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クリエーター  作者: 如月灰色
《第五章 終焉の時》
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~エピローグ~とある世界のお話

 神谷晶は何かを作り出す者としては非常に優秀だった。

 あらかじめある程度の指向を決め、微調整と経過に任せて基本的に放置で済むような法則システムを作り、なるべく干渉は最小限にした。

 晶自身の意向というのもあるが、これなら始終張り付いて監視する必要も無い。


「ウノ!」


「えー!アキラまたぁ?」


「イカサマしとらんだろうな?主」


「馬鹿言え。どうせ時間なんか腐るほどあるんだ。イカサマしてまで勝つ意味も無い」


 そうすることでエリー、ダービーと余りある余暇を…満喫していた。


「あーがり!あーあ、これで俺の四千六百十二連勝か。お前ら弱すぎ」


「ぶー!」


「こんなゲームつまらん!主、ゲームの変更を希望する!」


「構わんよ。どーせ俺が勝つんだし」


 …惜しむらくは。

 彼に落ち度があったとすれば…。


「主!次は十戒ゲームだ!」


「わーい!」


「ちょっ!俺それわかんねーよ」


 それをマテリアル界にしか適用していなかった事。

 そう、彼は完璧にその他の世界の社会の事を忘れていた。




 大魔導士アキラと伴侶のリーナス王女が消え、カイム、シーリカ、ガラムと白夜ヘラが凱旋し平和が訪れた大陸。

 殉職したと思われる二人の子、ヨッドとエダイが齢四十に差し掛かろうとする頃、国は荒れに荒れた。



 現国王キート=ベイン三世の体調が崩れ始め、崩御が現実的になってきた時分、次代の指揮者を決めるに際して様々な憶測が飛び交うようになった。

 最盛期は『騎士王』として名を馳せた国王。しかし彼も人の子…。次期後継者を決めあぐねていた事が大きな原因だった。


 元々実力主義であるキュートス国。ここ数代は現国王家からの輩出ではあったものの、本来国王の決定は世襲ではない為、アレン王子の名は霞んでしまった。そもそも当の本人が辞退している為、保守派の支持もままならないでいる。


 セリーヌ王女、ディーン王女も結婚はしているが、二人の子はまだ幼い。どちらかと言うとロイヤルファミリー的な立ち位置になってしまっている。


 そして件の戦争の殊勲者、初まりの者たち(スターターズ)の面々も同様だ。


 カイム、シーリカは遥か昔から続く戦いの因縁に終止符を打ち、カイムは大陸各地を放浪し、シーリカは隠遁していた。


 ガラムも許嫁と無事婚姻を交わしたが、自らは王の器ではないと身を引いた。どこかでアキラの力を認めていたからかもしれない。


 同じ理由で、こちらは結婚しその身をキュートスに置いた白夜とヘラも首を横に振っていた。



 そうなると名が挙がったのは、現国王家の血を色濃く継ぐ長男ヨッドと、大魔導士アキラの血が目立つエダイだ。

 キュートスの国はここ数代の実質的な世襲制を踏襲し…。


「アレン様は王子にして騎士団長!次期国王はアレン様に決まっておろう!」


 アレンを次期国王とする派閥。


「なに、エリー様とアキラ様の血を引き、絶大な魔力を持つヨッド様こそが!」


 ヨッドを次期国王とする派閥。


「国王は実力でなるもの。稀代の大魔導士アキラ様の生き写しと言われるエダイ様がふさわしい!」


 エダイを次期国王とする派閥の三竦みと相成り、議論は暴力を生み、そしてそれは広まり、街は戦火にさらされた。

 ガラム、白夜、ヘラの三人は傍観を決めていた。

 ここで自分達が動けば天秤は傾き、ますます状況は悪くなるだろう。

 三人はただ、行く末を見つめていた…。




 そして、長い長い月日が流れた。




「はーあ。結局亡くなっちゃったね、国」


 かつては東の平原と呼ばれた、絶壁の芝生に足を投げ出し、男があまり残念ではなさそうに言った。

 ほんの数十年前まではガラリオン山脈を背に砂浜が広がっていた景色だが、サタナエルとの闘いの余波で地形が変わってしまった。


「そうね。…せっかく私達が命をかけて守ったものなのに…」


 傍に立っていた女が同調する。

 ブロンドの長い髪が潮風に吹かれてたなびいている。


「ガラムはどうなった?」


「彼は家族と一緒に、ギランの北の方に行ったみたい」


「ギランか…彼らしいね」


 男が水平線の遥か先を眺めて呟いた。


「白夜とヘラはマテリアル界に向かった。元々白夜も向こうの人間だし、向こうの方が性に合ってるのかもね」


 女も並び、同じく海の水面を眺めていた。


「せっかくアキラと国王が頑張って、あっちとこっちを行き来できるようになったのに、あの紛争で随分断絶しちゃったから…大変かもね。向こう行くのも。…君はどうするの?シーリカ」


 シーリカは視線を動かさずに言った。


「今度は、アララギ島に行こうと思う」


「グレンの最後の相棒にでも会ってくるのかい?」


「…えぇ。あそこなら、彼らにも近いと思う」


「君は昔から殊勝なとこあるからねぇ」


「そう言うアンタはどうするの?カイム」


 逆に聞き返されるとカイムは、目を細めて答えた。


「俺は…しばらく放浪を続けるよ。コトリちゃんや、獣人族の人たち、ドワーフ達もキュートスの事は気にかけてたし」


 カイムの答えに、シーリカはふうんと空を見上げた。


「でもそんなんすぐ終っちゃうよ。ねぇカイム…」


「…ん?」


 シーリカの視線を感じ、カイムがシーリカを向いた。


「終わったら私んとこに来て」


「これはこれは。珍しいね、君からデートのお誘いなんて。初めてじゃないかな?」


「そんでさ…」


 カイムの茶化しを気にも留めず、シーリカは視線を再び水平線に戻した。


「私、海の向こうに行ってみたい」


「…ほう」


 カイムが興味深そうに笑った。


「向こうの世界は、アキラや白夜達が知ってる世界。それなら私は…皆が知らない世界に行ってみたい」


「そこで水属性の俺の出番…ということかい」


「付き合ってくれる…わよね?」


 シーリカの微笑みに、カイムは頷いて返した。


「勿論さ」


ーーーそしたら、そっちへ行った時の自慢話にもなるよね…アキラ、エリーちゃん、グレン、ココ…。


「向こうに行けたらさ」


 シーリカのかつての仲間への憧憬は、カイムの言葉に遮られた。


「行けたらじゃない。絶対!行くの!」


「はいはい。行ったらさ、アキラに思いっきり苦情言ってやろう」


「苦情?」


 小首をかしげたシーリカに、カイムが意地の悪そうに笑った。


「お前の造った世界、欠陥だらけだぞって」


 カイムの言葉にシーリカが笑った。


「あっはっは!いいわね、それ!あいつ泣きを入れるまで文句言ってやろう!」


 二人の笑い声が、波間に響いた。




「…なぁんだ、なんだかんだいい雰囲気じゃねぇか、あいつら」


 ここはフォマルハウト。業火が支配する星に、煉獄育ち(フロム・フラム)のグレンが笑っていた。

 正確にはにやけていた。


「もう…そういう出歯亀みたいなこと、良くないよ?お兄ちゃん」


 グレンとは一風変わった、背中に十二の炎の羽根を生やした少女が諌める。


「そう言って、お前も見てんじゃねぇか、ココ」


「うぅ…」


 グレンに反撃され、ぐうの音も出ないココ。

 確かに自分も同じように見ていたのだ。天使としてその魂の形を変えたココは、人を諌めて自分はノーカンなんて真似は出来なかった。


「さてと…。あいつらの修行、再開しないとな。今回は音を上げても徹底的にしごいてやる」


 グレンが楽しそうに指を鳴らして、業火の方へ向かう。


「ちょっと、少しは優しくしてあげてね?まだ子供なんだから」


「なぁに、俺らだってあの年の頃はもう戦場に立ってたじゃねぇか。それに、あいつらから頼んできたんでぜ?『お父様が救った世界を、自分たちのせいで壊してしまった。だから今度は、永遠の時間の緩慢な苦痛からお父様達を救ってあげたいんだ』って」


「それはそうだけど…」


「へっ。あいつらの忘れ形見を鍛えるなんて、俺でも思っていなかったぜ」


 はりきるグレンに、相変わらず勢いに弱いココがうな垂れた。


「忘れてはいないと思うよ?お兄ちゃん…」


「まぁ気にすんな!どうせアキラの子だ。ちょっとやそっとじゃ潰れねぇよ!」


 紅蓮の炎の中、グレンの高笑いが響いた。


『あとちょっと待ってな…アキラ。もうすぐ息子ども届けてやるからな』




「カー!グッ!グガー!」


 遊びに疲れたのか、現創造主、晶は高いびきを立てて寝ていた。

 その傍ら、膝をついて伴侶のエリーが晶の頭を撫でている。


「こうして見ると、子供と変わらんの、主は」


「えぇ。休ませてあげましょ、ダービーさん」


 隣に立っているダービーを見上げて笑いながら返したエリーは、また晶に視線を落とした。


「どうせ、時間はたっぷりあるもの…」


「…辛いか?」


 エリーに問いかけるダービー。


「…いえ。だって私は、ずっとこの人と一緒にいるって決めたんですもの」


 晶の頭を撫でながらエリーが答えた。


「そうか…。辛くなったらいつでも我に愚痴っていいのだぞ?主には零しづらいところもあるだろう。その時は我が良い事をしながら慰め…」


「うーん…でやっ!」


「ドブファッ!!」


「くー…」


「くっ、さすが主…。寝ぼけながらも魔法で鬼突っ込みを入れるとは…」


 晶の無意識の魔法で数メートル吹き飛ばされ、どくどくと頭から血を流すダービーを見て、エリーがくすくすと笑っている。


「気持ちだけ受け取っておくわ、ダービーさん」




 穏やかな時間が流れる。


 永遠に果てることの無い時間。


 変わることのない時間。


 しかし予感すら、予想すらしていない未来が待っている事を彼らはまだ知らない。


 彼らの意思が、その息子達に受け継がれると理解出来るのは、バトンがタッチされるその瞬間。


 それはインプットしていなかった運命。


 だがしかしそれは、もう少し先のお話。


 悠久の時と比べて、ほんの少し先のお話…。




ーーー待っててね、お父様。


ーーー楽にしてあげるからね、お母様。


「「だからもう少し…頑張ってね。待っててね」」

これにてクリエーター、完結です。

本当に完結です。

長い間、本当にありがとうございました!

如月先生の次回作にご期待くry


次回作ではありませんが、『勇者パーティーの中の一人』、正直忙しいのでクリエーターよりダレてしまう可能性もあります。(新婚生活やら仕事やら…ブツブツ)

それでもよければ、是非お立ち寄りください。


それでは本当に最後、処女作で遅筆で稚筆ではありましたが、ご愛読いただき、本当にありがとうございました!

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