿勢になる。
「ようし、わかればいい。今日は小僧に降格で許してやる!カッカッカ!」
クソッ、地味なランクダウンにしやがって。いつか…絶対勝ってやる。
「しかし竜殺しのマドラ団長にあの態度って…こないだの試合といい、アキラ、何者?」
…おい、待て?カイム、今何て言った?
「はぁ…マドラ団長は、ドラゴンスレイヤーなの」
シーリカが呆れ顔で代わりに答える。おい待て!あのおっさんが、ドラゴンスレイヤーだと!?本気か?マジなのか?いや、予想外にハイスペックじゃねぇか、あのおっさん。超える壁、想定の斜め上を行く高さだぞ。なんでも、軍に入る前に冒険者をやっていた時代に、一人でガラリオン山脈に山篭りしてドラゴンを討ち取ったとか。『竜を倒さないと落とした片眉生えてこない病』にでもかかったのではないかという位の規格外の命知らず。世間では実際に罹ったのではないかという噂が流れたとか流れてないとか。
「主…大概に余裕そうだな。さっき拳骨喰らったばかりなのに」
「だって竜殺しのおっさんがいるなら大抵平気だろ、この森。普通討伐に一個小隊組むワイバーンすら一人で屠れるおっさんいるんだから。もう緑竜でも何でも来いってんだ。よかった、今回は外れクジ引かなかっ
ーーーガサッ。グルルルルロオオォォォ!!!!!
…いらっしゃいませ、緑竜さん。本当に、来なくてもいいよ。ほら、そちらにも都合とかスケジュールとかあるだろうし。しかも…ご丁寧に隊列の前方から三分の一、僕の最短距離で。
「アキラッ!」
半泣きになりそうに現実逃避する僕の傍らに、グレンとガラム。さらに騎士団の連中が固まる。どうやら、かなりの高い精度の『擬態』で姿を消していたらしい。そりゃセラトリウス団長の千里眼にも引っかからず、この周囲に竜とかワイバーンとか、少ないわけだ。
ーーーグルルルル…(来ちゃった☆)
「来ちゃった☆…じゃねえぇぇ!!」
「アキラ!何こんな時にトリップしてんの!」
「いやよ、シーリカ。こいつがそう言ったんだよ」
「さっきの拳骨でとうとう…って、危ない!」
カイムが僕にタックルをかます…いや、緑竜の不意打ち気味な息吹を捨て身で庇ってくれた。庇われ際に何やら失礼なこと言われた気がするが、今はおいておこう。なんせカイムのブーツのつま先がグズグズに融けている。他の皆は散開して事なきを得る。
「カイム!」
「大丈夫!中までは侵されてない」
そうだ、資料に書いてあった。古代竜はその色の特徴を持つ息吹を吐く。赤竜なら炎。白竜なら氷、黄竜なら石化のように。そして、緑竜は…毒。全てを腐食させる猛毒。
ーーー主。
「あぁ、わかってる。腹括る、しかないな」
何故あの一瞬緑竜の言葉を理解出来たかわからないが、それは全てを終えてから聞くとしよう。僕が油断したせいで、カイムが「ブーツがね」重傷を負ってしまった。守られたのは僕の方じゃないか。何の為に僕はここにいるんだ。もう、誰も傷つけさせない。
「僕がここにいる理由は、守る為…絶対に、皆を、カイムを守り抜く。ダービー!!」
ーーー承知!
「いや、僕はまだ全然無事なんだけど…まぁ、ブーツ一つでアキラが本気になってくれたなら、いいか」
カイムが燃える晶を他所に、楽しそうに溜息をつく。
「そういう問題!?いえ…随分落ち着いてるわね」
「いや、アキラが本気になったら、何とかなるかなぁって」
「相当気に入ったみたいね『金色の守人』、カイム様が」
シーリカが妖しい光を瞳に湛え、カイムにニヤリと笑いかける。
「やめてよ、その二つ名は。嫌いなんだ。なんていうか…アキラ、違うんだ。空気が」
「空気?」
「うん。上手く説明できないけど、指輪の精、ダービーって呼んでたっけ?千年近く主を選ばなかったあの聖霊が、アキラを選んだ理由、感覚でわかるんだ」
「ふぅん。あいにく一般人な私には理解出来ないから、任務に専念させてもらうわ」
「たぶん、君も歴史の裏表問わず、巻き込まれることになる器だと思うよ」
「…勘弁してよ。つうかアキラ、アイツ後衛でしょ。ここで出張るとこじゃないでしょうに」
シーリカがそれだけ残し、自分がいるべき持ち場に戻る。
ーーーそう、アキラなら大丈夫なはずだ。君は神々を従える創造主が、創世の為に作り出した指環に選ばれた器なんだ。今は神が気まぐれで貸し出した人間、ダビデの名前を冠しているが、その指環の正式名称は『天国への扉』。アキラ、見せてよ。幾千霜と俺の魂が夢想した、その力の片鱗を。
古代竜とは、現世でもっとも生身で神に近い存在。その力の奔流で、アキラが覚醒することを、カイムは一人期待していた。
「「出でよ!獅子宮『レオ』!!」」
晶とダービーの声に従い、閃光の中より人獣の姿をした、レオが降り立つ。威風堂々と、百獣の王に相応しい尊大なオーラを放つ。
「久しいな、アキラ。あの時は世話になった」
「…何の話だよ。それにたった数日ぶりじゃねぇか」
「ふっ…半マテリアルの世界は不思議な居心地のよさがあるからな。首を長くして待っておったぞ」
「クリスマスを待つ子供でももうちょい辛抱できるぞ。まぁ…イケるか?」
「わかっておるくせに、アキラも人が悪い。竜退治を成すのは昔から勇敢な英雄と相場が決まっておる!そして我は『勇気』と『栄光』を司りし、獅子宮のレオ!我ほどの適任はおらぬわ!!」
猛る獣王が不敵に笑う。アキラの目覚めの戦いが今、始まった。
最後まで読んでくれて、ありがとです。白カカオです。前半の薄い内容から、後半の予想外に熱くなって私が驚いてます。だから勝手に動くな、キャラ!でもなんかいい感じにカイムも怪しくなってきたし、結果オーライってことで、駄目でしょうか?ご意見ご感想の他、質問やご指摘も逐次受け入れバッチコイです。