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クリエーター  作者: 如月灰色
《第一章 二つの世界》
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~第十話~魔術師、神谷晶その2

 ………ギリギリ間に合った…。

 カレンおばちゃんの大衆食堂から魔術師団専用演習場まで、カイムとグレンと仲良く猛ダッシュ。もうこないだのマドラのおっさんとの試合に近い体力を使い果たした。だってさ、買い物したから荷物は多いし、道わかんないって結構なストレスだ…何よりお前ら二人速過ぎなんだよ!なんだよ途中から荷物持ってもらってもついて行くのが精一杯って!僕だって一応鍛えてはいるんだぞ!エルフの身体能力ってこんなチートかよ!せめてドワーフくらい鈍重そうなら…。


「いや、戦場でのドワーフのすばやさもなかなかだよ」


 …あぁ、そう。あのずんぐりした体躯でそれは、軽く恐怖だな。でも置いといて涼しげに笑いかけるなカイム。こっちは息も整えられん位重篤なんだ。横っ腹、痛い。


「よう人間。人間の体力じゃこの世界は生き辛いか?」


 にやけヅラの趣味の悪いローブを着たエルフが突っかかってきた。なんか、穢れた血め!とか言ってそうだな、お前。


「みんな優しくしてくれるし、僕は好きだよ、この世界も」


 ここで同じレベルで相手にしたら負けだと思う。何に負けるかはわからないけど。こっちは大人な余裕を見せ付けてやるのが一番こういう輩にはダメージでかいだろう。ざまぁ。なおも顔を赤くして突っかかってこようとするこいつを、カイムが宥める。


「やめなよガラム。アキラはまだこっち来て間もないんだよ?」


 ガラムと呼ばれたこいつは、見事に基本に忠実な捨て台詞を吐いて去る。


「ケッ。今のうちにちやほやされて調子こいてるといいさ」


 なんだ、お前もグレンと同じクチか。


「待て待て、俺は違うぞ」


 なんで僕の思考回路ってこうも読み取られるんだろう?ダービー、お前のせいだろ。


ーーー主、それは酷い。濡れ衣にも程がある。


「さて、午後を始めるぞ」


 セラトリウス団長はいつもいいタイミングで入ってくる。廊下で待ってるのか?


ーーーいや、我の力で探索してみたが、そのような気配はなかった。偶々なのだろう。


 いや、ありがとう。でもいいよ、そんな無駄な労力使ってくれなくていいよ?つうか姉貴とか順子とか、それで覗き見してんじゃねぇだろうな。


ーーーそ、そのようなことは決して…。


 …してんだろ。


ーーーい、いや!我の矜持にかけて、そのような下劣なマネは決して!


 ほぅ。変態にもいっちょ前に矜持なんてもんがあるのか。軽く見直した。変態紳士の変態道か。


「…アキラ殿?早く分かれなされ」


 あぁ、すみません。ほら、お前のせいだぞダービー。


ーーー主…理不尽…。



 ということで、僕は希望通りめでたく後衛魔術師団の組に決まりました。カイムと一緒らしい。内心カイムかグレン辺りと一緒でないと不安だったから、正直助かった。グレンは前衛らしい。性格的に、目立ちたがりっぽいし。


「セラトリウス団長、質問いいですか?」


「なんじゃ?」


「属性によっての役割とかあるんですか?」


「そうか、アキラ殿はまだわからんか。うむ、皆のおさらいも含め説明するかの」


 ありがとうございます。助かります。


「では、アキラ殿は後衛じゃから、後衛についての属性の役割から教えよう。後衛を構成する属性は主にアキラ殿の土、風、水の三つじゃ。治癒や後方支援を得意とする者が多いのが特徴じゃ。反対に前衛は火、雷、氷の三つ。こちらは攻撃魔法を得意とする者が多い」


 なるほど。なんとわかりやすい。


「そこで、午後からは前衛は攻撃魔法の精度、後衛は回復魔法の精度を高める時間にしてもらう」


「今日はっていつもじゃん。じいさん」


 ガラムがレベルの低い野次を叫ぶ。どこにでもいるもんだ、こういう輩。


「静かにガラム。お主は少しはアイスメイクの安定性を上げたらどうじゃ?」


 ガラムは氷属性で前衛らしい。グレンは火。属性に性格でも出るのかね?


「俺はちまちま工作なんか性に合わないんだよ」


「…続けてよいか?では先半分の時間は思い思い過ごすが良い」


 その声で仲良く個々固まって雑談…もとい自習の時間が始まった。ちなみにカイムの属性は水らしい。なんとなく、納得。


「アキラはどうする?俺は図書室で資料見てくるけど」


「じゃあ僕も一緒に行くよ」


 水の回復仕事は、主に水の形質変化でのアイテム生成らしい。ってゆーか…


「魔法ってもっと汎用性ありそうなんだけどなぁ…」


 人体の半分以上は水分なんだし、大気中にも水はふんだんに存在してるし…僕の世界と同じならだけど。


「アキラは何見る?」


 図書室につくと、既に何人か黙々と資料を読み耽っている。どの世界も、図書室って静かなもんだ。


「僕は…この世界の生物とか歴史とかそこら辺調べてみようかと」


 僕の回復魔法は、ぶっちゃけたぶんこの世界で学べることは少ないと思う。向こうの世界に戻って、医学書とか読んだほうがまだレベルが上がりそうだ。


「なんか、余裕そうだね」


 カイムが窓の外の野外演習場を眺める。たまに聞こえる怒声から、恐らく度々見える炎の残滓はグレンだろう。


「まぁ、医療はそこそこ知識あるから」


「そうなの?」


「あぁ、向こうのは科学だけどね」


 さらに言えば、僕のは民事療法とか、学生時代の生物の授業とか、そういうレベルだけど。


「なかなか興味あるね」


「いずれ、向こうに行く機会もできるだろうさ」


「…ゴホン」


 どこからか咳払いが聞こえた。僕らはこそこそとそれぞれの目当ての棚に移動する。文字は気合で覚えた。文字列の組み合わせだから意外と楽な作業だった。文法、日本語に割と近かったし。さて、生物学関係は…と、あったあった。待て、あんな高いとこかよ。カイーム!ヘルプ!


「はい、これ」


 あっ、ありがとう…持つべきは心の友だ。今なら、背が低くてうんしょうんしょしてる女の子の気持ちが分かる。

 さて、パラパラとセラス地方の人種構成について。基本的にエルフ、ドワーフ、妖精、ホビット、獣人族の五種類。人口的にはエルフが一番多く、ついでドワーフと獣人族が同じ位、ホビット、妖精の順。ちなみに獣人族は蜥蜴人リザードマン人狼ワーウルフ人虎ワータイガーなど全部ひっくるめての総称で、セラス地方の中では好戦的な部類らしい。次にギラン地方。基本的に下位種族のオーク、オーガ、ゴブリン、コボルト、スライムに食屍鬼グールあたり。他、幽霊ゴースト悪霊レイス各種骸骨スケルトンにゾンビの不死族。上位種になると吸血鬼ヴァンパイアとか、他の種族を使役するロードがいるそうだ。ちなみにかの有名な竜族ドラゴンはガラリオン山脈に生息していて、あくまで中立の立場を保っている。意外な事に個体数は多いのだが、高い知能を有する個体は古代竜エンシャント・ドラゴンだけらしい。下級のドラゴンや亜種に位置するワイバーンは、本能で生活するか使役されることがほとんどのようだ。実に薄ら寒い話だ。最後に有名なケンタウロスやミノタウロス、グリフォンやスフィンクスなどは『幻想種』と呼称して、定住せず各々大陸の好きな所に点在している。伝説の生き物はこっちでも希少種ってことだ。



 突然、図書室の扉が乱暴に開いた。


「非常召集!非常召集!騎士及び魔術師は至急各棟まで移動!」


 んっ?なんか嫌な予感に火急の事態な気配が…。


「っ!行こう!アキラ!」


 棚の迷路からカイムが顔を出す。


「きっと、緊急出動だよ!」


 おいおい、僕今日入団したばっかなんだけど、まさかぁ。

 


 …魔術師等に移動した僕らを待っていたのは、予想通りのスクランブルだった。山脈の麓のバリアスというドワーフの集落で、大量のゴブリンやオークが出現したらしい。


「現れ方が不自然じゃ。ロードが交じっているやもしれぬ…心してかかれ」


 セラトリウス団長の言葉に、緊張が走る。そう、これはこないだの試合なんかじゃない。これから向かうのは命がかかった戦場なのだ。なんとも形容しがたい心境に心臓が高鳴る。むしろ恐怖しているのかもしれない。


「アキラ?大丈夫?」


 隣でカイムが心配そうに顔を向ける。相当震えていたらしい。


「おい、ビビッてブルってるのか?人間。尻尾巻いて元の世界に帰るか?」


「やめろよガラム」


 カイムがかばってくれるが、ガラムの嘲笑は止まらない。


「人間風情がちょっと注目されたからって調子に乗るから恥を晒すんだ!今ならまだ間に合うんじゃないか?『怖いからおうちに帰してください』ってなぁ」


「おい、いい加減に


「いや、礼を言うよ、ガラム。ありがとう」


「アキラッ!」


「ふははは!じゃあ言ってみろよ、さっきの言葉、一字いっ


「戦う理由を思い出させてくれた。サンキュー。ガラム」


 そうだ、おうちに帰るで何故城の皆を思い出したかは甚だ疑問だが、僕は守る為に戦いに来たんだ。目的をすっかり忘れていたようだ。思わず自分のチキンっぷりに苦笑してしまう。


「それでは各自準備を揃え、整い次第出発じゃ!」


 バリアスまでは片道二日かかるらしい。まぁ、どっちにしろエリーの手料理は食べられそうにないな。ごめん、エリー…。帰ってきたら、また作ってくれるの楽しみにしてるよ。せっかくはりきって作った初めての料理、食べられなくてごめん。

さて、第十話でした。今回は本当に筆が重かった…そして晩餐会の予告しといてやらかしてしまった…なんか、色々ごめんなさい。なんでこう思い通りにいかないんだろ。

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