~第十一話~バリアスの攻防
こんばんわに、白カカオです。実はこの十一話、今朝の明け方まで執筆していたのですが…ブラウザさんがやらかしてしまって消えましたorzあと少しだったのに…そして今まで田植えのお手伝いしてました。最中に別の書きたい小説のプロットとか次々に浮かんできて…もしかしたら同時進行で書くやもしれません。…すみません、ちゃんと、こっちのことも考えてますよ?ただ、そろそろ私の苦手な戦闘シーンが…精進します。では第十一話、どぞ。
何やら城中が慌しい。こっちもこっちで慌しい。今晩はアキラに手料理を振舞うのだ。私の初めての料理、アキラの口に合うといいなぁ…。シェフには悪いことをしたけど、早起きして仕込みの準備も手伝って貰った。アキラの入団祝い、喜んでもらいたいから。
『エリー、それはきっと、アキラ様に恋をしてるんじゃないかしら?』
セリーヌ姉ちゃんにそう言われたとき、私はいまいちよくわからなかった。
『エリーは、アキラ様といると、どんな気持ちになる?』
『んーとね。なんだか楽しくて、居心地良くて、ふわふわして幸せな気分になる』
『それはね、きっと恋してるからなのよ』
『よくわかんない』
『そうね、エリーにはまだ早いかもね』
『子供扱いしないでよっ』
そうか、私はアキラのことが好きなんだ。自分の気持ちが言葉になったら、なんだか途端に嬉しくなった。恋愛というものを、知識としては前から知ってた。けど、自分がするとは思わなかった。私…大切な人出来たんだ。アキラに喜んで欲しい。アキラの役に立ちたい。アキラに…笑って欲しい。今日はその為の、第一歩なのだ。失敗は許されない。さぁて、じゃあこのお肉は…。
「エリー様!大変じゃ!」
ジイが乱暴に扉を開けた。ちょっとびっくりしてしまい。頬を膨らます。
「ジイ!こっちは今日が終わるまで大変なの!」
「違うのです!エリー様、緊急出動です!護国騎士団が、今しがた、北のバリアスへ…」
そうか、敵が来たんだ。バリアスだと、徒歩で二日はかかる。アレンお兄ちゃんも大変だなぁ。無事、帰って来るってわかってるけど。そうか…護国騎士団?魔術師団も?じゃあ…。
「はい…アキラ様も、ご一緒です…」
えっ?だってアキラは今日入ったばっかりなんだよ?いくらマドラのおじちゃんに認められる位強くても、まだ、初めてなんだよ?今日だって、アキラの入団祝いをしようと…頭が上手く回らない。ううん、そんなことはもういいの。どうか、お願い、
「アキラ…無事で帰ってきてね?約束、したんだからね…」
キュートスから北へ向け、歩くこと丸二日。僕たちの目的地は山脈の麓のドワーフの集落、バリアス。正直入団初日からこんなてんやわんやな事態を想定できるわけなく、集落がようやく見えてきた頃、僕の頭は見当違いな錯覚をした。
「やっと、休める…」
「なぁに寝惚けてるのよ新入り!今回の目的は何?その目かっぽじって村をよく見なさい」
目はほじれない…と声が振ってくる方向に屁理屈をこねようとする。声の主はシーリカという女性エルフ。今回はスリーマンセルで行動し、僕たちは救護が最重要任務だ。側に騎士団の人も随伴して、敵の駆逐とかはそっちでやってくれるらしい。正直、助かる。そんなこんなでやっと僕の目にも村が見える距離に迫ってきた。今は冥の刻、月が正中にさしかかる辺り。エルフのように遠目や夜目が利かない僕は、ここに来てやっと集落の惨状を目の当たりにした。
「えっ…」
見事なまでに死屍累々。または地獄絵図か。戦火が燻る集落は、もはや原型を留めていない建物の瓦礫で溢れていた。
「ここまで…酷いのか?」
「頑強さに定評あるドワーフの建造物でも、敵の物量攻撃には為す術がなかった…ということだな」
道中一言も口をきかなかったスリーマンセルのもう一人のパートナー、ガロンが答えた。寡黙なこの男でも口を開かざるをえない程、酷い有様らしい。
「それに、あいつら加減を知らないから。飽きるまで、目の前にあるものを壊し続ける」
シーリカが苦々しく吐き捨てた。こっちもどうやらここまでとは思っていなかったらしい。
「それでは各班、生存者の確認と非難にかかれっ!」
どこかで部隊長の声が響き僕らも移動した。なぁダービー、お前の探索で何とかならないの?
ーーーすまぬ、主よ。我の探索は、探す対象の顔など情報がないと発揮できぬ…口惜しいが、力になれぬ…。
そっか…気にスンナ。別にお前が悪いわけじゃない。地道に探すとしよう。
ようやく成果が出たのは、探し回って体感で数時間後のことだった。
「アキラ!ガロン!早くっ!」
シーリカの声に反応し側まで駆け寄ると、瓦礫の下に数人の老ドワーフが体を横たえていた。水属性のガロンが近くの汚泥から数本の腕を生成し、瓦礫の山をどける。三人に加え、これだけ文字通り手があれば作業は早い。
「すまぬ…。ゴブリンの襲撃で、怪我を負って動けんかった…。普段ならこの程度の瓦礫など、くっ」
「大丈夫、もう大丈夫だから、しゃべらないで」
礼を言った老ドワーフは足が折れ、腹からも大量の血が流れている。この怪我でここまで話せるのだから、ドワーフは本当に生命力が強い人種らしい。が、一刻を争う怪我には変わりない。急いで治癒の魔法をかける。腹の傷を優先的に。流れ出た血はどうにもならないが、止血と組織の回復だけなんとかなれば、ひとまず大丈夫だろう。
「すまんな、もう大丈夫じゃ」
顔の血色はまだ戻らないが、怪我の治癒だけでも相当楽になったらしい。集中力を途切れさす暇が無く、初めて人を救ったという実感は、まだない。ただ、感謝されるだけのことはしたという、認識だけはできた。…折れた足に関しては、骨の結合と神経や血管の繋ぎ直しとかで相当苦痛に顔を歪めていたが。すみません、次はもっと上手くやります。
この一人が一番重傷だった為、あとの数人は楽だった。重傷にはかわりなかったけど。シーリカは風の魔法で伝令を、ガロンは瓦礫の撤去と退避ルートの確保を。急造にしては、上手くやってると思う。
「して、ご老人。他の方々はどちらへ?」
何やら交信を終えた、シーリカが訊ねた。額にはうっすら汗が浮かんでいる。
「おそらく、北のはずれの鍾乳洞に隠れておるだろう。…随分と、少なくなってはいるだろうがの…」
「では、長居は無用です。さぁ、こちらへ」
ガロンが退避ルートへ案内する。改めて聞くと、渋いいい声だ。歩いて半刻ほど、道中何も無いことに油断をしたのか、シーリカが振る明るい話題に、ドワーフ達もしだいに笑顔になっていた。僕はしんがりで、辺りをきょろきょろ見渡していた。壊滅状態とはいえ、ドワーフの集落が物珍しかったというのがあったが。
「ほう、お主は人間なのか、少年よ」
「いや、もう少年という歳では…」
話を振られ、談笑に加わる僕。そう、敵地の真ん中で、決して油断してはいけなかったのに…
「っ!?」
確かに、さっきから後ろは気になっていた。何やらぴょんぴょん飛び跳ねている影が見えていた。緑葉の節、虫か何かだろうと思っていた僕は、やっぱり頭が幸せだったらしい。小さくしか見えない位置からなかなか近づいてこないそれに、僕は見事に騙された。壁の魔法が間に合ったのは、本当に奇跡だった。油断しきっていた僕らは、それが背後に迫っていることに気づかなかった。いきなり急速に近づいてきたそいつは、突如牙を剥いて僕らに襲いかかってきた。壁の魔法を自分と、前を歩くシーリカの間に展開する。
ーーーガチンッ!!
壁についたその傷は、間違いなく鋭利な刃物か何かで刻まれたものだった。無様に転げた僕の目に、ようやくそいつが何者か映った。
「…ゴブリンッ!?」
緑色の汚い肌に小さい背。先が切れた長い耳に小さく自己主張する尖った歯。そして好んで着るという赤いボロボロの服。間違いなく、先日図書館の資料で見た、ゴブリンだった。
「アキラッ!!」
「いいから早く逃げて!僕も後で合流しますから!無事着いたら、伝令飛ばしてください」
「で、でも…」
「明らかなターゲットがいた方がそっちに矛先が向く危険性が減る!シーリカが言ったんでしょ、飽きるまで破壊するのを止めないって!僕は、大丈夫だから!」
「…わかった。でもね、伝令は飛ばさない。自分の目で無事を確認なさい」
「…厳しいリーダーだ。わかったよ。約束するから、さぁ、早く!」
僕の声と同時に、シーリカ達が駆け出す音、そしてゴブリンが突っ込んできた。
「なぁ、僕、フラグ立ててないかな?これ」
ーーー主、そんな悠長に構えてる場合では…。
「わかってる…よっ!」
ギリギリの見極めで、ゴブリンの攻撃をかわす。たしかに速いけど、マドラのおっさんほどの威圧感は感じない。ついでに、ゴブリンの攻撃方法がわかった。刃物と思っていたそれは長く、砥ぎ抜かれた爪だった。
「そんな不衛生なもん喰らうか!この雑魚モンスター風情が!」
確かにゲームの中でのゴブリンは、序盤の雑魚モンスターの印象が強い。しかし、現実のゴブリンはとても、特にマテリアルの一般人が相手に出来るような相手ではないほど獰猛で、狡猾だ。二度の襲撃をかわし有頂天になっていた僕は、僕よりはるかに力の強いドワーフの集落がこいつらに壊滅させられたという目先の事実すら忘れていた。再び助走をつけるように飛び跳ねるゴブリン。
「そろそろうるさいんだよ、それ!」
地面から巨大な棘を生成し、ゴブリンに放つ。が、あっちこっち跳ね回るゴブリンはいとも容易くそれをかわす。
「うっざ!」
次々と放ち、易々とかわされる。すでに目の前の地面がぼこぼこになっている。
「マジ、当たれよっ!」
ーーー主!落ち着
「こないだ聞いたよっ!!」
逆切れしても何も解決しないのだが、罰が当たったのか一瞬の隙を突かれ、スチールプレートの胸当てに衝撃が走る。
「ってぇ!」
背後の壁に強か背中を叩きつけられ、胸は潰され、呼吸が出来なくなる。意識だけは手放すまいと必死に歯を食いしばるが、その視線の先の状態に息を呑んだ。
「嘘…だろ…?」
搾り出した声に力が入らない。鉄製の胸当てが、横一線に凹んでいる。壁と同じように、傷跡のおまけつきで。これが皮の胸当てなら、死んでいたかもしれない。
ーーー主…
あぁ、ごめん。僕が悪かった。大丈夫、肝も冷やしたけど、頭も冷やした。さっきは逆切れしてごめん、ダービー。
ーーー主、今はそんな場合では
うん、わかってる。これが、戦場なんだ。これが、命の遣り取りなんだ。本当に、僕は甘かった。僅か数メートル先で、ゴブリンがちょこまか跳ね回っている。忙しないやつだ。恐怖は、もう刻み付けた。気がつけば、足も切られている。肉が裂け、血がドバドバ流れている。痛みは、覚悟できた。こいつも、今だけは意識の向こうに追いやれる。ゴブリンの下卑た笑いも、気にならない。挑発のつもりだろうが、作戦は始まったばかりなんだ。お前にもう、使ってやる体力はない。
「ダービー、次で、終わるよ」
ゴブリンの足先の地面を、ちょいと動かしてやる。ほら、予想通り。トドメの一撃を食らわせに向かってきた。たしかに、小さい上に始終跳ね回ってるあいつに、遠撃を当てるのは難しい。だが、僕に攻撃してくる時は…必ず僕の目の前にやつは来る。視界いっぱいにゴブリンが迫る。初めて、こんなにも大きな殺気を感じたかもしれない。おっさんの時は…試合だったし。ありがとう、僕はお前と戦って、こんなにも色んな事を学んだ。だから…
「グゲッ…ギッ?」
僕のほんの数センチ前で、ゴブリンの醜悪な顔が固まる。もう、動かない。ゴブリンの胸を、太い棘が貫いていた。そう、背後の壁から、僕ごと貫いて。
ーーーある…じ?主っ!何故このような馬鹿な…。
「大丈夫、僕は生きてるよ」
ゴブリンから棘を抜くと、それは何事もなかったかのように僕の体を通り、壁の一部に戻った。
ーーーなっ!?
つうか僕が死んだら、僕の魔道反応でわかるでしょ?ダービー。
ーーーしかし…えっ?確かに主の体を…
「貫いてるように、見えた?」
だから、ダービーはここまで狼狽しているのだろう。絶句するダービーに、そろそろ種明かししてやろうか。
つまりはこうだ。僕が壁もたれている時間と、壁から棘が生える『時間をずらした』。正確には、同時に起こった事象を、別々の時間に発生した事象として『時間を分けた』。壁の前にいない時間に生成した棘に、僕を貫けるはずがない。それを同時に発生させたから、僕の体ごとゴブリンを貫いたように見えたわけだ。この世界の魔法は『イメージ』と『集中力』だから、一旦頭に浮かべたなら、後は強く、それを『起こす』ということに集中すればいい。
ーーーしかし主、それなら背後の他の部分から伸ばすとか、地面から生やすとかすれば良かったのでは?
「意外と甘いんだな、ダービー」
ーーー?
「最短距離で、しかも思いもよらない手段で攻撃が来るから、敵は避けれないんじゃないか」
愉快そうに笑う僕に、ダービーがまたも絶句する。
ーーー我は、とんでもない主を選んでしまったかもしれんな…
「ハハハ、前から思ってたけど、買い被りすぎだよダービー」
生まれて初めての戦闘で相手を出し抜き、勝ったという事実に少しハイになってるのかもしれない。笑いが止まらない。でも…
「サンキュー…ゴブリン」
視界の端に映る、驚愕しているのか、笑っているのか区別がつかないゴブリンの亡骸に小さく呟いた。たぶん、今日のことは一生忘れないだろう。初めて命がけで戦い、初めて相手の命を奪ったということを。そう、僕は命を奪ったんだ…。
「おかえり、アキラ…って何よそれぇぇ!!?」
シーリカが血まみれの足を見て悲鳴を上げる。目立つからやめれ。
「ごめんガロン、なんか、血、作って…」
傷口の治療はしたけど、出てった血はどうにもならない。覆水盆に返らず。
ーーー主、意味が違うのでは…
「…ニュアンスは、似たようなもんだ」
出血と疲労で突っ伏す、僕。あーあ、血さえあれば疲労くらいなんとかなるのに。
最後まで見ていただいて、ありがとうございます。私、白カカオでございます。今回、戦闘シーンのネタは浮かんでいたのですが、ホント、描写がむずい…私まで疲れた…。そして今回やたらとドとソの打ち間違えが多かったです。なんだよ、ソワーフってwでも気合が入っていたのは確かなので、楽しんでいただければ、読者の皆さんの意表もついた戦術であったなら幸いです。それではまた次話。この次も、サービスサーb